新リース会計基準とIFRS16の違いは?日本基準独自の取扱いを解説

「新リース会計基準はIFRS第16号と同じもの?」「IFRSを適用しているグループの経理方針とどう擦り合わせる?」──IPO準備会社や上場企業の経理・管理部門の方から、公認会計士としてよくいただく質問です。親会社がIFRS任意適用というケースでは、日本基準との差異の整理は避けて通れません。

結論からいえば、新リース会計基準(企業会計基準第34号)の借手の会計処理はIFRS第16号と整合するよう開発されており、大枠は同じです。一方で、少額リースの簡便的取扱い、借地権に関する取扱い、表示・注記などには日本独自の定めが意図的に残されています。本記事では「何が同じで、何が違うのか」を条項ベースで整理します。

本記事は連載「新リース会計基準を基礎から実務まで」の第3回です。連載全体の一覧は連載目次(全30回)を、前回の単一モデルの解説は第2回:借手の「単一モデル」への転換をご覧ください。

結論:借手は「IFRS16と整合」、そのうえで日本独自の選択肢がある

新リース会計基準の開発にあたり、ASBJ(企業会計基準委員会)は、借手の費用配分の方法についてIFRS第16号との整合性を図ることを基本方針としました(基準BC13項(1))。ただし、IFRS第16号のすべての定めを取り入れるのではなく主要な定めの内容のみを取り入れることで、簡素で利便性が高く、かつIFRS任意適用企業がIFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても基本的に修正が不要となる会計基準とすることが目指されています(基準BC13項(1))。そのうえで、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いや経過的な措置を定めるなど、実務に配慮した方策を検討することとされました(基準BC13項(2))。

つまり「IFRS16の主要部分と同じ骨格+日本の実務向けの選択肢」という構造です。差異は「知らないと間違える論点」というよりも、「自社にとって有利・実務的な選択肢をどう使うか」という論点として現れます。

まず共通点──借手の基本モデルは同じ

借手の会計処理の骨格は、次のとおりIFRS第16号と共通です。

論点 両基準に共通する取扱い 根拠
計上する資産・負債 リース開始日にリース負債を計上し、これに前払リース料や付随費用等を加減算した額により使用権資産を計上する 基準33項
会計処理モデル ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかを問わず、減価償却費と利息相当額を計上する単一モデル 基準BC39項
短期リースの免除 リース期間が12か月以内で購入オプションを含まない「短期リース」はオフバランス処理が認められる 指針4項(2)、指針20項、指針BC38項
用語の定義 借手に関する用語の定義は、IFRS第16号から関連のあるものが取り込まれている 基準BC22項

日本基準が独自に残した・設けた主な取扱い

主な相違点を一覧にすると次のとおりです。それぞれ本文で解説します。

論点 新リース会計基準(日本) IFRS第16号
貸手の会計処理 収益認識会計基準との整合並びにリースの定義・リースの識別を除き、企業会計基準第13号を踏襲(基準BC61項) 従来基準から抜本改正されていない(基準BC13項)
少額リースの免除 費用処理基準額・300万円型・新品時少額型の複数ルートから選択(指針22項) 新品時5千米ドル以下程度の原資産が念頭(指針BC45項)
変動リース料(指数・レート) 開始日現在が原則だが将来変動の見積りを選択可(指針25項、指針26項) 開始日以降変動しないとみなして測定(指針BC46項)
使用権資産の表示 対応科目に含める方法か表示区分内で区分する方法(基準49項) 区分表示又は注記で開示(基準BC59項)
借手の注記 少額リース費用等の一部注記は取り入れず(基準BC67項) 借手の注記はより広範(基準BC67項)
借地権の設定に係る権利金等 使用権資産の取得価額に含め償却するのが原則。旧借地権・普通借地権は非償却を選択できる(指針27項) 借地権に固有の定めはない

(1)貸手の会計処理は現行基準を踏襲

IFRS第16号・Topic 842ともに貸手の会計処理には抜本的な改正が行われていないことから、日本基準でも、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除き、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲することとされました(基準BC13項、基準BC61項)。貸手側の実務への影響が借手側より限定的といわれるのはこのためです。

(2)連結財務諸表と個別財務諸表の両方に同一適用

連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理は同一であるべきとする基本的な考え方を覆すに値する事情は存在しないと判断され、新基準は両方に同様に適用されます(基準BC20項)。個別財務諸表もオンバランスの対象になるため、税務(申告調整)との関係が実務論点になります(連載第26回で扱う予定です)。

(3)少額リースの簡便的取扱いに「日本独自ルート」がある

ここが最も実務インパクトの大きい独自項目です。次の(1)と(2)のいずれかを満たす場合、借手は使用権資産及びリース負債を計上せず、リース料を原則定額法で費用計上できます(指針22項)。

ルート 対象となるリース 位置づけ・根拠
(1) 購入時費用処理の基準額以下 重要性が乏しい減価償却資産について購入時に費用処理する方法を採用している場合で、借手のリース料がその基準額以下のリース。基準額は、採用している基準額より利息相当額だけ高めに設定できる 指針22項(1)、同ただし書き
(2)① 契約1件当たりの金額に重要性が乏しい 企業の事業内容に照らして重要性が乏しく、かつリース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース 旧適用指針第16号の「リース料総額300万円以下」の判定方法の踏襲が目的(指針22項(2)①、指針BC43項)
(2)② 新品時の原資産の価値が少額 IFRS第16号と同様の方法を認めることを目的とした取扱い。IFRS第16号開発当時(2015年)の新品時5千米ドル以下程度の価値の原資産が念頭に置かれている。リース1件ごとに適用を選択できる 指針22項(2)②、指針BC45項

(2)①と(2)②はいずれかを選択し、首尾一貫して適用します(指針22項)。つまり「従来の300万円基準型」と「IFRS16型」を企業が選べる建付けであり、IFRS16にはない選択肢が用意されている点が日本基準の特徴です(指針BC41項、指針BC42項)。また、(2)①の判定の基礎となる対象期間は原則として借手のリース期間ですが、契約に定められた契約期間によることもでき、維持管理費用相当額の合理的見積額を控除することもできます(指針23項)。

(4)変動リース料:将来の変動を見積るオプション

指数又はレートに応じて決まる変動リース料は、リース開始日現在の指数又はレートに基づき算定するのが原則で、IFRS第16号でも開始日以降変動しないとみなして測定する定めが置かれたとされています(指針25項、指針BC46項)。これに対し日本基準では、合理的な根拠をもって将来の変動を見積ることができる場合、見積った指数又はレートに基づきリース料及びリース負債を算定することをリースごとに選択できます(指針26項)。この見積りオプションは日本基準に特徴的な定めです。

(5)表示:「使用権資産」の独立区分を強制しない

使用権資産は、①対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に表示するであろう科目に含める方法、②対応する原資産の表示区分(有形固定資産等)において使用権資産として区分する方法、のいずれかで表示します(基準49項)。固定資産に独立の「使用権資産」区分を新設する案は、審議の結果採用されませんでした(基準BC59項)。リース負債は、区分表示するか、含まれる科目及び金額を注記します(基準50項)。

(6)注記:一部の注記は取り入れない

借手の注記事項はIFRS第16号と整合的なものとされつつ、簡素で利便性の高い基準を目指す方針から、我が国の会計基準に関連のない注記、少額リースの費用に関する注記及び短期リースのポートフォリオに関する注記は取り入れられていません(基準BC67項)。一方、貸手の注記事項は、会計処理が現行踏襲であるにもかかわらず、IFRS第16号と整合的に拡充されています(基準BC68項)。「貸手は処理が変わらないから対応不要」とは言い切れない点に注意が必要です。

(7)借地権:日本の借地法・借地借家法を前提にした固有の定め

IFRS第16号に対応する規定がまったく存在しない、文字どおり日本独自の取扱いが借地権です。適用指針は、借地権を次の4つに区分したうえで定めを置いています。あわせて、借地権者・借地権設定者の定義も置かれています(指針4項(4)、指針4項(5))。

区分 定義 根拠
借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権 指針4項(3)
旧借地権 借地法の規定により設定された借地権 指針4項(6)
普通借地権 定期借地権以外の借地権で、旧借地権を除くもの 指針4項(7)
定期借地権 借地借家法第22条第1項・第23条第1項及び第2項又は第24条第1項の定めのある借地権 指針4項(8)

会計処理の出発点は、借地権の設定と土地の賃貸借とを一体として取り扱うという考え方です。この考え方から、借地権の設定に係る権利金等(指針4項(9))の対価は使用権資産の取得価額に含めることとされ(指針BC51項)、原則として借手のリース期間を耐用年数として減価償却を行います(指針27項本文)。借地権を非償却の無形固定資産として計上してきた従来実務からすると、ここは考え方の転換が必要な部分です。

ただし、旧借地権又は普通借地権は、法定更新制度や正当事由制度によって借手の権利が強く保護されており、減価しない土地の一部を取得することに準ずるとみる考え方もあります(指針BC52項、指針BC53項)。この見方を支持する意見を踏まえ、次の(1)又は(2)の権利金等については減価償却を行わないものとして取り扱うことができるとされました(指針27項ただし書き、指針BC55項)。

ケース 非償却とすることができる権利金等 根拠
(1) 適用指針の適用前に旧借地権・普通借地権の権利金等を償却していなかった場合 適用初年度の期首に計上されている当該権利金等と、適用後に新たに計上される権利金等の双方 指針27項ただし書き(1)
(2) 適用初年度の期首に旧借地権・普通借地権の権利金等が計上されていない場合 適用後に新たに計上される権利金等 指針27項ただし書き(2)

実務では次の3点に注意が必要です。第一に、この非償却の取扱いは旧借地権と普通借地権に限られ、定期借地権には及びません。定期借地権の設定に係る権利金等は原則どおり借手のリース期間で償却します。第二に、非償却を選択した場合は、会計方針に関する情報として借地権の設定に係る権利金等の会計処理の選択を注記したうえで(指針97項(3))、償却していない旧借地権・普通借地権の権利金等が含まれる科目及び金額を注記する必要があります(指針99項(3))。第三に、適用初年度の取扱いは経過措置に定めがあり、既存の権利金等をどう引き継ぐかは償却していたか否かで扱いが分かれます(指針127項から指針129項)。

借地権に関する定めは会計基準本体ではなく適用指針にのみ置かれています。借地法・借地借家法という日本固有の法制度を前提とした論点であるためで、土地を賃借して店舗や工場を構えている会社では、影響額が少額リースの論点を上回ることも珍しくありません。

実務上の留意点──「選択肢の多さ」がそのまま論点になる

ここまで見たとおり、日本基準の独自性の多くは「選択できる」形で用意されています。実務では、この選択を全社の会計方針として決め、根拠とともに文書化する作業が必要になります。監査法人対応では、少額リースの基準額の設定根拠、(2)①と(2)②のどちらを採用したか、その首尾一貫した適用状況が実際に質問されるポイントであり、IPO準備会社であれば経理規程・会計方針書への落とし込みまで求められるのが通常です。

また、親会社がIFRS任意適用の場合、基準は個別財務諸表にIFRS第16号の定めを用いても基本的に修正が不要となることを目指して開発されていますが(基準BC13項(1))、グループ内で「300万円基準型」と「IFRS16型」が混在すると連結パッケージの集計や内部統制の設計が複雑になります。契約の棚卸しを始める前に方針を固めておくことが、手戻りを防ぐ最大のポイントと考えられます。方針設計から支援を受けたい場合は、新リース会計基準の導入支援サービスもご活用ください。

【自作チェックリスト】日本基準独自の「選択肢」決定チェック 導入プロジェクトの初期に、次の項目を会計方針として決定しておくことをおすすめします。

決定する事項 選択肢・決めておくべき内容
少額リース ルート(1) 購入時費用処理の基準額以下のリースに適用するか。適用する場合、基準額を利息相当額だけ高めに設定するか
少額リース ルート(2) ①「300万円基準型」と②「IFRS16型」のどちらを首尾一貫して採用するか
ルート(2)①の判定対象期間 「借手のリース期間」によるか「契約に定められた契約期間」によるか(維持管理費用相当額の合理的見積額を控除するかを含む)
変動リース料 リース開始日現在の指数・レートによるか、将来の変動を見積る選択をするか
表示 使用権資産を対応科目に含めるか、表示区分内で区分するか(リース負債の表示方法もあわせて決定)
借地権 旧借地権・普通借地権の権利金等について非償却の取扱いを採用するか(定期借地権は対象外)
グループ方針 IFRS任意適用の親会社・子会社間で簡便的取扱いの採用方針を統一するか
Q. 新リース会計基準はIFRS16の翻訳版と考えてよいですか?

骨格は近いものの、翻訳版ではありません。借手の費用配分はIFRS第16号と整合させつつ、主要な定めのみを取り入れる方針で開発されており(基準BC13項)、少額リースの簡便的取扱い(指針22項)など日本独自の定めが上乗せされています。

Q. リース料総額300万円以下のリースは、新基準でもオフバランスにできますか?

企業の事業内容に照らして重要性が乏しく、かつ契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリースは、使用権資産・リース負債を計上しない取扱いを選択できます(指針22項(2)①)。この定めは従来の300万円以下の判定方法の踏襲を目的として取り入れられたものです(指針BC43項)。

Q. これまで非償却で計上していた借地権は、新基準でも償却しなくてよいですか?

旧借地権又は普通借地権の設定に係る権利金等については、適用前に償却していなかったのであれば、適用初年度の期首に計上されている分と適用後に新たに計上される分の双方について、償却を行わない取扱いを選択できます(指針27項ただし書き(1))。ただし定期借地権はこの例外の対象外で、原則どおり借手のリース期間で償却します。非償却を選択した場合は指針97項(3)及び指針99項(3)の注記が必要です。

Q. IFRS任意適用グループの子会社は、個別財務諸表でIFRS16をそのまま使えますか?

基準は、IFRS任意適用企業がIFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても基本的に修正が不要となることを目指して開発されています(基準BC13項(1))。ただし個別の契約や論点ごとの検証は必要ですので、具体的な適用は専門家にご相談ください。

まとめ

新リース会計基準は、借手の会計処理をIFRS第16号と整合させながら、貸手処理の現行踏襲、少額リースの複線的な簡便的取扱い、借地権に関する固有の定め、表示・注記の簡素化など、日本の実務に配慮した独自の定めを意図的に残した基準です。差異の多くは「選択肢」の形をとるため、導入準備は選択肢の把握と会計方針の決定から始まります。次回(第4回)は、オンバランス化が財務数値と経営指標に与えるインパクトを取り上げる予定です。

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※本記事は公表済みの会計基準等に基づく一般的な解説であり、個別の会計処理を保証するものではありません。実際の適用にあたっては、監査人や専門家にご相談ください。

参考(本文で引用した基準等):企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」33項・49項・50項・BC13項・BC20項・BC22項・BC39項・BC59項・BC61項・BC67項・BC68項、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」4項(2)・4項(3)から4項(9)・20項・22項・23項・25項・26項・27項・97項(3)・99項(3)・127項から129項・BC38項・BC41項・BC42項・BC43項・BC45項・BC46項・BC51項・BC52項・BC53項・BC55項

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