「役員報酬は事業年度の途中で変えると損金にならない」——そう聞いて、いちど決めた金額を1年間まったく動かせないのかと不安になっていませんか。実際には、変えてよい時期と事由が法令で決まっているだけで、そこを外さなければ問題ありません。逆に、そこを知らずに期の途中で増額してしまうと、上乗せした分が会社の経費として認められなくなります。
この記事では、役員給与の基本となる「定期同額給与」の意味と、よく言われる「3か月ルール」が何を指すのかを、条文にさかのぼって整理します。仕組みそのものは決して複雑ではありませんが、期限や事由を一つ取り違えるだけで損金不算入という結果に直結します。中規模の会社で、決算前に役員報酬をどう扱うか迷ったときの判断の土台にしてください。
この記事は、役員給与の全体像をまとめた役員給与の税務 完全ガイドの配下記事です。
🧭 定期同額給与とは何か
役員に対する給与は、原則として損金(税務上の経費)になりません。会社の利益を役員が自由に調整できてしまうと、税負担を意図的に動かせるからです。そこで法人税法は、役員給与のうち一定の要件を満たす3つの類型だけを損金に算入できることとしています。その一つが「定期同額給与」です。
その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるもの(法人税法第34条第1項第1号、要旨)
かみくだくと、定期同額給与とは「毎月など1か月以下の間隔で支給され、その支給額が事業年度を通じて同じ」役員給与のことです。多くの中小企業が採用している「毎月定額の役員報酬」が、これに当たります。月額が期の初めから終わりまで一定であれば、届出などの手続を要さずに、その全額が損金になります。手続がいらない代わりに、金額を動かせる時期が厳しく限定されている、という制度設計です。
| 役員給与の3類型 | 要件の骨子 | 主な使いどころ |
|---|---|---|
| 定期同額給与 | 毎月など一定期間ごとに同額を支給する(法法34条1項1号) | 通常の月額役員報酬 |
| 事前確定届出給与 | 支給時期・金額を事前に届け出て、そのとおり支給する(法法34条1項2号) | 役員賞与を損金にしたい場合 |
| 業績連動給与 | 利益などの指標に連動。同族会社は原則使えないなど要件が厳しい(法法34条1項3号) | 上場企業などの一部 |
この記事では、最も基本となる定期同額給与に絞って解説します。事前確定届出給与や業績連動給与は、ガイドの別の配下記事で扱います。役員給与がここまで細かく縛られるのは、役員が自らの報酬を決められる立場にあり、期の途中で自由に増減できると、会社の利益ひいては税額を意図的に操作できてしまうからです。金額を固定し、変更のタイミングを限定することで、その恣意性を抑えているわけです。まずは、どのような給与が定期同額に当たり、どのような給与が外れるのかを整理しておきます。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 定期同額に当たる | 毎月末に同額を支給する月額役員報酬。期首から3か月以内の通常改定を経て、改定後も同額を継続する報酬 |
| 定期同額から外れやすい | ある月だけ多く支給する(賞与的な支給)。事由なく期の途中で増額・減額する。支給額が毎月まちまちである |
毎月同額で支給し、変えるときだけ決まった事由による——これが基本の形です。
📅 なぜ「3か月」と言われるのか
役員報酬は毎年見直すのが普通です。そこで法令は、事業年度が始まってから一定の期間内に行う改定であれば、改定前と改定後をそれぞれ「同額」とみて、定期同額給与として認めることにしています。この期間が「会計期間開始の日から3月を経過する日まで」です。これが「3か月ルール」と呼ばれるものの正体で、この期間内の改定を通常改定といいます。
その事業年度開始の日から3月を経過する日(一定の法人はそれぞれ定める月数)までにされた定期給与の額の改定(法人税法施行令第69条第1項第1号イ、要旨)
3月という期間には理由があります。会社は、事業年度が終わってから一定の時期に定時株主総会を開き、そこで役員報酬の総額や配分を決めます。3月決算の会社であれば、多くが6月に定時株主総会を開催し、そのタイミングで役員報酬を改定します。会計期間開始(4月1日)から3月を経過する日(6月末)までに改定すれば通常改定として認められる——この実務の流れに合わせて期限が設けられているのです。逆にいえば、この期間を過ぎてから金額を動かすと、原則として通常改定の枠は使えません。決算が近づいてから利益を見て報酬を調整するという発想では間に合わない、という点をまず押さえておく必要があります。改定を検討するなら、期首から3か月という時間軸を意識し、株主総会での決議と議事録の作成をセットで進めることが実務の基本になります。決算月ごとに期限の目安は次のようになります。
| 決算期末 | 会計期間の開始日 | 通常改定の期限の目安 |
|---|---|---|
| 3月決算 | 4月1日 | 6月末 |
| 6月決算 | 7月1日 | 9月末 |
| 9月決算 | 10月1日 | 12月末 |
| 12月決算 | 1月1日 | 3月末 |
正確には「会計期間開始の日から3月を経過する日」までです。表は代表的な決算月の目安であり、自社の期首から3か月後を必ず確認してください。
期首から3月を経過する日までが、原則として自由に改定できる通常改定の期間です。
🔀 改定が認められる3つの事由
3月を経過する日を過ぎたあとでも、改定がまったくできないわけではありません。法令は、通常改定に加えて、期の途中でも認められる2つの事由を定めています。整理すると、改定が定期同額給与として扱われるのは次の3つの場合です。
| 事由 | 内容 | 時期 |
|---|---|---|
| 通常改定 | 会計期間開始の日から3月を経過する日までに行う改定。定時株主総会での見直しが典型 | 期首から3か月以内 |
| 臨時改定事由 | 役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情による改定 | 事由が生じた都度 |
| 業績悪化改定事由 | その事業年度において経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による減額改定 | 事由が生じた都度 |
臨時改定事由は、たとえば期の途中で平取締役が社長に就任したような、地位や職務が大きく変わる場合です。増額・減額のどちらもあり得ます。役員が病気などで職務を執行できなくなり、報酬を見直すようなケースもここに含まれ得ます。いずれも「役員個人の都合」ではなく、会社の組織や職務の実態が変わったことが前提です。これに対して業績悪化改定事由は減額の場面に限られ、単に思ったより利益が出なかったという程度では認められません。「経営の状況が著しく悪化」とは、株主や取引銀行など第三者との関係で減額せざるを得ない状況を指すと考えられています。したがって、期中に増額したい場合に使えるのは、原則として臨時改定事由だけということになります。詳しくは配下記事「役員報酬を期中に減額したら損金になる?業績悪化改定事由の判定基準」で扱います。
期の途中で「なんとなく利益が出そうだから増やす」「資金繰りが少し苦しいから減らす」といった改定は、3つの事由のいずれにも当たりません。定期同額給与から外れ、損金不算入のリスクが生じます。
💴 現物支給や経済的利益も対象になる
定期同額給与は、金銭で払う報酬だけの話ではありません。会社が役員に継続的に供与する経済的利益のうち、その額が毎月おおむね一定であるものも、定期同額給与に含まれます。
継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法人税法施行令第69条第1項第2号、要旨)
たとえば、会社が負担する役員社宅の家賃相当額のうち役員が本来負担すべき金額との差額や、会社が継続して負担する生命保険料のうち役員が経済的利益を受ける部分などが、これに当たり得ます。金銭報酬だけを見て「毎月同額だから大丈夫」と判断せず、こうした経済的利益も合わせて「毎月おおむね一定か」という視点で見る必要があります。月によって大きく変動するものは、定期同額として扱いにくくなります。決算前に役員報酬の適否を点検するときは、額面の給与に加えて、会社が役員のために継続的に負担している費用がないかもあわせて確認しておくと安全です。個々の経済的利益がどの範囲で給与に当たるかは、別の配下記事でくわしく扱います。
⚠️ 3か月ルールを外すと何が起きるか
認められる事由に当たらないのに期の途中で改定すると、改定によって生じた差額部分が損金になりません。ここで大切なのは、「全額がだめになる」のではなく、「同額でない上乗せ部分」だけが損金不算入になるという点です。国税庁が公表している設例では、次のように計算します。
| ケース | 考え方 | 損金不算入となる部分 |
|---|---|---|
| 期中に増額 | 増額前の金額が引き続き定期同額として支給されているとみる | 上乗せした差額 × 増額後の月数 |
| 事由なく期中に減額 | 減額後の金額を定期同額の基礎とみる | それを上回っていた差額 × 減額前の月数 |
たとえば月60万円を9月から70万円に増額した場合、増額前の60万円は引き続き定期同額として損金になりますが、上乗せの10万円が増額後の期間分だけ損金不算入になります。減額の場合は、減額後の金額を基礎とみて、それより多く払っていた期間の差額が損金不算入です。増額・減額それぞれの具体的な計算は、配下記事「役員報酬を期中に増額したらどうなる?」「役員報酬を期中に減額したら損金になる?」でくわしく取り上げます。
増額後も、増額前の水準に相当する部分は引き続き定期同額として損金になります。
さらに注意したいのは、損金にならなくても、役員が実際に受け取った給与であることは変わらない点です。役員側では給与所得として課税されます。会社で損金にならず、個人でも課税されるという二重の不利益になりかねません。しかも、この処理は税務調査でよく確認される論点で、期の途中に役員報酬の金額が変わっていれば、その理由と決議の記録を必ず問われます。事由に当たらない改定であれば、上乗せ部分について修正申告や追徴の対象になり得ます。だからこそ、改定の時期と事由、そして決議の記録を最初に押さえておくことが大切です。
🧩 特別の事情で3か月を過ぎる場合
会社によっては、3月を経過する日までに改定の決議ができない事情もあります。法令解釈通達は、こうした「特別の事情」がある場合に、通常改定の期限を過ぎた改定を認める余地を示しています。
具体的には、法人の役員給与額がその親会社の役員給与額を参酌して決められる状況にあるため、親会社の定時株主総会が終わったあとでなければ子会社の役員給与の改定を決議できない、といった事情が例示されています(法人税基本通達9-2-12の2)。グループ会社では、この点も確認しておくとよいでしょう。ただし、これはあくまで「やむを得ない特別の事情」がある例外的な場面です。単に自社の都合で総会の開催や決議を遅らせただけでは、この特別の事情には当たりません。特別の事情に頼る前提で改定時期を後ろ倒しにするのではなく、原則どおり期首から3か月以内に決議できる体制を整えておくのが安全です。
🙋 よくある質問
Q. 3月決算ではありません。改定の期限はいつですか。
会計期間開始の日から3月を経過する日までです。12月決算なら1月1日が期首なので、3月末日が期限の目安になります。自社の期首から3か月後を必ず確認してください。
Q. 定時株主総会をまだ開いていないのに、期首から報酬を上げてしまいました。
役員報酬の改定は、株主総会や取締役会の決議など、会社法上の手続を踏んで行うのが原則です。決議より前に金額を変えていると、定期同額給与の要件や手続の適正さで問題になり得ます。議事録などの記録を整えたうえで進めてください。
Q. 賞与のように一度だけ多く払うと定期同額から外れますか。
定期同額給与は毎月同額であることが要件なので、ある月だけ多く払うと、その月の上乗せ部分が同額から外れます。役員に賞与を出したい場合は、事前確定届出給与など別の類型を検討することになります。
Q. 増額した場合、増額分は個人でも課税されますか。
はい。会社で損金にならない部分でも、役員が実際に受け取った給与であることに変わりはなく、役員側では給与所得として課税されます。会社で損金にならないうえ個人でも課税される、という点に注意してください。
Q. 経済的利益はどう金額を測るのですか。
会社が負担した金額と、役員が本来負担すべき金額との差額などで測ります。毎月おおむね一定かどうかがポイントで、月によって大きく変動するものは定期同額として扱いにくくなります。個別の判断は専門家にご確認ください。
Q. 期首から3か月以内であれば、増額でも減額でも自由に改定できますか。
通常改定の期間内であれば、増額・減額のどちらも定期同額給与として認められます。ただし、改定後は事業年度の終わりまで、その新しい金額を同額で継続することが前提です。改定後にさらに動かすと、そこからは別の事由が必要になります。また、金額そのものが不相当に高額と判断されれば、その部分は別の規定(法人税法第34条第2項)で損金不算入になり得ます。手続と金額の両面から確認してください。
月次の記帳チェックから決算・申告、税務調査への備えまで、公認会計士・税理士が一貫して対応します。今の処理が正しいかどうかの確認だけでも承ります。
📄 まとめ
定期同額給与は、毎月同額で支給する役員給与を損金にするための基本の型です。改定できるのは、期首から3月を経過する日までの通常改定、期の途中の臨時改定事由、そして減額に限られる業績悪化改定事由の3つ。この枠を外れた改定は、上乗せ部分が損金不算入になり、しかも役員個人では課税されるという不利益が残ります。決算前に役員報酬を動かすなら、まずこの3つの事由に照らして判断してください。特に増額は、期首から3か月以内の通常改定か臨時改定事由でなければ上乗せ部分が損金不算入になります。金額を動かす前に、時期と事由、決議手続の3点を確認する——この順序を習慣にするだけで、多くの否認は防げます。判断に迷う場面や、過去の改定が適正だったかの点検は、専門家に相談することをおすすめします。
🔗 参考(公的な一次情報)
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。