IFRS導入のメリット・デメリット|導入企業が増え続ける理由

「IFRSを入れると何が良くなるのか、経営会議で説明できない」——IFRS導入の相談で最初に出てくるのは、たいていこの一言です。

導入の効果は「海外投資家に説明しやすくなる」といった抽象的な言葉で語られがちで、そのわりに負担のほうは、費用も工数も生々しく見えてしまいます。判断がつかないまま検討が止まってしまうのは、無理もありません。

本記事は全30回連載の第3回です。IFRS導入のメリットとデメリットを実務目線で分解し、自社が導入を検討すべきかを見極める判断軸まで整理します。

この記事でわかること

  • IFRS適用会社が増え続けている実態を、東証の最新統計で確認できる
  • IFRS導入の5つのメリットを、経営・実務それぞれの効果に分けて理解できる
  • 導入コスト・開示量の増加・毎期の維持負担というデメリットの中身がわかる
  • 負担が前倒しで発生し、効果が後から出るという時間差の構造を把握できる
  • 自社がIFRS導入の検討に着手すべきかを、3つの質問で判定できる

📊 IFRS導入企業が増え続けている|まず数字で確認する

適用会社等は318社、東証の時価総額の51.2%を占める

東京証券取引所が2026年7月31日に公表した「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2026年3月決算会社まで)によれば、IFRS適用済会社が297社、適用決定会社が20社、適用予定会社が1社で、合計318社となりました。前年比で18社の増加です。加えて、適用を検討している会社が81社あります。

注目したいのは、社数よりも時価総額のほうです。2026年6月末時点で、この318社の時価総額の合計は708兆円。東証上場会社全体の時価総額1,384兆円に対して51.2%と、半分を超えました。プライム市場に限れば、適用会社等250社が同市場の時価総額1,343兆円の52.6%を占めます。

出典:日本取引所グループ「『会計基準の選択に関する基本的な考え方』の開示内容の分析について≪2026年3月決算会社まで≫」(2026年7月31日公表)。

世界では140を超える法域で使われている

IFRS財団は、IFRS会計基準の適用状況について170の法域のプロファイルを公表しており、140を超える法域で国内上場企業にIFRSの使用が求められているとしています(IFRS財団ウェブサイト)。日本では任意適用にとどまりますが、資本市場の側から見れば、IFRSはすでに「多数派の言語」です。

制度の枠組みそのもの(任意適用の要件や手続き)は、第2回「IFRS任意適用とは?適用要件・手続きと適用企業数の最新動向」で詳しく解説しています。

⚖️ IFRS導入の5つのメリット

① 海外の投資家・取引先との「共通言語」になる

海外機関投資家との面談で、日本基準特有の項目を毎回説明し直している——という声は珍しくありません。IFRSで開示していれば、その説明コストが下がります。海外の同業他社と同じ土俵で比較してもらえるようになる、という言い方のほうが実感に近いかもしれません。

② グループの経営管理を統一できる

金融庁が2015年4月15日に公表した「IFRS適用レポート」では、IFRSへの移行の目的として「経営管理の高度化」「比較可能性の向上」「投資家への説明の容易さ」が多く挙げられ、それらの目的が移行によって実際に実現してきていることが認められた、とされています。

海外子会社が現地基準や現地でのIFRSで帳簿を作り、日本の親会社が日本基準で連結する——という体制では、子会社から上がってくる数字と管理会計の数字がずれます。グループの会計方針をIFRSで統一すると、この二重管理が解消される方向に働きます。

③ のれんが非償却になり、利益の見え方が変わる

日本基準では、のれんは企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」に基づき、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却します。M&Aを重ねるほど償却費が積み上がり、利益を押し下げる構造です。

IFRSでは、IFRS第3号「企業結合」で取得したのれんを規則的に償却せず、IAS第36号「資産の減損」に基づいて毎期減損テストを行います。償却費がなくなるぶん利益は出やすくなりますが、そのかわり、減損が必要になったときに一度に大きな損失が計上されるリスクを抱えることになります。メリットとして語られやすい論点ですが、実際は「利益の出方が変わる」だけで、リスクは移動しているという理解が正確です。

④ 海外M&A・海外での資金調達がしやすくなる

海外企業を買収する場面では、相手方や現地アドバイザーがIFRSまたは米国基準を前提に議論します。自社がIFRSであれば、デューデリジェンスや買収後の連結取り込みで基準を読み替える手間が減ります。海外での社債発行やグローバルオファリングでも同様です。

⑤ 実態に合わせた表示ができる場面がある

たとえば研究開発費は、日本基準では「研究開発費等に係る会計基準」(企業会計審議会)により、すべて発生時に費用として処理しなければなりません。これに対しIFRSでは、IAS第38号「無形資産」の要件を満たす開発局面の支出は資産として計上します。研究開発投資の大きい企業では、投資と収益の対応関係が財務諸表に表れやすくなります。ただしこれは「有利になる」という話ではなく、要件を満たすかどうかの判断と、開発局面の証跡(プロジェクト管理資料や工数記録)の整備が新たに必要になる、という点も併せて押さえてください。

IFRS導入で「得られるもの」と「負担するもの」得られるもの(メリット)・海外投資家・子会社との共通言語・グループ経営管理の統一と高度化・のれん非償却による利益表示の変化・海外M&A・海外調達での説明力・開発費など実態に合わせた表示負担するもの(デメリット)・導入プロジェクトの費用と工数・注記・開示のボリューム増加・毎期の維持負担(減損テスト等)・単体・税務は日本基準のまま併存・基準改正へのキャッチアップ判断の軸は「どちらが重いか」ではなく、「自社の資本政策・グループ戦略にIFRSが必要か」

図1:IFRS導入のメリットとデメリットの全体像

💰 IFRS導入の4つのデメリット

① 導入プロジェクトの費用と工数

差異分析、会計方針の決定、過年度分の数値の作り直し、注記の新規作成、監査人との協議——これらを通常の決算業務と並行して進めます。外部アドバイザーの報酬、監査報酬の増加、システム対応、そして何より経理部門の工数が負担の中心です。

なお、金融庁の前掲「IFRS適用レポート」では、移行コストについて、システム対応のやり方によって少額で対応できている例が挙げられています。かけ方次第で幅が出る領域だ、ということです。費用の内訳と抑え方は第6回で詳しく扱います。

② 注記・開示のボリュームが増える

IFRSは注記による説明を重視する体系で、日本基準にはない注記が加わるうえ、日本基準にもある注記の記載事項が広がります。使用権資産・リース負債の内訳、資本管理、見積りの不確実性の発生要因、初度適用の調整表などは初年度に新しく作る注記です。セグメント情報や金融商品・公正価値は日本基準にも注記がありますが、求められる粒度と項目が広がります。

さらに、2024年4月に公表されたIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が、2027年1月1日以後開始する年次報告期間から適用されます(早期適用可)。同基準はIAS第1号「財務諸表の表示」を置き換えるもので、損益計算書に「営業利益」と「財務及び法人所得税前利益」という2つの小計を表示することや、経営者が定義した業績指標(MPM)の開示が新たに求められます(IFRS財団)。これから導入する企業は、IFRS第18号への対応も織り込んでスケジュールを引く必要があります。

③ 毎期の維持負担が続く

導入は一度きりでも、運用は毎期続きます。のれん・無形資産の減損テスト、公正価値評価、リース期間の見直しといった作業が定例業務に加わります。基準改正のキャッチアップも必要で、社内に読める人材を維持し続けることが前提になります。

④ 単体・会社法・税務は日本基準のまま

任意適用でIFRSを適用するのは連結財務諸表です。個別(単体)財務諸表、会社法の計算書類、法人税の申告はこれまでどおり日本基準・税法に基づいて作成します。つまり、IFRSは日本基準に「置き換わる」のではなく「加わる」——グループの中に二つの物差しが併存することになります。決算スケジュールと担当者の分担を設計し直す必要があります。

負担は前倒しで発生し、効果は後から効いてくる検討・意思決定導入プロジェクト適用初年度適用2年目以降負担(費用・工数)効果(管理・説明力)※イメージ図。負担・効果の大きさは企業規模や子会社数により異なります。

図2:IFRS導入における負担と効果の時間差

🏢 日本基準を続ける場合とIFRSを適用する場合の比較

比較項目 日本基準を継続 IFRSを任意適用
適用範囲 連結・個別とも日本基準 連結はIFRS、個別・会社法・税務は日本基準
のれん 20年以内のその効果の及ぶ期間で規則的に償却(企業会計基準第21号) 非償却+毎期の減損テスト(IFRS第3号・IAS第36号)
研究開発費 すべて発生時に費用処理(研究開発費等に係る会計基準) 要件を満たす開発局面の支出は資産計上(IAS第38号)
注記・開示 現行の水準を維持 初年度に注記が大幅に増加。IFRS第18号への対応も必要
海外投資家への説明 日本基準特有の項目を都度説明 海外同業他社と同じ枠組みで比較してもらえる
導入時の負担 追加負担なし 差異分析・方針決定・数値作成・監査対応が一時的に集中

主要な基準差異の一覧と重要性の絞り込み方は、第9回「GAAP差異分析のやり方」で詳しく取り上げます。

IFRSを導入すべきかの判断から、公認会計士が伴走します

「導入すべきか」の入口では、自社の取引にどの差異が効くのかを見立てるだけで、議論の解像度が大きく変わります。影響度調査から導入判断のご支援まで対応します。

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🗒️ 自社は導入すべきか|3つの質問で判定する

判断軸は「メリットの総量」ではなく「目的との一致」

メリットとデメリットを並べて重さを比べようとすると、たいてい決着がつきません。IFRSは万能な改善策ではなく、目的が合致したときに効く道具だからです。次の3つの質問で、自社に当てはまるものがあるかを確認してください。

IFRS導入の検討に着手すべきかの判定フローQ1海外の投資家・金融機関・親会社への説明が経営課題になっている(海外株主比率の上昇、海外での資金調達、外資系親会社からの要請など)Q2海外子会社の比重が高く、グループの会計方針を統一したい(現地基準との二重管理が発生している、管理会計と連結の数値がずれる)Q3IPO・海外M&A・海外調達など、3〜5年以内の資本政策がある(上場後のグローバル展開を前提とした成長戦略を描いている)YESが1つ以上IFRS導入の検討に着手する価値が高いすべてNO当面は日本基準の継続が合理的着手する場合の第一歩は「影響度調査」——差異論点と工数を把握してから導入可否を決める

図3:IFRS導入の検討に着手すべきかの判定フロー

いきなり「導入するか」を決めない

YESが1つでもあったとしても、次に決めるべきは「導入するかどうか」ではありません。まずは影響度調査(フェーズ1)として、自社の取引にどの差異が効くのか、数値インパクトはどの程度か、必要な工数はどのくらいかを2〜3か月で把握します。そのうえで導入可否とスケジュールを判断する——これが失敗の少ない順序です。導入プロジェクトの全体像は第8回で解説します。

検討着手前に社内で確認しておきたいこと

  • IFRSを導入する目的を、経営として一文で言語化できているか
  • 海外売上高比率・海外子会社数・のれん残高など、影響が大きい要素を把握しているか
  • 監査人にIFRS対応の体制があるか、事前に打診できているか
  • 経理部門が導入期に割ける工数(人月)の目処が立っているか
  • 上場・M&Aなど、期限が決まっている資本政策との前後関係を整理できているか

🧾 よくある質問

Q. IFRSを導入すると利益は増えますか。

のれんの償却費がなくなるため、M&Aを重ねてきた企業では利益が増える方向に働くことが多くあります。ただし、有給休暇の未消化分の負債計上や収益認識の時期のずれなど、利益を減らす方向の差異も同時に生じます。開発費の資産計上は当期の費用計上額が減るぶん利益を増やす方向に働きますが、そのかわり資産計上後の償却費と減損リスクを抱えることになります。増えるか減るかは自社の取引構成次第で、影響度調査で試算しない限りわかりません。

Q. 一度IFRSを適用したら、日本基準に戻せますか。

連結財務諸表規則第1条の2は、要件を満たす会社がIFRSによることが「できる」と定める規定で、日本基準への変更を明文で禁じてはいません。ただし実務上は極めて例外的な対応で、投資家への説明、過年度数値の作り直し、監査対応のいずれも大きな負担になります。導入は「戻さない前提」で判断してください。

Q. 非上場でもIFRSを導入するメリットはありますか。

外資系企業の日本子会社が親会社への報告のためにIFRSベースの数値を作る、上場準備企業が上場申請を見据えて先行して整備する、といったケースがあります。ただし連結財務諸表規則に基づく任意適用は有価証券届出書・有価証券報告書の提出会社が対象のため、「制度上の任意適用」と「グループ報告用のIFRS対応」は分けて考える必要があります。

📄 まとめ

IFRS適用会社等は318社に達し、東証上場会社の時価総額の51.2%を占めるまでになりました(東証・2026年7月31日公表)。増え続けている背景には、海外投資家への説明力、グループ経営管理の統一、海外M&A・調達での使い勝手といった、経営戦略と結びついた理由があります。

一方で、導入プロジェクトの費用と工数、注記・開示の増加、毎期の維持負担、そして単体・税務が日本基準のまま併存することによる二重管理は、確実に発生する負担です。負担は前倒しで、効果は後から——この時間差を経営陣と共有できているかどうかが、プロジェクトの成否を分けます。

判断の軸は、メリットの総量ではなく自社の目的との一致です。海外への説明、グループ会計方針の統一、資本政策のいずれかに当てはまるなら、まずは影響度調査で自社への効き方を把握するところから始めてください。IFRSの全体像は第1回「IFRSとは?日本基準との違いと導入の全体像」、連載の全体構成はIFRS導入 完全ガイドにまとめています。

🌍 参考(公的情報)

監修者
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)
IPO支援・会計アドバイザリーを中心に、上場準備企業および上場企業の会計・開示実務を支援しています。

本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。記載の制度・統計は執筆時点(2026年8月)の公表情報に基づいています。

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