暫定的な会計処理の確定|PPAが1年で終わらなかったときの手順

買収をした年度の決算で、取得原価の配分がどうしても間に合わないことがあります。無形資産の評価が終わらない、繰延税金の検討が残っている、といった理由です。

このとき使うのが暫定的な会計処理です。ただし、暫定という言葉から受ける印象ほど自由ではありません。対象にできる項目も、確定したときの処理のしかたも、決められています。

この記事では、1年以内という期限、翌年度に確定した場合のさかのぼり方、注記、そして無形資産の識別までを、基準と適用指針の原文にあたって整理します。

この記事でわかること

  • 取得原価の配分が企業結合日以後1年以内であること
  • 暫定的な会計処理の根拠が第28項の(注6)であること
  • 翌年度に確定した場合、企業結合年度にさかのぼって反映させること
  • 暫定処理にできる項目が限られていること
  • 無形資産を識別する二つの入口と、注記の定め
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暫定的な会計処理 確定までの進行シート

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記入式・暫定にする項目の切り分けと確定見込み時期
無形資産の識別の二つの入口と、第58項が例示する権利
外部の評価を使うときに会社として確かめる6項目
翌年度の確定の5ステップ、差額の集計表、第49-2項の注記

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📌 配分の期限は1年

企業結合会計基準第28項は、取得原価は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なものの企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して企業結合日以後1年以内に配分する、と定めています。

ここで注意したいのは、1年の起算点が決算日ではなく企業結合日であることです。期の途中で買収をすれば、最初の決算まで数か月しかないこともあります。そのときに使うのが暫定的な会計処理です。

取得原価の配分には期限がある企業結合日1年決算日配分が終わっていれば確定した金額で計上する終わっていなければ暫定的な会計処理を行う企業結合会計基準第28項 企業結合日以後1年以内に配分する

図 1年は企業結合日から数えます。最初の決算までに配分が終わらなければ、暫定的な会計処理を行うことになります。

📌 暫定的な会計処理は、第28項の(注6)にある

暫定的な会計処理の根拠は、独立した項ではなく、第28項に付された(注6)です。条文を引くときに間違えやすいところなので、先に書いておきます。

(注6)は、企業結合日以後の決算において配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させる、と定めています。何も情報がないまま置いておくのではなく、その時点で分かっている範囲で最善の数字を置く、という趣旨です。

配分が終わらなかったときの手順企業結合年度の決算その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行うその後、追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させる企業結合会計基準第28項(注6)

図 暫定的な会計処理は、情報がないまま放置することではありません。その時点で入手できる合理的な情報にもとづいて置く数字です。

📌 翌年度に確定したら、さかのぼる

(注6)の後半が実務の要点です。暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行う、とされています。そして、翌年度の連結財務諸表および個別財務諸表と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときには、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させる、と続きます。

つまり、確定した年度で一気に差額を処理するのではなく、買収した年度の数字を組み替えることになります。比較情報として並ぶ前期の数字が動く、ということです。

確定が翌年度になった場合企業結合年度翌年度暫定的な会計処理で決算を締めた配分額が確定したさかのぼって反映させる企業結合年度に確定が行われたかのように会計処理を行う翌年度の財務諸表と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときは企業結合年度の財務諸表に、配分額の見直しを反映させる

図 確定したのは翌年度でも、会計処理は企業結合年度にさかのぼります。比較情報として表示する前期の数字が変わります。

配分額を見直すと、のれんも動きます。適用指針第10号第70項は、暫定的な会計処理の確定により取得原価の配分額を見直した場合には、企業結合日におけるのれん、または負ののれんの額も取得原価が再配分されたものとして会計処理を行う、と定めています。

配分額を見直すと、のれんが動く暫定的な会計処理確定後識別可能資産及び負債のれん識別可能資産及び負債のれん配分額を見直す取得原価の総額は変わらない。内訳の入れ替えとしてのれんが増減する

図 取得原価の総額は変わりません。識別可能資産に配分された金額が増えれば、その分だけのれんが減ります。

📌 暫定処理にできる項目は限られている

何でも暫定にしてよいわけではありません。適用指針第10号第69項は、暫定的な会計処理の対象となる項目は、繰延税金資産及び繰延税金負債のほか、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られる、と定めています。

暫定的な会計処理にできる項目は限られている繰延税金資産繰延税金負債土地無形資産偶発債務に係る引当金など実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られる適用指針第10号 第69項

図 評価に外部の専門家や時間を要する項目が並びます。通常の棚卸資産や売掛金を暫定にする、という使い方は想定されていません。

論点 根拠 内容
配分の期限 企業結合会計基準 第28項 企業結合日以後1年以内に配分する
暫定的な会計処理 企業結合会計基準 第28項(注6) 入手可能な合理的な情報等に基づき暫定処理し、その後確定させる
翌年度の確定 企業結合会計基準 第28項(注6) 企業結合年度に確定が行われたかのように会計処理する
対象項目 適用指針第10号 第69項 繰延税金資産・負債、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など
のれんの再計算 適用指針第10号 第70項 のれんの額も取得原価が再配分されたものとして処理する
注記 企業結合会計基準 第49-2項 重要な見直しがなされた場合に、内容及び金額を注記する

表 暫定的な会計処理に関する主な定め。

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📌 無形資産をどこまで切り出すか

暫定処理になりやすい項目のうち、いちばん手間がかかるのが無形資産です。企業結合会計基準第29項は、受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う、と定めています。

適用指針第10号第58項は、法律上の権利とは、特定の法律に基づく知的財産権等の権利をいう、としています。第59項は、分離して譲渡可能な無形資産とは、受け入れた資産を譲渡する意思が取得企業にあるか否かにかかわらず、企業又は事業と独立して売買可能なものをいい、そのためには、当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければならない、と定めています。

どの無形資産を切り出すか受け入れた資産に含まれる法律上の権利特定の法律に基づく知的財産権等分離して譲渡可能企業又は事業と独立して売買可能識別可能なものとして取り扱う分離して譲渡可能というためには、独立した価格を合理的に算定できなければならない

図 法律上の権利であるか、分離して譲渡可能であるか。どちらかに当てはまれば、識別可能な無形資産として切り出します。

法律上の権利として挙げられているもの産業財産権特許権実用新案権商標権意匠権著作権半導体集積回路配置商号営業上の機密事項植物の新品種適用指針第10号 第58項 これ以外の無形資産は、分離して譲渡可能かどうかで判断する

図 第58項が挙げているのは、産業財産権、著作権、半導体集積回路配置、商号、営業上の機密事項、植物の新品種です。

評価を外部の専門家に依頼した場合、その専門家は監査の側からは経営者の利用する専門家として扱われます。監査基準報告書500第4項(6)がその定義を置き、第7項が、適性、能力及び客観性の評価、業務の理解、監査証拠としての適切性の評価という手続を求めています。無形資産の評価は会計上の見積りでもあるため、監査基準報告書540の対象にもなります。

実務上は、評価会社に依頼すれば終わりではありません。前提条件や割引率を会社として理解し、説明できる状態にしておく必要があります。監査人が確かめるのは、専門家の報告書の存在ではなく、それを使った会社の判断だからです。

📌 確定したら注記する

注記の定めは第49項ではなく第49-2項です。企業結合年度の翌年度において、暫定的な会計処理の確定に伴い、取得原価の当初配分額に重要な見直しがなされた場合には、当該見直しがなされた事業年度において、その見直しの内容及び金額を注記する、とされています。

条件は重要な見直しであることです。金額が動いても重要性がなければ注記は求められません。逆に、重要であれば、見直しの内容と金額の両方を書くことになります。

注記はいつ、何を書くか企業結合年度の翌年度暫定的な会計処理の確定に伴い取得原価の当初配分額に重要な見直しがなされた見直しの内容見直しの金額企業結合会計基準 第49-2項

図 注記するのは翌年度です。書くのは見直しの内容と金額の二つで、条件は重要な見直しがなされたことです。

📌 IFRSとほとんど同じ枠組み

IFRS第3号も、測定期間は取得日から1年を超えないと定めています。測定期間中の調整は取得日に会計処理が完了していたかのように認識し、必要に応じて比較情報を修正します。暫定金額の増減はのれんの減増で処理する点も同じです。

違いがはっきりしているのは、測定期間が終わったあとの扱いです。IFRS第3号は、測定期間終了後は国際会計基準第8号に従った誤謬の訂正としてのみ修正する、と明記しています。日本基準に同じ趣旨の明文があるかは、今回は確認できませんでした。

日本基準IFRS第3号配分の期限企業結合日以後1年以内測定期間取得日から1年を超えない確定の反映企業結合年度に確定が行われたかのように処理測定期間中の調整取得日に完了していたかのように認識比較情報企業結合年度の財務諸表に見直しを反映させる比較情報必要に応じて修正する測定期間の終了後誤謬の訂正としてのみ修正する

図 期限も、さかのぼって反映させる考え方も、ほぼ同じです。IFRSを適用している会社でも、実務の段取りは大きく変わりません。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 1年は決算日から数えるのですか

A. 企業結合日から数えます。企業結合会計基準第28項は、企業結合日以後1年以内に配分すると定めています。期中に買収した場合、最初の決算までの期間は1年より短くなります。

Q. 確定が翌年度になった場合、差額はその年度の損益になりますか

A. なりません。企業結合年度に確定が行われたかのように会計処理を行います。翌年度の財務諸表と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときには、企業結合年度の財務諸表に見直しを反映させます。

Q. 暫定的な会計処理にできる項目に決まりはありますか

A. あります。適用指針第10号第69項が、繰延税金資産及び繰延税金負債のほか、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られる、と定めています。

Q. のれんの金額は動きますか

A. 動きます。適用指針第10号第70項により、配分額を見直した場合には企業結合日におけるのれんの額も取得原価が再配分されたものとして会計処理します。取得原価の総額は変わらないので、識別可能資産が増えた分だけのれんが減ります。

Q. 注記はどの年度に書きますか

A. 見直しがなされた事業年度、つまり企業結合年度の翌年度です。企業結合会計基準第49-2項が、重要な見直しがなされた場合に、その内容及び金額を注記すると定めています。

📄 まとめ

取得原価の配分は企業結合日以後1年以内に行います。決算までに終わらない場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づいて暫定的な会計処理を行い、あとから確定させます。根拠は第28項と、その(注6)です。

確定が翌年度になった場合、会計処理は企業結合年度にさかのぼります。比較情報として表示する企業結合年度の財務諸表に、配分額の見直しを反映させることになります。のれんの額も同時に組み替わります。

暫定処理の対象は、繰延税金資産・負債、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、配分額の算定が困難な項目に限られます。無形資産は、法律上の権利か、分離して譲渡可能かのどちらかに当たれば識別可能なものとして切り出します。

注記は翌年度に、重要な見直しがなされた場合に、その内容と金額を書きます。IFRS第3号も測定期間は1年で、考え方はほぼ同じです。買収の翌年度に前期の数字が動く、という点を関係者に先に伝えておくと、決算の場面で慌てずに済みます。

⚖ 本記事の根拠

参照した資料

  • 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」 第28項・第28項(注6)・第29項・第49-2項
  • 企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」 第58項・第59項・第69項・第70項
  • 監査基準報告書500「監査証拠」 第4項(6)・第7項(2011年12月22日公表、2023年1月12日最終改正)
  • 監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」(2011年12月22日公表、2024年9月26日最終改正)
  • IFRS第3号 第45項から第50項(測定期間)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の会計処理および税務上の判断は、監査人および顧問税理士にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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