役員報酬を期中に減額したら損金になる?業績悪化改定事由の判定基準

業績が落ちてきて、役員報酬をこのまま払い続けるのは苦しい——。そう感じても、「期の途中で役員報酬を減らすと損金にならないのでは」と迷い、動けずにいる経営者は少なくありません。実際、期中の減額は原則として認められませんが、法令はいくつかの例外を定めており、その一つが「業績悪化改定事由」です。

問題は、どこまでが認められる減額で、どこからが認められない減額なのかという線引きです。ここを誤ると、下げたつもりが「上乗せ部分は損金にならない」という結果になり、資金繰りを楽にするどころか税負担だけが残りかねません。この記事では、業績悪化改定事由の意味と、国税庁が示す「経営の状況の著しい悪化に類する理由」の典型例を、条文と通達にさかのぼって整理します。中規模の会社が、業績が厳しくなった局面で役員報酬をどう扱うかを判断するための土台にしてください。

この記事は、役員給与の全体像をまとめた役員給与の税務 完全ガイドの配下記事です。

🧭 期中の減額は原則できない、が例外がある

役員報酬のうち損金になるのは、原則として毎月同額を支給する「定期同額給与」です。事業年度の途中で金額を変えると、原則としてその改定は定期同額給与から外れてしまいます。ただし、法令は改定が認められる事由を定めており、減額に関係するのは次の2つです。ひとつは役員の地位や職務が大きく変わったことによる臨時改定事由、もうひとつが業績悪化改定事由です。

その事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由によりされた(定期給与の額の)改定(法人税法施行令第69条第1項第1号ハ、要旨)

この事由に当たる減額であれば、減額前の期間と減額後の期間をそれぞれ「同額」とみて、どちらも定期同額給与として損金に算入できます。逆に、当たらない減額をしてしまうと、後で見るように一部が損金不算入になります。したがって、まず「自社の減額がこの事由に該当するか」を正しく判断することが出発点になります。臨時改定事由と業績悪化改定事由は混同されがちですが、着目する点が異なります。次の表で整理しておきます。

事由 着目する点 方向
臨時改定事由 役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情 増額・減額の両方
業績悪化改定事由 経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(第三者との関係) 減額のみ

地位や職務が変わったわけではないが、経営環境が悪化して報酬を維持できない——という場面で使うのが業績悪化改定事由です。なお、期首から3か月以内であれば、通常改定として理由を問わず減額できます。業績悪化改定事由が問題になるのは、あくまで通常改定の期間を過ぎたあとに、期の途中で減額したい場合です。まずは自社の減額がどのタイミングなのかを確認し、通常改定の期間内に収まらないときに、この事由の検討へ進みます。以下では、この事由の中身を掘り下げます。

期中に役員報酬を減額するときの判定 期首から3か月以内の通常改定か いいえ ↓ 地位・職務の変更による臨時改定事由か いいえ ↓ 業績悪化改定事由に当たるか いずれか該当 → 全額損金 いずれも非該当 → 一部不算入

3つの事由のいずれにも当たらない減額は、損金不算入のリスクがあります。

📉 業績悪化改定事由とは何か

業績悪化改定事由の条文は「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」という表現です。ここでのポイントは「著しく」という言葉の重みです。少し赤字が出た、前年より売上が落ちた、といった程度では足りません。単に一時的に資金繰りが厳しいという理由も、原則として該当しないと考えられています。

国税庁は、この「経営の状況の著しい悪化に類する理由」について、法人税基本通達9-2-13で考え方を示しています。要は、会社の内部事情だけで判断するのではなく、株主・取引銀行・取引先といった第三者である利害関係者との関係で、役員給与を減額せざるを得ない客観的な状況があるかどうか、という視点です。

なぜここまで厳しく見るのでしょうか。役員報酬は、本来1年間固定することで利益調整を防ぐ仕組みです。もし「業績が思わしくないから」という理由で自由に下げられるなら、会社は利益が出そうな年に役員報酬を下げて所得を圧縮する、といった調整が可能になってしまいます。それを防ぐため、減額が認められるのは、経営者の任意ではなく、外部との関係でやむを得ず下げざるを得ない場面に限られているのです。この背景を理解しておくと、後で見る典型例が「なぜこの3つなのか」も腑に落ちるはずです。

📋 「著しい悪化」に類する3つの典型例

法人税基本通達9-2-13は、業績悪化改定事由に当たり得るケースとして、次のような例を挙げています。いずれも、第三者との関係で減額が必要になっている点が共通しています。

典型例 どのような状況か
株主への経営責任 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての経営上の責任から、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
銀行とのリスケ協議 取引銀行との間で行われる借入金の返済条件の変更(リスケジュール)の協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
取引先向けの経営改善計画 業績や財務状況の悪化により、取引先など利害関係者からの信用を維持・確保するため、経営改善計画が策定され、そこに役員給与の減額が盛り込まれた場合

これらはあくまで例示であり、これに形式的に当てはまれば必ず認められる、あるいは当てはまらなければ絶対に認められない、というものではありません。共通しているのは、「社長が自分の判断だけで下げた」のではなく、外部の利害関係者との関係で下げざるを得なかった、という筋道が説明できるかどうかです。1つ目の株主への経営責任は、必ずしも上場企業に限りません。中規模の同族会社でも、他の株主や金融機関に対して経営責任を示す必要がある場面はあります。2つ目の銀行とのリスケ協議は、返済条件の変更を申し入れる際に、役員自身も身を切る姿勢を示すために減額する、という実態が伴っていることが前提です。3つ目の経営改善計画は、計画そのものに役員給与の減額が織り込まれ、取引先や金融機関に提示されていることが重要になります。いずれも、書面と実態の両方がそろって初めて説得力を持ちます。

該当する減額と該当しない減額 該当しやすい 株主への経営責任での減額 銀行のリスケ協議に伴う減額 経営改善計画に基づく減額 該当しにくい 前年比で売上が落ちただけ 一時的に資金繰りが苦しい 節税目的で下げたいだけ

第三者との関係で減額が必要かどうかが、判断の分かれ目です。

🚫 該当しない減額をした場合はどうなるか

業績悪化改定事由にも通常改定・臨時改定事由にも当たらないのに減額すると、その改定は定期同額給与の要件を満たさなくなります。このとき損金にならないのは、減額後の金額を「本来の定期同額」とみて、それを上回って支払っていた減額前の上乗せ部分です。

国税庁が公表する設例の考え方に沿って、簡単な数字で見てみましょう。次の設例では、減額前の6か月間、本来の40万円に20万円を上乗せして支払っていたとみて、その上乗せ部分が損金不算入になります。減額後の40万円を「1年を通じて支払うはずだった同額」とみなし、それを超えて払っていた分が定期同額に当たらない、という考え方です。

項目 内容
支給の状況 4月~9月は月60万円、事由なく10月から月40万円に減額
定期同額の基礎 減額後の40万円を1年を通じた同額とみる
上乗せ部分 60万円 − 40万円 = 20万円(4月~9月の6か月分)
損金不算入額 20万円 × 6か月 = 120万円
事由なし減額の損金不算入イメージ 上乗せ20万円 → 損金不算入 40万円(同額の基礎)は損金 減額後40万円は損金 4月~9月(60万円) 10月~3月(40万円)

減額後の40万円を基礎とみて、それを上回る上乗せ部分が損金不算入になります。

このように、減額そのものができないわけではなく、事由に当たらない場合に「減額前に多く払っていた分」が損金不算入になる、という仕組みです。減額の幅が大きいほど、また減額前の期間が長いほど、損金不算入額は大きくなります。ここで見落としがちなのは、損金にならなくても、その金額が役員に支払われた給与であることは変わらない点です。役員側では給与所得として課税されるため、会社で損金にならず個人でも課税されるという結果になりかねません。事由への該当性を軽く考えると、思わぬ二重の負担につながります。

減額が業績悪化改定事由に当たれば、この損金不算入は生じません。だからこそ、下げる前に事由への該当性を確認し、根拠を残しておくことが重要になります。「先に下げてから理由を考える」のではなく、順序が逆です。

📝 減額を認めてもらうために残すべき記録

業績悪化改定事由は、後から税務調査で確認されることの多い論点です。該当性を主張できるようにするには、減額の必要性が第三者との関係で生じたことを示す記録を、その時点で残しておくことが欠かせません。

場面 残しておきたい記録
意思決定 臨時株主総会・取締役会の議事録(減額の理由と時期を明記)
財務状況 減額を決めた時点の試算表、資金繰り表、業績の推移がわかる資料
第三者との関係 銀行とのリスケ協議の記録、経営改善計画、取引先との折衝の経緯

記録がそろっていれば、減額が経営判断として合理的で、かつ第三者との関係でやむを得なかったことを示しやすくなります。反対に、議事録に「業績不振のため」とだけ書いてあって具体的な状況の記録がない、というケースは、調査で説明に窮しがちです。とくに、減額の必要性を裏づける財務資料は、減額を決めた時点のものであることが重要です。後から作った資料では、その時点で本当に減額せざるを得なかったのかを示す力が弱くなります。月次で試算表を締める習慣があると、こうした場面で強い証拠になります。日頃の記帳・月次決算の精度が、いざというときの説明力に直結する——という点も押さえておきたいところです。

⏱ 減額の手続はどう進めるか

業績悪化改定事由による減額は、思い立ってすぐ金額を変えるのではなく、順序を踏むことが大切です。実務では、おおむね次の流れになります。まず、減額が必要になった背景を客観的な資料で確認します。試算表や資金繰り表、金融機関との協議記録などです。次に、株主総会または取締役会で減額の決議を行い、その理由と改定後の金額、適用時期を議事録に明記します。そのうえで、決議に沿って実際の支給額を改定し、以後は改定後の金額を事業年度末まで同額で支給します。

ここで注意したいのは、減額の「理由」と「時期」が資料と整合していることです。たとえば、議事録の日付より前から減額していたり、経営改善計画にない時期に突然下げていたりすると、事由との整合性を問われます。減額の必要性が生じた時点で速やかに決議し、その時点の資料を残す——この当たり前の手順が、後の説明力を大きく左右します。顧問の専門家がいれば、決議前の段階で事由への該当性を確認しておくと安心です。逆に、決議も記録もないまま金額だけ変えてしまうと、後から事由を主張しても認められにくくなります。

🙋 よくある質問

Q. 赤字であれば業績悪化改定事由に当たりますか。

赤字であること自体が自動的に該当するわけではありません。株主・銀行・取引先など第三者との関係で減額せざるを得ない状況があるかどうかが問われます。黒字でも該当し得ますし、赤字でも状況次第では認められないことがあります。判断の軸は損益の数字そのものではなく、第三者との関係で減額が必要かどうかにあります。

Q. 減額したあと、業績が回復したら元に戻せますか。

いったん減額したものを再び増額する場合、その増額が通常改定や臨時改定事由に当たらなければ、増額部分が定期同額給与から外れます。回復局面での増額も、時期と事由の確認が必要です。安易な往復はおすすめできません。

Q. 少しずつ何回かに分けて下げてもよいですか。

複数回の減額は、それぞれの改定について事由の該当性が問われます。回数を分けたからといって認められやすくなるわけではなく、かえって各回の説明が必要になります。減額の必要性が生じた時点で、根拠を整えて一度に行うのが基本です。段階的に下げる計画があるなら、その計画自体を経営改善計画などの形で残しておくとよいでしょう。

Q. 役員の同意だけで下げてよいですか。

役員報酬の減額は、会社法上の手続(株主総会や取締役会の決議など)を踏むのが原則です。本人の同意だけでなく、決議と議事録を整えてください。手続を欠くと、定期同額給与の適正さの面でも問題になり得ます。

Q. 減額分を翌期にまとめて支給し直せますか。

減額した分を後からまとめて支給すると、その支給が定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらず、損金にならないおそれがあります。実質的に賞与を後払いしたとみられかねません。個別の事情によって結論が変わるため、事前に専門家へご確認ください。

Q. どのくらいの減額幅であれば認められますか。

減額幅そのものに一律の基準はありません。重要なのは幅の大小ではなく、その減額が第三者との関係でやむを得ないものとして説明できるかどうかです。経営改善計画に沿った減額であれば、計画上の位置づけと整合していることが求められます。大幅な減額ほど、必要性と合理性の説明がより強く問われる、という関係にあります。

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📄 まとめ

役員報酬の期中減額は原則できませんが、経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による減額であれば、業績悪化改定事由として定期同額給与に含まれ、損金になります。国税庁は、株主への経営責任、銀行とのリスケ協議、取引先向けの経営改善計画といった、第三者との関係で減額せざるを得ない場面を典型例として示しています。単なる業績目標の未達や一時的な資金繰りでは該当しにくく、事由に当たらない減額は上乗せ部分が損金不算入になります。下げる前に該当性を確認し、議事録と財務資料で根拠を残す——この順序を守ることが、後の否認を防ぐ最善の備えです。事由に当たらない減額は、上乗せ部分が損金不算入となるうえ、その金額は役員側で給与課税されるため、会社と個人の双方で負担が残ります。減額は資金繰り対策として有効な手段ですが、税務上の要件を外すと効果が半減しかねません。判断に迷う場合や、すでに行った減額の適否を点検したい場合は、専門家にご相談ください。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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