期の途中で大きな利益が出た。自己株式を買いたい、あるいは配当を出したい。ところが前期末の分配可能額では足りない。こういうときに使うのが臨時計算書類です。
ただ、作れば自動的に配当できるようになるわけではありません。会社法461条2項2号は「441条4項の承認を受けた場合」と明記しており、承認まで通してはじめて分配可能額に反映されます。この記事では、条文の順序どおりに手続を確認し、実務でつまずくところを整理します。
- 臨時計算書類とは何を作るものか(441条1項、会社計算規則60条)
- 監査と承認がどこまで必要か(441条2項・3項・4項)
- 分配可能額のどこに効くのか(461条2項2号イ・ロ、5号)
- 株主総会の承認を省略できる5つの要件(会社計算規則135条)
- 中間配当とは別の制度であること
- 自己株式の取得にも同じ枠が効くこと
この記事の見出し
📌 結論 作るだけでは足りない。承認まで通して初めて効く
先に結論を書きます。臨時計算書類を作成しただけでは、分配可能額は増えません。会社法461条2項2号は、臨時計算書類につき441条4項の承認(同項ただし書に規定する場合は同条3項の承認)を受けた場合における額を加算すると定めています。承認が条件です。
加算されるのは2つです。イが、臨時会計年度の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額。会社計算規則156条が、これを臨時計算書類の損益計算書に計上された当期純損益金額(零以上の額に限る)としています。ロが、臨時会計年度内に自己株式を処分した場合の当該自己株式の対価の額です。
逆に損失が出ていれば減算されます。461条2項5号と会社計算規則157条が、零から当期純損益金額(零未満の額に限る)を減じて得た額を減算項目としています。臨時決算をすれば枠が増える、というものではありません。
📖 臨時計算書類とは何を作るのか
作成義務があるわけではありません。分配可能額を増やしたいときに、会社が自分の判断で作るものです。
会社法441条1項は、株式会社が最終事業年度の直後の事業年度に属する一定の日における財産の状況を把握するため、法務省令で定めるところにより臨時計算書類を作成することができる、としています。この「一定の日」を条文上、臨時決算日と呼びます。
作るのは2つです。1号が臨時決算日における貸借対照表。2号が臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの期間に係る損益計算書です。キャッシュ・フロー計算書や株主資本等変動計算書は含まれません。
対象期間は会社計算規則が定めている
会社計算規則60条1項は、臨時計算書類の作成に係る期間を臨時会計年度と定義し、当該事業年度の前事業年度の末日の翌日(前事業年度がない場合は成立の日)から臨時決算日までの期間としています。2項が、臨時会計年度に係る会計帳簿に基づいて作成しなければならないとしています。
3項には設立初年度の手当てがあります。最終事業年度がないときは、成立の日から最初の事業年度が終結する日までの間、当該最初の事業年度に属する一定の日を臨時決算日とみなして441条を適用することができます。
作成義務ではない
条文の文言は「作成することができる」です。義務ではありません。分配可能額を増やしたいという目的があって初めて作る書類です。逆に言えば、その目的がないのに作っても、コストがかかるだけになります。
臨時決算日をいつに置くか、監査と承認のスケジュールをどう組むか、株主総会の承認を省略できるか。ここが決まらないと、配当や自己株式取得の実行日が決まりません。自社の機関設計と決算体制をお聞きしたうえで、条文に沿った手続の流れと日程案をお返しします。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
🔁 手続の順序
作っただけでは分配可能額は増えません。461条2項2号は「441条4項の承認を受けた場合」と明記しています。ここが最大の落とし穴です。
監査が要る会社と要らない会社
会社法441条2項は、436条1項に規定する監査役設置会社または会計監査人設置会社においては、法務省令で定めるところにより、監査役または会計監査人(監査等委員会設置会社は監査等委員会および会計監査人、指名委員会等設置会社は監査委員会および会計監査人)の監査を受けなければならないとしています。
ここで参照されている436条1項は、監査役設置会社について、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く、という括弧書きを置いています。監査役も会計監査人も置いていない会社について、臨時計算書類の監査を義務づける条文は確認できませんでした。
取締役会の承認
441条3項は、取締役会設置会社では、臨時計算書類(2項の適用がある場合は監査を受けたもの)が取締役会の承認を受けなければならないとしています。監査を受けてから取締役会、という順序です。
株主総会の承認
441条4項は、次の各号に掲げる株式会社においては、当該各号に定める臨時計算書類は株主総会の承認を受けなければならないとしています。1号が436条1項に規定する監査役設置会社または会計監査人設置会社(いずれも取締役会設置会社を除く)で、2項の監査を受けた臨時計算書類。2号が取締役会設置会社で、3項の承認を受けた臨時計算書類。3号がそれ以外の株式会社で、1項の臨時計算書類です。
そして同項にはただし書があり、臨時計算書類が会社の財産および損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合は、この限りでないとされています。この法務省令が会社計算規則135条です。
✅ 株主総会の承認を省略できるか
1号が会計監査報告を前提にしているため、実際に省略できるのは会計監査人設置会社かつ取締役会設置会社に限られる読みになります。
会社計算規則135条は、会社法439条および441条4項(あわせて承認特則規定と定義しています)に規定する法務省令で定める要件として、5つの号を掲げ、そのいずれにも該当することを求めています。監査役設置会社であって監査役会設置会社でない株式会社については3号が除かれます。
1号は、会計監査報告の内容に会社計算規則126条1項2号イに定める事項が含まれていることです。126条1項2号イは、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に準拠して適正に表示していると認められる旨、という趣旨の記載を定めています。臨時計算書類の場合はこれに相当する事項を含むとされています。実質的に無限定適正意見であることを求めているわけです。
4号は、当該計算関係書類が会社計算規則132条3項の規定により監査を受けたものとみなされたものでないことです。132条3項は、期限までに監査報告の通知がない場合に監査を受けたものとみなす擬制を置いています。この擬制で通ったものは、承認省略の要件を満たしません。5号は取締役会を設置していることです。
実際に省略できるのはどんな会社か
1号が会計監査報告を前提にしているため、会計監査人を置いていない会社は要件を満たしようがありません。5号と合わせると、実際に省略できるのは会計監査人設置会社かつ取締役会設置会社ということになります。上場会社や上場準備が進んだ会社であれば射程に入りますが、そうでない会社は臨時株主総会を開く前提でスケジュールを組んでください。
📅 監査報告の期限
会社計算規則121条1項は、会社法436条1項および2項、441条2項ならびに444条4項の規定による監査について、同編の定めるところによるとしています。つまり、臨時計算書類の監査手続は、通常の計算書類や連結計算書類と同じ枠組みが適用されます。
会計監査報告の通知期限は130条です。同条1項2号が臨時計算書類について定めており、イが当該臨時計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日、ロが特定取締役、特定監査役および会計監査人の間で合意により定めた日があるときはその日で、いずれか遅い日とされています。
実務上は、ロの合意によって期間を短縮することになります。臨時決算は目的があって行うものなので、4週間を待っていると実行したい日に間に合いません。会計監査人と早い段階でスケジュールを詰めてください。
監査役の監査報告
会計監査人非設置会社における監査役の監査報告については、会社計算規則124条1項が通知期限を定めており、同項2号が臨時計算書類についてのものです。会計監査人設置会社の監査役等の通知期限は132条1項で、3項に前述のみなし規定があります。
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💴 自己株式の取得にも同じ枠が効く
会社法461条1項は、同項各号に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないとしています。各号には、譲渡制限株式の買取り、156条1項の決定に基づく取得、157条1項の決定に基づく取得、173条1項による取得、176条1項の請求に基づく買取り、197条3項による買取り、234条4項による買取り、そして8号として剰余金の配当が並びます。
つまり、自己株式の取得も剰余金の配当も、同じ分配可能額という枠を使います。臨時計算書類の承認による加算は、この枠を増やすものですから、配当だけでなく自己株式の取得にも効きます。
純資産300万円の制限
会社法458条は、453条から前条までの規定は、株式会社の純資産額が300万円を下回る場合には適用しないとしています。剰余金の配当についての適用除外です。自己株式の取得については、461条2項6号を受けた会社計算規則158条6号が、300万円に相当する額から一定の額を控除して得た額を減算項目としており、別のルートで手当てされています。この2つを混同しないでください。
2回以上作った場合
会社計算規則158条5号は、最終事業年度の末日後に2以上の臨時計算書類を作成した場合における最終の臨時計算書類以外の臨時計算書類に係る461条2項2号に掲げる額を、減算項目としています。複数回作った場合、最新のものだけが効く構造です。なお、臨時計算書類を年に何回まで作れるかという上限を定めた条文は確認できませんでした。
🔀 中間配当との違い
混同されがちですが、条文上は別々の制度です。中間配当をしたいから臨時決算が要る、という関係にはありません。
臨時計算書類と中間配当は、条文上まったく別の制度です。会社法454条5項は、取締役会設置会社が、一事業年度の途中において1回に限り取締役会の決議によって中間配当をすることができる旨を定款で定めることができるとしています。この場合、454条1項の「株主総会」を「取締役会」と読み替えます。
中間配当は、配当の決定機関を取締役会にする制度であって、分配可能額そのものを増やすものではありません。前期末の分配可能額の範囲でしか配当できません。期中の利益を原資にしたいのであれば、臨時計算書類のほうが必要になります。
459条の定款の定め
会社法459条1項は、会計監査人設置会社であって一定の要件を満たすものが、剰余金の配当等を取締役会が定めることができる旨を定款で定めることができるとしています。同条2項は、この定款の定めが、最終事業年度に係る計算書類が法令および定款に従い正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合に限り効力を有するとしています。ここでも会社計算規則135条の承認特則規定が効いてきます。
🏢 上場準備会社での使いどころ
上場準備の局面では、資本政策の一環として自己株式の取得を検討することがあります。創業メンバーや初期の投資家から株式を買い戻す場面です。ところが前期末の分配可能額が小さく、必要な金額が取得できないということが起こります。
期中に大きな利益が出ているのであれば、臨時計算書類が選択肢になります。ただし、会計監査人を置いていない段階では株主総会の承認を省略できず、監査役設置会社であれば監査も必要です。手続に時間がかかることを織り込んでスケジュールを引いてください。
もうひとつ注意すべきは、臨時計算書類の作成が決算体制の実力を映すことです。期中で貸借対照表と損益計算書を締められるかどうかは、月次決算の精度そのものです。臨時決算が回らない会社は、上場後の四半期開示や半期報告書でも苦労します。逆に言えば、臨時決算を1回やってみることが決算早期化の訓練になります。
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🧾 税務との関係
会社法上の臨時決算と、法人税法上の仮決算は別のものです。法人税法72条の条見出しは「仮決算をした場合の中間申告書の記載事項等」で、内国法人である普通法人が事業年度開始後6か月間を一事業年度とみなして所得金額または欠損金額を計算した場合に、所定の事項を記載した中間申告書を提出できると定めています。
条文の中に会社法の臨時計算書類や臨時決算への言及はありません。臨時決算をすればそのまま仮決算による中間申告に使える、という対応関係を定めた規定は確認できませんでした。両方を行う場合でも、それぞれの目的に沿って別に整理してください。
配当を実行する場合の源泉徴収については、所得税法181条1項が、配当等の支払をする者は支払の際に所得税を徴収し、徴収の日の属する月の翌月10日までに納付しなければならないとしています。2項には、支払の確定した日から1年を経過した日までに支払がされない場合に、その1年を経過した日において支払があったものとみなすという定めがあります。
❓ よくある質問
A. できません。会社法461条2項2号は441条4項の承認(ただし書の場合は同条3項の承認)を受けた場合と定めています。承認を通してはじめて分配可能額に加算されます。
A. 441条2項は、436条1項に規定する監査役設置会社または会計監査人設置会社について監査を求めています。監査役も会計監査人も置いていない会社について監査を義務づける条文は確認できませんでした。
A. 441条4項ただし書と会社計算規則135条の5要件をすべて満たす場合に限られます。1号が会計監査報告を前提にし、5号が取締役会の設置を求めているため、実際は会計監査人設置会社かつ取締役会設置会社に限られる読みになります。
A. 別の制度です。中間配当(454条5項)は決定機関を取締役会にするもので、分配可能額を増やす効果はありません。期中の利益を原資にしたいのであれば臨時計算書類が必要です。
A. 損失が出ていれば461条2項5号により減算されます。分配可能額は減ります。目的が分配可能額の確保であれば、作る意味はありません。
A. 上限を定めた条文は確認できませんでした。会社計算規則158条5号が2以上の臨時計算書類を作成した場合を想定しており、複数回作れることは前提とされています。その場合、最終のもの以外は減算されます。
A. 使えます。461条1項は自己株式の取得と剰余金の配当を同じ分配可能額の規制に服させています。
A. 会社計算規則130条1項2号が、臨時計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日と、合意により定めた日のいずれか遅い日としています。実務では合意により短縮することになります。
A. 会社計算規則60条3項が、最終事業年度がないときの手当てを置いています。成立の日から最初の事業年度が終結する日までの間、当該最初の事業年度に属する一定の日を臨時決算日とみなして441条を適用できます。
📄 まとめ
臨時計算書類は、期中の利益を分配可能額に反映させるための制度です。会社法441条1項により、臨時決算日における貸借対照表と、期首から臨時決算日までの損益計算書を作成します。作成は任意です。
効果が生じるのは承認を受けたときです。461条2項2号イ・ロにより、臨時会計年度の利益と、期中に自己株式を処分した場合の対価の額が加算されます。損失が出ていれば5号により減算されます。株主総会の承認は、会社計算規則135条の5要件をすべて満たす場合に限り省略できます。
中間配当とは別の制度です。中間配当は決定機関を取締役会にするもので、分配可能額を増やす効果はありません。自己株式の取得にも同じ枠が効きます。手続に時間がかかるので、実行したい日から逆算してスケジュールを組んでください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 会社法 441条(臨時計算書類)、436条、444条、454条、458条、459条、461条
- 会社計算規則 60条(臨時計算書類)、121条、124条、126条、130条、132条、135条、156条、157条、158条
- 法人税法 71条(中間申告)、72条(仮決算をした場合の中間申告書の記載事項等)
- 所得税法 181条(源泉徴収義務)