「オフィスの賃貸借は2年契約だから、2年分だけオンバランスすればよいのだろうか」「延長オプション付きの5年リースは、何年で使用権資産を計上するのか」。リースの識別を終えたIPO準備会社・上場企業の経理/管理部門が次に直面するのが、この「リース期間」の論点です。
結論からいえば、借手のリース期間は契約書の契約期間そのものではなく、「解約不能期間」に、行使することが合理的に確実な延長オプションの期間などを加えて決定します(基準31項)。リース期間が何年になるかは、貸借対照表に計上する使用権資産・リース負債の金額に直結します(基準BC34項)。本記事では連載第9回(第3部の初回)として、リース期間算定の枠組みを3ステップで整理します。
結論:リース期間は「解約不能期間+オプション期間」で決まる
借手のリース期間とは、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、①借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間と、②借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間の両方を加えた期間をいいます(基準15項)。借手は、この定義に沿って借手のリース期間を決定します(基準31項)。
借手のリース期間
= 解約不能期間
+ 延長オプションの対象期間(行使することが「合理的に確実」な場合)
+ 解約オプションの対象期間(行使しないことが「合理的に確実」な場合)
ポイントは、「延長するかどうか分からない期間」であっても、行使することが合理的に確実といえるなら、最初からリース期間に含めてオンバランスするという点です。逆に、途中で解約できる契約でも、解約しないことが合理的に確実なら、解約オプション以降の期間もリース期間に含まれます。契約書の形式ではなく、企業の経済実態に基づいて期間を見積もる発想への転換が求められます。
なぜリース期間がそれほど重要なのか
借手のリース期間の決定は、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の金額に直接的に影響を与えるものとされています(基準BC34項)。同じ月額のリースでも、リース期間を3年とみるか5年とみるかで、計上されるリース負債・使用権資産はまったく異なります。
さらに、リース開始日において借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリースは「短期リース」と定義され(指針4項(2))、短期リースについては使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができます(指針20項)。つまりリース期間の判断は、「いくら計上するか」だけでなく「そもそもオンバランスするか」の分岐点にもなります。
| リース期間の判断 | B/Sへの影響(イメージ) |
|---|---|
| 12か月以内(購入オプションなし) | 短期リースとしてオンバランスしない選択が可能 |
| 3年と判断 | 約3年分のリース料の現在価値を負債計上 |
| 5年と判断(延長が合理的に確実) | 約5年分の現在価値を負債計上(3年の場合の約1.6倍) |
※B/Sへの影響のイメージは筆者による例示です。財務指標への波及は第4回(財務指標へのインパクト)をご覧ください。
算定フロー:3つのステップで考える
STEP1 解約不能期間を把握する
契約書の期間・中途解約条項・違約金条項を確認
▼
STEP2 延長・解約オプションを洗い出す
自動更新条項・再契約の取決め・解約権の帰属を整理
▼
STEP3 「合理的に確実」かを判定する
経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮して総合判断
STEP1・2:解約権が誰にあるかで扱いが変わる
借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手のリース期間の決定にあたり考慮します(基準31項)。一方、貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は借手の解約不能期間に含まれます(基準31項)。
| 解約権の帰属 | リース期間算定上の扱い |
|---|---|
| 借手のみが解約できる | 借手のオプションとして考慮する(行使しないことが合理的に確実なら期間に含める)(基準31項) |
| 貸手のみが解約できる | その期間は借手の解約不能期間に含める(基準31項) |
STEP3:「合理的に確実」は経済的インセンティブで判断する
借手は、延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたって、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します(指針17項)。適用指針では、その例として次の5つが挙げられています(指針17項)。
- 延長・解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)(指針17項(1))
- 大幅な賃借設備の改良の有無(指針17項(2))
- リースの解約に関連して生じるコスト(指針17項(3))
- 企業の事業内容に照らした原資産の重要性(指針17項(4))
- 延長オプション又は解約オプションの行使条件(指針17項(5))
「合理的に確実」は、蓋然性が相当程度高いことを示すとされています(指針BC29項)。また、リース期間は経営者の意図や見込みのみに基づく年数ではなく、経済的インセンティブを生じさせる要因に焦点を当てて決定され、使用が超長期となる可能性が見込まれる場合でも、リース期間が必ずしもその超長期の期間となるわけではないとされています(指針BC30項)。各要因の具体的な当てはめ方は、次回(第10回)で詳しく解説します。
なぜオプション期間まで含めるのか──基準の考え方
「オプションを行使するまでは債務が確定していないのに、なぜ負債に含めるのか」という疑問は、基準開発の過程でも議論されています。IFRS第16号では、2年の延長オプションが付いた3年のリースは経済的に3年の解約不能リースと同様の場合も5年の解約不能リースと同様の場合もあること、オプションはリースの経済実態に影響を与えること、オプション期間を除外することでリース負債が貸借対照表から不適切に除外されるリスクを軽減できることを理由に、オプションの対象期間をリース期間に反映することとしたとされています(基準BC34項)。
本会計基準も、企業の合理的な判断に基づき資産及び負債を計上することが財務諸表利用者に有用な情報をもたらすこと、IFRS第16号と整合させない場合には国際的な比較可能性が大きく損なわれる懸念があることから、IFRS第16号と整合的な定めとしています(基準BC36項)。
貸手のリース期間は2つの方法からの選択
貸手のリース期間は、借手とは別に定められています。貸手は、貸手のリース期間について、①借手のリース期間と同様に決定する方法、②借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間(事実上解約不能と認められる期間を含む)に、リースが置かれている状況からみて借手が再リースする意思が明らかな場合の再リース期間を加えて決定する方法、のいずれかを選択して決定します(基準32項)。
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| 方法① 借手と同様 | 延長・解約オプションの行使可能性を評価してリース期間を決定する(基準32項(1)) |
| 方法② 従来型 | 解約不能期間(事実上解約不能を含む)+再リース意思が明らかな場合の再リース期間(基準32項(2)) |
貸手は借手による延長オプション又は解約オプションの行使可能性が合理的に確実か否かを評価することが困難であると考えられることなどから、継続して適用することを条件としていずれの方法も認められています(基準BC38項)。借手側の担当者にとっても、「貸手と借手でリース期間の判断が一致するとは限らない」と理解しておくことが重要です。
貸手は借手のオプション行使可能性を評価することが困難と考えられることから、継続適用を条件にいずれの方法も認められています(基準BC38項)。
数値例:延長オプション付きオフィスリースのインパクト
前提(筆者作成の設例):本社オフィスの賃貸借契約。解約不能期間3年+借手の延長オプション2年。年間リース料12,000千円(各年度末払い・固定)、割引率は年2%とします。入居時に大規模な内装投資を行っており、移転には多額のコストが見込まれるため、延長オプションの行使が合理的に確実と判断したケースを考えます。
| 判断 | リース期間 | リース負債(現在価値) |
|---|---|---|
| 延長が合理的に確実でない | 3年 | 約34,607千円 |
| 延長が合理的に確実 | 5年 | 約56,562千円 |
同じ契約でも、延長オプションの評価ひとつで負債計上額に約22,000千円(約1.6倍)の差が生じます。この判断は自己資本比率などの財務指標にもそのまま波及するため、恣意的に短い期間を選ぶことはできず、経済的インセンティブの要因に基づく説明可能な判断が求められます。
※数値例は理解のための簡略化した自作の設例です。実際の判断は個々の契約の事実及び状況によって異なります。
実務上の留意点──自社対応で負担が大きいポイント
リース期間の算定を実務に落とし込む際、多くの会社がつまずくのは会計基準の理解そのものよりも、判断材料を揃える作業です。第一に、契約書の棚卸しです。延長・解約条項、違約金、自動更新の有無を全契約について確認しなければ、STEP1・2が始まりません。第二に、不動産の賃貸借です。普通借地契約及び普通借家契約について借手のリース期間を判断することの困難さは基準開発の審議でも懸念として聞かれており(指針BC28項(2))、実務上の判断に資するために設例が示されています(指針BC34項(1))。本連載でも第11回以降の事例研究で掘り下げます。
第三に、リース期間は一度決めたら終わりではありません。リースの契約条件の変更が生じていない場合でも、借手の統制下にあり、かつ、オプション行使の判断に影響を与える重要な事象又は重要な状況が生じたときには、合理的に確実かどうかを見直し、借手のリース期間を変更してリース負債の計上額の見直しを行います(基準41項)。監査実務では、リース期間の判断そのものに加えて、経済的インセンティブの各要因をどう評価したかを記録した判断メモ(社内資料)の有無が問われることが通常であり、判断過程の文書化まで含めて仕組み化しておくことが監査対応のポイントになります。
リース期間算定の事前チェックリスト(筆者作成)
- 全リース契約の契約期間・中途解約条項・違約金条項を一覧化したか
- 延長オプション・自動更新条項・再契約の慣行を契約ごとに把握したか
- 解約権が借手・貸手のどちらにあるかを契約ごとに整理したか
- 内装投資・移転コスト・事業上の重要性など判断材料を収集したか
- 「合理的に確実」の判断根拠を文書化する様式を用意したか
- リース期間を見直すトリガーとなる事象を洗い出したか
よくある質問(FAQ)
同じとは限りません。借手のリース期間は、解約不能期間に、行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えて決定するためです(基準31項)。契約上2年でも、更新が合理的に確実ならより長い期間になります。
蓋然性が相当程度高いことを示すとされています(指針BC29項)。単なる「可能性が高い」よりも高い水準と理解されており、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮して判定します(指針17項)。具体的な判断枠組みは次回詳しく解説します。
普通借地契約・普通借家契約のリース期間判断の困難さには、実務上の判断に資するために思考プロセスを示す設例で対応することとされています(指針BC34項(1))。事実及び状況によって判断が異なり得る領域のため、本連載では第11回以降の事例研究で個別に取り上げます。
あります。契約条件の変更がない場合でも、借手の統制下にあり、オプション行使の判断に影響を与える重要な事象又は重要な状況が生じたときは、リース期間を見直し、リース負債の計上額の見直しを行います(基準41項)。
まとめ──第3部「リース期間」のスタート
借手のリース期間は「解約不能期間+合理的に確実なオプション期間」で決まり(基準31項)、その判断はB/S計上額に直結します(基準BC34項)。判断の軸は経営者の意図ではなく経済的インセンティブを生じさせる要因であり(指針BC30項)、判断過程の文書化までが実務対応の範囲です。次回・第10回では、この「合理的に確実」の判断枠組みを、5つの要因の当てはめ方を中心に掘り下げます。
連載の全体像は新リース会計基準 完全ガイド(連載目次)を、前回の記事は第8回:リース部分と非リース部分の区分をご覧ください。
🔗 リース期間の判断は、資産除去債務の見積りとも整合させる必要があります
ここで決めた借手のリース期間は、原状回復義務から生じる資産除去債務をいつ履行すると見込むかと、本来は同じ事実から導かれるものです。両者がずれている場合に何を説明すべきかは、次の4本で整理しています。
▶ 資産除去債務の履行時期がリース期間より早い場合は?整合する4類型を解説
▶ リース期間より資産除去債務の履行時期が遅い場合は?閾値の違いと監査対応
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※本記事は公表されている会計基準等に基づく一般的な解説であり、個別の会計処理を保証するものではありません。実際の適用にあたっては、監査人や専門家にご相談ください。
参考(本文で引用した基準等):企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」15項・31項・32項(1)(2)・41項・BC34項・BC36項・BC38項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」4項(2)・17項(1)〜(5)・20項・BC28項(2)・BC29項・BC30項・BC34項(1)