新リース会計基準の対応費用はどう決まる?見積りを左右する4つの要因と外部委託の切り分け

新リース会計基準の対応にいくらかかるのか。強制適用が近づくにつれて、この質問をいただく機会が増えました。ただ、金額の相場を先に調べても、自社に当てはまる答えはほとんど出てきません。

同じ「新リース対応」という言葉でも、リース契約が20件の会社と2,000件の会社では作業量が二桁違います。契約書が一箇所にまとまっている会社と、拠点ごとに紙で保管されている会社でも違います。判断が要る論点の数も、不動産の賃借が中心なのか、車両や機器が中心なのかで変わります。相場という一つの数字が成り立ちにくいのは、このためです。

この記事では、金額そのものではなく、見積りが何で決まるのかを整理します。自社の前提を4つの軸で棚卸ししておけば、どこまでを社内でやり、どこを外に出し、いつまでに何を終えるのかが決まります。見積りを依頼するときに示すべき前提も、そこで揃います。

「相場」が出てこないのには理由がある

会計基準への対応コストは、公表された調査がある領域と、ない領域があります。IFRSの任意適用については、金融庁が導入企業に対する調査を行っており、移行コストの分布と内訳が公表されています。当事務所でも別の記事で扱いました。

この調査で参考になるのは、金額そのものよりも分布の形です。移行コストは5千万円未満から10億円以上まで広く分布しており、その幅を決めていたのは、システムをどう構築するかという方針でした。会計基準への対応費用は、基準そのものの難しさよりも、対応をどう設計するかで決まるということです。新リースはIFRS導入より範囲の狭い取組みですが、費用の決まり方という点では同じ構造にあります。

一方、新リース会計基準の対応費用について、これに相当する公表調査は確認できていません。そのため、他社事例として流通する金額は、どういう会社が、どこまでの範囲を、どのような体制でやったのかという前提が示されていないことが多くなります。前提が違えば金額は動くので、そのままでは自社の判断材料になりません。

金額の情報に触れたときは、次の3点が書かれているかを確かめてください。書かれていない金額は、自社の見積りの根拠にはなりません。

リース契約の件数と種類/システムを新たに導入したかどうか/外部に委託した工程の範囲

逆に言えば、この3点を自社について決めてしまえば、見積りを取る準備は整います。以下では、その決め方を順に見ていきます。

作業量を決める2つの軸判断が要る論点が多い契約の件数が多い件数は少ないが判断が重い不動産の賃借が中心のケース1件ずつの検討に時間がかかる件数も判断も多い最も工数がかかる組み合わせ早い着手と役割分担が要る件数も判断も少ない社内で完結できる可能性が高い方針の確認だけ外部に頼む件数は多いが判断は定型車両や機器が中心のケース作業の効率化が費用に効く

図1 同じ「新リース対応」でも、件数と判断の重さの組み合わせで進め方が変わります。

見積りを左右する4つの要因

① 契約の件数と、契約の種類

最初に効くのが件数です。ただし、単純に件数だけで決まるわけではありません。同じ100件でも、同一の様式で結ばれた車両リース100件と、拠点ごとに条件の異なる不動産賃借100件では、検討の手間がまったく違います。種類が揃っているほど、判断を型にして横展開できます。

件数の数え方にも注意が要ります。1つの契約書に複数の物件がまとめられている場合、契約の単位ではなく物件の単位で検討が必要になることがあります。契約書の枚数だけを数えて件数を伝えると、着手してから対象が膨らみます。

② 契約情報がどれだけ揃っているか

見落とされやすいのがここです。契約書が電子化されて一元管理されている会社と、拠点ごとに紙で保管され、更新後の原本がどれか分からない会社とでは、棚卸しの工数が大きく変わります。金額を左右するのは会計の難しさよりも、この情報収集であることが少なくありません。

棚卸しを始めると、契約書そのものが見当たらない取引が出てくることもあります。長年の慣行で続いている賃借や、発注書だけで動いている取引です。こうしたものは条件を関係部署に確認するところから始まるため、想定より時間がかかります。

③ 判断が必要な論点がどれだけあるか

延長オプションのある不動産賃借、解約不能期間の判断が割れる契約、資産除去債務との関係を整理する必要がある契約。こうした論点が多いほど、検討と文書化の時間が増えます。判断が割れる論点は、後で監査法人に説明する材料まで用意する必要があるため、単純作業とは工数の性質が異なります。

論点の偏り方には、業種ごとの傾向があります。店舗や拠点を多く持つ業種は不動産の賃借に判断が集中し、設備を多く使う業種は物件の切り分けに判断が集中します。自社がどちらに寄るのかを先に見ておくと、どこに時間を確保しておくべきかが見えます。

④ 計算と管理をどうするか

件数が限られていれば既存の管理台帳に載せられますが、件数が増えると専用のシステムを検討することになります。ここは費用の幅が最も大きく開くところです。そして順序を誤りやすいところでもあります。

判断の材料は、初年度の作業量だけではありません。初年度は外部の支援で乗り切れたとしても、翌期以降に毎期回すのは社内です。運用まで含めて考えると、結論が変わることがあります。

要因 軽くなる場合 重くなる場合
① 件数と種類 件数が限られ、契約の様式が揃っている 件数が多く、不動産・車両・機器が混在する
② 情報の揃い方 契約書が電子化され、一元管理されている 拠点ごとに紙で保管され、原本の所在が不明なものがある
③ 判断が要る論点 定型の契約が中心で、オプションが少ない 延長オプション、解約不能期間、資産除去債務との整合が絡む
④ 計算と管理 既存の管理台帳に載せられる規模 専用システムの選定と導入が必要な規模

工程で切り分ける|どこを社内に残すか

費用を考えるときは、全体をひとつの塊として見ないほうがうまくいきます。対応は7つの工程に分かれ、工程ごとに、外部に出したときの効き方が違うからです。

新リース対応の7つの工程1契約の棚卸し リースを含む契約を洗い出す2リースの識別 契約がリースを含むかを判定する3リース期間の決定 延長と解約のオプションを評価する4測定 割引率を決め、使用権資産とリース負債を計算する5仕訳と管理台帳 毎期継続して回る形に整える6注記の作成 開示に必要なデータを集める7監査対応 判断の根拠を説明する

図2 工程ごとに、社内に残すべきものと外部が効くものが分かれます。

工程 主な作業 外部に出したときの効き方
1 契約の棚卸し リースを含む契約を洗い出し、一覧にする 効きにくい。社内の情報にたどり着くのは社内のほうが速い
2 リースの識別 契約がリースを含むかを判定する 効く。判定の型を作り、横展開できる形にする部分
3 リース期間の決定 延長と解約のオプションを評価する 効く。判断が割れやすく、根拠を残す形が要る
4 測定 割引率を決め、使用権資産とリース負債を計算する 効く。初期の設計が、その後の運用の負担を決める
5 仕訳と管理台帳 毎期回る形に整える 部分的に効く。設計は外部、運用は社内に残る
6 注記の作成 開示に必要なデータを集め、注記の形にする 効く。とくに初年度は作成の型がない
7 監査対応 判断の根拠を説明し、資料として示す 効く。論点の整理と資料化に時間がかかる

この表の見方は単純です。1の棚卸しは社内に残し、2から4と6から7に外部を使うのが、費用対効果としては素直な形になります。棚卸しは最も工数がかかる工程ですが、外部に出すと「どこに契約書があるか」を探すやり取りが増え、単価の高い時間を情報収集に使うことになるためです。

外部費用だけを比べると判断を誤る

見積りを比較するときに抜けやすいのが、社内で使われる時間です。新リース対応は経理部門だけで完結しません。契約を持っているのは現場の部署であり、契約書の原本を管理しているのは法務や総務、システムに載せるのは情報システムの担当者です。

棚卸しの工程では、こうした部署に照会し、回答を待ち、返ってきた内容を確認するというやり取りが繰り返されます。ここにかかる時間は請求書には出てきませんが、実際には最も大きな負担になることがあります。

外部費用が安く見える提案が、社内工数を多く前提にしているだけ、ということもあります。見積りを比べるときは、金額とあわせて、社内の誰が、どれくらいの期間、どの程度関わる想定なのかまで確認しておくと、着手してからの齟齬が減ります。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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期限から逆算する

新リース会計基準は、2027年4月1日以後開始する事業年度から強制適用されます(企業会計基準第34号第58項)。同項では、2025年4月1日以後開始する事業年度からの早期適用も認められています。

自社の初年度がいつになるかは、決算期によって変わります。

強制適用の初年度は決算期で変わる3月決算2027年4月1日に開始する事業年度から 2028年3月期12月決算2028年1月1日に開始する事業年度から 2028年12月期9月決算2027年10月1日に開始する事業年度から 2028年9月期

図3 2027年4月1日以後に開始する事業年度が初年度になります。

ここから逆算すると、初年度の期首の時点で、対象となる契約の把握と測定の方針が固まっている必要があります。棚卸しに数か月かかることを踏まえると、着手はその1年前後になります。件数が多い会社ほど前倒しが要ります。

早期適用を選ぶかどうかも、費用に影響します。早期適用は準備の時期を自分で決められる一方、参考にできる他社の開示例が少ない段階で判断することになります。強制適用を待つ場合は、他社の実務が見えている代わりに、同じ時期に支援の需要が集中します。どちらを選ぶかは、社内の体制と、外部の支援をどこまで当てにするかで変わります。

費用を抑える4つの打ち手

契約の棚卸しは社内でやる。前述のとおり、この工程は外部に出しても効きにくく、費用だけが増えやすいところです。棚卸しの様式と、何を拾うかという観点だけを外部で設計し、収集は社内で行うと、費用と品質のバランスが取れます。

簡便的な取扱いの方針を先に決める。短期リースと少額リースについては、適用指針に簡便的な取扱いが定められています(企業会計基準適用指針第33号第20項から第22項)。ここを先に決めておくと、詳細に測定する対象そのものが減ります。金額基準の考え方については別の記事で扱っています。

システムは判断が固まってから選ぶ。順序を逆にすると、必要な項目が後から変わり、設定のやり直しが発生します。システムの費用は幅が大きいだけに、手戻りの損失も大きくなります。

監査法人との論点合わせを前倒しする。最も高くつく手戻りは、期末近くになって方針が覆るケースです。判断が割れそうな論点は、方針を固めた段階で早めに共有し、必要な資料の形まで擦り合わせておくと、後半の負担が下がります。

この4つは、外部に払う金額を値切る話ではありません。やらなくてよい作業を減らし、手戻りを防ぐという話です。会計基準への対応で費用が膨らむのは、単価が高いからではなく、同じ作業を二度やることになるからであるほうが多いのです。

見積りを依頼するときに伝える6項目

ここまでの整理を踏まえると、見積りを依頼するときに何を伝えればよいかが決まります。この6項目が揃っていれば、複数の相手から条件のそろった見積りを受け取れます。逆に、これが揃わないまま依頼すると、返ってくる金額の前提がばらばらになり、比較ができません。

伝える項目 それが金額を動かす理由
1 契約のおおよその件数と内訳 不動産・車両・機器のどれが中心かで、判断の重さと作業の型が変わります
2 契約書の保管状況 電子で一元管理されているか、拠点ごとに紙かで、棚卸しの工数が大きく変わります
3 決算期と、早期適用の意向 初年度がいつになるかで、確保できる期間と作業の密度が決まります
4 連結の有無と子会社の数 対象が親会社だけか、グループ全体かで範囲が変わります
5 現在の管理方法 既存の台帳で回るのか、システムの検討が要るのかが分かれます
6 社内で確保できる人数と期間 社内に残す工程と外に出す工程の切り分けが、ここで決まります

この6項目は、どこに依頼する場合でも同じです。当事務所に限らず、複数の相手を比較する材料として使っていただいて構いません。

よくある質問

Q1 結局、いくらぐらいかかるのですか

前提が決まらないうちは、幅が大きすぎて意味のある数字になりません。契約の件数と種類、契約情報の揃い方、システムの要否、外部に出す工程の範囲。この4点が決まれば、見積りは出せます。逆に、この4点が未確定のまま提示された金額は、後から大きく動きます。

Q2 契約の棚卸しだけを外部に頼めますか

頼むことはできますが、費用対効果は高くありません。どこに契約書があるかを探す作業は社内のほうが速く、外部が入ると照会のやり取りが増えます。様式と観点の設計だけを外部に頼み、収集は社内で行う形をおすすめしています。

Q3 システムは入れたほうがよいですか

件数と、今後の増減の見込みで決まります。既存の管理台帳で回る規模であれば、無理に入れる必要はありません。判断の方針が固まる前に選定を始めると手戻りになるため、順序としては方針が先です。

Q4 監査法人に相談すれば足りますか

監査法人は監査人であり、会社に代わって会計方針を決める立場ではありません。会社が方針を作り、その根拠を示すところまでは会社側の作業になります。ここを担う人手が社内にない場合に、外部支援を検討することになります。

Q5 いつまでに終えていればよいですか

強制適用の初年度の期首時点で、対象契約の把握と測定の方針が固まっている必要があります。決算期別の初年度は図3のとおりです。棚卸しにかかる期間を考えると、着手はその1年前後が目安になります。

Q6 子会社がある場合は何が変わりますか

連結の範囲で対象が増えるため、単純に件数が増えます。それ以上に効くのは、子会社ごとに契約情報の揃い方が違うことです。親会社で組んだ想定がそのまま当てはまらないことが多いので、棚卸しの様式と観点をグループ共通で先に配り、収集を並行して進める形が効きます。

見積りの前提から、一緒に整理します

契約が何件あるのか、どこまでが対象になるのか、システムが要るのか。この前提が決まらないままでは、どこに頼んでも金額は出ません。初回のご相談では、契約の状況を伺い、4つの要因のどこに当てはまるかと、社内に残す工程と外に出す工程の切り分けを整理します。費用と進め方は、そのうえでご提示します。

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🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、会計基準および適用指針に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。記載した費用の考え方は一般的な整理であり、特定の金額を保証するものではありません。個別の判断にあたっては専門家にご確認ください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

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