「オフィスの賃貸借契約や複合機のレンタルも、新リース会計基準ではリースとして扱うのか」「そもそも、どの契約から洗い出せばよいのか」──新リース会計基準の適用準備を始めたIPO準備会社・上場企業の経理・管理部門の方が最初に直面するのが、この「リースの識別」です。
結論からいえば、会計上のリースかどうかは契約書の名称では決まりません。①特定された資産があるか、②顧客が経済的利益のほとんどすべてを享受するか、③顧客が資産の使用を指図する権利を有するか、という契約の実態で判定します。本記事では連載第2部の入口として、リースの定義と識別フローの全体像を条項番号付きで整理します。
結論:「リース」は契約書の名称ではなく実態で決まる
新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)において、「リース」とは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいいます(基準6項)。注目すべきは「契約の一部分」もリースになり得るという点です。「リース契約」という名称の契約に限らず、賃貸借契約やレンタル契約はもちろん、業務委託契約やサービス契約の中に、会計上のリースが埋め込まれていることがあります。
図1 リースかどうかは契約書の名称では決まらない
▼ 契約の実態で判定する(基準6項・26項) ▼
契約の名称や法形式ではなく、「特定された資産の使用を支配する権利」が一定期間にわたり移転しているかどうかで判定します。
契約の当事者は、契約の締結時に、その契約がリースを含むか否かを判断します(基準25項)。この判断にあたり、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むとされています(基準26項)。そして、いったん行った判断は、契約期間中、契約条件が変更されない限り見直しません(基準27項)。
新リース会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度の期首から強制適用され、2025年4月1日以後開始する年度からの早期適用も認められています(基準58項)。適用に向けては、既存の契約を含めて「リースを含むか」を整理する契約の棚卸しが出発点になります(移行時にどこまで判定をやり直すかは経過措置の選択により変わり得るため、詳細は連載第30回で扱う予定です)。
「リース」の定義を分解して読む
図2 「リース」の定義を4つの要素に分解する
▼ 4つをすべて満たす ▼
「契約」は書面に限らない
ここでいう「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいい、書面のほか、口頭や取引慣行等も含まれます(基準5項)。契約書という形式が整っていない取決めも判定の対象になり得るため、棚卸しの際には、発注書ベースで継続利用している設備や自動更新が続いている取引を漏らさないことが重要です。
移転するのは所有権ではなく「使用する権利」
「原資産」とは、リースの対象となる資産で、貸手によって借手に当該資産を使用する権利が移転されているものをいいます(基準9項)。リースの本質は、資産の所有権の移転ではなく「使用する権利」の移転にあります。所有権が相手方に残ったままでも、使用する権利がこちらに移っていれば、会計上はリースとして捉えるのが新基準の発想です。
判定の主体は「顧客」と「サプライヤー」
リースの識別の場面では、「借手」「貸手」ではなく「顧客」「サプライヤー」という用語が使われています(指針5項)。これは、識別の段階では契約がリースを含むか否かがまだ確定しておらず、リースを含まない場合もあるためです(指針BC9項)。契約がリースを含むと判断されると、顧客が「借手」に、サプライヤーが「貸手」に該当することになります(指針BC9項)。
識別フローの全体像──3ステップで判定する
契約がリースを含むかどうかは、特定された資産の使用期間全体を通じて、(1)顧客が当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しているか、(2)顧客が当該資産の使用を指図する権利を有しているか、のいずれも満たすかにより判断します(指針5項)。この「使用期間」とは、資産が顧客との契約を履行するために使用される期間(非連続の期間を含む)をいいます(指針4項(1))。
この定めを実務で使いやすくするため、筆者は次の3ステップに分解して契約を確認することをお勧めしています。
図3 リースの識別フロー(3ステップ判定)
▼
リースではない
▼ はい
リースではない
▼ はい
リースではない
▼ はい
①〜③をすべて満たす場合に、契約はリースを含むと判定されます。判定は契約の締結時に行い、契約条件が変更されない限り契約期間中は見直しません(基準25項・27項)。
| ステップ | 確認する問い | 満たさない場合 |
|---|---|---|
| ①特定された資産 | 契約の対象となる資産が特定されているか。サプライヤーに実質的な代替権がないか | リースに該当せず、サービス取引等として会計処理 |
| ②経済的利益の享受 | 使用期間全体を通じて、使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを顧客が享受するか | 同左 |
| ③使用の指図 | 使用期間全体を通じて、資産の使用方法を顧客が指図しているか | 同左 |
※①〜③をすべて満たす場合に、契約はリースを含むと判定されます(基準26項、指針5項)。表の整理は筆者によるものです。
ステップ①:資産が「特定」されているか
資産は、通常、契約に明記されることにより特定されます(指針6項)。ただし、契約に明記されていても、サプライヤーが使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有し、かつ、代替から生じる経済的利益がそのコストを上回ると見込まれるために代替によりサプライヤーが経済的利益を享受するときは、実質的な代替権があるため、その資産は特定された資産に該当しません(指針6項)。
また、資産の稼働能力の一部分は、物理的に別個のものでない限り特定された資産に該当しませんが、顧客が使用できる稼働能力が当該資産の稼働能力のほとんどすべてであることにより、顧客が使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している場合には、特定された資産に該当します(指針7項)。なお、資産が契約に明記されていなくても、事実と状況によりリースが含まれることが明らかであるときがあるとされています(指針BC10項)。
図4 ステップ① サプライヤーの「実質的な代替権」の判定
▼ ただし次の2つをともに満たすときは例外
▼
資産の稼働能力の一部分は、物理的に別個のものでない限り原則として特定された資産に該当しません。ただし顧客が使用できる稼働能力がほとんどすべてである場合は該当します(指針7項)。
ステップ②:経済的利益のほとんどすべてを享受しているか
使用期間全体を通じて、顧客が特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しているかを確認します(指針5項(1))。資産を排他的・専属的に使用できる契約であれば、この要件を満たすことが多いと考えられます。
ステップ③:使用を指図する権利を有しているか
顧客が使用期間全体を通じて、使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している場合に、この要件を満たします(指針8項(1))。また、使用方法に係る決定が事前になされている場合であっても、使用期間全体を通じて顧客のみが資産を稼働する権利(第三者に指図して稼働させる権利を含む)を有しているとき、又は顧客が使用方法を事前に決定するように資産を設計しているときは、使用を指図する権利があるとされます(指針8項(2))。
図5 「使用を支配する権利」を構成する2つの要素
▼ 両方を満たす
どちらか一方だけでは「支配」とは認められません。なお、使用方法に係る決定が事前になされている場合でも、顧客のみが資産を稼働する権利を有するとき、又は顧客が使用方法を事前に決定するように資産を設計しているときは、③を満たすとされます(指針8項(2))。
ミニ判定例:オフィスフロアとSaaSはどう違うか
【例1】本社として建物の3階フロア全体を5年間賃借。貸主がフロアを一方的に差し替えることはできず、自社が専用使用し、レイアウトや使い方も自社が決めている──この場合、対象フロアは特定され(①)、専用使用により経済的利益のほとんどすべてを享受し(②)、使用方法も自社が指図している(③)ため、リースを含むと判断される可能性が高いと考えられます。
【例2】クラウド型会計ソフト(SaaS)の利用。ベンダーがどのサーバで処理するかを自由に決定・変更でき、利用者が特定の物理資産を占有するわけではない──この場合、①の「特定された資産」の要件を満たさず、リースには該当しないと考えられます。
※いずれも筆者が単純化した設例です。実際の判定は個々の契約条件・事実関係によって異なります。
図6 ミニ判定例 3ステップの当てはめ比較
| 判定項目 | 例1 建物3階フロアの賃借 | 例2 クラウド型会計ソフト(SaaS) |
|---|---|---|
| ① 特定された資産 | ○ 対象フロアが特定され、貸主が一方的に差し替えられない | × どのサーバで処理するかをベンダーが自由に決定・変更できる |
| ② 経済的利益の享受 | ○ 自社が専用使用している | - ①を満たさないため判定終了 |
| ③ 使用の指図 | ○ レイアウトや使い方を自社が決めている | - ①を満たさないため判定終了 |
| 判定結果 | リースを含むと判断される可能性が高い | リースには該当しないと考えられる |
※ いずれも筆者が単純化した設例です。実際の判定は個々の契約条件・事実関係によって異なります。
なお、無形固定資産のリースについては、新リース会計基準を適用しないことができます(基準4項)。条文上は「無形固定資産のリース」と定められており、ソフトウェアのライセンス供与に関する取扱いは結論の背景で述べられています(基準BC16項・BC17項)。
実務上の留意点──最大の山場は「契約の棚卸し」
識別の実務でまず大変なのは、判定そのものよりも、判定対象となる契約を漏れなく集めることです。不動産の賃貸借、車両・複合機・サーバのレンタル、倉庫・駐車場・社宅・看板の利用契約、さらには資産の利用を伴う業務委託契約まで、対象は全部門に散らばっています。契約書の名称で絞り込むと漏れが生じるため、地代家賃・賃借料・支払リース料などの勘定科目からの逆引きと、各部門へのヒアリングを組み合わせるのが実務的です。
図7 契約の棚卸しの進め方(4ステップ)
最大の山場は判定そのものよりも、判定対象となる契約を漏れなく洗い出すことです。監査対応では、契約一覧の網羅性をどう担保したかと、境界線上の契約をどの根拠で判定したかの説明が求められます。
基準の開発過程でも、我が国の事務所等の不動産賃貸借契約などについてサービス性が強いという意見がありましたが、サービスの要素を区分した後に、賃借人が特定の資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、その使用を指図する権利を有する部分、すなわちリースの定義を満たす部分が含まれる場合があるとされています(基準BC31項)。「うちは賃貸借だからリースではない」という思い込みは禁物です。
一方で、リースが含まれていないことが明らかな場合にまで、リースの識別の判断を行う必要はないと考えられています(指針BC10項)。すべての契約に同じ深さの検討を行うのではなく、明らかにリースを含む契約・明らかに含まない契約・判断を要する契約に仕分けし、判断を要する契約に検討資源を集中させるのが効率的な進め方と考えられます。
また、リースを含む契約は、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行います(基準28項)。ただし借手は、両者を区分せず、これらを合わせて単一のリース構成部分として会計処理することを選択できます(基準29項)。識別の段階で、契約に含まれるサービス要素(保守・清掃・共益費等)も併せて把握しておくと、後工程の区分処理がスムーズになります。
図8 1つの契約に含まれるリース部分と非リース部分
▼ 原則として区分して処理する(基準28項)
識別の段階で非リース部分の有無まで把握しておくと、後工程の区分処理がスムーズになります。
監査対応の観点では、判定の「結論」だけでなく「判断過程の文書化」が問われます。監査法人からは、契約一覧の網羅性をどのように担保したか、境界線上の契約をどの根拠で判定したかの説明を求められるのが通常です。IPO準備会社であれば、判定シートを契約書の該当条項と紐づけて整備しておくと、内部統制文書やリース管理台帳の整備にもそのまま活きてきます。
契約棚卸しチェックリスト(保存版)
- 契約書の名称にかかわらず、資産の利用を伴う契約を全部門から収集した
- 地代家賃・賃借料・支払リース料等の勘定科目から契約を逆引きした
- 書面のほか、口頭・取引慣行等による取決めも対象に含めた(基準5項)
- 対象資産が特定されているか、サプライヤーの実質的な代替権の有無を確認した(指針6項)
- 経済的利益のほとんどすべての享受と、使用を指図する権利を確認した(指針5項)
- 「明らかに含む・含まない」契約と、判断を要する契約に仕分けした
- 判定結果と根拠条項を判定シートに記録し、監査法人に説明できる状態にした
- リースを含む契約について、リースを構成しない部分(保守・共益費等)の有無を把握した(基準28項)
よくある質問(FAQ)
なり得ます。リースは「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義されており(基準6項)、契約の名称は判定に影響しません。不動産賃貸借契約でも、サービスの要素を区分した後にリースの定義を満たす部分が含まれる場合があるとされています(基準BC31項)。
名称ではなく、特定された資産の使用を支配する権利が移転しているかで判断します(基準26項)。モノの利用を伴う契約であれば、本文の3ステップと同じ枠組みで判定します。なお、リース開始日において借手のリース期間が12か月以内で購入オプションを含まない短期リースについては、使用権資産・リース負債を計上せず費用処理する簡便的な取扱いを選択できます(指針4項(2)・20項)。
契約の締結時に判断します(基準25項)。契約期間中は、契約条件が変更されない限り見直しません(基準27項)。実務では、契約の更新・変更の際に判定を見直すトリガーを契約管理フローに組み込んでおくと安心です。
リースが含まれていないことが明らかな場合にまで識別の判断を行う必要はないと考えられています(指針BC10項)。他方、境界線上の契約は根拠の文書化が重要です。どこまで文書化するかは重要性も踏まえ、早い段階で監査法人と方針をすり合わせることをお勧めします。
まとめ
リースの識別は、使用権資産・リース負債の計上範囲そのものを決める、新リース会計基準適用の出発点です。①特定された資産、②経済的利益のほとんどすべての享受、③使用を指図する権利という3ステップを押さえたうえで、契約の棚卸しから着手しましょう。次回(第6回)は、ステップ①の「特定された資産」を、実質的な代替権の考え方を中心に掘り下げます。
連載の全体像は連載目次:新リース会計基準を基礎から実務まで解説を、前回の記事は新リース会計基準の影響は?自己資本比率・EBITDAへのインパクトをご覧ください。
公認会計士・税理士が、契約棚卸しの設計から識別の判定、監査対応まで実務目線でご支援します。新リース会計基準の導入対応をご検討中の方は、まずはサービス内容をご覧ください。
本記事は執筆時点の会計基準等に基づく一般的な解説であり、個別の会計処理・経営判断については、監査法人や顧問の専門家にご相談ください。
参考(本文で引用した基準等):企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」4項・5項・6項・9項・25項・26項・27項・28項・29項・58項・BC16項・BC17項・BC31項、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」4項(1)・4項(2)・5項・6項・7項・8項・20項・BC9項・BC10項