「新リース会計基準で、結局リース負債にはどこまでのリース料を含めればよいのか」──IPO準備会社や上場企業の経理・管理部門、監査対応のご担当者から、第4部に入って最も多くいただく質問です。基本賃料は当然として、共益費、歩合賃料、CPI連動の改定条項、残価保証、購入オプション、中途解約の違約金。契約書に並ぶこれらの支払を、含める/含めないで仕分けなければ計算は一歩も進みません。
結論から申し上げると、借手のリース料は5つの構成要素に限定されています(基準35項)。そして変動リース料は「何に連動するか」で扱いが正反対に分かれます。本記事では、公認会計士・税理士として監査対応の現場で実際に問われる論点を交えながら、自作の数値例とチェックリストで整理します。
図 リース料に含める支払の判定
この記事の見出し
結論:借手のリース料は5つの構成要素に限られる
「借手のリース料」とは、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、次の5つで構成されます(基準19項、基準35項)。
借手のリース料の5要素と、そこに含まれない支払
③④⑤はいずれも条件付きの支払です。③は残価保証(基準22項)が付されている場合に借手が支払うと見込む金額、④は借手が行使することが合理的に確実である購入オプションの行使価額、⑤は借手のリース期間に借手による解約オプションの行使を反映している場合の違約金です(基準35項(3)〜(5))。
変動リース料は「何に連動するか」で扱いが正反対になる
「借手の変動リース料」とは、リース開始日後に発生する事象又は状況の変化(時の経過を除く)により変動する部分をいい、指数又はレートに応じて決まるものと、それ以外のものにより構成されます(基準21項)。ここが第16回の最大の山場です。
3つの類型と負債性の考え方
変動リース料には、将来の一定の指標に連動して支払額が変動するものがあり、具体的には、①指数又はレートに応じて決まるもの(例:消費者物価指数の変動に連動するリース料)、②原資産から得られる借手の業績に連動するもの(例:売上高の所定の割合を基礎とするリース料)、③原資産の使用に連動するもの(例:使用量が所定の値を超えた場合に追加のリース料が生じるもの)が考えられるとされています(基準BC41項)。
①は、借手の将来の活動に左右されず、金額に不確実性があっても支払義務を回避できないため負債の定義を満たすとして、リース負債の計上額に含められます(基準BC42項)。他方②③は、借手の将来の活動を通じて支払義務を回避できることなどを考慮し、リース負債の計上額に含めないこととされました(基準BC42項)。「不確実だから外す」のではなく「回避できるかどうか」で線が引かれている点が理解の勘所です。
変動リース料は連動先で判定が分かれ、②③は発生時費用となる
| 類型 | リース負債への算入 | 費用の計上時期 |
|---|---|---|
| ①指数・レート連動(基準BC41項(1)) | 含める(基準35項(2)) | 使用権資産の償却と利息費用として期間配分 |
| ②業績連動(基準BC41項(2)) | 含めない(基準BC42項) | 当該変動リース料の発生時に損益に計上(指針51項) |
| ③使用量連動(基準BC41項(3)) | 含めない(基準BC42項) | 当該変動リース料の発生時に損益に計上(指針51項) |
| 実質的に支払不可避・変動可能性が解消され固定化 | 含める(基準BC43項) | ①と同様に期間配分 |
「指数又はレート」の範囲と、開始日の測定
実務で見落とされやすいのが範囲の広さです。指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料には、市場における賃料の変動を反映するように当事者間の協議をもって見直されることが契約条件で定められているリース料が含まれます(指針24項)。オフィス賃貸借の「賃料改定協議条項」が該当し得るということであり、不動産契約の棚卸しでは必ず確認すべき条項です。
測定方法は、リース開始日にはリース期間にわたりリース開始日現在の指数又はレートに基づきリース料を算定します(指針25項)。ただし、合理的な根拠をもって将来の変動を見積ることができる場合には、将来の変動を見積り、当該見積られた指数又はレートに基づき算定することを、リースごとにリース開始日に選択することができます(指針26項)。原則法(開始日固定)を採る限り、将来のCPI上昇を織り込む必要はありません。
残価保証・購入オプション・違約金の実務論点
残価保証とは、リース終了時に原資産の価値が契約上取り決めた保証価額に満たない場合、その不足額について貸手と関連のない者が貸手に対して支払う義務を課せられる条件をいいます(基準22項)。借手のリース料に含めるのは保証価額そのものではなく「支払見込額」です(基準35項(3))。審議の過程では、見積りが困難である場合に残価保証額を用いる簡便的な取扱いも検討されましたが、設けないこととされました(基準BC44項)。
購入オプションについては、実質的にリース期間を延長する最終的なオプションと考えられることから、借手のリース期間の判断と整合的に、行使することが合理的に確実である場合の行使価額をリース負債に含めます(基準35項(4)、基準BC45項)。名目的価額や著しく有利な価額でなくとも、行使が合理的に確実と判断されれば含まれる点が、従来の割安購入選択権の発想との大きな違いです。違約金も同様に、借手のリース期間に解約オプションの行使が反映されている場合に含めます(基準35項(5)、基準BC46項)。
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自社対応が大変になるのはどこか
この論点の負荷は、計算そのものより「契約書のどの条項がどの構成要素に当たるかを、全契約について仕分ける」作業に集中します。基本賃料と共益費が一本の請求書にまとまっている、賃料改定協議条項の有無が契約ごとに違う、といった状況は珍しくありません。
監査対応で実際に問われるのは、多くの場合「なぜその金額を含めた/含めなかったのか」の説明可能性です。契約書の条項番号と5要素との対応表、変動リース料の連動先の判定根拠、残価保証の支払見込額の見積プロセスを文書として残しているかどうかで、往査時の負荷が大きく変わります。IPO準備の局面では、この仕分けルールを社内規程やマニュアルに落とし込み、新規契約でも同じ判断が再現されるようにしておくことが求められます。
数値例:オフィス賃貸借で何がリース負債に入るか
前提(自作の設例です)
本社オフィスの賃貸借。リース期間5年、年1回期末払い、借手の追加借入利子率は年4.0%。中途解約権・購入オプション・残価保証はいずれもなし。契約上の支払は次の3種類とします。
(a) 基本賃料 月額2,000千円(年24,000千円)。市場賃料の変動を反映する協議見直し条項あり
(b) 歩合賃料 テナント区画の売上高の1%
(c) 共益費 月額200千円(年2,400千円)。リースを構成しない部分に該当
(a)は指数又はレートに応じて決まる変動リース料に該当し得るものとして扱い(指針24項)、リース開始日現在の水準で5年間一定として算定します(指針25項)。(b)は業績連動であるためリース負債に含めず、発生時に損益に計上します(指針51項)。(c)はリースを構成しない部分に配分する対価であり、借手のリース料には含まれません(基準19項)。ただし、借手が区分せず合わせて会計処理することを選択した場合は含まれます(基準19項ただし書き)。
年金現価係数は5年・年4.0%で4.4518となり、リース負債は24,000千円×4.4518=106,844千円と算定されます。区分せず共益費を合算する選択をした場合は26,400千円×4.4518=117,528千円となり、差額は10,684千円です。
| 項目 | 区分して処理(原則) | 合算を選択した場合 |
|---|---|---|
| リース負債の基礎となる年額 | 24,000千円(基本賃料のみ) | 26,400千円(基本賃料+共益費) |
| リース負債の当初計上額 | 106,844千円 | 117,528千円 |
| 歩合賃料の扱い | いずれも負債に含めず、発生時に損益(指針51項) | |
| 影響 | 負債は小さいが区分の作業負荷が大きい | 作業は軽いが負債が10,684千円増える |
合算処理は簡便に見えますが、リース負債が膨らむ方向に働きます。自己資本比率など財務指標への影響を踏まえた選択が必要です。
リース料の洗い出しチェックリスト
- 契約書上の支払条項をすべて列挙し、5要素(基準35項(1)〜(5))のいずれに当たるか対応付けたか
- 賃料改定の協議条項がある契約を抽出し、指数・レート連動の該当性を検討したか(指針24項)
- 歩合賃料・従量課金を業績連動/使用量連動として区分し、発生時費用の処理を整理したか(指針51項)
- 形式上は変動でも支払が不可避、又は途中で固定化される条項がないか確認したか(基準BC43項)
- 残価保証がある契約について、保証価額ではなく支払見込額の見積根拠を作成したか(基準35項(3))
- 購入オプションの行使が合理的に確実かの判定と、行使価額の把握を行ったか(基準35項(4))
- 解約オプションをリース期間に反映した契約で、違約金の金額を把握したか(基準35項(5))
- 共益費・保守料などリースを構成しない部分の対価を独立価格の比率で配分したか(指針11項)
- リース開始日までに支払ったリース料、付随費用、受取済みのリース・インセンティブを使用権資産側で調整したか(基準33項)
よくあるご質問
借手のリース料は、原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払として5つの構成要素が定められています(基準35項)。差入時に返還が予定されている預け金の性格を持つものは、この5要素のいずれにも直接該当しないと整理されることが多いと考えられます。契約ごとに返還条件を確認し、償却されて返還されない部分がないかを個別に検討することが実務的です。
原則としては、リース開始日現在の指数又はレートに基づいて算定します(指針25項)。合理的な根拠をもって将来の変動を見積ることができる場合には、将来の変動を見積る方法をリースごとにリース開始日に選択することができます(指針26項)。原則法を採る場合、開始日時点の水準で固定して差し支えありません。
理由は不確実性ではなく、借手の将来の活動を通じて支払義務を回避できることにあります(基準BC42項)。同じく金額が不確実でも、指数・レート連動のリース料は支払義務を回避できないためリース負債に含められます(基準BC42項)。
残価保証に係る借手による支払見込額が借手のリース料を構成するため、残価保証額を残存価額とする従来の取扱いは廃止されています(基準BC48項)。所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースでは、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額はゼロとします(基準38項)。
まとめ
借手のリース料は5要素に限定されており(基準35項)、変動リース料は連動先によって算入の可否が分かれます(基準BC41項、基準BC42項)。実質的に支払が不可避なもの、途中で固定化されるものは固定リース料と同様に含める点(基準BC43項)、賃料改定の協議条項が指数・レート連動に含まれ得る点(指針24項)が、契約の棚卸しで特に取りこぼしやすい論点です。次回は「割引率の決め方」を取り上げ、この5要素をどのレートで現在価値に割り引くかを整理します。
本連載の全体像は新リース会計基準の連載目次に、リース期間の判断枠組みは「合理的に確実」の判断基準を解説した回に、リースを構成しない部分の区分はリース部分と非リース部分の区分の回にまとめています。
契約書の条項を5要素へ対応付ける作業は、契約数が増えるほど判断のばらつきが生じやすい領域です。公認会計士・税理士が、監査対応を見据えた判定ルールの整備から支援します。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の契約に対する会計処理の結論を示すものではありません。最終的な会計処理及び経営判断にあたっては、顧問の公認会計士・税理士等の専門家にご相談ください。
参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」19項、21項、22項、33項、35項、38項、BC41項、BC42項、BC43項、BC44項、BC45項、BC46項、BC48項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」11項、24項、25項、26項、51項
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
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