上場すると、何かが起きるたびに開示するかどうかを判断することになります。この判断を担当者の勘に任せていると、いずれ事故が起きます。
まずは、どの条文に何が書かれているのかを正確に押さえるところからです。決定事実と発生事実がどこにあり、決算情報がどこにあり、軽微基準がどこにあるのか。ここが曖昧なままだと、社内規程も作れません。
この記事では、有価証券上場規程の条番号と、開示のタイミング、情報取扱責任者の位置づけ、そして違反した場合の措置までを整理します。上場審査で何を見られるのかにも触れます。
- 決定事実は第402条第1号、発生事実は第402条第2号であること
- 第403条は子会社等の情報、第404条が決算情報、第405条が業績予想の修正等であること
- 決定事実の開示は取締役会決議を待たず、実質的に決定する機関が事実上決定した段階であること
- 軽微基準は施行規則の第401条から第404条にあること
- 情報取扱責任者は規程第417条であること
- 「TDnet情報伝達責任者」という役職名は存在しないこと
- 違反した場合の措置の条番号
この記事の見出し
📌 結論 条番号を取り違えている資料が多い
実務書でよく見かける「第403条が決算情報」という説明は誤りです。第403条は子会社等の情報の開示で、決算情報は第404条です。
まず条文の並びを正しく押さえてください。有価証券上場規程の第402条が上場会社の会社情報の開示で、第1号が決定事実、第2号が発生事実です。
第403条は子会社等の情報の開示です。子会社等の決定事実も発生事実も、いずれもこの条に置かれています。
第404条が決算情報で、第1項が決算短信、第2項が四半期決算短信です。第405条第1項が業績予想の修正等です。
実務書や解説記事で「第403条が決算情報」「第404条と第405条が子会社等」と書かれているものを見かけますが、誤りです。社内規程にこの番号で書いてしまうと、そのまま残ります。
⏱️ いつ開示するのか
取締役会の決議を待つ必要はありません。実質的に決定する機関が事実上決定した段階です。ここが実務でいちばん誤解されます。
第402条の本文が、軽微基準に該当するもの等を除き、直ちにその内容を開示しなければならないとしています。
問題は「直ちに」がいつなのかです。東京証券取引所の適時開示に関する実務要領は、決定事実について、業務執行を実質的に決定する機関において当該事実を実行することを事実上決定した段階での開示が必要であるとしています。発生事実については、その発生を認識した時点です。
取締役会決議を待つと遅い
ここを取締役会の決議日と理解している会社が多いのですが、条件は「業務執行を実質的に決定する機関」です。経営会議で実質的に決まっているのに、形式上の取締役会が2週間後だから、という理由で開示を遅らせることはできません。
したがって、社内で何をどの機関が実質的に決めているのかを、あらかじめ整理しておく必要があります。この整理が、適時開示体制の中心です。
決算情報の期限
決算情報は、決算内容が確定した時点で直ちに開示します。通期については期末後45日以内とされ、30日以内が望ましいとされています。第1四半期と第3四半期は45日以内が原則です。
情報の発生源の洗い出し、開示判断のフロー、軽微基準の判定手順、社内規程の作成まで。上場審査で説明できる形に整えます。上場後の運用が回っているかの点検だけでもお受けします。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
🧺 バスケット条項と軽微基準
決定事実と発生事実には、それぞれ列挙された項目の最後に、いわゆるバスケット条項が置かれています。東京証券取引所の「適時開示が求められる会社情報」のページで、上場会社の決定事実一覧の最終項目、発生事実一覧の最終項目として、その他上場会社の運営、業務もしくは財産または当該上場株券等に関する重要な事項(事実)が置かれていることが確認できます。子会社等についても同様に最終項目が置かれています。
列挙されていないから開示しなくてよい、とはなりません。投資者の投資判断に影響を及ぼす事項であれば、この条項で拾われます。判断に迷うものは、東証に事前に相談するのが実務です。会社情報の当取引所への説明については規程第413条に定めがあります。
規程の第402条と施行規則の第402条は別物です。引用するときは、規程なのか施行規則なのかを必ず書いてください。
軽微基準は施行規則にあります。第401条が決定事実、第402条が発生事実、第403条が子会社等の決定事実、第404条が子会社等の発生事実です。
ここで注意が必要なのは、規程の第402条と施行規則の第402条が別物だという点です。引用するときは、規程なのか施行規則なのかを必ず書いてください。社内資料でこれが混ざっていると、判断を誤ります。
👤 情報取扱責任者
情報取扱責任者を置いただけでは体制になりません。情報がどこから上がってくるのかを設計するところが本体です。
上場会社は、取締役、執行役またはこれに準ずる役職から情報取扱責任者を選任し、東京証券取引所に届け出る義務があります。根拠は有価証券上場規程第417条です。
職務は、東京証券取引所の照会に対する報告その他会社情報の開示に係る連絡を掌ることとされています。届出は、東証と上場会社を結ぶシステムであるTargetの会社基本情報(情報取扱責任者変更)から行います。
名称に注意
「TDnet情報伝達責任者」という役職名を見かけることがありますが、東京証券取引所の規程、適時開示ガイドブック、公式のFAQのいずれにも、この名称は出てきません。正しくは情報取扱責任者です。届出書類の名称も情報取扱責任者変更通知書です。
TDnetは適時開示情報伝達システムそのものの名称であって、役職名ではありません。社内規程にこの名称で書いてしまうと、届出のときに困ります。
TargetとTDnetは別のシステム
Targetは、東京証券取引所や証券保管振替機構等の運営者と、上場会社や取引参加者等の利用者を結ぶシステムです。東証から上場会社への連絡事項の伝達、上場会社から東証への書類提出、規則および各種フォーマットの掲載といった機能があります。利用にはID取得が必要です。JPXのサイトでは「Target 上場会社ポータルサイト」と表記されています。
一方、適時開示そのものはTDnetを利用して行います(規程第414条)。東証のFAQでもTDnetとTargetは別項目として掲載されています。連絡と書類提出がTarget、開示がTDnet、という整理です。
なお、Targetの正式名称、稼働開始時期、TDnetとの関係を置換と見るか併存と見るかについては、一次情報で確認できませんでした。断定的な説明を見かけたら、根拠を確認してください。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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🌐 その周辺の条文
適時開示に関連して、押さえておきたい条文がいくつかあります。
第413条が会社情報の当取引所への説明で、いわゆる事前説明の根拠です。第413条の2が、開示前における自社のウェブサイト等での会社情報の取扱いを定めています。開示前に自社サイトやSNSに情報が出てしまう事故は実際に起きるので、社内の運用を定めておく必要があります。
第415条第1項が、東京証券取引所の照会に対する報告義務です。株価が動いたときや報道が出たときに照会が来ます。第416条が開示内容の変更または訂正です。
第436条の4がプライム市場上場内国会社の英文開示、第408条の3が内部管理体制等の整備・運用状況に係る開示です。
2026年7月3日の改正では、第411条の2として少数株主の賛成割合等の開示、第411条の3として適時適切な会社情報の開示の実践が新設されています。支配株主を有する会社の論点は親会社がある状態で上場できるのかで扱っています。
⚠️ 違反したらどうなるか
名称に注意してください。東証の実効性確保手段のページでは「特別注意銘柄」という語が用いられています。
適時開示の規定に違反した場合の措置は、規程の第5編に置かれています。
改善報告書が第504条と第505条です。提出後6か月経過後に改善状況報告書を提出します。書類の提出等が適正でない場合の定めが第506条にあります。
公表措置が第508条です。対象は適時開示規定の違反、企業行動規範の遵守すべき事項の違反、上場維持基準適合計画の違反、そして会社法第331条、第335条、第337条、第400条の違反です。上場契約違約金が第509条です。
特別注意銘柄への指定は第503条第5項から第7項および第601条第1項第9号関係です。指定されている間は、第408条の3にもとづき内部管理体制等の整備・運用状況を開示することになります。指定の解除後5年以内の改善状況報告書について、第505条の2に定めがあります。
名称について一点。東京証券取引所の実効性確保手段のページでは、一貫して「特別注意銘柄」という語が用いられています。
上場廃止は第601条第1項第10号a、施行規則第601条第8項第1号・第2号です。改善報告書の求めに応じない場合等が挙げられています。
🏢 上場審査では何を見られるか
新規上場ガイドブック(プライム市場、2026年7月21日版)の上場審査の内容に、企業内容等の開示の適正性という項目が置かれています。
また、社長面談において、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスの方針、体制、運用状況とあわせて、適時開示に関する体制および内部情報管理に関する体制についてヒアリングが行われる旨が記載されています。
社長が自分の言葉で説明できる状態にしておく必要がある、ということです。規程を作って担当者に任せている、という説明では通りません。
準備の実際
上場前から、模擬的に適時開示を回しておくのが有効です。実際に開示は行いませんが、決定事実や発生事実に相当する事象が起きたときに、誰が情報を上げ、誰が判断し、どの様式で文案を作るのかを一度通してみる。この訓練をしていない会社は、上場後の最初の開示で必ず慌てます。
準備全体の順序はIPO準備 完全ガイドで扱っています。
❓ よくある質問
A. 違います。第404条第1項・第2項です。第403条は子会社等の情報の開示です。
A. 第403条です。子会社等の決定事実も発生事実も、いずれもこの条に置かれています。
A. 業務執行を実質的に決定する機関において事実上決定した段階での開示が必要とされています。取締役会決議を待つと遅れる場合があります。
A. 施行規則です。第401条が決定事実、第402条が発生事実、第403条と第404条が子会社等です。規程の第402条とは別物です。
A. その名称の役職は東証の規程やガイドブックに存在しません。置くのは情報取扱責任者です(規程第417条)。
A. 取締役、執行役またはこれに準ずる役職から選任し、東京証券取引所に届け出ます。
A. 適時開示はTDnetを利用して行います(規程第414条)。Targetは東証と上場会社を結ぶシステムで、連絡事項の伝達や書類提出、規則やフォーマットの掲載を行うものです。
A. 決定事実と発生事実には、それぞれ最終項目としてその他の重要な事項(事実)が置かれています。列挙にないから不要とはなりません。
A. 規程第413条の2が、開示前における自社のウェブサイト等での会社情報の取扱いを定めています。社内の運用を定めておいてください。
A. 上場審査の内容に企業内容等の開示の適正性という項目があり、社長面談でも適時開示に関する体制と内部情報管理に関する体制がヒアリングの対象とされています。
📄 まとめ
有価証券上場規程の第402条第1号が決定事実、第2号が発生事実です。第403条が子会社等の情報、第404条が決算情報、第405条が業績予想の修正等です。この並びを取り違えている資料が多いので、社内規程を作るときは確認してください。
決定事実の開示は、業務執行を実質的に決定する機関が事実上決定した段階です。取締役会決議の日ではありません。発生事実は発生を認識した時点です。
軽微基準は施行規則の第401条から第404条です。情報取扱責任者は規程第417条で、取締役・執行役またはこれに準ずる役職から選任して届け出ます。TDnet情報伝達責任者という役職名は存在しません。
適時開示はTDnetを利用して行い(第414条)、東証との連絡や書類提出はTargetを使います。違反した場合の措置は第504条以降にあります。
📚 参考(公的な一次情報)
- 有価証券上場規程 第402条・第403条・第404条・第405条・第408条の3・第411条の2・第411条の3・第413条・第413条の2・第414条・第415条・第416条・第417条・第436条の4
- 有価証券上場規程施行規則 第401条から第404条(軽微基準)
- 有価証券上場規程 第503条・第504条・第505条・第505条の2・第506条・第507条・第508条・第509条・第601条
- 東京証券取引所 会社情報適時開示ガイドブック(2026年7月版)、適時開示が求められる会社情報、適時開示に関する実務要領
- 東京証券取引所 新規上場ガイドブック(プライム市場編、2026年7月21日)
- 規則改正新旧対照表「少数株主保護に関する上場制度の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正」2026年7月3日
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