上場申請の準備でシミュレーションを作っていると、必ず一度は止まるところがあります。ベンチャーキャピタルが持っている株式は、流通株式に入るのか、入らないのか。ここが11ポイント動けば、流通株式比率の基準を満たすかどうかが変わってしまいます。
取引所の定義ページを読んでも、ベンチャーキャピタルという言葉は出てきません。定義は保有者の属性で書かれているため、自社の株主がどの区分に当たるのかを自分で当てはめる必要があります。この記事では、有価証券上場規程施行規則8条の条文にそって、どこで結論が分かれるのかを整理します。
- 流通株式から除かれる4つの区分
- 10%以上か未満かで最初に分かれること
- 10%未満のとき、保有の器が組合か法人かで結論が変わること
- 金融商品取引業者に当たるかどうかが効いてくる場面
- 同じ持株比率でも流通株式比率が11ポイント動く数値例
- 上場前に踏んでおく確認の順番
この記事の見出し
📌 結論 保有比率と保有の器の2つで決まる
先に結論を述べます。ベンチャーキャピタルの持株が流通株式から除かれるかどうかは、次の2点で決まります。第一に、そのVCが上場株式数の10%以上を持っているかどうか。第二に、10%未満の場合、保有している器が法人格を持つ法人なのか、投資事業有限責任組合のような法人格を持たない団体なのか。
10%以上を持っていれば、器が何であれ流通株式から除かれます。10%未満の場合は器で分かれます。組合であれば含まれる方向に、法人であれば金融商品取引業者に当たるかどうかでさらに分かれます。
10%以上かどうかで最初に分かれ、10%未満のときは保有の器が何かで結論が変わります。
📄 流通株式から除かれるものの全体像
有価証券上場規程2条は流通株式を定義し、そこから除かれる者や有価証券を施行規則で定めるとしています。これを受けた施行規則8条1項が、次の4つの号で除外の範囲を示しています。
2022年の市場区分の見直しで4号が加わり、事業法人等が持つ株式が流通株式から外れるようになりました。
2号の「者又は組合等」という書き方
注目したいのは2号です。10%以上を所有する者に加えて、組合等が明示的に並べられています。つまり、投資事業有限責任組合が10%以上を持っている場合は、法人格の有無にかかわらず流通株式から除かれます。ここで組合だから対象外という整理はできません。
なお同条2項には、2号に該当する者が所有する有価証券であっても流通株式に含まれるものの定めがあります。投資信託や年金信託に組み入れられた有価証券、投資法人等の保管業務に関連する有価証券、証券金融会社や金融商品取引業者の信用取引に係る有価証券、預託証券に係る預託機関名義の有価証券などです。純投資として保有されているものを救うための規定という位置づけです。
4号は2022年の市場区分の見直しで加わった
4号は、国内に本店を有する銀行(信託銀行を除く)、生命保険会社及び損害保険会社、そしてこれら以外の法人を挙げています。最後のcは、信託銀行・金融商品取引業者・政府関係金融機関・協同組織金融機関・証券金融会社を除いた法人、という書き方になっています。いわゆる政策保有にあたる株式を流通株式から外すための規定です。
市場区分の考え方そのものについては東証プライム・スタンダード・グロースの違いは?市場区分の選び方で整理しています。
🏢 10%未満のとき、法人格があるかどうかが効く
ここが実務でいちばん見落とされるところです。東証が公表している株券等の分布状況表の作成要領は、4号cの事業法人等について、株式会社だけでなくその他の会社や財団法人、宗教法人等を含むとしたうえで、法人格を有する団体に限られると説明しています。法人格を有しない団体は対象になりません。
投資事業有限責任組合は法人格を持ちません。したがって、10%未満の保有であれば、4号cの事業法人等には当たらないことになります。同じVCでも、株式会社の形で持っているのか、組合の形で持っているのかで結論が変わるということです。
東証の分布状況表の作成要領は、事業法人等について法人格を有する団体に限られると説明しています。最終的な判定は東証が行います。
株式会社形態のVCは、金融商品取引業者かどうかで分かれる
株式会社の形をとっているVCの場合は、4号cの括弧書きが効いてきます。信託銀行・金融商品取引業者・政府関係金融機関・協同組織金融機関・証券金融会社は、この号から除かれているためです。投資運用業や第二種金融商品取引業の登録を受けているVCであれば、金融商品取引業者に当たる余地があります。
一方、事業会社が設立したコーポレートベンチャーキャピタルで、金融商品取引業者の登録を受けていない株式会社であれば、4号cの事業法人等として流通株式から除かれる方向になります。事業会社本体が直接持っている場合も同じです。
上記は条文と東証の公表資料からの整理です。個別の判定は東証が行うため、実際の適用は必ず主幹事証券を通じて確認してください。
📊 同じ持株比率でも、流通株式比率は11ポイント動く
どれだけ効くのかを、架空の数値で見てみます。株主構成はまったく同じで、VC乙とVC丙の保有の器だけが違うケースを比べます。
VC乙と丙の合計11%が入るか外れるかで、流通株式比率が11ポイント動きます。すべて説明のための架空の数値です。
ケースAは、VC乙とVC丙が投資事業有限責任組合で保有している場合です。どちらも10%未満で法人格がないため、4号cには当たりません。流通株式比率は48.0%になります。
ケースBは、同じ持分を株式会社のコーポレートベンチャーキャピタルが保有している場合です。金融商品取引業者に当たらなければ4号cの事業法人等として除かれ、流通株式比率は37.0%まで下がります。
11ポイントの差は、公募・売出しの規模に直結します。基準に届かせるために追加で放出しなければならない株式が増えれば、既存株主の持分の希薄化も大きくなります。株主構成を固める段階で見ておくべき論点だということが分かると思います。流通株式そのものの定義と計算方法はIPOにおける流通株式とは?流通株式数・流通株式時価総額・流通株式比率の定義と計算方法で扱っています。
株主名簿と、各株主の保有の器(株式会社か組合か、金融商品取引業者の登録があるか)をお送りいただければ、施行規則8条にあてはめて流通株式比率を試算し、基準に届かない場合に何をどれだけ動かす必要があるかまでお返しします。上場前の資本政策とあわせてご相談ください。初回のご相談は無料です。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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⚖️ 上場前にやること
判定は東証が行うため、自社の整理をそのまま前提にせず、必ず事前に確認をとってください。
株主名簿だけでは足りない
判定に必要なのは、保有割合だけではありません。その株主が株式会社なのか組合なのか、法人であれば金融商品取引業者の登録があるかどうかまで確認する必要があります。株主名簿には名称しか載っていないので、投資契約の相手方や登記簿、金融庁の登録業者一覧などで裏を取ることになります。
10%以上の判定についても注意が必要です。同一のVCが複数のファンドで分けて持っている場合、それぞれの組合ごとに見るのか合算するのかで結論が変わり得ます。ここは形式的に処理せず、事前に確認しておいてください。
届かない場合の調整は時間がかかる
流通株式比率が基準に届かないと分かった場合、調整の手段は限られます。公募や売出しの規模を増やす、既存株主に売出しに応じてもらう、といった対応が中心になりますが、いずれも相手のあることです。申請直前に気づくと日程に響くため、N-2期のうちに一度試算しておくことをおすすめします。
形式要件全体の中での位置づけはIPOの形式要件とはを、株主数の要件についてはIPOにおける株主数の要件とはをあわせてご確認ください。
💡 投資契約を結ぶ段階で考えておけること
ここまでの整理を逆から読むと、資本政策の設計で先に手を打てることが見えてきます。上場の直前になってから器を変えることはできませんが、資金調達のラウンドを設計する段階であれば選択の余地があります。
1社あたりの持分を10%未満に抑えるかどうか
10%以上を持つ株主は、器にかかわらず流通株式から除かれます。リードインベスターに大きく持ってもらうか、複数のVCに分散して入ってもらうかは、上場時の流通株式比率に直結します。もちろん、資金調達の確実性やハンズオン支援の厚みとのトレードオフなので、比率だけで決める話ではありません。ただ、比率の影響を知らずに決めてしまうのは避けたいところです。
誰が保有主体になるかを契約で確認しておく
同じVCから出資を受ける場合でも、ファンド(投資事業有限責任組合)が保有するのか、運営会社である株式会社が保有するのかで扱いが変わり得ます。投資契約の締結時に、実際の株主として株主名簿に載るのが誰なのかを確認し、記録に残しておいてください。上場準備が始まってから遡って調べると、当時の担当者が退職していて確認に時間がかかることがあります。
事業会社からの出資は別枠で見る
事業提携を伴う事業会社からの出資は、金額が小さくても4号cの事業法人等として流通株式から除かれる方向になります。提携の意義とは別の話として、上場時の比率にどう効くかを試算に織り込んでおいてください。持分が積み上がってくると、思ったより影響が大きくなります。
🧾 株券等の分布状況表で何を確認されるか
流通株式の判定は、株券等の分布状況表という書類を通じて行われます。上場申請の際に提出するもので、株主の区分ごとに株式数を集計する形式になっています。
ここで求められるのは、株主の名称と株式数だけではありません。それぞれの株主がどの区分に当たるのかを、こちらで判断して振り分ける必要があります。振り分けを誤ると流通株式数が変わるため、根拠を確認したうえで記入することになります。
| 確認すること | どこで確認するか |
|---|---|
| 保有割合が10%以上か | 株主名簿。複数の組合に分かれている場合の扱いは要確認 |
| 法人格の有無 | 投資契約書、登記事項証明書。組合であれば組合契約書 |
| 金融商品取引業者に当たるか | 金融庁が公表する金融商品取引業者等の登録一覧 |
| 役員やその親族に当たるか | 株主名簿と役員名簿の突合。二親等内の血族まで見る |
| 関係会社に当たるか | 連結の範囲。関係会社の役員も対象になる |
3号は役員本人だけでなく、その配偶者と二親等内の血族、さらにこれらの者が議決権の過半数を持つ会社等まで及びます。創業者の家族が別会社を通じて持っているようなケースは、見落とすと後で数字が動きます。株主名簿と役員名簿を突き合わせる作業は、早い段階で一度やっておいてください。
🗓 ロックアップとは別の話
混同されやすいのがロックアップです。ロックアップは、上場後の一定期間、既存株主が株式を売却しないことを主幹事証券との間で約束するもので、需給の安定を目的としています。流通株式の判定とは目的も根拠も違います。
ロックアップの対象になっている株式であっても、施行規則8条1項のどの号にも当たらなければ流通株式に含まれます。逆に、ロックアップがかかっていなくても、10%以上を持つVCの株式は流通株式から除かれます。両者を混ぜて考えると試算を誤るので、別々に整理してください。
❓ よくある質問
A. 保有の器によります。投資事業有限責任組合のように法人格を持たない団体であれば、施行規則8条1項4号cの事業法人等には当たりません。株式会社の形で保有していて金融商品取引業者に当たらない場合は、4号cにより除かれる方向になります。
A. 含まれません。2号は「10%以上を所有する者又は組合等」と書かれており、組合も対象に含まれます。
A. 株式会社の形で、金融商品取引業者の登録を受けていないのであれば、4号cの事業法人等として流通株式から除かれる方向になります。10%以上であれば2号でも除かれます。
A. 組合ごとに別の所有者と見るのか合算するのかで結論が変わり得ます。形式的に処理せず、分布状況表の作成段階で主幹事証券を通じて東証に確認してください。
A. 外れません。ロックアップは主幹事証券との合意にもとづく売却制限で、流通株式の判定とは別の話です。
A. 最終的な判定は東証が行います。株券等の分布状況表を作成して提出し、主幹事証券を通じて確認をとる流れになります。自社の整理を前提に資本政策を固めてしまうと、後で組み直しになることがあります。
📄 まとめ
ベンチャーキャピタルの持株が流通株式から除かれるかどうかは、保有比率と保有の器の2つで決まります。10%以上であれば施行規則8条1項2号により、組合であっても除かれます。10%未満の場合は、投資事業有限責任組合のように法人格を持たない団体であれば4号cの事業法人等に当たらず、株式会社の形であれば金融商品取引業者に当たるかどうかで分かれます。
同じ持株比率でも、器の違いだけで流通株式比率が10ポイント以上動くことがあります。基準に届かない場合の調整は相手のある話なので、申請直前ではなくN-2期のうちに試算しておいてください。
そして、最終的な判定を行うのは東証です。条文の当てはめは自社でできますが、それを前提に資本政策を固めてしまう前に、分布状況表の作成を通じて確認をとることをおすすめします。
📚 参考(公的な一次情報)
- 東京証券取引所「有価証券上場規程」2条(流通株式の定義)
- 東京証券取引所「有価証券上場規程施行規則」8条
- 東京証券取引所「株券等の分布状況表等の作成要領」
株主名簿と各株主の保有の器をお送りいただければ、施行規則8条にあてはめて流通株式比率を試算し、基準に届かない場合の調整案までお返しします。次のラウンドの設計に反映できる段階でご相談いただくのが、いちばん効きます。
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