内部監査室を作った。監査計画も立てた。報告書も出している。それでも監査法人や主幹事証券から、報告経路を見直してくださいと言われることがあります。
理由ははっきりしています。報告先が社長だけになっているからです。社長自身に関わる事象が起きたとき、その仕組みは機能しません。この点は2023年の内部統制の基準改訂と、2026年7月のコーポレートガバナンス・コード改訂の両方で扱われています。
この記事では、どの文書のどこに何が書かれているのかを番号で確認し、内部監査規程をどう直せばよいのかまで落とします。
- 報告経路の確保を求めているのは、内部統制の実施基準 I.4(4)であること
- その一文は2023年4月7日の改訂で新設されたものであること
- コーポレートガバナンス・コードは2026年7月版で構造が変わり、補充原則という区分がなくなったこと
- 内部監査部門の直接報告は、原則4-14の解釈指針に置かれていること
- 解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象外であること
- デュアルレポーティングラインという語は公的文書では使われていないこと
- 内部監査規程に入れるべき条項
この記事の見出し
📌 結論 報告先が社長だけの規程は、いまの水準では通らない
先に答えを書きます。内部監査の報告先を代表取締役社長のみとしている規程は、現在の内部統制の実施基準が求める水準を満たしていません。
根拠は、企業会計審議会が令和5年4月7日に公表した意見書によって改訂された、財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準です。その I.4(4)「内部監査人」に、内部監査人は取締役会および監査役等への報告経路を確保するとともに、必要に応じて取締役会および監査役等から指示を受けることが適切である、という趣旨の記述が置かれています。
この一文は2023年の改訂で新設されたものです。新旧対照表で確認できます。改訂前は、経営者が内部監査人から報告を受ける体制までの記載にとどまっていました。
番号について一点注意があります。この箇所は I.4(4)です。IIではありません。実施基準の I は内部統制の基本的枠組み、II は財務報告に係る内部統制の評価及び報告です。内部統制に関係を有する者の役割と責任は I の 4 にあり、その(4)が内部監査人です。II.4(4)と書いている解説を見かけますが、誤りです。
🗂️ 実施基準はどう構成されているか
内部監査人は(4)です。ここに報告経路の一文が置かれています。番号を間違えて引用している資料が多いので注意してください。IIは評価と報告の章であって、この箇所ではありません。
実施基準 I.4 は、内部統制に関係を有する者の役割と責任を、経営者、取締役会、監査役等、内部監査人、組織内のその他の者の順に並べています。内部監査人は(4)です。
並び順そのものに意味があります。経営者が整備し運用する。取締役会が基本方針を決定する。監査役等が監視し検証する。内部監査人はその全体に対して検討評価を行い、必要に応じて改善を求める。この構造の中で、内部監査人が経営者にしか報告できないとすると、経営者自身を対象とする部分が空白になります。
だから報告経路の確保という表現が使われています。指揮命令系統を二重にせよ、と言っているのではありません。報告が届く経路を確保せよ、と言っています。ここは実務でよく取り違えられるところです。
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🔀 二つの報告経路を並べて比べる
実務では前者が圧倒的に多い状態でした。社長に関する不正が起きたときに機能しないという指摘が繰り返され、現在のルールにつながっています。
ここで押さえておきたいのは、業務上の指揮命令をどこに置くかという話と、報告をどこへ届けるかという話が別だということです。
内部監査部門を代表取締役社長の直属に置くこと自体は、何の問題もありません。多くの会社がそうしています。問題になるのは、報告が社長で止まる構造です。
社長に関する事象をどう扱うか
内部監査で、社長の経費精算に不適切なものが見つかったとします。報告先が社長しかない規程では、内部監査部門長は社長に報告することになります。それで是正されればよいのですが、されなかった場合、規程上の次の手がありません。
取締役会および監査役会への直接報告を規程に書いておけば、この場面で経路があります。実際に使う場面は多くないかもしれませんが、経路がないこと自体が体制の不備と評価されます。
監査計画と人事も論点になる
報告先だけを直しても、監査計画を社長が単独で承認し、内部監査部門長の任免も社長が単独で決める運用のままだと、実質的な独立性は確保されません。監査計画を取締役会の承認事項とする、部門長の任免について監査役会の意見を聴く、といった手当てを併せて行うのが一般的です。
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📘 コーポレートガバナンス・コードは2026年7月に構造が変わった
以前の版の番号で社内文書を書いていると、そのまま古い引用になります。参照先の点検が必要です。
2026年7月21日に、金融庁と東京証券取引所からコーポレートガバナンス・コードの改訂について公表がありました。2026年7月版です。
変更点のうち、社内文書に影響するものが二つあります。
ひとつめ 補充原則という区分がなくなった
2026年7月版のコードは、基本原則と原則、そして解釈指針で構成されています。補充原則という番号を付した条項は置かれていません。従前の補充原則を再整理し、ガバナンスの中核となる箇所を原則に格上げする、という趣旨が改訂の説明文書に述べられています。
内部監査部門の直接報告について、以前は補充原則4-13の3という番号で語られてきました。2026年7月版にその番号はありません。現在は原則4-14「取締役会における審議の活性化等」の解釈指針に、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築する、という趣旨の記述が置かれています。内部監査部門への言及は、原則4-4の解釈指針にもあります。
なお、原則4-13は2026年7月版にも存在しますが、タイトルは取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件であり、内部監査部門への言及はありません。番号だけを機械的に置き換えると誤ります。
ふたつめ 解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象外
解釈指針は2026年7月版で導入された構成要素です。全ての基本原則および一部の原則に付されています。そして、解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではない旨が、コード本体に明記されています。
これは実務上の意味が大きいところです。コーポレート・ガバナンス報告書で、実施しない理由を説明する対象になるのは原則です。解釈指針の一つひとつについて実施の有無を書くことは求められていません。
ただし、対象外だから守らなくてよい、という話ではありません。内部監査の報告経路については、コードの解釈指針とは別に、内部統制の実施基準 I.4(4)が確保を求めています。上場会社であれば内部統制報告制度の枠組みが適用されますから、こちらは避けて通れません。
章立ても変わっている
2026年7月版は4章構成です。第1章が株主の権利・平等性の確保、株主との対話。第2章が株主以外のステークホルダーとの適切な協働。第3章が適切な情報開示と透明性の確保。第4章が取締役会等の責務です。以前の版で独立した章だった株主との対話は、第1章のタイトルに取り込まれています。
番号のずれも生じています。たとえば原則3-2は英文開示、原則3-3が会計監査人です。以前の版の番号で社内資料を作っていると、そのまま古い引用になります。
改訂への対応については、遅くとも2027年7月末日までに、改訂版コードに関する事項について記載したコーポレート・ガバナンス報告書を提出する必要がある旨が、改訂の説明文書に記載されています。
🗣️ デュアルレポーティングラインという語について
実務でよく使われる言葉ですが、東京証券取引所や金融庁の公表文書では使われていません。コーポレートガバナンス・コード2026年7月版にも、内部統制の意見書にも、この語は出てきません。
公的文書で使われているのは、報告経路を確保するという表現(実施基準 I.4(4))と、直接報告を行う仕組みを構築するという表現(コード原則4-14の解釈指針)です。
社内規程や審査対応の資料を書くときは、公的文書の表現に合わせてください。デュアルレポーティングラインを構築しています、と書くより、取締役会および監査役会への報告経路を規程に定め、四半期ごとに報告しています、と書いたほうが、何をしているのかが伝わります。
🛠️ 規程をどう直すか
規程を直すだけでは足りません。取締役会と監査役会の議事録に、内部監査からの報告が実際に載っているかどうかが問われます。
条文の書き方に決まりはありません。ただし、報告先が社長のみで終わっている規程は、今の水準では通りません。
実際の作業は、内部監査規程の報告に関する条文を書き直すところから始まります。あわせて、取締役会規程と監査役会規程の側にも、内部監査部門からの報告を受ける旨の定めを置きます。片側だけ直すと、受け側の根拠がない状態になります。
頻度をどう決めるか
報告の頻度に法令上の定めはありません。実務では、監査役会には毎月または四半期ごと、取締役会には四半期ごとまたは年度単位で報告するという設計が多く見られます。重要なのは、決めた頻度どおりに実際に行い、議事録に残すことです。
規程には四半期ごとと書いてあるのに、議事録には年に一度しか報告が載っていない。この状態が審査でいちばん厳しく見られます。運用できない頻度を書かないでください。
いつから始めるか
内部監査は、N-2期の期首から実際に回っていることが望ましいとされています。規程を作った、担当者を置いた、というだけでは足りません。監査計画があり、実査があり、指摘があり、改善報告があり、その一巡が記録として残っている必要があります。
報告経路の整備も同じです。規程を直した日付だけが直前になっていると、形だけ整えたという印象になります。関連する準備の順序はIPO準備 完全ガイドで扱っています。
❓ よくある質問
A. 社長直属であること自体は問題になりません。報告が社長で止まる構造が問題です。指揮命令の所属と、報告の経路は別に設計できます。
A. I.4(4)「内部監査人」です。I が内部統制の基本的枠組み、その4が内部統制に関係を有する者の役割と責任、その(4)が内部監査人です。II ではありません。
A. 令和5年4月7日の企業会計審議会の意見書による改訂で新設されました。新旧対照表で確認できます。
A. 2026年7月版のコーポレートガバナンス・コードに補充原則という区分はありません。現在は原則4-14の解釈指針です。
A. コンプライ・オア・エクスプレインの対象ではない旨がコード本体に明記されていますが、守らなくてよいという意味ではありません。内部監査の報告経路については、内部統制の実施基準が別途これを求めています。
A. 人数や専任の要否について、一次情報で確認できる一律の基準は見当たりませんでした。会社の規模と業種に応じて、実際に監査を回せる体制かどうかで判断されます。
A. 独立性の観点から避けるのが通例です。規程に、自らが所属する部門の業務を監査しない旨を定めておいてください。
A. 監査役等は会社法にもとづき取締役の職務執行を監査します。内部監査は経営者の指揮のもとで業務の有効性と効率性、財務報告の信頼性、法令等の遵守などを検討評価します。役割が異なるため、両方が必要です。
A. 法令上の定めは見当たりません。規程に書いた頻度どおりに実施し、議事録に残すことが重要です。
A. 改訂の説明文書に、遅くとも2027年7月末日までに改訂版コードに関する事項を記載したコーポレート・ガバナンス報告書を提出する必要がある旨の記載があります。
📄 まとめ
内部監査の報告先を社長だけにしている規程は、現在の水準では通りません。財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の I.4(4)が、内部監査人について取締役会および監査役等への報告経路を確保することを求めており、この一文は令和5年4月7日の改訂で新設されたものです。
コーポレートガバナンス・コードは2026年7月21日の改訂で構造が変わりました。4章構成になり、補充原則という区分がなくなり、解釈指針が導入されています。内部監査部門の直接報告は原則4-14の解釈指針にあります。解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではありません。
デュアルレポーティングラインという語は公的文書では使われていません。報告経路の確保、直接報告を行う仕組み、という表現に合わせてください。
作業としては、内部監査規程の報告条項を直し、取締役会規程と監査役会規程に受け側の定めを置き、決めた頻度どおりに報告して議事録に残す。この三つです。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」令和5年4月7日、および新旧対照表 I.4(4)内部監査人
- コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)原則4-4の解釈指針、原則4-14の解釈指針
- 金融庁・東京証券取引所「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」2026年7月21日
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