リース期間と資産除去債務の履行時期が一致する場合は?整合を作る6手順

借手のリース期間と、資産除去債務の履行見込時期が一致している。新リース会計基準の適用作業のなかで、この状態にたどり着けたなら、論点の大半は片づいています。ただし、一致していること自体が説明になるわけではありません。監査で問われるのは、一致という結果ではなく、その一致が同じ事実と仮定から導かれたものかどうかです。

本記事では、リース期間と資産除去債務の履行見込時期が一致する場合を取り上げ、何と何がそろっていれば整合しているといえるのか、その状態をどう作り、どう文書に残すのかを、会計基準と適用指針の規定に沿って整理します。あわせて、一致が後から崩れる場面と、そのときの対応も扱います。

期間が一致している状態開始日7年後10年後解約不能期間 7年延長 3年(加算)借手のリース期間 10年資産除去債務の履行見込 10年後終点がそろう。ただし、そろえた過程が問われる

図1 リース期間と履行見込時期が一致している状態

「一致している」とは、何がそろっている状態か

期間が一致しているという言い方は曖昧です。実務で確認すべきものは四つあり、そのすべてがそろって初めて整合しているといえます。

そろえる対象 そろっている状態 根拠
1 判断の基礎となる事実 リース期間の判断と除去の見積りが、同じ契約条項、同じ事業計画、同じ拠点方針に基づいている 企業会計基準第34号 第31項、企業会計基準第18号 第6項
2 期間の終点 借手のリース期間の満了時点と、原状回復を履行すると見込む時点が同じ 同上
3 資産の費用配分期間 除去費用を加算した資産の残存耐用年数が、履行見込時期までの期間と一致している 企業会計基準第18号 第7項、企業会計基準第34号 第38項
4 割引率の期間 割引率が、履行見込時期までの期間に対応する無リスクの税引前の利率である 企業会計基準第18号 第6項

とくに見落とされやすいのが3です。期間の終点がそろっていても、除去費用の加算先が建物附属設備であり、その残存耐用年数がリース期間と異なっていれば、費用配分は履行時期と一致しません。加算先の選択が期間の整合性に跳ね返ってくるため、加算先の方針と期間の判断は同時に固める必要があります。

整合が取れている場合の会計処理を、数値で確認する

前提を置いて、10年間の動きを追います。

前提 内容
契約 解約不能期間7年、借手の申出による3年間の延長オプション。延長時の賃料は据置き
リース期間 造作投資の規模、移転コスト、事業計画上の位置づけから、延長オプションの行使が合理的に確実と判断し、10年
原状回復義務 退去時にスケルトン返還。割引前の見積工事費40,000千円
除去の見込時期 リース期間の満了時である10年後
割引率 10年に対応する無リスクの税引前の利率 年1.2%
加算先 使用権資産

資産除去債務の計上額は、40,000千円を10年、年1.2%で割り引いた約35,500千円です。同額が使用権資産に加算されます。新リース会計基準では、使用権資産の計上額の構成要素として資産除去債務に対応する除去費用が明示されています。

企業会計基準第34号 第33項 借手は、リース開始日に、第34項に従い算定された額によりリース負債を計上する。また、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上する。

使用権資産の償却は、所有権移転外リースであれば借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとします(同基準 第38項)。したがって除去費用35,500千円は10年で配分され、年間約3,550千円が償却費に含まれます。一方、資産除去債務には時の経過による調整額が加算され、その発生時の費用として処理されます(企業会計基準第18号 第9項)。10年目には債務残高が割引前の見積額である40,000千円に到達します。

時点 使用権資産のうち除去費用部分 資産除去債務 その期の費用
開始日 約35,500千円 約35,500千円 なし
5年目末 約17,750千円 約37,700千円 償却費約3,550千円+利息費用
10年目末(履行前) ゼロ 約40,000千円 償却費約3,550千円+利息費用
履行時 該当なし 取崩し 実際の支出額との差額のみ

数値は説明のための仮設例です。実際の計算では、割引率は履行見込時期までの期間に対応する利回りを用い、利息費用は各期首の債務残高に割引率を乗じて算定します。

この形が理想的である理由は、履行時に損益へ落ちるのが実際の支出額と見積額の差額だけになるからです。期間がずれていると、資産の償却が先に終わったり、償却が残ったまま債務を履行したりして、費用の期間帰属が事業の実態から離れていきます。

期間が一致している場合の残高推移0年5年10年使用権資産のうち除去費用部分資産除去債務償却完了と履行が同じ時点資産だけが残る区間も、債務だけが残る区間も生じない

図2 償却完了と債務の履行が同じ時点に来る

終点はそろっているのに、整合していない三つの落とし穴

リース期間の満了時点と原状回復の時期が同じであっても、その先の処理でずれが生じることがあります。実務で頻出する三つを挙げます。

終点が同じでも整合しない三つの型落とし穴1加算先が建物附属設備でその耐用年数がリース期間と違う費用配分期間がずれる落とし穴2割引率が履行までの期間に対応していない(過去の率の流用)計上額が過大・過小になる落とし穴3除去義務の範囲とリースの単位が対応していない一部だけ期間が合わない終点の一致は必要条件にすぎず、費用配分期間・割引率・単位の三点まで確認して初めて整合する

図3 終点が同じでも整合しない三つの型

落とし穴1 加算先の耐用年数がリース期間と違う

除去費用の費用配分期間は、履行見込時期そのものではなく、関連する有形固定資産の残存耐用年数です。除去費用を建物附属設備に加算しており、その耐用年数を法定耐用年数のまま15年としている場合、リース期間が10年で除去も10年後であっても、除去費用の配分は15年で行われることになります。10年目に債務を履行しても、除去費用の未配分残高が残ります。

賃借建物に施した造作の耐用年数は、その造作の使用可能期間として合理的に見積もった年数によります。使用可能期間が賃借期間に規定されるのであれば、耐用年数もそれに対応するはずです。加算先を建物附属設備とする方針を採る場合は、耐用年数の設定そのものを併せて点検してください。

落とし穴2 割引率が履行までの期間に対応していない

資産除去債務は、割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額で算定します(企業会計基準第18号 第6項)。割引率は無リスクの税引前の利率であり、履行までの期間に対応するものを用います。リース期間の判断を見直して履行見込時期を10年後に変更したにもかかわらず、以前の5年に対応する利率をそのまま使っている、という誤りが起こりがちです。期間を動かしたら、割引率も併せて更新するという手順を、計算シートの手続に組み込んでおくのが確実です。

落とし穴3 除去義務の範囲とリースの単位が対応していない

2フロアを別契約で借りており、リース期間はフロアごとに判断しているのに、資産除去債務は建物単位でまとめて見積もっている、という状態です。合計の終点はそろって見えても、フロアごとに見ると期間が合っていません。除去義務の範囲は契約単位で識別し、リースの単位と対応づけてください。契約が一本でも、区画ごとに返還時期が異なる定めがあるなら、その区分に沿って見積ります。

一致していても監査で問われること

期間がそろっている案件でも、監査人の質問がゼロになるわけではありません。資産除去債務は会計上の見積りであり、監査人は監査基準報告書540に従って、経営者が用いた仮定の合理性を評価し、経営者の偏向が存在する兆候の有無を検討します。そろっているという結果は、そろえるために判断を動かした可能性も含んでいるからです。

実際に想定される質問は次のとおりです。

質問 用意しておく回答
どちらを先に決めたのか リース期間の判断を先に確定し、その結論を除去の見積りに反映した、という順序を、決裁の日付とともに示す。逆の順序であっても、事実に基づいていれば問題はないが、順序は明示する
延長オプションを加算した根拠は 適用指針第33号 第17項が挙げる考慮要素に一つずつ対応させる。造作投資の規模と未償却残高、移転に要するコスト、代替物件の状況、事業内容に照らした当該拠点の重要性を、金額や資料で裏づける
延長を加算しなければ資産除去債務は増えるが、影響額は把握しているか リース期間を7年とした場合の資産除去債務の金額を試算して示す。判断が結果ありきでないことの傍証になる
実際の使用見込期間も10年か 一致しているのであればそう述べる。使用見込みがそれより長い場合は、なぜ延長オプションを追加で加算しないのかを説明する
除去費用の見積額の根拠は 施工業者の見積書、社内標準単価、過去の類似物件の実績を示す。適用指針第21号 第3項が挙げる基礎情報に沿って整理する

最も避けたいのは、期間をそろえること自体を目的にした判断です。たとえば、延長オプションの行使が合理的に確実とはいえない状況で、資産除去債務の見積りと形をそろえるためにリース期間へ加算する、といった順序です。合理的に確実という水準は、発生する可能性の方が高いという水準よりも高く設定されているため、実態が伴わないまま加算すると、リース負債と使用権資産が過大に計上されます。整合は目的ではなく、正しい判断を積み上げた結果として現れるものです。

一致している状態を作るための手順

期間をそろえるには、判断の順序を固定するのが確実です。次の順で進めると、後戻りが起きにくくなります。

手順 やること 残す証憑
1 契約の棚卸し 解約不能期間、延長・解約オプションの条件、原状回復条項の範囲と水準を、物件ごとに一覧化する 契約書の該当条項の写し、一覧表
2 リース期間の判断 解約不能期間に、行使が合理的に確実な延長オプションの対象期間を加える。考慮要素ごとに理由を記述する 判断シート、決裁記録
3 除去義務の識別 法令または契約で要求される除去の義務が存在するか、その範囲はどこまでかを確定する 条項の写し、法務の見解
4 履行見込時期の決定 2の結論を出発点に、退去する時点を確定する。差異がある場合はその理由を明記する 見積書、拠点方針の資料
5 加算先と償却期間の決定 除去費用を使用権資産と建物附属設備のどちらに加算するかを方針として決め、償却期間が4と整合することを確認する 会計方針の文書、固定資産台帳
6 割引率の決定 4の期間に対応する無リスクの税引前の利率を採用し、出所を記録する 利回りの出典、計算シート

この6ステップを物件ごとに一枚のシートにまとめておくと、監査人からの質問はこのシートを提示するだけで大半が解消します。物件数が多い場合は、契約条件が同質のグループごとに方針を定め、個別に判断するのは例外的な物件だけに絞る運用が現実的です。

一致が後から崩れる場面

一度そろえても、次の場面では期間の関係が変わります。いずれも、資産除去債務の見積りを見直す機会でもあります。

場面 起きること 対応
拠点方針が変わった 延長の見込みが変わり、リース期間の判断の前提が崩れる リース期間を再評価し、除去の見込時期も同時に見直す
契約条件が変更された 期間や賃料が変わり、リース期間の判断をやり直す必要が生じる 変更時点の条件で判断し直し、除去の見積りへ反映する
原状回復の水準が変わった 貸主との協議で返還水準が変わり、割引前の将来キャッシュ・フローが増減する 見積りの変更として処理する
工事単価が大きく動いた 割引前の将来キャッシュ・フローが変動する 重要な見積りの変更に該当するかを判定する

割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の調整額は、資産除去債務の帳簿価額および関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理します(企業会計基準第18号 第10項)。適用する割引率は、キャッシュ・フローが増加する場合はその時点の割引率、減少する場合は負債計上時の割引率です(同基準 第11項)。

実務では、期末ごとに前掲の6ステップのシートを見直し、1から4のいずれかに変化があった物件だけを再計算の対象とする運用が効率的です。全物件を毎期作り直す必要はありません。

よくある質問

Q1 期間が一致していれば、注記は簡素で足りますか

注記の要否は期間の一致とは別の話です。資産除去債務の注記では、その内容、支出発生までの見込期間、適用した割引率などの前提条件を記載します(企業会計基準第18号 第16項)。一致していることは、見込期間の記載がリース期間と読み合わせて理解しやすくなる、という利点にとどまります。

Q2 物件ごとに一致を確認するのが大変です。グループでまとめられませんか

契約条件と原状回復条項が同質であれば、グループ単位で方針を定める運用は現実的です。適用指針第21号 第3項は、割引前の将来キャッシュ・フローの見積りにあたって基礎とする情報を挙げており、同種の資産について平均的な処理作業に対する価格の見積りを用いる考え方が示されています。ただし、条件が明らかに異なる物件は個別に判断してください。

Q3 リース期間が10年で、実際には15年使うつもりです。除去の見込みは何年後にすべきですか

資産除去債務の見積りは最善の見積りであり、リース期間の判断とは物差しが異なります。使用見込みが15年であることに合理的な裏づけがあるなら、履行見込時期を15年後とすることはありえます。ただしその場合、期間は一致しなくなり、なぜ15年使う見込みでありながら延長オプションを加算しないのかを説明する必要が生じます。

Q4 少額リースの簡便的な取扱いを適用した物件でも、期間の整合は必要ですか

使用権資産を計上しない場合、償却期間という論点自体が生じません。ただし原状回復義務があるなら資産除去債務は存在し、その履行見込時期の見積りは必要です。除去費用の加算先も、使用権資産以外に求めることになります。

Q5 監査人から「順序を示してほしい」と言われる意味が分かりません

期間が一致している場合、判断がどちらか一方に引きずられた可能性を排除できないためです。リース期間を先に確定し、その結論を除去の見積りに反映した、という順序が記録に残っていれば、この論点は解消します。決裁の日付が入った判断シートが最も分かりやすい証憑になります。

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🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、会計基準・適用指針および公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は今後の実務対応報告等により補足される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、監査人・専門家にご確認ください。

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