「新リース会計基準では、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分がなくなると聞いたけれど、仕訳が実際どう変わるのかイメージできない」──IPO準備会社や上場企業の経理・財務部門で、決算や監査対応を担いながら新基準を調べている方から、よくいただくご相談です。
連載第2回の本記事では、借手の会計処理が現行の「2区分」から「単一モデル」へどのように転換するのかを、現行基準との比較・仕訳・数値例で整理します。制度全体の位置づけは第1回「新リース会計基準とは?いつから適用かと全体像」を先にお読みいただくと、つかみやすくなります。
✅ 結論:借手はリースの区分にかかわらず「減価償却費+利息」の単一モデルへ
結論からお伝えします。新リース会計基準(企業会計基準第34号)では、借手の費用配分の方法について、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、使用権資産に係る減価償却費とリース負債に係る利息相当額を計上する「単一の会計処理モデル」が採用されました(基準BC39項)。借手は、リース開始日にリース負債と使用権資産を計上します(基準33項)。
現行の企業会計基準第13号は、新基準の適用により適用が終了します(基準59項(1))。短期リース・少額リースについて費用処理を選択できる簡便的な取扱いは用意されていますが(指針20項、22項)、「オペレーティング・リースだから賃借料でよい」という従来の整理は、そのままでは通用しなくなります。
🔄 現行基準の「2区分」と新基準の「単一モデル」
現行基準:分類が会計処理を決める
現行の企業会計基準第13号は、会計上の情報開示の観点からファイナンス・リースについて借手において資産及び負債を認識する必要があるという問題意識を背景に(基準BC4項(1))、1993年基準が所有権移転外ファイナンス・リースに認めていた例外処理(一定の注記を要件とする賃貸借取引に準じた処理)を廃止する形で、2007年3月に公表されました(基準BC3項、BC6項)。一方、オペレーティング・リースには賃貸借処理に準じた会計処理が定められていました(基準BC10項(3))。
そのため現行実務では、契約ごとにいずれに該当するかを判定し、ファイナンス・リースのみを資産計上する運用が定着しています。貸借対照表に載るかどうかが分類で決まるため、「オペレーティング・リースに寄せる」インセンティブが働きやすい構造だったともいえます。
新基準:費用配分は「単一の会計処理モデル」へ
IFRS第16号は、すべてのリースを借手に対する金融の提供と捉え、使用権資産に係る減価償却費とリース負債に係る金利費用を別個に認識する単一の会計処理モデルを採用しています(基準BC39項)。これに対し米国基準(Topic 842)は、従来同様にファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分する2区分の会計処理モデルです(基準BC39項)。
日本の新基準は、このうちIFRS第16号と同様の単一の会計処理モデルを採用しました(基準BC39項)。その理由として、基本的にIFRSとの整合性を図ってきたこれまでの経緯や、リース費用を減価償却費と利息相当額に配分する調整が不要になる等の財務諸表利用者のニーズが考慮されています(基準BC39項(1)(3))。
| 項目 | 現行(企業会計基準第13号) | 新基準(企業会計基準第34号) |
|---|---|---|
| 処理を決める軸 | ファイナンス・リースか オペレーティング・リースかの分類 | 借手の費用配分は分類にかかわらず単一モデル(基準BC39項) |
| B/S計上 | ファイナンス・リースのみ資産・負債を計上(オペレーティング・リースはオフバランス)(基準BC10項(3)) | 原則すべてのリースで使用権資産・リース負債を計上(基準33項) |
| P/Lの費用科目 | オペレーティング・リースは支払リース料(賃借料等)を費用処理(基準BC10項(3)) | 減価償却費(基準37項、38項)+利息相当額(基準36項) |
| 費用の計上パターン | 賃借料はリース期間で均等が基本 | 利息が逓減するため期間の前半に厚く、後半に薄く |
| 簡便的な取扱い | 所有権移転外ファイナンス・リースについて、未経過リース料の期末残高が有形固定資産等の期末残高合計に占める割合が10%未満であれば、利子込み法または利息相当額を定額で配分する方法が可(適用指針31項、32項)。リース期間1年以内のリース、および企業の事業内容に照らして重要性が乏しくリース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリースは、賃貸借処理を選択可(適用指針34項、35項(3)) | 短期リース・少額リースは費用処理を選択可(指針20項、22項) |
※ 表は筆者作成。現行基準の欄は新基準の結論の背景に基づく整理です。
単一モデルの処理は3ステップ
「区分」が完全に消えるわけではない点に注意
単一モデルといっても、ファイナンス・リースやオペレーティング・リースという用語の定義自体は新基準にも残っています(基準11項、14項)。使用権資産の減価償却は、所有権が借手に移転すると認められるリースでは自ら所有していたと仮定した場合と同一の方法により、耐用年数は経済的使用可能予測期間、残存価額は合理的な見積額とします(基準37項)。それ以外のリースでは定額法等の中から企業の実態に応じた方法を選択適用でき、原則として借手のリース期間を耐用年数、残存価額をゼロとします(基準38項)。
また、貸手は引き続きリースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースとに分類して会計処理を行います(基準43項)。「単一モデル=分類の完全廃止」ではなく、「借手の費用配分において区分が不要になった」と理解するのが正確です。
🧮 数値例:仕訳と5年間の費用推移でみる損益インパクト
従来オペレーティング・リースとして賃借料処理してきた契約が新基準でどう変わるか、自作の設例で確認します。
・対象:オフィスの賃貸借(従来は賃借料として費用処理)/所有権移転なし・購入オプションなし
・年間リース料:1,000千円(毎期末払い)×解約不能期間5年
・割引率:年3% → リース負債の当初計上額=5年分のリース料の現在価値4,580千円
・使用権資産:4,580千円(前払リース料・付随費用等はゼロと仮定)
・減価償却:定額法・耐用年数5年(借手のリース期間)・残存価額ゼロ → 年916千円
※ 千円未満を四捨五入して表示しています。
| 時点 | 現行:賃貸借処理に準じた処理(基準BC10項(3)) | 新基準:単一モデル |
|---|---|---|
| リース開始日 | 仕訳なし | (借)使用権資産 4,580 /(貸)リース負債 4,580(基準33項) |
| 1年目の期末 | (借)賃借料 1,000 /(貸)現金預金 1,000 | (借)減価償却費 916 /(貸)使用権資産 916(基準38項) (借)リース負債 863、支払利息 137 /(貸)現金預金 1,000(指針38項) |
支払リース料は、利息相当額部分(支払利息)とリース負債の元本返済額部分とに区分して処理します(指針38項)。各期の利息相当額は、原則としてリース負債の未返済元本残高に一定の利率を乗じて算定するため(指針39項)、5年間の費用は次のように推移します。
| 年度 | 減価償却費 | 支払利息 | 新基準の費用合計 | 現行(賃借料) |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 916 | 137 | 1,053 | 1,000 |
| 2年目 | 916 | 112 | 1,028 | 1,000 |
| 3年目 | 916 | 85 | 1,001 | 1,000 |
| 4年目 | 916 | 57 | 973 | 1,000 |
| 5年目 | 916 | 29 | 945 | 1,000 |
| 合計 | 4,580 | 420 | 5,000 | 5,000 |
※ 表は筆者作成(単位:千円)。千円未満の四捨五入により、端数が計算値と一致しない場合があります。
費用の総額は5,000千円で同じですが、新基準では利息が負債残高の大きい前半に多く計上されるため、費用が期間の前半に偏る「前傾化」が生じます。オフィスや店舗を積極的に増やす成長企業では、この前傾化が利益の伸びを見かけ上抑える方向に働くため、予算や中期経営計画にあらかじめ織り込んでおくことが重要と考えられます。
⚠️ 実務上の留意点──単一モデルでも「判断」は残る
① 費用の中身が変わり、経営指標に影響する
従来は賃借料などとして一括計上していた費用が、新基準では使用権資産に係る減価償却費とリース負債に係る利息相当額とに分かれます(基準BC39項)。リース負債に係る利息費用は、損益計算書において区分して表示するか、含まれる科目及び金額を注記します(基準51項)。費用の性質と計上パターンが変わることで、営業利益やEBITDAなど経営指標の水準・推移も変わり得るため、金融機関・投資家への説明準備が必要になると考えられます。財務指標への影響は連載第4回で詳しく扱う予定です。
② 簡便的な取扱いの適用方針を先に決める
短期リース、すなわちリース開始日において借手のリース期間が12か月以内であり購入オプションを含まないリースは(指針4項(2))、使用権資産及びリース負債を計上せず、リース料を原則として定額法により費用処理することができます(指針20項)。一定の要件を満たす少額リースにも同様の簡便的な取扱いがあります(指針22項)。さらに、未経過の借手のリース料の期末残高が、当該期末残高・有形固定資産・無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10%未満の場合には(指針41項)、利息相当額を控除しない方法や利息相当額を定額で配分する方法も認められます(指針40項)。
どの契約グループにどの簡便的な取扱いを適用するかは、損益影響だけでなく経理の管理コストにも直結します。契約データが揃っていないと検討自体ができないため、賃貸借契約の棚卸しとセットで早めに着手したい論点です。
③ 監査法人では「網羅性」と「見積りの根拠」が問われる
IPO準備会社や上場企業の監査では、単一モデルへの移行に際して、①オペレーティング・リースを含む契約の網羅的な把握(賃貸借契約の洗い出し)、②割引率やリース期間といった見積り要素の決定根拠、③簡便的な取扱いの適用範囲の首尾一貫性、といった点が定番の確認事項になると考えられます。仕訳の変更だけでなく、こうした説明資料や社内ルールの整備までを含む移行プロジェクトとして捉えることをおすすめします。進め方のイメージは新リース会計基準 導入支援サービスのページでもご案内しています。
📋 単一モデル対応チェックリスト
第2回時点で押さえておきたい準備事項をまとめました。自社の状況を確認してみてください。
- 賃貸借契約・レンタル契約も含め、リースに該当し得る契約を網羅的にリストアップした
- 短期リース・少額リースの簡便的な取扱いの適用方針を決めた(指針20項、22項)
- 所有権移転の有無ごとに使用権資産の減価償却方法を整理した(基準37項、38項)
- 割引率・リース期間の決定プロセスと根拠資料の残し方を決めた
- 費用の前傾化の影響を予算・中期経営計画・KPIに織り込んだ
- 監査法人との論点協議(識別・期間・簡便的な取扱い)を開始した
❓ FAQ:単一モデルへの転換でよくある質問
A. 借手の費用配分は、区分にかかわらず単一の会計処理モデルによります(基準BC39項)。ただし用語の定義は新基準にも残っており(基準11項、14項)、減価償却の方法は所有権移転の有無で異なります(基準37項、38項)。また、貸手は引き続き両者を分類して会計処理を行います(基準43項)。
A. リースに該当する契約は、原則としてリース開始日に使用権資産とリース負債を計上します(基準33項)。ただし、短期リースや一定の少額リースには、費用処理を選択できる簡便的な取扱いがあります(指針20項、22項)。
A. 本文の数値例のとおり、リース期間全体でみた費用総額は変わりません。ただし、利息相当額は原則として負債残高に利率を乗じて算定するため(指針39項)、費用が期間の前半に厚く配分され、単年度の損益は変わり得ます。
A. 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用され、2025年4月1日以後開始する年度からの早期適用も可能です(基準58項)。適用時期の詳細は連載第1回で解説しています。
🎯 まとめ──「区分の判定」から「見積りと説明」へ
借手の会計処理は、分類によって処理が分かれる現行の2区分から、使用権資産の減価償却費とリース負債の利息相当額を計上する単一の会計処理モデルへ転換します(基準BC39項)。費用総額は変わらない一方で、B/Sの姿と費用の科目・計上パターンが変わるため、実務の重心は「ファイナンス・リースかどうかの判定」から「リースの識別・期間・割引率という見積りと、その説明」へ移ります。
連載の全体像と各回の位置づけは連載目次「新リース会計基準 完全ガイド」をご覧ください。次回・第3回は「IFRS第16号との異同──日本基準が独自に残したもの」を予定しています。
公認会計士・税理士が、契約の棚卸しから影響額試算、監査法人対応まで導入を伴走支援します。情報収集の段階でも、まずはお気軽にご覧ください。
参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」11項、14項、33項、34項、35項、36項、37項、38項、43項、51項、58項、59項(1)、BC3項、BC4項(1)、BC6項、BC10項(3)、BC39項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」4項(2)、20項、22項、38項、39項、40項、41項
免責:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の会計処理・投資判断についての助言ではありません。実際の会計処理の最終判断にあたっては、監査法人や専門家にご相談ください。