資産除去債務の履行時期がリース期間より早い場合は?整合する4類型を解説

新リース会計基準(企業会計基準第34号)の適用にあたり、借手のリース期間を延長オプション込みで長めに判断した一方、資産除去債務の履行見込時期は当初契約の満了時のままになっている。この状態は決して珍しくありません。監査の現場では、この期間のズレが「なぜズレているのか」を問われます。

本記事は、リース期間の方が資産除去債務の履行見込時期より長い場合を取り上げ、どこまでが整合的に説明でき、どこからが見積りの誤りなのかを、会計基準と適用指針の規定に沿って整理します。監査法人への説明資料をつくる順序まで示します。

期間がズレている状態のイメージ開始日10年後15年後解約不能期間 10年延長オプション 5年借手のリース期間 15年(基準第31項)資産除去債務の履行見込 10年後この5年間の説明が求められる

図1 リース期間が資産除去債務の履行見込時期より長い状態

まず押さえる:新リース会計基準で使用権資産と資産除去債務はどうつながるか

期間のズレを論じる前に、両者が制度上どう接続しているかを確認します。新リース会計基準では、借手は使用権資産を計上しますが、その計上額の構成要素に資産除去債務が明示的に組み込まれています。

企業会計基準第34号 第33項 借手は、リース開始日に、第34項に従い算定された額によりリース負債を計上する。また、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上する。

つまり、賃借物件に係る原状回復義務から生じた除去費用は、従来のように建物附属設備などの帳簿価額に加えるだけでなく、使用権資産の取得原価の一部となる道筋が基準上に置かれました。加算先の判断そのものは別の論点ですが、いずれにせよ資産除去債務は使用権資産と同じ帳簿の上に乗ってきます。

そのうえで、償却期間の定めが効いてきます。

企業会計基準第34号 第38項(所有権移転外リースの償却) この場合、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとする。
企業会計基準第18号 第7項 資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える。資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分する。

ここから、実務で扱う「期間」が三つあることが分かります。三つの関係を先に表で押さえます。

期間の種類 何で決まるか 根拠
借手のリース期間 解約不能期間に、行使が合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えて決定する 企業会計基準第34号 第31項、適用指針第33号 第17項
使用権資産の償却期間 所有権移転外の場合は借手のリース期間。除去費用を使用権資産に加算した場合、その部分も同じ期間で費用配分される 企業会計基準第34号 第38項、企業会計基準第18号 第7項
資産除去債務の割引期間 除去(原状回復)が実際に行われると見込まれる時期までの期間。割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額で算定する 企業会計基準第18号 第6項

三つはそれぞれ別の規定から導かれますが、依拠している事実は一つ、すなわち「この物件をいつまで使い、いつ出ていくのか」です。ここが本記事の出発点になります。

「リース期間の方が長い」とは、実際には何が起きている状態か

リース期間15年、資産除去債務の履行見込時期10年後という状態を、素直に読むとこうなります。当社は15年間この物件を使い続ける可能性が高いと判断している。にもかかわらず、10年目に原状回復工事を行うと見積もっている。使い続けるのに原状回復するというのは、そのままでは両立しません。

したがって、この状態には必ず次のいずれかの背景があります。整理すると四つです。

リース期間 > 除去の見込時期類型A区画の一部だけを先に返還する計画がある類型B契約上、中間時点の原状復旧義務が別途定められている類型C10年目は改装であり短い周期の更新にあたる類型D単なる見直し漏れ当初契約期間を機械的に使っている整合的に説明できる。ただし証憑と文書化が必要見積りの修正が必要どの類型にも当てはまらない場合、リース期間か除去見込時期のいずれかの判断に誤りがある

図2 リース期間の方が長い場合の四類型と行き先

類型A 区画の一部だけを先に返還する

本社を2フロア借りており、うち増床した1フロアは10年で返還する計画がある、という場合です。この場合、そもそもリースが単一ではありません。フロアごとに契約が分かれているのであれば、リース期間もフロアごとに判断され、返還するフロアのリース期間は10年、残るフロアは15年となります。資産除去債務も、返還するフロアの造作については10年後、残るフロアについては15年後と、対応関係が一対一で成立します。

ここでの説明の要点は、期間のズレを説明することではなく、そもそも一つの塊として扱っていたことが誤りであった、と示すことです。契約書上の区画割、賃料の算定単位、原状回復条項の適用単位を並べて、リースの単位が複数であることを裏づけます。

類型B 契約上、中間時点の原状復旧義務が別途定められている

賃貸借契約に、一定期間ごとに特定の設備を原状に復する義務や、貸主の大規模修繕に協力して造作を一時撤去する義務が定められている場合があります。この場合、10年目に発生する債務は、退去時の原状回復義務とは別個の、契約で要求される法律上の義務です。

企業会計基準第18号 第3項 資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。

したがって、10年目の債務と15年目の債務は、それぞれ別の資産除去債務として認識し、それぞれの履行見込時期で割り引くのが素直な処理です。ズレているのではなく、債務が二つあるだけ、という説明になります。契約書の当該条項の写しを説明資料に添付すれば、監査人の論点はここで終わります。

類型C 10年目の工事は改装であり、短い周期の更新にあたる

10年目に内装を全面改装し、その際に旧造作を撤去する計画がある場合です。この撤去は、退去に伴う原状回復ではなく、自らの意思による更新投資の一部です。資産除去債務の適用指針は、結論の背景において、主たる資産の除去より短い周期で更新される資産について、短い周期での更新時の支出は資産除去債務の対象としない旨を述べています。

この整理に立てば、10年目の撤去費用は資産除去債務ではなく、改装時点で費用または新たな造作の取得原価の一部として処理されます。資産除去債務として認識すべきものは15年後の最終的な原状回復であり、割引期間も15年です。つまりこの類型では、資産除去債務の見積りを10年から15年に引き直すのが正しい対応になります。

類型Cで注意すべきは、改装計画が意思決定として固まっていない段階で、これを根拠に資産除去債務の見積りを動かすことです。取締役会や経営会議の決議、中期計画への織り込み、設備投資予算の計上といった裏づけがないまま「改装する予定だから」と説明しても、監査人の心証は得られません。

類型D 当初契約期間を機械的に使っている見直し漏れ

実務上、最も多いのがこれです。資産除去債務は新リース会計基準の適用前から計上されており、その際の履行見込時期は当初契約期間の満了時としていた。新基準の適用にあたってリース期間を延長オプション込みで15年と判断したが、資産除去債務の見積りには手を付けていない、という状態です。

この場合、10年という履行見込時期を維持する根拠がありません。リース期間を15年と判断したということは、延長オプションを行使することが合理的に確実であると評価したということであり、その評価と同じ事実に基づけば、退去は15年後です。資産除去債務の見積りも15年後に引き直す必要があります。

期間を引き直すと、財務諸表はどう動くか

履行見込時期を10年後から15年後に変更すると、割引期間が5年延びます。資産除去債務は割引後の金額で算定されるため、計上額は小さくなります。

項目 履行見込10年後 履行見込15年後
割引前の将来キャッシュ・フロー 60,000千円 60,000千円
割引期間 10年 15年
割引率(無リスクの税引前の利率) 年1.2% 年1.6%
計上する資産除去債務(概算) 約53,300千円 約47,300千円
除去費用資産の償却期間 使用権資産の残存耐用年数 使用権資産の残存耐用年数

数値は説明のための仮設例です。割引率は履行見込時期までの期間に対応する国債の利回りなど、無リスクの税引前の利率を用いるため、期間が延びれば通常は率も変わります。同じ率で期間だけ延ばした計算は前提が異なります。

ここに、監査上の緊張が生まれます。リース期間を長く判断するほど、資産除去債務の履行時期は後ろにずれ、割引期間が長くなり、計上額は小さくなります。負債と費用が小さく見える方向に働くのです。

割引期間と計上額の関係(仮設例)60,000割引前CF約53,30010年で割引約47,30015年で割引負債が小さく出るこの方向性があるため、リース期間を長く判断した根拠は独立に検証される

図3 割引期間が延びると計上額が小さくなる

監査法人はどこを見るか

資産除去債務は会計上の見積りであり、監査人は監査基準報告書540に従って手続を実施します。同報告書は、会計上の見積りについて、経営者が用いた仮定の合理性を評価し、経営者の偏向が存在する兆候の有無を検討することを求めています。リース期間の判断と資産除去債務の見積りは、同じ事実に依拠しながら、負債の大きさに対して反対方向に効くため、まさに偏向の兆候を探しやすい領域です。

実際に想定される質問と、成立する回答を並べます。

監査人からの質問 成立する回答の骨格
延長オプションの行使が合理的に確実と判断した根拠は 造作投資の規模と未償却残高、移転費用の見積り、代替物件の賃料水準、事業計画上の当該拠点の位置づけを示す。適用指針第33号 第17項が挙げる考慮要素に一つずつ対応させる
その判断と、10年後に原状回復するという見積りは両立するか 類型AからCのいずれかに該当することを、契約条項または意思決定の記録で示す。該当しない場合は見積りを修正する
履行見込時期を後ろ倒しにしたことで負債が減っているが、意図的ではないか リース期間の判断を先に確定し、その結論を機械的に反映した順序を示す。判断の順序と決裁の日付を記録として残しておく
割引率は履行見込時期に対応したものか 15年後の履行に対しては15年に対応する無リスクの税引前の利率を用いていることを、利回りの出所とあわせて示す
見積りの変更か、過年度の誤謬か 新基準適用に伴いリース期間の判断が変わった結果であれば見積りの変更、当初から履行見込時期の評価を誤っていたのであれば誤謬。どちらかを明示する

説明資料に必ず入れる四点

実務では、次の四点を一枚にまとめておくと、往査の場で議論が長引きません。

項目 記載する内容
1 事実の記述 物件、契約期間、延長オプションの条件、原状回復条項の文言、造作の内容と取得価額
2 リース期間の判断 解約不能期間と加算した期間、加算した理由、考慮した経済的インセンティブの内容
3 履行見込時期の判断 いつ、何を、どの範囲で除去するのか。2との関係を一文で言い切る
4 差異がある場合の理由 類型AからCのどれに該当するか、その裏づけとなる証憑の所在

見積りを変更したときの会計処理

履行見込時期を10年後から15年後に引き直した結果、割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の処理は次のとおりです。

企業会計基準第18号 第10項 割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の当該見積りの変更による調整額は、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理する。

調整額に適用する割引率については、キャッシュ・フローが増加する場合はその時点の割引率、減少する場合は負債計上時の割引率を用いる旨が定められています。履行時期の後ろ倒しは通常、負債を減少させる方向に働くため、負債計上時の割引率が用いられる場面が多くなります。

なお、時の経過による資産除去債務の調整額は、その発生時の費用として処理します(企業会計基準第18号 第9項)。期間が延びれば、この利息費用が計上される期間も延びることになります。

ここで一つ、実務でつまずきやすい点があります。除去費用資産の費用配分期間は「関連する有形固定資産の残存耐用年数」であり、資産除去債務の履行見込時期そのものではありません。除去費用を使用権資産に加算しているなら、その償却期間は借手のリース期間です。履行見込時期とリース期間がそろっていれば両者は一致しますが、そろっていない場合、除去費用の償却が終わる前に債務を履行する、あるいは債務を履行した後も償却が残る、という不自然な状態が生じます。期間をそろえるべき理由は、開示の見栄えではなく、この構造的な不整合を避けるためです。

よくある質問

Q1 延長オプションの行使が合理的に確実とまでは言えないが、実際には15年使うつもりです。リース期間は10年、資産除去債務は15年後としてよいですか

結論として、この組み合わせは説明が可能な場合があります。適用指針の結論の背景では、借手のリース期間は経営者の意図のみによって決まるものではなく、実際の使用見込期間と一致しないことがありうる旨が説明されています。合理的に確実という判断の閾値は、発生する可能性の方が高いという水準より高く設定されているため、実際の使用見込みが15年であっても、リース期間が10年にとどまることは制度上ありえます。

ただし、この説明を採る場合、なぜ15年使う見込みなのに合理的に確実とは言えないのかを、逆方向から説明する必要が生じます。詳しくは、リース期間の方が短い場合を扱った記事で扱います。

Q2 リース期間を15年としたのに、資産除去債務を計上していません。問題ですか

原状回復義務が契約で要求されているのであれば、期間の長短にかかわらず債務は存在します。計上していないこと自体が論点になります。計上を要しない場合の要件は限られており、別記事で詳しく整理しています。

Q3 造作を建物附属設備として計上している場合も、同じ話になりますか

期間の整合性という論点は同じです。ただし、除去費用資産の費用配分期間が変わります。使用権資産に加算した場合はリース期間、建物附属設備に加算した場合は当該建物附属設備の残存耐用年数です。どちらに加算するかで償却期間が変わるため、期間の整合性を検討する前に、加算先の方針を固めておく必要があります。

Q4 監査人に「両方とも15年にそろえてください」と言われました。従うべきですか

類型AからCに該当する事実があるのであれば、そろえる必要はありません。そろえるべきだという指摘は、多くの場合、差異の理由が説明されていないことに向けられています。まず事実を整理して提示し、そのうえで議論するのが順序です。

Q5 期間の差が1年程度でも説明が必要ですか

金額的な影響が乏しければ、詳細な説明が求められない場合もあります。ただし、差があること自体は監査人の目に留まります。差の理由を一行で書き添えておくだけで、往査時のやり取りは大きく減ります。

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🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、会計基準・適用指針および公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は今後の実務対応報告等により補足される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、監査人・専門家にご確認ください。

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