IPOにおける株主数の要件とは?数え方・確保の方法・名義株の整理まで解説

東京証券取引所に上場するには、株主数がプライム市場800人以上、スタンダード市場400人以上、グロース市場150人以上(いずれも上場時見込み)という形式要件を満たす必要があります。オーナーと役職員数名だけで株式を保有している非上場会社にとって、株主数は自然には増えないため、上場までにどう確保するかが資本政策の重要テーマになります。

本記事では、有価証券上場規程(プライム市場第211条第1号、スタンダード市場第205条第1号、グロース市場第217条第1号)に定める株主数基準について、株主数の数え方、上場までに確保する方法、そして上場準備の初期に必ず点検したい名義株の論点まで、IPO支援に特化した公認会計士が解説します。

株主数の要件とは?東証3市場の基準人数

株主数基準は、申請会社の株式が一定数の株主に分散して所有されていることを求める基準です。上場後に株式の売買が円滑に行われ、公正な株価が形成されるためには、売り手と買い手になり得る株主の裾野が一定程度必要である、というのがこの基準の趣旨です。

基準人数は市場区分ごとに異なり、新規上場時と上場後(上場維持基準)で同じ水準が設定されています。

市場区分 新規上場時(上場時見込み) 上場維持基準
プライム市場 800人以上(規程211条1号) 800人以上
スタンダード市場 400人以上(規程205条1号) 400人以上
グロース市場 150人以上(規程217条1号) 150人以上

ポイントは「上場の時までに」基準人数となる「見込み」があればよい、とされている点です。上場申請の時点で800人・400人・150人の株主がそろっている必要はなく、上場日において基準を満たす見込みがあれば申請は受理されます。実際、多くのIPO準備会社は申請時点では株主数が数十人程度であり、上場直前の公募・売出しによって一気に基準を充足させています。この仕組みは後述します。

なお、形式要件の全体像(流通株式・時価総額・利益の額など)は「IPOの形式要件とは?東証3市場の上場基準を一覧比較」で解説していますので、あわせてご覧ください。

株主数の数え方:1単元以上を所有する株主だけを数える

株主数のカウント方法には明確なルールがあります。株主数とは「1単位以上の株式を所有する者の数」をいいます。1単位とは、単元株式数を定めている場合は一単元の株式数、定めていない場合は1株です。上場にあたっては単元株式数を100株とすることが求められるため、実務上は「100株以上を所有する株主の数」と考えて差し支えありません。

株主数カウントの基本ルール

  • 1単元(100株)以上を所有する株主のみを数える(単元未満株主は含めない)
  • 直前の基準日等(会社法の基準日など)における株主名簿をもとに算定する
  • 1単位以上の株券等に係る権利を表示する預託証券の所有者も、株主数に加算できるとされている
  • 基準日等の後に自己株式の取得・処分があった場合は、所定の方法で調整する

基準日等の後に自己株式を取得・処分した場合の調整

株主数は直前の基準日等の株主名簿をベースに算定しますが、その後に会社が自己株式を取得していると、その分だけ株主が減っている可能性があります。そこで、基準日等の後に自己株式取得決議に基づく買付けを行った場合には、所有単位数の少ない株主から株式が減少したとみなす方法により、理論上減少する株主数を差し引いて算定するものとされています。逆に、特定の者に対して自己株式を処分する決議を行った場合には、その特定の者が所有しているものとみなして株主数に加算します。

整理すると、株主数はおおむね「基準日等における単位株主数の合計、マイナス自己株式取得により減少する株主数、プラス自己株式処分等により増加する見込みの株主数」という考え方で算定されます。具体的な算定方法は、新規上場ガイドブックや有価証券上場規程施行規則で必ずご確認ください。

従業員持株会は「1人」と数えるのが原則

意外に思われる方が多いのですが、従業員持株会は一般に民法上の組合として理事長名義で株式を保有するため、加入者が何百人いても株主名簿上は1名の株主としてカウントされます。従業員持株会はIPO準備における安定株主対策・福利厚生として有効な仕組みですが、株主数基準の充足という観点では大きな効果は期待できない点に注意が必要です。なお、流通株式の算定では上場株式数の10%以上を所有する者が保有する株式が除外されるため、持株会の持株比率が10%以上になると流通株式基準に影響するという別の論点もあり、組成時には持株比率の設計も重要になります。

申請時点で株主が足りなくても大丈夫:公募・売出しで充足する

前述のとおり、株主数基準は上場申請時点の条件ではなく、上場日において見込まれることが条件です。直前の基準日等において基準人数に満たない場合は、上場の時までに、公募(新株発行による募集)、売出し(既存株主の保有株式の販売)、または立会外分売によって基準を充足させる必要があります。

典型的なIPOでは、上場承認後のブックビルディングを経て公募・売出しを行い、主幹事証券会社をはじめとする引受証券会社が多数の投資家に株式を販売します。この配分によって、上場日までに数百人から数千人規模の新しい株主が生まれ、株主数基準が充足されるのです。どの程度の公開規模(公募・売出しの株数)にすれば株主数と流通株式の基準を同時に満たせるかは、主幹事証券会社と協議しながら資本政策として設計していきます。

公募・売出しで基準を充足する場合の手続

上場に際して公募・売出しを行う場合は、上場申請後遅滞なく「公募又は売出予定書」を、また申込期間終了の日から起算して3日目(休業日を除く)の日までに「公募又は売出実施通知書」を東証に提出します(有価証券上場規程施行規則第245条第1項、第250条第1項)。これらは株主数や流通株式の基準を充足させる目的の場合に限らず、上場に際して公募・売出しを行う場合に一般に必要となる書類です。なお、オーバーアロットメントによる売出しやシンジケートカバー取引などによる変動については、株主数・流通株式の算定上は勘案しないものと整理されるのが一般的とされています。個別の取扱いは新規上場ガイドブック等でご確認ください。

上場後も株主数は毎年チェックされる:上場維持基準

株主数基準は上場してしまえば終わり、ではありません。上場後は上場維持基準として同じ水準(プライム800人・スタンダード400人・グロース150人)への継続適合が求められ、通常年1回、各事業年度末日の状況について「株券等の分布状況表」と有価証券報告書をもとに判定されます。

上場維持基準に適合しない状態となった場合は、3か月以内に適合に向けた計画の開示が必要となり、原則1年の改善期間内に適合できなければ上場廃止基準に該当します。株主数は株式併合や自社株買い、株主の相続・集約などによって上場後に減少することもあるため、上場会社にとっても継続的なモニタリングが必要な指標です。上場維持基準の全体像は「上場後のフォローアップと継続義務」の記事で解説しています。

名義株の論点:上場準備の初期に必ず整理する

株主数・株主名簿に関連してIPO準備の初期段階で必ず点検したいのが、いわゆる名義株(名義借り株式)の問題です。名義株とは、株主名簿上の名義人と、実際に出資して株式を所有している実質株主とが異なる株式をいいます。

名義株が生まれた背景と審査上の問題点

平成2年改正前の商法では株式会社の設立に発起人7名以上が必要とされていたため、社歴の長い会社では、設立時に親族や知人から名義だけを借りて株式を割り当てた例が少なくありません。こうした名義株を放置したまま上場申請を行うと、次のような問題が生じます。

  • 株主名簿の記載が実態と一致せず、上場申請書類(株主の状況等)の正確性が確保できない
  • 実質株主が誰かをめぐって将来紛争になるおそれがあり、経営の安定性を損なう
  • 株主に対して行う反社会的勢力との関係の確認が、実質株主ベースで行えない
  • 相続や譲渡の際の課税関係が不明確になる

上場申請書類では、役員等が他人名義で所有する株式の状況について記載が求められるなど、名義と実質の一致は上場審査の前提となっています。名義株の存在が判明した場合には、上場申請までに解消しておくことが実務上必須です。

名義株の整理方法と税務上の留意点

名義株の整理は、①実質株主が誰であるかを出資の払込資金の出所、配当の受領状況、株主総会での議決権行使の状況、名義借りの経緯などの事実関係から特定し、②名義人との間で実質株主を確認する書面(確認書・合意書)を取り交わしたうえで、③株主名簿の名義を実質株主に一致させる、という手順で進めるのが一般的です。

このとき注意したいのが税務上の取扱いです。真実の所有者への名義の変更であれば新たな贈与や譲渡には当たりませんが、事実関係の証拠が乏しいまま名義を変更すると、名義人から実質株主への贈与や譲渡と認定され、思わぬ課税が生じるリスクがあります。逆に、名義人が実質株主であると主張して対価を求めるケースもあります。整理が難航するほど株式の価値(株価)は上場に向けて上がっていくため、名義株の整理はできる限り早い段階、遅くとも上場申請期の2〜3期前までに着手することをおすすめします。

まとめ:株主数は「数える・増やす・きれいにする」の3点で準備する

株主数基準への対応は、①現在の株主名簿を正確に把握し1単元以上の株主数を数えること、②不足分は上場時の公募・売出しの規模設計で確保する計画を主幹事証券会社と立てること、③名義株や所在不明株主など株主名簿の実態との不一致を早期に解消しておくこと、の3点に整理できます。とくに③の名義株整理は、税務の検討と株式評価が絡むため、会計・税務の専門家の関与が有効な領域です。

当事務所では、IPO準備会社向けに資本政策の検討支援、株主名簿・名義株の整理支援、上場申請書類の作成支援を行っています。株主構成や資本政策に不安がある方は、早めにご相談ください。

Q. 単元未満株主(100株未満の株主)は株主数に含まれますか?

含まれません。株主数は1単位(単元株式数を定めている場合は一単元)以上の株式を所有する者の数と定義されているため、単元未満株主はカウントの対象外です。

Q. 従業員持株会の加入者200人は株主数200人になりますか?

なりません。従業員持株会は一般に理事長名義で株式を保有する民法上の組合であるため、株主名簿上は1名としてカウントされるのが原則です。株主数の確保は上場時の公募・売出しによるのが基本です。

Q. 上場後に株主数が基準を下回るとどうなりますか?

上場維持基準への不適合となり、3か月以内に適合に向けた計画の開示が必要になります。原則1年の改善期間内に適合できない場合は、監理銘柄・整理銘柄の指定を経て上場廃止となります。

株主数・資本政策・名義株の整理はIPO支援の専門家へ

鈴木佑也公認会計士税理士事務所は、IPO準備会社向けに資本政策の検討、株主名簿・名義株の整理、上場申請書類の作成を支援しています。株主構成の現状分析から上場までの道筋づくりまで、お気軽にご相談ください。

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参照条文等:有価証券上場規程(東京証券取引所)第211条第1号(プライム市場)、第205条第1号(スタンダード市場)、第217条第1号(グロース市場)、第501条(上場維持基準)。新規上場ガイドブック(プライム市場編・スタンダード市場編・グロース市場編、2026年7月21日版)Ⅱ形式要件。JPX「上場審査基準概要」「上場維持基準の詳細(株主数)」(2026年7月時点)。本記事の内容は執筆時点の法令・規程に基づきます。

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