役員退職金はいつ損金になる?株主総会決議日と支払日の選択

役員退職金は、金額が大きいぶん、どの事業年度の損金になるかで税額の着地が大きく変わります。「今期は利益が出たから今期に落としたい」「来期の役員報酬の改定と合わせたい」といったご相談は、決算期が近づくと必ず出てきます。

ところが、この論点は「決議した期」と「支払った期」のどちらでもよい、という説明で止まってしまいがちです。実際には、どちらを選ぶかによって必要な処理が違い、選べない場面もあります。とくに、金額を先に内定して未払金に計上する処理は認められていません。

この記事では、法人税基本通達と国税庁のタックスアンサーで確認できた範囲にしぼって、役員退職金の損金算入時期の原則と例外、決算期をまたぐときの考え方、そして間違えやすい未払金の扱いを整理します。役員給与の全体像は役員給与の税務 完全ガイドにまとめています。

🧭 原則と例外の2本立てになっている

役員退職金の損金算入時期は、法人税基本通達9-2-28が定めています。原則は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度です。そのうえで、ただし書として、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度において、その支払った額につき損金経理をした場合には、これを認めるとされています。

退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。(法人税基本通達9-2-28)

国税庁のタックスアンサーNo.5208も同じ内容を、原則として株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度となる、ただし実際に支払った事業年度において損金経理をした場合はその事業年度に算入することも認められる、と説明しています。

前提として、退職給与であれば金額の多寡を問わず損金になるわけではありません。法人税法第34条第2項は、役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は損金の額に算入しないと定めており、退職給与についても法人税法施行令第70条第2号が、業務に従事した期間、退職の事情、同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らして判断すると規定しています。時期の話は、金額が認められることを前提とした次の論点です。

ここで押さえておきたいのが、2つの違いです。原則のほうは、確定した日が来れば、実際の支払いを待たずにその事業年度の損金になります。一方、例外のほうは「支払った」ことと「損金経理をした」ことの両方がそろってはじめて使えます。どちらも使えるから自由に選べる、という場面もあれば、片方しか成り立たない場面もあります。

区分 いつの事業年度の損金になるか 必要になること
原則 株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度 金額が具体的に確定していること。支払いは済んでいなくてもよい
例外(ただし書) その退職給与の額を支払った日の属する事業年度 実際に支払っていること、かつ、その支払った額につき損金経理をしていること
役員退職金の損金算入時期は2本立て 法人税基本通達9-2-28 原則 額が具体的に確定した日の 属する事業年度 支払いは済んでいなくてよい 例外(ただし書) 支払った日の属する事業年度 支払い+損金経理が必要 どちらか片方では使えない

原則は確定した日、例外は支払った日。例外は損金経理が条件になります。

🧮 決算期をまたぐときにどちらを選ぶか

2つが分かれるのは、決議の日と支払いの日が別の事業年度になるときです。3月決算の会社で、X2年2月20日の臨時株主総会で退職金の額が具体的に確定し、資金の都合でX2年5月10日に支払ったとします。

処理の選び方 損金になる事業年度 成り立つ条件
原則によった場合 X2年3月期(決議で額が確定したX2年2月20日を含む事業年度) X2年3月期の決算で未払金を計上し、費用として処理していること
例外によった場合 X3年3月期(実際に支払ったX2年5月10日を含む事業年度) X3年3月期にその支払った額につき損金経理をしていること
どちらもしなかった場合 いずれの期でも損金にならない可能性がある 会計上の処理を伴わないまま申告書だけで減算することはできない

この設例で仮に退職金が5,000万円だとすると、どちらの期に落とすかで5,000万円分の所得がX2年3月期とX3年3月期のあいだを動きます。実効税率をおおまかに30パーセントとみれば、その期の税額に1,500万円ほどの差が生じる計算です。決算期をまたぐかどうかだけで、1年分の資金繰りが変わる規模になります。だからこそ、退任の時期と総会の日程を決める段階で、どちらの期に落とすかを先に決めておく価値があります。

3月決算の会社で決議と支払いが期をまたぐ場合 X2年3月31日 決算日 X2年2月20日 臨時株主総会で額が確定 原則によるとこちらの期 X2年5月10日 退職金を実際に支払う 例外によるとこちらの期 X2年3月期 X3年3月期

決議の日と支払いの日が決算日をまたぐと、選べる余地が生まれます。

なお、通達は「株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日」としています。会社法第361条第1項は、取締役の報酬等のうち額が確定しているものについてはその額を、定款に定めていないときは株主総会の決議によって定めると規定しており、実務では総会で総額の枠だけを決めて具体的な金額の決定を取締役会などに委ねる例が多く見られます。この場合に額が具体的に確定する日がいつかは、決議の内容と社内の決定手続によって変わります。通達が「決議等」と書いていることからも、総会の日を機械的に当てはめるのではなく、どの決定で金額が具体的に固まったのかを議事録で示せるようにしておくことが大切です。

⚠️ 内定した額を未払金に計上しても損金にならない

ここが最も間違えやすいところです。タックスアンサーNo.5208は、注書きで次の点をはっきり示しています。退職金の額が具体的に確定する事業年度より前の事業年度において、取締役会で内定した金額を損金経理により未払金に計上した場合であっても、未払金に計上した時点での損金の額に算入することはできません。

「今期は利益が出そうだから、来期に予定している社長の退職金を今期の未払金に立てておこう」という処理は認められません。額が具体的に確定していない段階での見積計上だからです。この処理は税務調査で発見されやすく、修正申告となれば過少申告加算税と延滞税の負担も生じます。

逆に言えば、今期に落としたいのであれば、今期のうちに額を具体的に確定させる決議を済ませることが必要です。決算日の直前に慌てて決めるのではなく、退任の意思確認、役員退職慰労金規程の確認、金額の算定根拠の整理、総会の招集という一連の手順を、決算日から逆算して組んでおきます。金額の算定根拠については、あらかじめ役員退職慰労金規程を整備し、退任する役員の在任期間や職責をどう反映したのかを説明できる状態にしておくと、確定の事実そのものも示しやすくなります。

なお、内定額の未払金計上が否定されるのは、その時点では債務として金額が固まっていないからです。株主総会や取締役会での決定を経ずに社内で「だいたいこのくらい」と見込んだ金額は、会社が支払わなければならない額として確定していません。ここは、決算賞与や未払費用の債務確定の議論と同じ発想です。会計上は保守的に見積もって費用を立てたくなる場面でも、税務上は確定したかどうかで線が引かれます。

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💴 退職年金と分掌変更には別のルールがある

一時金として支払う退職金とは別に、退職年金の形をとる場合には、損金算入時期が変わります。法人が退職年金制度を実施している場合に支給する退職年金は、その年金を支給すべき事業年度が損金算入時期となります。したがって、退職した時に年金の総額を計算して未払金に計上しても、損金の額に算入することはできません。これは通達9-2-29とタックスアンサーNo.5208の注2で確認できます。

また、分掌変更にともなって退職給与を支給する場合には、通達9-2-32の注が別の制約を置いています。同通達の本文がいう「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない、とされています。分掌変更のケースでは、損金算入時期の話に入る前に、そもそも退職給与として取り扱えるかどうかの段階で未払金がハードルになるということです。この論点は「分掌変更による役員退職金は認められる?打切支給の3要件」で詳しく扱います。

場面 取扱い
通常の退職にともなう一時金 原則は額が具体的に確定した日の属する事業年度。支払った事業年度に損金経理をした場合はその事業年度も認められる
確定する前に内定額を未払金計上 未払金に計上した時点では損金に算入できない
退職年金 その年金を支給すべき事業年度が損金算入時期。退職時に総額を未払金計上しても損金にならない
分掌変更にともなう支給 退職給与として取り扱えるかの判断の段階で、未払金等に計上した額は原則として本文の対象に含まれない

🧾 損金算入の時期と源泉徴収の時期はずれる

会社側の損金算入時期と、受け取る側の源泉徴収の時期は、別の話です。所得税法第199条は、居住者に対し国内において退職手当等の支払をする者は、その支払の際、その退職手当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならないと定めています。徴収のきっかけは「支払の際」です。

つまり、原則によって決議の日の属する事業年度に損金を計上した場合、その時点ではまだ支払いがありませんから、源泉徴収も納付も生じません。実際に支払ったときに源泉徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに納付します。決算で費用を立てた月に納付書を作ってしまうと、納付のタイミングを誤ることになります。

また、退職所得は他の所得と分離して課税され、受け取る側が「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しているかどうかで源泉徴収の計算方法が変わります。会社としては、支払いの前にこの申告書を受け取り、保管しておく実務が必要です。提出がないまま支払ってしまうと、あとから精算のやり取りが必要になり、受け取る側にも手間をかけることになります。

会社の損金算入と、受け取る側の源泉徴収は別々に動く 会社の損金算入 きっかけは、額が具体的に 確定した日(原則) または支払った日に 損金経理をした場合 法基通9-2-28 受け取る側の源泉徴収 きっかけは、退職手当等の 支払の際 納付は徴収の日の属する月の 翌月10日まで 所得税法第199条

決議の期に費用を立てても、支払いがなければ源泉徴収も納付も生じません。

📝 判断のために残しておく書類

どちらの期に落とすかを選んだ以上、その根拠を後から示せるようにしておく必要があります。調査で問われるのは、いつ額が具体的に確定したのか、いつ支払ったのか、そして会計上どう処理したのかの3点です。

示すこと 残しておきたいもの
額が具体的に確定した日 株主総会議事録、総会から委任を受けた取締役会の議事録、役員退職慰労金規程、金額の算定根拠を示した資料
実際に支払った日 振込の記録、支払明細、分割払いの場合はその都度の記録
会計上の処理 費用計上した仕訳と総勘定元帳、未払金の残高推移、申告書別表との対応
源泉徴収 退職所得の受給に関する申告書、退職所得の源泉徴収票、納付の記録
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❓ よくある質問

決議した期と支払った期のどちらでも自由に選べますか。

2つの期にまたがる場合には、選べる余地があります。ただし、支払った事業年度に落とすには、実際に支払っていることに加えて、その支払った額につき損金経理をしていることが条件です。会計上の処理をしないまま、申告書だけで調整することはできません。

資金がないので、決議だけして支払いは翌期にします。今期の損金にできますか。

額が具体的に確定していれば、原則により確定した日の属する事業年度の損金になります。この場合は決算で未払金を計上し、費用として処理しておくことになります。ただし分掌変更にともなう支給の場合は、通達9-2-32の注により未払金等に計上した額が原則として本文の対象に含まれないため、同じようには考えられません。

取締役会で内定した金額を、先に未払金として計上できますか。

できません。国税庁のタックスアンサーは、額が具体的に確定する事業年度より前の事業年度において、取締役会で内定した金額を損金経理により未払金に計上した場合であっても、未払金に計上した時点での損金の額に算入することはできないと明記しています。

株主総会で総額だけを決めて、金額は取締役会に一任しました。確定した日はいつですか。

通達は「株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日」としており、決議等という書き方をしています。総会の日を機械的に当てはめるのではなく、どの決定で金額が具体的に固まったのかを議事録で示せる状態にしておくことが大切です。委任の範囲や決定の手続は会社ごとに異なるため、個別の確認をおすすめします。

退職金を分割で支払う場合、損金算入時期はどうなりますか。

原則によれば、額が具体的に確定した日の属する事業年度に全額が損金になります。支払った事業年度に損金経理する例外を使う場合は、支払った額について処理することになるため、分割の各回がそれぞれの事業年度に対応することになります。どちらの考え方をとるかを先に決め、会計処理と一致させておいてください。

📄 まとめ

役員退職金の損金算入時期は、法人税基本通達9-2-28により、原則が株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度、例外が支払った日の属する事業年度に損金経理をした場合です。決議と支払いが決算日をまたぐときにだけ、選ぶ余地が生まれます。

一方で、額が確定する前に内定額を未払金に計上する処理は認められず、退職年金は支給すべき事業年度が損金算入時期になり、分掌変更にともなう支給では未払金計上そのものが原則として通達の対象から外れます。会社側の損金算入時期と源泉徴収の時期が別に動く点にも注意が必要です。退任の日程を決める段階でご相談いただければ、どの期に落とすかを含めて設計をお手伝いします。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

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