監査役に就任してほしいと頼まれた。名前を貸すだけだから、と言われる。ここで確認しておきたいのは、監査役が負う責任が会社法に明文で置かれているということです。
責任には2つの筋があります。会社に対する責任(第423条第1項)と、第三者に対する責任(第429条第1項)です。要件が違います。そして監査報告に虚偽の記載があった場合には、立証責任が転換される規定まであります。
この記事では、条文の構造と、責任を一部免除する3つの道を確認します。
- 会社に対する責任は第423条第1項、第三者に対する責任は第429条第1項であること
- 要件が「任務を怠ったとき」と「悪意または重大な過失」で異なること
- 監査報告の虚偽記載は第429条第2項第3号で、立証責任が転換されていること
- 責任の一部免除に第425条・第426条・第427条の3つの道があること
- 監査役は責任限定契約の対象に明記されていること(第427条第1項)
- 最低責任限度額の2の区分は「社外かどうか」で決まるのではないこと
📌 2つの責任は要件が違う
要件が違います。会社に対しては任務懈怠だけで足り、第三者に対しては悪意または重大な過失が必要です。この違いを押さえずに議論すると噛み合いません。
この5者が役員等です。監査役はここに含まれます。第423条と第429条の責任は、いずれも役員等に及びます。
会社法の第423条第1項が、役員等がその任務を怠ったときに、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負うとしています。見出しは役員等の株式会社に対する損害賠償責任です。
ここでいう役員等は、同項の括弧書きで定義されており、取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人の5者です。監査役はここに含まれます。
一方、第429条第1項が、役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときに、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うとしています。
会社に対しては任務を怠ったことで足りますが、第三者に対しては悪意または重大な過失が必要です。この違いが、実務での責任追及の場面を分けます。
なお、第423条には第2項以下もあります。第2項が競業取引(第356条第1項第1号)における損害額の推定、第3項が利益相反取引(同項第2号・第3号)における任務懈怠の推定、第4項が監査等委員会の承認があった場合の第3項の不適用です。
⚠️ 監査報告に虚偽があった場合
ただし書に注目してください。立証責任が転換されています。第三者が悪意や重過失を立証するのではなく、監査役の側が注意を怠らなかったことを証明しなければ免責されません。
監査役にとっていちばん重いのが第429条第2項です。柱書は、次の各号に掲げる者が当該各号に定める行為をしたときも前項と同様とする、としています。
第3号が監査役等について定めており、監査報告に記載し、または記録すべき重要な事項についての虚偽の記載または記録が対象です。
そしてただし書があります。その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない、とされています。
つまり立証責任が転換されています。第三者が監査役の悪意や重過失を立証するのではなく、監査役の側が注意を怠らなかったことを証明しなければ、責任を免れません。
実務上の含意
ここから導かれることははっきりしています。監査役として何をしたのかを記録に残しておく必要がある、ということです。取締役会に出席した記録、往査の記録、会計監査人との連携の記録、代表取締役との面談の記録。これらがなければ、注意を怠らなかったことの証明ができません。
監査役監査基準や監査計画を作っておくのも同じ理由です。何を監査の対象とし、どのような手続で確かめたのかを、あとから示せる状態にしておくということです。
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🛡️ 責任を軽くする3つの道
監査役は第427条の非業務執行取締役等に明記されています。責任限定契約を結ぶことができます。
ハの区分は「社外かどうか」で分かれているのではありません。業務執行取締役等でない取締役であれば、社外でなくてもこの区分に入ります。第1項第2号として、第238条第3項の新株予約権に関する額が加算されます。
会社法は、責任の一部免除について3つの仕組みを置いています。
株主総会の決議による免除(第425条)
第1項が、第423条第1項の責任について、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときに、賠償責任額から最低責任限度額を控除した額を限度として、株主総会の決議で免除できるとしています。
最低責任限度額は、在職中に職務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額に、区分に応じた数を乗じた額です。代表取締役または代表執行役が6、代表取締役以外の取締役(業務執行取締役等であるものに限る)または代表執行役以外の執行役が4、それ以外の取締役、会計参与、監査役、会計監査人が2です。
ここで注意したいのは、2の区分が「社外かどうか」で決まっているのではないことです。条文の区分は業務執行取締役等であるかどうかであり、社外でない非業務執行取締役もこの区分に入ります。
第2項が株主総会での開示、第3項が監査役設置会社等における各監査役の同意、第4項が免除後の退職慰労金等の支給制限を定めています。
定款の定めによる免除(第426条)
第1項の対象会社は、監査役設置会社(取締役が2人以上ある場合に限る)、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社です。第425条第1項と同じ限度で、取締役会の決議(取締役会を設置しない会社では当該責任を負う取締役を除く取締役の過半数の同意)により免除できる旨を、定款で定めることができます。
責任限定契約(第427条)
第1項の対象者は、取締役(業務執行取締役等であるものを除く)、会計参与、監査役、会計監査人であり、これらを「非業務執行取締役等」と定義しています。監査役は明示的に含まれています。
契約の内容は、職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときに、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする、というものです。定款の定めが必要です。
社外から監査役を招く場合、この契約を締結できる定款になっているかを先に確認してください。定款に定めがなければ契約は結べません。
🏢 上場準備会社での実務
上場準備の局面では、監査役の責任は2つの意味を持ちます。
ひとつは、人を集められるかです。責任限定契約の定款の定めがない会社に、外部から監査役を引き受けてくれる人はなかなか見つかりません。定款変更は株主総会の決議事項ですから、必要になってから動くのでは間に合わないことがあります。
もうひとつは、実際に監査が回っているかです。第429条第2項のただし書が求めるのは、注意を怠らなかったことの証明です。監査役会の議事録に「異議なし」しか書かれていない状態では、何を確かめたのかが残りません。
機関設計そのものの選択については監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?、内部監査との関係については内部監査の報告先は社長だけでよいのかで扱っています。
❓ よくある質問
A. 含まれます。第423条第1項の括弧書きが、取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人を役員等としています。
A. その任務を怠ったこと(第423条第1項)です。悪意や重過失は要件になっていません。
A. その職務を行うについて悪意または重大な過失があったこと(第429条第1項)です。
A. 第429条第2項第3号の対象です。ただし書により、注意を怠らなかったことを証明したときは責任を免れます。立証責任が転換されています。
A. 結べます。第427条第1項の非業務執行取締役等に監査役が明記されています。ただし定款の定めが必要です。
A. 監査役は2です(第425条第1項第1号ハ)。代表取締役等が6、代表取締役以外の業務執行取締役等が4です。
A. 第425条第1項第1号の区分は業務執行取締役等であるかどうかによります。社外かどうかで区分されているわけではありません。
A. 第426条の定めを置きます。対象会社は監査役設置会社(取締役2人以上)、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社です。
A. 取締役会への出席、往査、会計監査人との連携、代表取締役との面談などの記録です。注意を怠らなかったことを証明できる状態にしておくためです。
📄 まとめ
監査役の責任には2つの筋があります。会社に対する責任は第423条第1項で、要件は任務を怠ったことです。第三者に対する責任は第429条第1項で、要件は職務を行うについて悪意または重大な過失があったことです。
監査報告に虚偽の記載があった場合は第429条第2項第3号の対象で、ただし書により立証責任が転換されています。監査役の側が注意を怠らなかったことを証明しなければなりません。
責任の一部免除には、株主総会の決議による免除(第425条)、定款の定めにもとづく取締役会決議等による免除(第426条)、責任限定契約(第427条)の3つがあります。監査役は第427条の非業務執行取締役等に含まれます。
最低責任限度額の2の区分は、社外かどうかではなく、業務執行取締役等であるかどうかで決まります。
📚 参考(公的な一次情報)
- 会社法 第423条、第425条、第426条、第427条、第429条
- 会社法 第356条第1項、第238条第3項
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