企業会計基準委員会が2026年9月3日の第583回委員会で、のれんの会計処理を新規テーマとすることを決めました。
ここで誤解が起きやすいので先に書きます。決まったのは、のれんの償却をやめることではありません。むしろ逆で、償却する枠組みは変えないという結論が先に出たうえで、別の二つの論点が新規テーマになりました。
この記事では、提案されたことと提言されたことがどう違うのか、いまの基準が何を決めていて何を決めていないのか、そして経理が手前でやっておけることを整理します。
- ASBJが新規テーマとしたのは、のれんの非償却ではないこと
- 提言された二つの論点が、償却期間の考え方とのれん償却前営業利益であること
- いまの基準が償却期間の決め方を定めていないこと
- IFRSが償却に戻る見込みは示されていないこと
- 基準が動く前に、経理が整理しておけること

のれんの償却期間 根拠の棚卸しシート
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この記事の見出し
📌 決まったのは、のれんを新規テーマにすること
ASBJは2026年9月3日の第583回企業会計基準委員会で、企業会計基準諮問会議からのテーマ提言を尊重し、提言の内容に沿って新規テーマとすること、そして本テーマは当委員会において対応することを決定しました。議事概要にそのまま書かれています。
ここに至るまでには1年以上の審議がありました。出発点は2025年7月11日の第54回企業会計基準諮問会議です。そこから諮問会議は3回の審議を重ね、その間にASBJが全9回の公聴会を開いています。公聴会の事務局資料も説明者資料も議事録も、すべて財務会計基準機構のサイトで公開されています。
図 提案から新規テーマの決定まで1年2か月かかっています。この間にASBJは9回の公聴会を開いており、審議の記録はすべて公開されています。
📌 提案されたのは非償却と計上区分の変更だった
2025年7月に諮問会議へ提出された提案は、次の二つでした。のれんの償却と併せて非償却も認める選択制を導入すること。そして、いま販売費及び一般管理費に計上しているのれんの償却費を、営業外費用または特別損失に移すこと。どちらも、のれんが営業利益を押し下げる構造そのものを変える提案です。
2026年7月27日の第57回諮問会議で、この二つはいずれも提言しないという結論になりました。財務会計基準機構の公表文では、のれんを一定の期間にわたって償却を行う基本的な会計処理の枠組みは変更しないこととし、非償却の導入と計上区分の変更をASBJに提言しないことについてコンセンサスが得られた、と書かれています。
図 提案された二つは、いずれも提言されませんでした。のれんを償却するという日本基準の枠組みは、当面そのまま残ります。
報道の見出しだけを追うと、のれんの償却が見直されるという話に見えます。実際に動いたのは、その手前で止まったうえでの別の論点です。
📌 提言されたのは、期間の考え方と償却前営業利益
ASBJが公表している今後の計画には、新規テーマの中身が二つ書かれています。ひとつは、企業結合会計基準第32項の実務上の課題について、会計基準における償却期間及び償却方法の考え方を明らかにすることにより対応が図られるかどうかを検討すること。もうひとつは、償却費を営業費用に計上する会計処理の下で、のれん償却前営業利益に関する情報提供のための見直しが会計基準の改善をもたらすかどうかを検討することです。
どちらも同じ構えで書かれています。まず検討し、対応が図られる、あるいは改善をもたらすと判断された場合に着手する。検討状況は、今後、検討を開始することを予定している、という段階です。基準の改正が決まったわけではありません。
図 二つの論点は、いずれも検討が先で着手が後という二段構えです。いま決まっているのは、検討を始めることまでです。
📌 いまの基準は、期間の決め方を書いていない
企業結合会計基準第32項は、のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却すると定めています。金額に重要性が乏しい場合は、発生した事業年度の費用として処理することもできます。
表示については第47項が、のれんは無形固定資産の区分に表示し、当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示すると定めています。適用指針第10号第76項は償却にあたっての留意事項を並べており、そのなかに、のれんの償却額は販売費及び一般管理費に計上することとし、減損処理以外の事由で特別損失に計上することはできない、という一文があります。
| どこに書かれているか | 何が決まっているか |
|---|---|
| 企業結合会計基準 第32項 | 20年以内、その効果の及ぶ期間、定額法その他の合理的な方法 |
| 企業結合会計基準 第47項 | 無形固定資産に表示、償却額は販売費及び一般管理費 |
| 適用指針第10号 第76項(1) | 償却の開始時期は企業結合日 |
| 適用指針第10号 第76項(2) | 企業結合日に全額を費用処理することはできない |
| 適用指針第10号 第76項(3) | 減損処理以外の事由で特別損失に計上することはできない |
| 適用指針第10号 第76項(6) | 償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに取得企業が決定する |
表 のれんの償却について、現行の基準と適用指針が定めている事項。期間の決め方そのものは定められていません。
図 決まっているのは上限と表示区分です。20年以内のどこに置くかを決める考え方は、基準にも適用指針にも書かれていません。
適用指針第76項(6)は、償却期間及び償却方法は企業結合ごとに取得企業が決定する、とだけ述べています。決めるのは会社であり、その決め方の物差しは示されていない。これが第32項の実務上の課題と呼ばれているものの正体です。今回の論点の一つめは、ちょうどこの空白を埋めにいく話になります。
図 同じ買収でも、償却期間を5年とした会社と15年とした会社では、毎期の営業利益が大きく変わります。決めるのは会社で、監査人はその合理性を確かめます。
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📌 IFRSが償却に戻る、という前提は置けない
日本基準がのれんを償却し、IFRSが償却しないという違いは、長く議論されてきました。ただ、IFRS側の現状を一次資料で確かめると、償却に戻る動きは見当たりません。
IASBは2022年11月24日に、のれんについて減損のみのアプローチを維持することを決定しています。2024年3月14日に公表された公開草案は、企業結合の開示を拡充する内容が中心で、結論の根拠では償却の再導入をこのプロジェクトの検討対象から外したことが述べられています。2026年時点でも再審議が続いており、最終基準の公表時期は示されていません。
図 日本基準は償却と減損の二階建て、IFRSは減損のみです。残高の減り方も、損失の出方も変わります。
図 IASBは2022年に減損のみのアプローチを維持すると決めています。日本基準がIFRSに合わせて償却をやめる、という前提は置けません。
📌 のれん償却前営業利益という指標
もうひとつの論点は、のれん償却前営業利益です。のれんの償却額を差し引く前の営業利益を、何らかのかたちで示せないかという話です。償却費を営業費用に計上する枠組みは維持したうえで、情報提供のしかたを見直せないかという問いになっています。
買収を重ねている会社ほど、営業利益にのれんの償却額が重く乗ります。事業から生まれた利益と、過去の買収の対価の配分とが、ひとつの数字のなかで混ざる。指標として切り分けたいという要望は、そこから出てきます。
図 のれん償却前営業利益は、販売費及び一般管理費からのれん償却額だけを取り出した位置にあります。いまの損益計算書には、この小計は置かれていません。
ただしASBJの資料で確認できるのは、公聴会や諮問会議で示された意見や選択肢までです。実際に何社がどのように開示しているかという実態のデータは、公的な資料では確認できませんでした。
📌 基準が動く前に、経理ができること
検討が始まる段階なので、いま何かを変える必要はありません。ただ、基準が動いたときに困らない準備はできます。
ひとつは、既存ののれんについて、償却期間を何年としたのか、その期間をどういう理由で決めたのかを書き出しておくことです。取得から年数が経つほど、当時の判断の根拠は探しにくくなります。
もうひとつは、買収のたびに、期間を決めた理由を稟議書や取締役会資料に残しておくことです。償却期間の考え方が基準側で示された場合、既存の判断をその物差しに当てて説明できるかどうかが問われます。
三つめは、のれん償却額を管理会計の側で切り出しておくことです。のれん償却前営業利益が論点になっている以上、社内の業績管理でその数字を持っていない状態は、いずれ不便になります。
図 いずれも、いまやっておけば手間の小さい作業です。基準が動いてから過去を掘り返すと、当時の根拠が残っていないことに気づきます。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. なくなりません。2026年7月27日の第57回企業会計基準諮問会議で、のれんを一定の期間にわたって償却する基本的な会計処理の枠組みは変更しないというコンセンサスが得られています。非償却の導入は、ASBJに提言されませんでした。
A. 今回については提言されていません。計上区分の変更も、非償却の導入と同じく提言の対象から外れています。適用指針第10号第76項(3)は、減損処理以外の事由でのれんの償却額を特別損失に計上することはできないと定めています。
A. 基準に決め方は書かれていません。企業結合会計基準第32項が20年以内のその効果の及ぶ期間と定め、適用指針第10号第76項(6)が、償却期間及び償却方法は企業結合ごとに取得企業が決定するとしているだけです。今回の論点の一つめは、この考え方を明らかにできるかどうかの検討です。
A. 時期は示されていません。ASBJの今後の計画では、検討状況は、今後、検討を開始することを予定している、という記載にとどまっています。二つの論点はいずれも、検討の結果によっては開発に進まない可能性があります。
A. 今回の論点は日本基準の話です。ただしIFRS側も動きがないわけではなく、IASBは2024年3月14日に企業結合の開示に関する公開草案を公表し、2026年時点も再審議を続けています。償却の再導入はそのプロジェクトの検討対象には含まれていません。
📄 まとめ
2026年9月3日にASBJが決めたのは、のれんの会計処理を新規テーマとすることでした。非償却の導入ではありません。その手前で、償却する枠組みは変更しないという結論が出ています。
新規テーマの中身は二つです。企業結合会計基準第32項の実務上の課題について償却期間及び償却方法の考え方を明らかにできるかどうか。そして、のれん償却前営業利益に関する情報提供の見直しが会計基準の改善をもたらすかどうか。どちらも、まず検討し、判断が肯定なら着手するという書き方になっています。
いまの基準は、20年以内という上限と、販売費及び一般管理費という表示区分は決めていますが、何年にするかの考え方は決めていません。決めるのは会社で、その根拠を説明できるかどうかが監査の場面で問われます。
検討が始まる段階なので、急いで動く必要はありません。ただ、既存ののれんの償却期間とその根拠を書き出しておくこと、買収のたびに理由を残すこと、のれん償却額を管理会計で切り出しておくことは、いま手をつけておくと後が楽になります。
⚖ 本記事の根拠
- 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」 第32項・第47項
- 企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」 第76項
- 企業会計基準委員会 第583回企業会計基準委員会 議事概要(2026年9月3日)
- 企業会計基準委員会「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」(2026年9月4日)
- 財務会計基準機構「のれんの会計処理に関するテーマ提案への対応状況」 第57回企業会計基準諮問会議(2026年7月27日)
- 固定資産の減損に係る会計基準(企業会計審議会 2002年8月9日) 二 8
- IASB のれんと減損に関する決定(2022年11月24日)および公開草案(2024年3月14日)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の会計処理および税務上の判断は、監査人および顧問税理士にご確認ください。