ストックオプションを発行したのに、会社の損金にならない。人件費として費用計上したのに、申告書で加算することになる。上場準備の過程でこの話を聞いて、腑に落ちない気持ちになる経営者は少なくありません。
この結論は、法人税法第54条の2という一本の条文から出てきます。しかもこの条文は、会社が損金にできるかどうかを、付与された個人の側で課税が生じたかどうかで決めるという、少し変わったつくりをしています。税制適格と非適格の分岐が、そのまま会社の損金の分岐になるのはそのためです。
この記事では、会社側の損金算入の時期と可否を条文で確認したうえで、税制適格の要件、役員に付与する場合の追加の関門、必要な手続を整理します。役員給与全体の見取り図は役員給与の税務 完全ガイドにまとめています。
この記事の見出し
🧭 会社の損金と個人の課税は裏表になっている
法人税法第54条の2は、新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等を定めた条文です。第1項は、譲渡制限付新株予約権のうち一定のもの(条文はこれを特定新株予約権と呼びます)が交付されたときの取扱いを定めています。
当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の政令で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額を生ずべき事由(次項において「給与等課税事由」という。)が生じた日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。(法人税法第54条の2第1項)
役務の提供を受けた日を、給与等課税事由が生じた日に置き換えるという定めです。付与した日でも、権利が確定した日でもありません。個人の側で課税のもとになる金額が生じた日、すなわち通常は権利行使の日です。
そして第2項が、会社にとっての分かれ目になります。
前項に規定する場合において、同項の個人において同項の役務の提供につき給与等課税事由が生じないときは、当該役務の提供を受ける内国法人の当該役務の提供を受けたことによる費用の額又は当該役務の全部若しくは一部の提供を受けられなかったことによる損失の額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。(法人税法第54条の2第2項)
個人に課税が生じないなら、会社も損金にできない。ここが結論の中心です。会計上は株式報酬費用を計上していても、税務では加算することになります。
なお、ここでいう特定新株予約権とは、譲渡制限付新株予約権のうち、役務の提供の対価として生じる債権と相殺されるもの、またはそれ以外で実質的に役務の提供の対価と認められるものをいいます(同項第1号、第2号)。
法人税法第54条の2、租税特別措置法第29条の2、国税庁タックスアンサーNo.1540およびNo.1543にもとづく整理です。
📋 税制非適格の場合はどうなるか
国税庁タックスアンサーNo.1543は、税制非適格ストックオプションについて、権利を行使したときと株式を譲渡したときの2つの段階で経済的利益に課税されるとしています。
権利行使時の所得区分は、株式の発行法人と権利を与えられた人との関係によって決まります。雇用契約またはこれに類する関係に基因して権利が与えられた場合は給与所得、その人の営む業務に関連して与えられたと認められる場合は事業所得または雑所得です。退職後の行使などで職務の遂行と関連を有しない利益が供与されていると認められるときは雑所得になるとされています。
金額の計算は次のとおりです。
| 段階 | 所得金額の計算(タックスアンサーNo.1543) |
|---|---|
| 権利行使時 | (権利行使時株価 - 権利行使価格)× 株式数 |
| 株式譲渡時 | (売却価格 - 権利行使時株価)× 株式数 |
個人にこの給与所得等が生じるということは、法人税法第54条の2第1項にいう給与等課税事由が生じるということです。したがって会社は、その日に役務の提供を受けたものとして費用を認識できます。給与所得に当たる場合は源泉徴収の対象にもなりますから、行使が集中する時期には資金と事務の両面で準備が必要です。
⚖️ 税制適格の場合は損金にならない
租税特別措置法第29条の2は、一定の要件を満たす新株予約権について、権利行使による経済的利益を課税しないこととしています。条文の見出しは、特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等です。
行使時に課税されない代わりに、株式を譲渡したときにまとめて課税されます。タックスアンサーNo.1540は、この場合の株式の取得価額は権利行使時の時価ではなく払込価額(権利行使価額)とされ、権利行使時の経済的利益については課税を繰り延べ、譲渡時にキャピタルゲインと合わせて申告分離課税の対象とするものだと説明しています。
会社の側から見ると、行使時に給与等課税事由が生じていません。よって第54条の2第2項により、費用の額は損金の額に算入されません。付与を受けた人にとって有利な制度が、会社にとっては損金を失う制度になる。これが税制適格と非適格の最大の違いです。
この二者択一は、どちらが得かという単純な話ではありません。適格にすれば個人の税負担は軽くなり、採用や引き留めの効果は高まります。非適格にすれば会社に損金が生まれますが、行使時に個人へ重い課税と源泉徴収が発生します。誰に、何のために付与するのかを先に決めることが出発点です。
法人税法第54条の2第1項および第2項にもとづく判定です。会計上の費用計上の有無とは切り離して考えます。
この構造は、二重の恩典を与えないという考え方によるものと説明されます。個人が課税を繰り延べられるなら、会社が同時に損金を得ることはできない。制度を設計するときは、この一体性を前提に、会社と個人のどちらの負担を軽くしたいのかを先に決めておくとぶれません。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
📝 税制適格とされるための主な要件
租税特別措置法第29条の2第1項は、対象となる人の範囲を定めたうえで、各号に要件を並べています。まず対象者から、付与決議の日において一定数以上の株式を有していた大口株主と、その特別関係者が除かれています。大口株主に当たる株式数は施行令に定めがあり、上場されている株式等は発行済株式の総数の10分の1を超える数、それ以外の株式は3分の1を超える数とされています。
| 号 | 要件(条文の内容) |
|---|---|
| 第1号 行使できる期間 | 付与決議の日後2年を経過した日から、付与決議の日後10年を経過する日までの間に行使すること。付与決議の日において設立の日以後の期間が5年未満であることその他の財務省令で定める要件を満たす株式会社の場合は、15年を経過する日まで |
| 第2号 年間の権利行使価額 | 行使に係る権利行使価額の年間の合計額が、1,200万円を超えないこと |
| 第3号 権利行使価額の水準 | 1株当たりの権利行使価額が、契約を締結した株式会社の株式の、その契約の締結の時における1株当たりの価額に相当する金額以上であること |
| 第4号 譲渡の禁止 | その新株予約権について、譲渡をしてはならないこととされていること |
| 第5号 交付の方法 | 行使に係る株式の交付が、付与決議がされた会社法第238条第1項に定める事項に反しないで行われるものであること |
| 第6号 株式の管理 | 金融商品取引業者等との取決めに従って振替口座簿への記載等、保管の委託または管理等信託がされること(イ)、または、発行会社との取決めに従って発行会社により管理がされること(ロ) |
条文の内容を要約しています。このほかにも要件が定められており、正確な表現は記事末尾の参考からご確認ください。
第2号の年間の限度額については、国税庁のストックオプションに対する課税(Q&A)において、一定の会社に該当する場合に権利行使価額を一定の割合で除して判定する取扱いが示されています。自社が該当するかどうかで結論が変わりますので、付与の設計にあたっては最新のQ&Aと条文をあわせて確認してください。
🗓 役員に付与するときは、もう一つの関門がある
ここまでは、付与を受ける人が従業員でも役員でも同じ話です。役員に付与する場合には、これに役員給与の規制が重なります。損金にできるのは、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与の3類型に当てはまるものだけだからです。
新株予約権による給与は、法人税法第34条第1項第2号の事前確定届出給与に位置づけられています。その号は、確定した数の新株予約権や特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与を対象としたうえで、次の要件を付けています。
| 第34条第1項第2号 | 内容 |
|---|---|
| イ 届出 | 一定の場合に、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長に、その定めの内容に関する届出をしていること。株式または新株予約権による給与で、将来の役務の提供に係るものとして政令で定めるものは、この届出の対象から除かれている |
| ハ 適格新株予約権 | 新株予約権を交付する場合、その新株予約権が、その行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権(その内国法人または関係法人が発行したものに限る)であること |
同号のロは株式を交付する場合の要件であるため、ここでは掲げていません。
ここでいう適格新株予約権は、租税特別措置法第29条の2の税制適格ストックオプションとはまったく別の概念です。前者は法人税法が役員給与の損金算入のために置いた要件、後者は個人の課税を繰り延べるための要件です。名前が似ているため、社内の説明資料で取り違えが起きやすいところです。
ハの要件は、その行使により市場価格のある株式が交付されることを求めています。上場前の会社が役員に新株予約権を交付する場合、この点をどう満たすかが実務上の論点になります。上場を目指す会社では、付与の時期と上場のタイミングの関係を早い段階で確認しておく必要があります。
左右は別々の制度です。左を満たすと右の損金はなくなるという関係にある点が、設計を難しくしています。
📄 忘れやすい手続と期限
ストックオプションは、発行して終わりではありません。法人税と所得税の双方で、書類の提出が求められます。
| 手続 | 内容と期限 |
|---|---|
| 明細書の添付(法人税法第54条の2第4項) | 特定新株予約権の1個当たりの交付の時の価額、交付数、その事業年度において行使された数その他の状況に関する明細書を、その事業年度の確定申告書に添付する |
| 調書の提出(租税特別措置法施行令第19条の3) | 特定新株予約権を付与する株式会社は、付与した取締役等または特定従事者の氏名および住所、権利行使価額などを記載した調書を、付与した日の属する年の翌年1月31日までに、本店の所在地の所轄税務署長に提出する |
| 誓約書等の受領(租税特別措置法第29条の2第2項) | 権利者が行使をする際、大口株主等に該当しなかったことを誓約する書面、その年における他の特定新株予約権の行使の有無等を記載した書面を、株式会社に提出していること |
このほか、第54条の2第3項は、特定新株予約権が消滅したときのその消滅による利益の額を益金の額に算入しないと定めています。行使されないまま失効した場合に、新株予約権戻入益が課税されないことの根拠になります。
❓ よくある質問
会計上は費用を計上しています。税務でも同じでよいですか。
税制適格の場合は同じになりません。会計上の株式報酬費用は、法人税法第54条の2第2項により損金の額に算入されないため、申告書で加算することになります。税制非適格の場合は、給与等課税事由が生じた日、通常は権利行使の日に役務の提供を受けたものとして扱われますので、会計上の費用計上時期とのずれが生じます。
従業員に付与する場合も、役員給与の規制がかかりますか。
法人税法第34条は役員給与についての規定ですから、使用人に対する付与には及びません。ただし、法人税法第54条の2は役員か使用人かを区別していませんので、税制適格であれば会社が損金にできないという結論は同じです。
権利行使価額を1円にすると、どうなりますか。
租税特別措置法第29条の2第1項第3号は、1株当たりの権利行使価額が、契約の締結の時における1株当たりの価額に相当する金額以上であることを求めています。これを下回る設計は、この要件を満たしません。
付与した年度に損金にできますか。
できません。法人税法第54条の2第1項は、給与等課税事由が生じた日において役務の提供を受けたものとすると定めています。付与の日でも、権利確定の日でもありません。
付与した新株予約権が行使されないまま失効しました。
法人税法第54条の2第3項は、特定新株予約権が消滅したときの消滅による利益の額を、益金の額に算入しないとしています。会計上は利益として処理されても、税務上は益金にならない場面です。
月次の記帳チェックから決算・申告、税務調査への備えまで、公認会計士・税理士が一貫して対応します。今の処理が正しいかどうかの確認だけでも承ります。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
📄 まとめ
ストックオプションの損金算入は、法人税法第54条の2が決めています。損金にできる時期は、給与等課税事由が生じた日、通常は権利行使の日です。そして、個人に課税が生じないときは、会社も損金にできません。
租税特別措置法第29条の2の要件を満たす税制適格ストックオプションは、行使時に課税されない代わりに、会社の損金も生まれません。非適格であれば会社に損金が生まれますが、行使時に個人へ課税と源泉徴収が及びます。どちらを選ぶかは税額の比較だけでは決まらず、誰に何のために付与するのかという設計の問題です。
役員に付与する場合は、これに加えて法人税法第34条第1項第2号の要件が重なります。とくに、行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権であることを求めるハの要件は、上場前の会社にとって重い制約です。付与の設計は、条文に立ち返って一つずつ確かめながら進めることをおすすめします。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第34条第1項第2号、第54条、第54条の2
- 租税特別措置法(e-Gov法令検索) 第29条の2
- No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について(国税庁タックスアンサー)
- No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合(国税庁タックスアンサー)
- ストックオプションに対する課税(Q&A)(情報)(国税庁)
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。