常勤監査役は必要か(会社法390条)
常勤監査役を置く義務があるのは監査役会設置会社です。会社法390条3項が、監査役会は監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならないと定めています。監査役会を置かない会社や監査等委員会設置会社には、常勤を置く義務はありません。
- 常勤監査役の選定と解職は監査役会が決める(390条2項2号。決議は監査役の過半数、393条1項)
- 監査役会設置会社は監査役3人以上、うち半数以上が社外監査役(335条3項)
- 会社法に「常勤」の定義はない。上場審査では監査役面談が原則として常勤監査役を対象に行われる
2026年10月12日更新
「常勤監査役」と「常任監査役」の呼び方の違いは常勤監査役と常任監査役の違い|常勤監査役とは何かを条文で確認で解説しています。
常勤監査役を置かなければならないのか。上場準備の初期に必ず出てくる質問です。
答えは機関設計によります。会社法が常勤監査役の選定を求めているのは監査役会の職務としてであって、監査役会を置かない会社について同じ義務を課す規定は、条文上は見当たりません。監査等委員会設置会社では、常勤を置かないことも制度上想定されています。
この記事では、条文の所在を確認したうえで、上場準備で実際にどう決めるかを整理します。
- 常勤監査役の選定義務は会社法第390条第3項にあり、名宛人が監査役会であること
- 監査役会設置会社は監査役3人以上、そのうち半数以上が社外監査役であること(第335条第3項)
- 社外監査役は「過半数」ではなく「半数以上」であること
- 監査等委員会設置会社に常勤の監査等委員を置く義務がないこと
- ただし事業報告で選定の有無とその理由を記載すること(施行規則第121条第10号)
- 会社法に「常勤」の定義が見当たらないこと
図 常勤監査役を置く義務があるかの判定
この記事の見出し
📌 結論 義務があるのは監査役会設置会社
この義務は監査役会の職務として置かれています。条文の名宛人は監査役会です。監査役会を設置していない会社について、常勤監査役の選定を義務づける規定は、会社法の条文上は見当たりませんでした。
会社法の第390条は監査役会の権限等を定めた条文です。第1項が、監査役会はすべての監査役で組織すると定め、第2項第2号が監査役会の職務として常勤の監査役の選定および解職を掲げています。
そして第3項が、監査役会は監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならない、としています。
ここで押さえておきたいのは、この義務が監査役会の職務として置かれているという点です。条文の名宛人は監査役会です。したがって、監査役会を設置していない会社について、常勤監査役の選定を義務づける規定は、会社法の条文上は見当たりませんでした。
もっとも、義務がないことと、置かなくてよいことは別です。上場審査や監査法人との関係で、実質的に常勤者が必要になる場面はあります。
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📖 会社法390条を項ごとに読む
会社法390条は監査役会の権限等を定めた条文で、4つの項からできています。常勤監査役に関係するのは第2項第2号と第3項ですが、ほかの項も、常勤監査役が実際に何をするのかと結びついています。項ごとに並べると次のとおりです。
| 項 | 定めている内容 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 第1項 | 監査役会は、すべての監査役で組織する。 | 常勤も社外も全員が構成員です。監査役会の決議は監査役の過半数で行うため(393条1項)、常勤監査役1人の判断で監査役会の決定に代えることはできません。 |
| 第2項第1号 | 監査報告の作成 | 各監査役の監査報告をもとに、監査役会としての監査報告を作ります。 |
| 第2項第2号 | 常勤の監査役の選定及び解職 | 常勤監査役を決めるのも外すのも監査役会です。取締役会や社長が決めるものではありません。 |
| 第2項第3号 | 監査の方針、業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定 | 監査計画や常勤・非常勤の職務分担はここで決めます。ただし書により、この決定は各監査役の権限の行使を妨げることはできません。 |
| 第3項 | 監査役会は、監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならない。 | 少なくとも1人は常勤を選定します。条文は「監査役の中から」としており、社外監査役を常勤とすることも条文上は妨げられていません。 |
| 第4項 | 監査役は、監査役会の求めがあるときは、いつでもその職務の執行の状況を監査役会に報告しなければならない。 | 常勤監査役が日常の監査の結果を監査役会に報告する根拠になります。 |
手続としては、監査役会の決議で常勤監査役を選定し、議事録を作成します(393条1項・2項)。監査役会設置会社になった直後の最初の監査役会や、定時株主総会で監査役が改選された後の監査役会で選定するのが通常の流れです。常勤監査役が退任したときは、残った監査役の中から改めて選定しないと、第3項の義務を欠いた状態になります。
登記との関係も確認しておきます。会社法911条3項が定める監査役関係の登記事項は、監査役設置会社である旨と監査役の氏名(第17号)、監査役会設置会社である旨と社外監査役である旨(第18号)です。常勤か非常勤かの別は登記事項に含まれていません。常勤監査役を交代させても、それだけでは登記は要りません。
なお、常勤であるかどうかにかかわらず、監査役は会社や子会社の取締役・使用人などを兼ねることができません(335条2項)。経理部長を兼ねたまま常勤監査役にする、といった形は取れません。
👥 監査役会を置くときの構成
社外監査役は「過半数」ではなく「半数以上」です。監査役が3人であれば、社外監査役は2人以上ということになります。
監査役会を設置する場合の構成要件は、会社法第335条第3項にあります。監査役会設置会社においては、監査役は3人以上で、そのうち半数以上は社外監査役でなければならない、とされています。
ここを「過半数」と覚えている人がいますが、条文は「半数以上」です。監査役が3人であれば、社外監査役は2人以上ということになります。人数が4人なら2人以上です。
実務上の意味は小さくありません。過半数と半数以上では、探すべき人数が変わることがあります。
監査役会設置会社と監査等委員会設置会社のどちらを選ぶか、監査役を何人置くか、常勤をどう決めるか。上場審査で説明できる形に組み立てます。監査役監査基準と監査計画の作成、監査調書の様式づくりまで対応します。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。支援の内容と進め方はIPO支援業務のページにまとめています。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
🔀 監査等委員会設置会社ならどうか
監査等委員会設置会社では、常勤を置かないことも制度上想定されています。だからこそ「選定の有無およびその理由」が開示事項になっているわけです。
監査等委員会設置会社については、会社法の第399条の2以下に監査等委員会の規定が置かれています。第1項が監査等委員会はすべての監査等委員で組織すると定め、第2項が監査等委員は取締役でなければならないとし、第3項が監査等委員会の職務を掲げています。
この一連の条文に、常勤に関する定めはありません。
その一方で、会社法施行規則の第121条第10号イが、事業報告の記載事項として「常勤の監査等委員の選定の有無およびその理由」を掲げています。同号ロが、指名委員会等設置会社における常勤の監査委員について同様の記載を求めています。
選定しないことも制度上想定されているからこそ、選定の有無とその理由が開示事項になっている、という構造です。
実務での判断
監査等委員会設置会社を選び、常勤を置かないという判断はあり得ます。ただし、事業報告でその理由を説明することになります。常勤者がいない状態でどのように監査の実効性を確保しているのかを、書ける状態にしておく必要があります。
実務では、内部監査部門との連携や、監査等委員会への定期的な報告体制がその説明になります。内部監査の報告経路については内部監査の報告先は社長だけでよいのかで扱っています。
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❓ 常勤とは何か
会社法の条文に「常勤」の定義は見当たりませんでした。会社法第390条第3項ほかの条文に定義規定は置かれておらず、法務省の資料でも、この記事の作成時点で定義を特定できませんでした。
したがって、週何日以上といった数値基準を条文の根拠として説明することはできません。実務では、他に常勤の職を持たず、会社の営業時間中は原則としてその会社の監査役の職務に従事する、という理解で運用されることが多いのですが、これは条文にもとづく定義ではありません。
他社の役員を兼務している人を常勤とする場合や、非常勤役員としての報酬水準との関係が問題になる場合は、個別に検討が必要です。
🗂 常勤監査役は何をするのか|非常勤監査役との分担
会社法は、常勤監査役が何をするかを具体的には定めていません。実務の拠りどころになっているのは、日本監査役協会の「監査役監査基準」(2022年8月1日最終改定)です。同基準の第4条は、常勤の監査役は常勤者としての特性をふまえ、監査の環境の整備と社内の情報の収集に積極的に努め、内部統制システムの構築・運用の状況を日常的に監視し検証するとしています。あわせて、職務の遂行で知った情報を他の監査役と共有するよう努めることも求めています。
つまり、常勤監査役の役割は、社内にいる時間を使って情報を集め、監査役会全体の判断の材料をそろえることです。非常勤の社外監査役は、その材料をもとに専門的な知見や外部の視点から意見を述べます。分担の例を整理すると次のとおりです。
| 場面 | 常勤監査役 | 非常勤(社外)監査役 |
|---|---|---|
| 取締役会 | 出席し、必要があれば意見を述べる(383条1項) | 同じく出席義務がある(383条1項は監査役全員に適用) |
| 経営会議など社内の重要な会議 | 出席して情報を集める | 監査計画で必要と決めたものに出席する |
| 日常の監査 | 稟議書・契約書・議事録の閲覧、部門や拠点への往査を中心になって行う | 監査計画で分担した範囲を行う |
| 内部監査部門・会計監査人との連携 | 定期的な打合せの窓口になる | 監査役会で報告を受け、意見を述べる |
| 監査役会 | 日常の監査の結果を報告する(390条4項) | 報告をもとに、専門分野の観点から検討する |
| 上場審査 | 監査役面談の対象(原則として常勤監査役)。社長説明会にも同席を求められる | 独立役員に指定されていれば独立役員面談の対象になる |
上場審査の場面は、常勤監査役の働きぶりがそのまま見られるところです。東証の新規上場ガイドブックでは、監査役面談は原則として常勤監査役を対象とし、社長説明会には情報取扱責任者となる方と常勤監査役の同席が求められています。面談では、監査計画、取締役会への出席状況、内部監査部門や監査法人との連携、気づいた問題点とその後の対応などを、自分の言葉で説明できることが必要です。審査の流れは上場申請から上場日までの流れで整理しています。
監査等委員会設置会社を選んで常勤を置かない場合も、この表の左の列の仕事が不要になるわけではありません。内部監査部門に日常の情報収集を担わせ、監査等委員会に定期的に報告させる体制を作っておく必要があります。
🏢 上場準備での進め方
人を探すところがいちばん時間がかかります。監査役会設置会社なら社外監査役を含めて3人です。決算期の直前に動いても間に合いません。
実務上のボトルネックは、人を探すところです。監査役会設置会社を選ぶなら、監査役3人以上で、そのうち半数以上が社外監査役という構成になります。社外監査役の要件を満たし、かつ引き受けてくれる人を複数見つけるのは、思っているより時間がかかります。
あわせて確認しておきたいのが、責任限定契約を締結できる定款になっているかです。外部から監査役を招く場合、この定款の定めがないと引き受けてもらいにくくなります。監査役の責任の範囲は監査役の責任はどこまで及ぶかで扱っています。
そして、置いただけでは足りません。監査役監査基準を作り、監査計画を立て、実際に往査をして、記録を残す。この一巡がN-2期から回っている状態を作ってください。
なお、上場後の独立役員の確保については、有価証券上場規程の第436条の2に定めがあります。独立役員を1名以上確保する義務で、独立役員は一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役です。社外取締役に限られるものではありません。
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❓ よくある質問
A. 会社法第390条第3項です。監査役会は監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならない、とされています。
A. 会社法の条文上、監査役会を設置しない会社について常勤監査役の選定を義務づける規定は見当たりませんでした。
A. 3人以上です(第335条第3項)。
A. 半数以上です。過半数ではありません。監査役3人なら社外監査役は2人以上になります。
A. 会社法第399条の2以下に常勤の定めはありません。ただし事業報告で常勤の監査等委員の選定の有無およびその理由を記載します(施行規則第121条第10号イ)。
A. 会社法の条文に定義は見当たりませんでした。週何日以上といった数値基準を条文の根拠として示すことはできません。
A. 有価証券上場規程第436条の2により1名以上です。独立役員は社外取締役または社外監査役で、社外取締役に限られません。
A. 人を探す時間を考えると、N-3期のうちに動き出すのが現実的です。実際に監査を回した記録はN-2期から必要になります。
A. 監査役会です(会社法390条2項2号・3項)。決議は監査役の過半数で行います(393条1項)。取締役会や社長が決めるものではありません。
A. 登記しません。会社法911条3項が定める監査役関係の登記事項は、監査役の氏名、監査役会設置会社である旨、社外監査役である旨などで、常勤か非常勤かの別は含まれていません。
A. 会社法390条3項は「監査役の中から」選定するとしており、社外監査役を常勤とすることは条文上妨げられていません。ただし、どの監査役も会社や子会社の取締役・使用人などとの兼任はできません(335条2項)。
📄 まとめ
常勤監査役の選定義務は会社法第390条第3項にあり、名宛人は監査役会です。監査役会を設置しない会社について、同じ義務を課す規定は条文上見当たりませんでした。
監査役会設置会社の構成は、監査役3人以上で、そのうち半数以上が社外監査役です(第335条第3項)。過半数ではありません。
監査等委員会設置会社には常勤の監査等委員を置く義務がありません。ただし事業報告で選定の有無とその理由を記載します(施行規則第121条第10号)。
会社法に「常勤」の定義は見当たりません。数値基準を条文の根拠として説明することはできない点に注意してください。
このテーマの全体像は上場準備のガバナンス|機関設計と開示体制の決め方にまとめています。
📚 参考(公的な一次情報)
- 会社法 第335条第2項・第3項、第383条第1項、第390条第1項〜第4項、第393条第1項・第2項、第399条の2、第911条第3項第17号・第18号
- 日本監査役協会「監査役監査基準」(2022年8月1日最終改定) 第4条
- 東京証券取引所「新規上場ガイドブック」(監査役面談・社長説明会)
- 会社法施行規則 第121条第10号
- 有価証券上場規程 第436条の2、第445条の4、東京証券取引所「独立役員の確保に係る実務上の留意事項」
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