法人契約の生命保険はどこまで損金?資産計上ルールの全体像

保険会社の提案書には、保険料の何割が損金になるかが大きく書かれています。ところが決算のときに顧問税理士から、この保険は資産計上ですと言われる。同じ商品なのに説明が食い違うのは、法人税基本通達が令和元年に大きく改められ、解約返戻率の水準で扱いが分かれるようになったからです。

法人契約の生命保険の税務は、商品名ではなく、保険の種類と、受取人が誰かと、解約返戻率がどのくらいかの3つで決まります。この3つを順に確かめれば、提案書を見た段階で処理の見当がつきます。

この記事では、養老保険、定期保険と第三分野保険、そして相当多額の前払部分がある場合の3つを通達にそって整理し、契約を途中で変えたときの扱いと、役員だけを被保険者とする場合の落とし穴までを扱います。役員給与全体の見取り図は役員給与の税務 完全ガイドにまとめています。

🧭 まず保険の種類を分ける

法人税基本通達は、第9章第3節に保険料等の定めを置いています。9-3-4が養老保険、9-3-5が定期保険および第三分野保険、9-3-5の2が定期保険等のうち相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合です。

養老保険は、被保険者の死亡または生存を保険事故とする生命保険をいいます。定期保険は、一定期間内における被保険者の死亡を保険事故とする生命保険です。第三分野保険は、保険業法第3条第4項第2号に掲げる保険をいい、国税庁のタックスアンサーNo.5364は、被保険者が病気や怪我等の一定の事由に該当した場合に保険金または給付金が支払われる保険を例に挙げています。

どの通達を見るかを決める3つの問い 問1 生存保険金があるか(養老保険かどうか) 問2 保険金や給付金の受取人は誰か 問3 保険期間3年以上で最高解約返戻率50パーセント超か 養老保険は9-3-4 定期・第三分野は9-3-5 前払多額なら9-3-5の2

保険料の税務上の扱いは、商品名ではなくこの3つで決まります。特約に係る保険料は、原則として本体とは別に判定します。

📋 養老保険は受取人の組合せで3通り

法人税基本通達9-3-4は、養老保険の保険料について、死亡保険金と生存保険金の受取人の組合せに応じて3つの取扱いを定めています。

受取人の組合せ 支払った保険料の額の取扱い
死亡保険金・生存保険金とも法人 保険事故の発生または保険契約の解除もしくは失効により保険契約が終了する時までは、資産に計上する
死亡保険金・生存保険金とも被保険者またはその遺族 その役員または使用人に対する給与とする
死亡保険金は被保険者の遺族、生存保険金は法人 2分の1に相当する金額は資産に計上し、残額は期間の経過に応じて損金の額に算入する。ただし、役員または部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む)のみを被保険者としている場合には、その残額は給与とする

いわゆる2分の1損金の福利厚生プランは、3つめの組合せです。ここで見落とされやすいのが、ただし書です。全社員を対象とせず、役員や一部の管理職だけを被保険者にしていると、損金にするつもりだった残額が給与になります。

個人の側も同じ構造です。所得税基本通達36-31は、死亡保険金の受取人が遺族、生存保険金の受取人が法人である場合について、原則として経済的利益はないものとしつつ、役員または特定の使用人のみを被保険者としている場合には、支払った保険料の2分の1に相当する金額を給与等とすると定めています。同通達の注は、加入資格の有無や保険金額に格差がある場合であっても、職種、年齢、勤続年数等に応ずる合理的な基準により普遍的に設けられた格差であると認められるときの扱いに触れています。

⚖️ 定期保険と第三分野保険の原則

9-3-5は、定期保険と第三分野保険の保険料について、次のように定めています。9-3-5の2の適用を受けるものは除かれます。

項目 取扱い
保険金または給付金の受取人が法人 原則として、期間の経過に応じて損金の額に算入する
受取人が被保険者またはその遺族 原則として、期間の経過に応じて損金の額に算入する。ただし、役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合には、その保険料の額は給与とする
保険期間が終身である第三分野保険 保険期間の開始の日から被保険者の年齢が116歳に達する日までを、計算上の保険期間とする
解約返戻金相当額のない短期払のもの その事業年度に支払った保険料の額が一の被保険者につき30万円以下であるものについて、支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める

最後の行は実務でよく使われます。ごく少額の払戻金のある契約を含み、保険料の払込期間が保険期間より短いものに限られます。一の被保険者について2以上の契約に加入している場合は、それぞれについて支払った保険料の額の合計額で判定します。

定期付養老保険と特約はどうなるか

養老保険に定期保険または第三分野保険を付した定期付養老保険等については、9-3-6が定めています。保険証券等で養老保険に係る保険料と定期保険等に係る保険料が区分されている場合は、それぞれについて9-3-4、9-3-5または9-3-5の2の例により処理します。区分されていない場合は、その保険料の額の全体について9-3-4の例によります。

特約に係る保険料については、9-3-6の2が、特約の内容に応じて9-3-4、9-3-5または9-3-5の2の例によるとしています。

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🗓 相当多額の前払部分がある場合の資産計上

ここが令和元年の改正の中心です。9-3-5の2は、保険期間が3年以上の定期保険または第三分野保険で、最高解約返戻率が50パーセントを超えるものを対象としています。ただし、最高解約返戻率が70パーセント以下で、かつ年換算保険料相当額が30万円以下の保険については、9-3-5の例によることとされています。

最高解約返戻率とは、保険期間を通じて、解約返戻率が最も高い割合となる期間におけるその割合をいいます。解約返戻率は、契約時に契約者に示された解約返戻金相当額を、それを受けることとなるまでの間に支払うこととなる保険料の額の合計額で除した割合です。年換算保険料相当額は、保険料の総額を保険期間の年数で除した金額をいいます。

最高解約返戻率の区分 資産計上期間 資産計上額 取崩期間
50パーセント超70パーセント以下 保険期間の開始の日から、保険期間の100分の40相当期間を経過する日まで 当期分支払保険料の額に100分の40を乗じた金額 保険期間の100分の75相当期間の経過後から、保険期間の終了の日まで
70パーセント超85パーセント以下 同上 当期分支払保険料の額に100分の60を乗じた金額 同上
85パーセント超 保険期間の開始の日から、最高解約返戻率となる期間の終了の日まで(一定の場合は所定の読み替えがある) 当期分支払保険料の額に最高解約返戻率の100分の70を乗じた金額(開始の日から10年を経過する日までは100分の90) 解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間の経過後から、保険期間の終了の日まで

通達の内容を要約しています。85パーセント超の区分には、資産計上期間が5年未満となる場合の読み替えなどの定めがあります。正確な表現は記事末尾の参考からご確認ください。

数字を入れてみます。保険期間20年、年間保険料300万円、最高解約返戻率80パーセントの契約とします。最高解約返戻率が70パーセント超85パーセント以下の区分ですから、資産計上期間は保険期間の40パーセントにあたる8年、資産計上額は当期分支払保険料の60パーセントにあたる180万円です。残りの120万円が毎年の損金になります。

取崩期間は、保険期間の75パーセントにあたる15年を過ぎてからの5年間です。8年分の資産計上額の累計1,440万円を5年で均等に取り崩しますから、16年目から20年目は毎年288万円が損金に加わります。20年を通した損金の合計は、支払った保険料の合計6,000万円と一致します。次の図は、この流れを時間軸で並べたものです。

この計算からわかるとおり、保険で減らせるのは各年度の所得であって、期間全体の所得の合計ではありません。前半に資産計上した分は後半に戻ってきます。解約返戻金を受け取る年度に資産計上額との差額が一度に益金となる点まで含めて、出口の年度をどうするかを決めてから加入するかどうかを考えることになります。

最高解約返戻率80パーセント・保険期間20年の場合 1年目から8年目 資産計上期間 9年目から15年目 全額を損金 16年目から20年目 取崩期間 保険期間の40パーセント 75パーセント経過後 資産計上180万円 損金120万円 損金300万円 損金300万円 取崩し288万円 20年間の損金の合計は、支払った保険料6,000万円と一致する 年間保険料300万円 資産計上額の累計1,440万円 取崩期間5年

数値は説明のための仮の例です。実際の資産計上期間と取崩期間は、契約ごとの解約返戻率の推移によって変わります。

📄 契約を途中で変えたとき

加入したあとの変更にも定めがあります。

場面 通達の定め
払済保険への変更(9-3-7の2) 原則として、変更時における解約返戻金相当額と、その保険契約により資産に計上している保険料の額との差額を、変更した日の属する事業年度の益金の額または損金の額に算入する。既に加入している生命保険の保険料の全額が給与となる場合は、この限りでない
同種類の払済保険への変更(9-3-7の2の注1) 養老保険、終身保険、定期保険、第三分野保険および年金保険から同種類の払済保険に変更した場合に、本文の取扱いを適用せずに既往の資産計上額を契約が終了するまで計上しているときは、これを認める
契約者配当(9-3-8) 通知を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入する。ただし、その生命保険契約が9-3-4の(1)に定める場合に該当するときは、資産に計上している保険料の額から控除することができる

払済保険への変更は、保険料の支払をやめる手段として提案されることがありますが、資産計上額との差額が一度に益金になる可能性があります。変更の前に、資産計上額と解約返戻金相当額の両方を確認しておくことが必要です。

⚠️ 適用時期と、古い契約の扱い

ここまでの取扱いは、令和元年6月28日付の法令解釈通達によるものです。国税庁は、定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQで、適用時期を次のように示しています。

対象 改正後の取扱いが適用される契約
定期保険または第三分野保険の保険料 令和元年7月8日以後の契約に係るもの
解約返戻金相当額のない短期払の定期保険または第三分野保険の保険料 令和元年10月8日以後の契約に係るもの

つまり、それ以前に契約したものは、契約当時の取扱いが続いています。長期平準定期保険や逓増定期保険を古くから継続している会社では、契約日ごとに適用される取扱いが異なることになります。決算のたびに同じ処理を繰り返すのではなく、契約日と証券の内容を一覧にして管理しておくと、担当者が代わっても揺れません。

なお、会社が役員等を被保険者および保険金受取人とする生命保険契約を締結して保険料を負担した場合、その負担した保険料の額は、法人税基本通達9-2-9の(12)により役員に対する経済的利益に当たります。経済的利益は役員給与に含まれますので、損金になるかどうかは役員給与の3類型に照らして判定することになります。

保険料が給与に振り替わるのはどんなときか 給与にならない場合 保険金の受取人が法人である 被保険者を全社員としている 加入資格や保険金額の格差が 職種・年齢・勤続年数等による 合理的な基準で設けられている 通達の本文どおりに処理する 給与とされる場合 受取人が被保険者またはその遺族 かつ、役員または部課長その他 特定の使用人のみを被保険者と している(親族を含む) 9-3-4の(3)、9-3-5の(2)のただし書 役員給与の3類型で損金性を判定

加入対象者を定めた規程と、実際の加入者一覧が、この判定を裏づける資料になります。

❓ よくある質問

保険料の全額が損金になると説明されました。信じてよいですか。

保険期間が3年以上で最高解約返戻率が50パーセントを超えるものは、9-3-5の2により一定額の資産計上が必要です。全額損金となるのは、9-3-5に当てはまる場合、または最高解約返戻率が70パーセント以下かつ年換算保険料相当額が30万円以下で9-3-5の例によることができる場合などです。提案書の解約返戻率の推移表を見て、最も高い割合がどのくらいかを確かめてください。

役員だけを対象にした保険は、必ず給与になりますか。

すべてではありません。9-3-4の(3)と9-3-5の(2)には、役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合のただし書があり、その場合に給与とされます。保険金の受取人が法人である契約は、このただし書の対象ではありません。

年換算保険料相当額はどう計算しますか。

9-3-5の2の注が、保険の保険料の総額を保険期間の年数で除した金額と定めています。月払や半年払であっても、総額を年数で割って判定します。

解約したときはどうなりますか。

受け取った解約返戻金と、資産に計上している保険料の額との差額が、その事業年度の益金または損金になります。資産計上額が積み上がっている時期に解約すると差益が大きくなりますので、解約の時期は退職金の支給時期など損金が立つ年度と合わせて考えるのが実務です。

特約の保険料も同じ判定でよいですか。

9-3-6の2により、特約の内容に応じて9-3-4、9-3-5または9-3-5の2の例によります。本体の保険料と特約の保険料が区分されているかどうかを、保険証券で確認してください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

📄 まとめ

法人契約の生命保険は、保険の種類、受取人の組合せ、最高解約返戻率の3つで扱いが決まります。養老保険は9-3-4で3通り、定期保険と第三分野保険は9-3-5が原則で、保険期間3年以上かつ最高解約返戻率50パーセント超のものは9-3-5の2により資産計上が必要になります。

資産計上した分は取崩期間に戻ってきますから、保険で動かせるのは所得の年度配分であって、総額ではありません。加入するかどうかを考えるときは、入口の損金割合ではなく、解約や満期を迎える出口の年度に何が起きるかから逆算してください。

そして、役員や一部の管理職だけを対象にしている場合は、損金にするつもりだった部分が給与に振り替わります。加入の対象者を定めた規程が残っているかどうかが、この論点では決定的です。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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