過去の年度の誤りが見つかったとき、前期損益修正損で落としてよいのか。監査法人からは修正再表示だと言われるが、税理士からは前期損益修正損でよいと言われる。この食い違いはよく起きます。
結論から言えば、前期損益修正損という科目そのものが廃止されたわけではありません。会社法の計算書類のルールである会社計算規則には、今も明記されています。廃止されたと説明している資料が多いのですが、条文を見ると違います。
この記事では、企業会計基準第24号が実際に何を書いているのか、どの制度でどの科目が使えるのかを、条文と項番号で確認します。
- 企業会計基準第24号に「前期損益修正を廃止する」という明文はないこと
- 会社計算規則第88条第2項・第3項に、今も前期損益修正益・前期損益修正損があること
- 財務諸表等規則の第95条の2・第95条の3の例示には入っていないこと
- 修正再表示を求めているのは第24号の第21項であること
- 誤謬の定義は第4項(8)、修正再表示の定義は第4項(11)であること
- 誤謬と見積りの変更をどこで分けるか
この記事の見出し
📌 結論 科目は残っている。ただし使える場面が限られる
廃止されたと言われることが多いのですが、会社計算規則には今も残っています。まずこの事実を押さえてください。
まず条文を確認します。会社計算規則の第88条は損益計算書等の区分を定めており、第1項が売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失の7区分を置いています。
そして第2項が、特別利益に属する利益について、固定資産売却益、前期損益修正益、負ののれん発生益その他の項目の区分に従い細分するとしています。第3項が、特別損失に属する損失について、固定資産売却損、減損損失、災害による損失、前期損益修正損その他の項目の区分に従い細分するとしています。第4項に、金額が重要でない場合は細分を要しない旨の定めがあります。
つまり、会社計算規則には前期損益修正益も前期損益修正損も現に書かれています。
一方、有価証券報告書に載せる財務諸表のルールである財務諸表等規則を見ると、第95条の2が特別利益の表示方法として固定資産売却益と負ののれん発生益を挙げ、第95条の3が特別損失の表示方法として固定資産売却損、減損損失、災害による損失を挙げています。いずれの例示にも前期損益修正は入っていません。ただし、どちらの条文にも「その他の項目」という受け皿があります。
この非対称が、実務での食い違いの原因です。
📘 企業会計基準第24号は何を書いているのか
第65項は結論の背景にあります。会計基準の定めそのもの(第1項から第26項)に前期損益修正という語は一度も出てきません。
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」は、平成21年12月4日に公表され、平成23年4月1日以後に開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更および過去の誤謬の訂正から適用されています(第23項)。
この基準の会計基準の定めは第1項から第26項までですが、その中に「前期損益修正」という語は一度も出てきません。この語が出てくるのは、結論の背景の第55項、第63項、第65項の3か所だけです。そして、そのいずれにも「廃止する」という言葉は使われていません。
第65項が言っていること
整理の中核は結論の背景の第65項です。国際的な会計基準における修正再表示の考え方を導入することが、期間比較の観点とコンバージェンスの観点から望ましいとしたうえで、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正する従来の取扱いが、比較情報として表示される過去の財務諸表を修正再表示する方法に変更される、と記述しています。
「変更される」であって「廃止する」ではありません。この違いは、社内の会計方針書に書くときに効いてきます。
第63項が触れているもの
結論の背景の第63項が、我が国の会計上の誤謬の取扱いに関する定めとして、前期損益修正項目に関して定めた企業会計原則注解(注12)があることに言及しています。前期損益修正が企業会計原則の注解に由来するものであることは、この記述で確認できます。
なお、注解(注12)の本文そのものは、この記事の作成時点で一次情報として確認できませんでした。具体的な文言や例示については、原典を確認してください。
誤謬に当たるのか見積りの変更なのか、修正再表示が必要な水準なのか、金商法と会社法でどう書き分けるのか。判断と、監査法人に説明できる資料の作成までお引き受けします。税務側の手続もあわせて整理します。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
🔀 誤謬なのか、見積りの変更なのか
過年度の引当金に過不足があったというとき、それが誤謬なのか見積りの変更なのかで処理が正反対になります。ここが最初の分かれ目です。
実務でいちばん多い誤りが、この2つの混同です。処理が正反対になるので、ここを先に決める必要があります。
誤謬の定義は第4項(8)にあります。意図的かどうかを問わず、財務諸表の作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと、または誤用したことによる誤りとされ、3つの類型が挙げられています。データの収集・処理上の誤り、事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り、そして会計方針の適用の誤りまたは表示方法の誤りです。
ポイントは「財務諸表の作成時に入手可能な情報」です。作成時に手元にあった情報を使わなかった、あるいは使い方を間違えたのであれば誤謬です。作成後に新しい情報が出てきて見積りが変わったのであれば、見積りの変更です。
会計上の見積りの変更については、遡及処理をせず変更した期以降で認識するという従来の取扱いが踏襲されています(結論の背景 第55項)。過年度の引当金に過不足が出た、というときは、まずこの区別からです。
判定の手順は会計方針の変更と見積りの変更・誤謬の違いで扱っています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
🧭 では、いつ何を使うのか
会計、金商法の開示、会社法、税務の4つが別々に動きます。ひとつの手続で全部が片づくわけではありません。
整理すると、次のようになります。
重要な誤謬であれば、修正再表示です。第21項が方法を定めており、表示期間より前の期間の累積的影響額は最も古い期間の期首に反映し、表示する各期間にはその各期間の影響額を反映します。
重要性が乏しい誤謬について、修正再表示ではなく当期の損益で処理してよいという明文は、第24号にも適用指針第24号にも見当たりませんでした。結論の背景の第35項に、本会計基準のすべての項目について財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮され、金額的重要性と質的重要性の双方を考慮する旨の記述がありますが、これは結論の背景であって会計基準の定めではありません。したがって、実務でこの扱いをするのであれば、監査人との合意が前提になります。
会社法の計算書類はどうするか
会社計算規則の第88条第2項・第3項に前期損益修正益・前期損益修正損が明記されている以上、会社法の計算書類でこの科目を使うことには根拠があります。中小企業や、有価証券報告書を提出していない会社では、この扱いが現実的です。
ただし、上場準備をしている会社は別です。監査を受け、いずれ有価証券報告書を提出することになるのであれば、金商法の枠組みに合わせて修正再表示で対応できる体制を作っておく必要があります。上場直前に処理を切り替えると、比較情報の作り直しが発生します。
📝 注記はどう書くか
注記の省略が認められるのは、この注記についての話です。会計処理そのものを省略してよいという定めではありません。
財務諸表等規則の第8条の3の7が、修正再表示に関する注記を定めています。誤謬の内容、前事業年度の主な科目への影響額、前事業年度の1株当たり情報への影響額、前事業年度の期首の純資産額に対する累積的影響額の4点です。
ただし書きで、重要性の乏しいものは注記を省略できるとされています。注意したいのは、これが注記の省略の話であって、会計処理そのものを省略してよいという定めではないことです。
なお、財務諸表等規則の第8条に用語の定義があり、誤謬と修正再表示の定義も置かれています。
注記の具体的な書き方は誤謬の訂正に関する注記の記載例で扱っています。
💰 税務はどうなるか
会計で修正再表示をしても、それだけで過去の申告が直るわけではありません。税務は別に動きます。
過去の申告を直す場合、税額が過大であったときは更正の請求によります。国税通則法の第23条が定めており、第1項各号として、計算が法律の規定に従っていなかったこと、または計算に誤りがあったことにより納付すべき税額が過大であるとき、純損失等の金額が過少であるとき、還付金の額が過少であるときが挙げられ、法定申告期限から5年以内とされています。第2項に、判決の確定などの後発的事由による場合の定めがあります。
なお、過年度の誤りを当期の損金に算入できるかどうかについて、国税庁の明示的な見解は、この記事の作成時点で確認できませんでした。前期損益修正損を計上したから税務上も当期の損金になる、という説明を見かけたら、根拠を確認してください。手続の全体像は税務調査で過年度の売上計上漏れを指摘されたときで扱っています。
❓ よくある質問
A. 廃止するという明文は企業会計基準第24号にありません。会社計算規則第88条第2項・第3項には現在も前期損益修正益・前期損益修正損が明記されています。
A. 財務諸表等規則第95条の2・第95条の3の例示には入っていませんが、どちらの条文にも「その他の項目」という受け皿があります。ただし重要な誤謬は第24号第21項により修正再表示することになります。
A. 企業会計基準第24号の第21項です。誤謬の定義は第4項(8)、修正再表示の定義は第4項(11)にあります。
A. 第65項は結論の背景にあり、従来の取扱いが修正再表示する方法に「変更される」と記述しています。廃止という語は使われていません。
A. そう明記した条項は第24号にも適用指針第24号にも見当たりませんでした。実務でこの扱いをする場合は監査人との合意が前提になります。
A. 財務諸表の作成時に入手可能だった情報を使わなかった、または誤用したのであれば誤謬です。作成後の新しい情報によるものであれば見積りの変更です。
A. 遡りません。変更した期以降で認識するという従来の取扱いが踏襲されています(結論の背景 第55項)。
A. いずれ有価証券報告書を提出するのであれば、金商法の枠組みに合わせて修正再表示で対応できる体制にしておくほうが安全です。直前で切り替えると比較情報の作り直しが発生します。
A. 財務諸表等規則第8条の3の7に4つの記載事項があり、ただし書きで重要性の乏しいものは省略できるとされています。
📄 まとめ
前期損益修正損という科目は廃止されていません。会社計算規則第88条第2項・第3項に現在も明記されています。財務諸表等規則の第95条の2・第95条の3の例示には入っていませんが、条文には「その他の項目」という受け皿があります。
企業会計基準第24号の会計基準の定めに前期損益修正という語は出てきません。結論の背景の第65項が、従来の取扱いが修正再表示する方法に変更されると記述しているだけです。
重要な誤謬は第21項により修正再表示します。ただし、その前に誤謬なのか見積りの変更なのかを決めてください。前者は遡り、後者は遡りません。
会社法の計算書類では前期損益修正の科目を使う根拠がありますが、上場準備をしている会社は金商法の枠組みに合わせておくほうが安全です。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(平成21年12月4日)第4項(8)・第4項(11)・第21項・第23項、結論の背景 第35項・第55項・第63項・第65項
- 企業会計基準適用指針第24号
- 会社計算規則 第88条第1項から第4項
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第8条、第8条の3の7、第95条の2、第95条の3
- 国税通則法 第23条
あわせて読みたい