過年度の会計処理に誤りが見つかったとき、経理責任者の頭をよぎるのは「修正再表示をすれば済むのか、訂正報告書まで出すことになるのか」という問いだと思います。訂正報告書となれば、対象は何期分か、どの書類まで直すのか、監査報告書は出し直しになるのか——確認すべき論点が一気に増えます。
しかも判断に使える時間は多くありません。当期の決算スケジュールは止まらず、提出期限や上場廃止基準も並行して走ります。この記事では、現行制度を前提に、訂正報告書の提出範囲と実務の進め方を整理します。
- 訂正報告書の提出が必要になる2つのルート(自発的提出と提出命令)
- 現行制度で訂正の対象となる書類の範囲(四半期報告書は廃止済み)
- 何期分さかのぼって訂正するかを考えるときの手がかり
- 訂正後の財務諸表に対する監査と、監査報告書が改めて発行される仕組み
- 適時開示・提出期限・上場廃止基準を踏まえたスケジュールの組み方
📄 訂正報告書はどんなときに提出するのか
自発的提出と提出命令の2つのルート
有価証券報告書について訂正報告書を提出する根拠は、金融商品取引法第24条の2第1項です。同項は、有価証券届出書に関する第7条第1項(自発的提出)、第9条第1項(形式不備等による提出命令)、第10条第1項(虚偽記載等による提出命令)を、有価証券報告書及びその添付書類について準用しています(金商法24条の2第1項)。
このうち第7条第1項は、記載すべき重要な事項の変更等があるときの提出義務に加え、後段で「訂正を必要とするものがあると認めたとき」も同様とする、と定めています(金商法7条1項)。過年度の誤謬に伴う訂正は、実務ではこの自発的提出の枠組みで行われるのが通常です。
提出後の付随手続にも定めがあります。記載事項のうち重要なものについて訂正報告書を提出したときはその旨の公告が必要とされ(金商法24条の2第2項)、訂正報告書の写しを金融商品取引所等へ提出することとされています(同条3項による6条の準用)。
会計上の重要性と金商法上の重要性は別の概念
押さえておきたいのは、修正再表示をするかどうかの判断(会計上の重要性)と、訂正報告書を出すかどうかの判断(金商法上の重要性)が、理論的には別の物差しだという点です。前者は企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に基づく判断であり、後者は投資者保護の観点から金融商品取引法上独自に判断されます。
もっとも実務では、修正再表示を伴うほどの誤謬であれば投資判断に影響する重要な事項に当たると整理され、両者が連動して扱われることが多いと考えられます。修正再表示の要否そのものの判断軸は、本連載の「誤謬の重要性判断|修正再表示か当期の損益で処理かの分かれ目」で扱っています。
過去の誤謬が判明した場合に、訂正報告書の要否と対象書類を絞り込む流れ。各分岐の内容は本文で説明しています。
🗂️ 訂正の対象となる書類の範囲
四半期報告書は廃止され、法定開示は有価証券報告書と半期報告書に
訂正の対象書類を考えるうえで、まず前提の確認が必要です。2023年11月成立の金融商品取引法改正により四半期報告書は廃止され、2024年4月1日以後に開始する事業年度から、上場会社の法定開示は有価証券報告書と半期報告書に一本化されました。第1・第3四半期は、取引所規則に基づく四半期決算短信で開示されます。
半期報告書は、事業年度開始の日から6か月を経過したときに提出するもので、上場会社等の提出期限は当該期間の経過後45日以内とされています(金商法24条の5第1項)。この半期報告書及び臨時報告書の訂正報告書については、金商法24条の5第5項が第7条第1項・第9条第1項・第10条第1項を準用しています。
したがって、誤りのある数値が中間期の開示にも表れているのであれば、半期報告書も訂正の対象になります。四半期報告書を前提とした古い解説を参照する場合は、現行制度への読み替えが必要です。
確認書・内部統制報告書も連動して訂正する
財務数値を訂正すると、その適正性を確認した確認書の内容も影響を受けます。訂正確認書は金商法24条の4の3が定め、半期報告書に係る確認書については金商法24条の5の2第2項が同条を準用しています。
内部統制報告書についても、訂正内部統制報告書の規定が置かれています(金商法24条の4の5第1項)。誤謬の発覚により「開示すべき重要な不備」の有無の評価結果が変わると判断される場合には、その訂正も検討します。経理部門だけで判断せず、内部統制評価の担当部署と早い段階ですり合わせておくことをおすすめします。
| 書類 | 訂正の根拠条文 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|
| 有価証券報告書 及びその添付書類 |
金商法24条の2第1項(7条1項・9条1項・10条1項を準用) | 公告が必要(24条の2第2項)。写しを金融商品取引所等へ提出(同条3項)。 |
| 半期報告書 臨時報告書 |
金商法24条の5第5項(同上3か条を準用) | 中間期の数値に影響が及ぶ場合に対象となる。四半期報告書は廃止済み。 |
| 確認書 | 金商法24条の4の3(半期分は24条の5の2第2項) | 訂正報告書の提出に併せて訂正確認書の要否を確認する。 |
| 内部統制報告書 及びその添付書類 |
金商法24条の4の5第1項 | 開示すべき重要な不備の評価が変わる場合に訂正を検討する。 |
| 有価証券届出書 発行登録書類 |
金商法7条1項ほか | 募集・売出しが終了していても、流通市場への影響を踏まえて訂正の要否を検討する。 |
※条文は2026年8月時点の現行規定に基づいています。実際の適用にあたっては最新の条文をご確認ください。
📅 何期分さかのぼって訂正するか
手がかりになるのは公衆縦覧期間
訂正の対象期間について、「発覚から何年前まで」といった一律の定めは置かれていません。実務で手がかりとされるのが公衆縦覧期間です。金商法25条1項は縦覧書類ごとに期間を定めており、有価証券報告書及びその添付書類並びにこれらの訂正報告書は5年(同項3号)、半期報告書及びその訂正報告書も5年(同項6号)とされています。
縦覧期間中の書類は今も投資者が閲覧できる状態にあるため、そこに重要な誤りが残ることの意味は小さくありません。他方で、誤謬の影響が及ぶ範囲は事案によって異なるため、縦覧期間の全期間を機械的に訂正することが常に適切とは限らないと考えられます。年度ごとの影響額を並べたうえで、監査人および必要に応じて弁護士と協議しながら範囲を決める進め方が現実的です。
年度別の影響額を並べて範囲を判断する(数値例)
数値例で考えます。3月決算の上場会社で、売上計上時期の誤りがX5年3月期の中間期に発覚したとします。税引前利益への影響額を年度別に集計したところ、次の結果になりました。いずれの年度も公衆縦覧期間内です。
| 年度 | 税引前利益(訂正前) | 誤謬の影響額 | 影響割合 |
|---|---|---|---|
| X1年3月期 | 800百万円 | △40百万円 | 5.0% |
| X2年3月期 | 850百万円 | △30百万円 | 3.5% |
| X3年3月期 | 900百万円 | +10百万円 | 1.1% |
| X4年3月期 | 950百万円 | △60百万円 | 6.3% |
| 合計 | — | △120百万円 | — |
X3年3月期だけを取り出せば影響割合は1.1%にとどまりますが、この誤りは同一の原因から生じた一連のものであり、各年度の数値は相互につながっています。X3年3月期を訂正の対象から外せば、期間比較のできない財務諸表が残ります。この例ではX1年3月期からX4年3月期までを一体として訂正の対象にする判断が自然でしょう。金額の大小だけで年度を切り出さず、誤謬の発生原因が及ぶ範囲で区切るという発想が有用です。
- 誤謬の発生原因は、いつの時点から続いているか
- 各年度の財務諸表に、どの科目でいくらの影響が出るか
- 同じ原因による類似取引が、他の拠点・他の科目に存在しないか
- 訂正の結果、繰延税金資産・減損・継続企業の前提などの判断が変わらないか
- 各年度の書類が公衆縦覧期間内にあるか
- 会社法上の計算書類・税務申告への波及を誰がいつ検討するか
🔍 監査報告書は改めて発行される
訂正後の財務諸表も監査証明の対象
訂正報告書に含まれる訂正後の財務諸表は、監査証明の対象です。財務諸表等の監査証明に関する内閣府令は、金商法7条1項・9条1項・10条1項(24条の2第1項および24条の5第5項において準用する場合を含む)により提出される訂正報告書等による訂正後の書類を、監査証明を受けなければならない書類として掲げています(監査証明府令1条13号)。訂正報告書を提出する以上、監査報告書も改めて発行されることになります。
「訂正箇所だけの監査」にはならない
ここが経理部門にとって最も負荷の重いところです。日本公認会計士協会の監査基準報告書560実務指針第2号「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」は、訂正後の財務諸表に対する監査業務は新規の監査契約の締結であるとしたうえで(実務指針9項)、訂正箇所の検証のみならず訂正後の財務諸表全体に対する監査を実施しなければならないと定めています(実務指針10項)。監査調書も、訂正部分だけを追記するのではなく新たに作成することとされています(実務指針16項)。
適用する会計基準・監査の基準は、訂正前の財務諸表に適用されるものを用います(実務指針11項)。訂正後の財務諸表に対する監査報告書には、その冒頭に訂正後の財務諸表に対する監査である旨を明記し(実務指針14項)、強調事項区分又はその他の事項区分に、訂正理由を記載した注記又は訂正報告書の提出理由を参照する形で、以前に提出した監査報告書について記載することとされています(実務指針15項)。
監査法人から実際に問われること
監査の現場で必ず論点になるのが、訂正の「周辺」への波及です。実務指針は、訂正事項に類似する取引の有無を、発生した拠点・訂正事項の特徴・関与した者という観点から検討することを挙げています(実務指針A45項)。さらに、訂正により財務諸表数値が変わった結果として影響を受ける事項として、関係会社株式の評価、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性、連結の範囲、継続企業の前提に関する判断が例示されています(実務指針A47項)。
重要性の基準値も、算定基礎の数値が変わることを踏まえて見直しの要否を検討することとされています(実務指針A55項)。訂正で利益水準が下がれば基準値も下がり、これまで重要でないとして処理していた項目が論点として浮上する可能性があります。「直すのはこの取引だけです」という説明では監査は終わらない、という前提で準備しておくと、その後のやり取りが円滑になります。
なお、監査人の交代があった期間を含めて訂正する場合には、元監査人と現監査人のどちらが訂正後の財務諸表の監査を行うかという調整が生じます。実務指針は、法令上の定めはないものの実務上は元監査人又は現監査人が監査を実施することが多いとしています(実務指針A16項)。この調整には時間がかかるため、早めに着手することをおすすめします。
過年度の会計処理の見直し・修正再表示の要否判断から影響額の算定、注記案の作成、監査法人対応まで、公認会計士が伴走支援します。お問い合わせフォームからご相談ください。
⏰ 適時開示とスケジュールの組み方
決算発表資料の訂正と提出遅延の開示
金融商品取引法上の訂正報告書と並行して、取引所規則に基づく適時開示も進みます。東京証券取引所の有価証券上場規程では、決算の内容が定まった場合に直ちに開示することが義務付けられ(上場規程404条1項・2項)、開示した内容に変更又は訂正すべき事情が生じた場合には「決算発表資料の訂正」として開示することとされています(上場規程416条1項・2項)。
通期又は中間期の決算短信について、有価証券報告書又は半期報告書の提出前に訂正事情が生じた場合には、投資者の投資判断上重要な変更又は訂正である場合を除き、有価証券報告書又は半期報告書の提出後に遅滞なく開示することでも足りるものとされています(上場規程416条)。過年度分をまとめて訂正するときに、複数の決算短信の訂正資料を1つにまとめることも認められています。
調査に時間を要して法定期限内の提出が難しくなる場合には、その見込みが生じた時点で直ちに開示する義務があります(上場規程402条2号u)。この開示が行われると、監理銘柄(確認中)に指定されます。
提出期限と上場廃止基準から逆算する
スケジュールを考えるうえで動かせない外枠が、上場廃止基準です。有価証券報告書又は半期報告書を法定の提出期間経過後1か月以内に提出しなかった場合には上場廃止となります(上場規程601条1項7号、同施行規則601条7項)。提出期限延長に係る承認を得た場合は当該承認を得た提出期限の経過後8日目(休業日を除く)まで、天災地変等やむを得ない事由による場合は提出期限経過後3か月以内が期限とされています。
この外枠の中に、調査、影響額の確定、訂正後の財務諸表の作成、監査、当期の決算・監査をすべて収めることになります。実務指針も、訂正報告書は当年度の有価証券報告書等の提出前又は同時に提出することが想定されるとしています(実務指針A29項)。逆算すると、着手が1週間遅れることの重みは相当大きいと言えます。
発覚から訂正報告書の提出までの5つの段階。各段階の内容と根拠は本文で説明しています。
社内の役割分担も早期に決めます。経理部門は年度別・科目別の影響額集計表と訂正後の財務諸表を、開示担当は適時開示資料と訂正報告書の本体を、内部統制評価の担当は開示すべき重要な不備の評価の見直しを担います。調査委員会を設置する場合は、調査報告書の提出予定日が全体スケジュールの起点になるため、委員会の構成と調査範囲を早期に固めることが求められます。
❓ よくある質問
訂正報告書に含まれる訂正後の財務諸表は監査証明の対象とされているため(監査証明府令1条13号)、監査報告書も改めて発行されることになります。しかも訂正箇所だけを検証する監査ではなく、訂正後の財務諸表全体に対する監査が求められます(監基報560実務指針第2号10項)。監査報酬・監査工数とも通常の年度監査に近い規模になることを見込んで、早い段階で監査人と協議してください。
通期又は中間期の決算短信について、有価証券報告書又は半期報告書の提出前に訂正事情が生じた場合には、投資者の投資判断上重要な変更又は訂正である場合を除き、有価証券報告書又は半期報告書の提出後に遅滞なく開示することでも足りるものとされています(上場規程416条)。ただし投資判断に重要な影響を及ぼすと取引所が認める場合は直ちに開示が必要です。判断に迷う場合は、取引所の上場会社担当者に事前相談することが実務上一般的です。
上場前は有価証券報告書を提出していないため訂正報告書そのものは生じませんが、直前期・直前々期の財務諸表に誤謬が見つかった場合、監査法人による監査意見の再検討という点では同じ構造の対応が必要になります。上場申請書類の記載の修正、Ⅰの部・Ⅱの部への反映、審査対応まで波及するため、上場企業の訂正対応の手順を知っておくことは準備段階でも有用です。
🗺️ まとめ
訂正報告書の実務は、①どの書類を、②何期分、③どの手順で直すか、の3つに整理できます。①は有価証券報告書だけでなく半期報告書・確認書・内部統制報告書まで連動して検討します。②は公衆縦覧期間(原則5年)を手がかりに、誤謬の発生原因が及ぶ範囲で区切ります。③は訂正後の財務諸表全体が監査の対象になること、上場廃止基準という動かせない外枠があることを前提に逆算します。
次回は、会社法の計算書類に誤りがあった場合の対応として、定時株主総会・分配可能額との関係を扱います。連載の全体像は「過年度修正 完全ガイド」からご覧いただけます。
- 金融商品取引法 7条1項、9条1項、10条1項、24条の2第1項〜3項、24条の4の3、24条の4の5第1項、24条の5第1項・5項、24条の5の2、25条1項3号・6号 ― e-Gov法令検索 現行条文
- 財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 1条13号 ― e-Gov法令検索 現行条文
- 監査基準報告書560実務指針第2号「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」9項、10項、11項、14項、15項、16項、A16項、A29項、A45項、A47項、A55項 ― 日本公認会計士協会 公表資料(2023年1月12日最終改正)
- 有価証券上場規程 402条2号u、404条1項・2項、416条1項・2項、601条1項7号、同施行規則601条7項 ― 日本取引所グループ 上場会社向けナビゲーションシステム
- 企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」 ― 企業会計基準委員会 公表資料(2020年3月31日改正)
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。監査法人での上場会社監査・IPO支援の経験をもとに、上場企業・上場子会社・IPO準備企業の会計論点および開示実務を支援しています。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。
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