TOKYO PRO Marketに上場している会社は187社です(2026年9月4日時点)。東証が公表した上場目的の開示状況によれば、目的を開示した107社のうち74社が一般市場に向けた準備を挙げています(2026年6月15日時点)。
TPMは形式基準がなく短い期間で上場できる市場ですが、一般市場に移るときは求められるものが変わります。監査の年数、株主数と流通株式の基準、内部統制の評価と四半期の開示。どれも準備に時間がかかるものばかりです。
この記事では、TPMから一般市場へのステップアップ上場について、制度の違いと実際の準備の進め方を整理します。
- TPMと一般市場で何が違うか(監査の年数、形式基準、開示)
- スタンダード市場とグロース市場の形式要件の水準
- ステップアップの実績(累計17社、期間の中央値は2年1か月)
- 内部統制報告書の監査証明が免除される特例の要件
図 一般市場に移るために足りないものの洗い出し
この記事の見出し
📌 TPMと一般市場は何が違うか
TOKYO PRO Marketは特定投資家などを対象とする市場で、上場のための形式基準がありません。株主数や利益の水準を問わず、J-Adviserが上場適格性を調査して東証に誓約書を提出することで上場できます。上場申請から承認までも10営業日と短く、上場までの負担が軽いことが特徴です。
一方で、一般の投資家が売買する市場に移るときは、形式基準と実質審査の両方を通ることになります。次の表は、東証が公表している制度の違いをまとめたものです。
表 東証の公表資料をもとに作成
📌 一般市場を目指す会社はどのくらいあるか
TPMの上場会社数は187社です(2026年9月4日時点)。東証は2026年4月から、TPMに上場する会社に上場の目的を開示してもらう取組みを始めており、その集計結果も公表されています。
2026年6月15日時点で目的を開示したのは107社で、そのうち74社が一般市場に向けた準備を目的に挙げています。社内の体制強化や採用力の強化を挙げる会社も多く、1社あたり平均で4.2項目が選ばれています。目的は一つではないということです。
実際に一般市場へ移った会社は、東証の資料では累計17社です。TPMへの上場から一般市場への上場までの期間は中央値で2年1か月、最短で9か月、最長で7年4か月でした。時価総額の伸びは中央値で2.0倍です。東証はTPMを一般市場への助走の場と位置づけ、2026年秋を目途に一般市場への上場を円滑にする仕組みを検討するとしています。
📌 新たに満たす形式要件
一般市場に移るときにまず確かめるのが形式要件です。スタンダード市場とグロース市場では水準が大きく違います。
表 東証の上場審査基準の概要をもとに作成(2023年4月1日現在の基準)
株主数と流通株式の基準は、TPMには存在しない要件です。特定投資家に限られた株主構成のままでは満たせないため、公募や売出しを含む資本政策が必要になります。
なお、グロース市場の上場維持基準は見直されており、上場から5年を経過した後は時価総額100億円以上が求められます。適用は2030年3月1日からです。上場して終わりではなく、その後に何を求められるかまで見て市場を選ぶ必要があります。
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📌 審査で見られる中身
形式要件を満たしても、それだけでは上場できません。スタンダード市場では、企業の継続性および収益性、企業経営の健全性、企業のコーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制の有効性、企業内容等の開示の適正性、その他公益または投資者保護の観点という5つの実質審査基準があります。グロース市場では、収益性に代えて事業計画の合理性が問われます。
TPMの上場適格性の要件にも、ガバナンスと内部管理体制、適切な開示体制は含まれています。ただし一般市場では、投資者保護の観点から確かめられる深さが違います。とくに近年は、新規上場した会社での会計不正を受けて、売上の実在性に関する審査が強化されています。東証は2025年12月に申請書類と新規上場ガイドブックを改訂し、代理店を介した取引の比率が高い場合には実質的な取引先まで記載を求めるなど、確認する範囲を広げました。
📌 準備の進め方
図 TPMから一般市場へ移るまでの流れ
最初につまずきやすいのが監査の年数です。TPMでは最近1年間の監査で足りるため、一般市場を目指すと決めた時点で、直前々期の監査が受けられているかを確かめる必要があります。過去にさかのぼって監査を受けることはできないため、ここが移行時期を決めてしまうことが多くあります。
次に時間がかかるのが内部統制の整備です。一般市場では内部統制報告書の提出が必要になり、評価の対象となる業務プロセスの文書化と、その運用を確かめる作業が発生します。文書を作るだけでも数か月、運用の実績を作るとなるとさらに時間がかかります。
📌 内部統制報告書の監査には特例がある
新規上場会社には、内部統制報告書に対する監査証明を一定の期間免除する特例があります。金融商品取引法第193条の2第2項第4号により、上場した日から3年を経過する日までの間に提出する内部統制報告書については、公認会計士または監査法人の監査証明が不要とされています。
ただし免除されるのは監査証明であって、内部統制報告書の提出そのものは必要です。評価と報告は会社が行わなければなりません。また、上場した日の属する事業年度の直前事業年度の貸借対照表で、資本金が100億円以上または負債の部の合計額が1,000億円以上に該当する会社は、この特例の対象外です。
TPMから一般市場に移る場合にこの特例が使えるかどうかは、制度の建て付けからは適用されると読めますが、これを明示した公表資料は確認できていません。移行を検討する段階で、監査法人と主幹事証券会社に確認してください。
TPMからのステップアップでは、監査の年数と内部統制の整備が期間を決めます。いまの体制で何が足りないかの洗い出しから対応できます。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 開示と決算の体制がすでにできている点は評価されますが、審査の基準そのものが緩くなるわけではありません。東証の資料では、TPMから一般市場に移った会社は累計17社で、TPM上場から一般市場上場までの期間は中央値で2年1か月です。
A. 一般市場では最近2年間の財務諸表について金融商品取引法に準ずる監査が必要です。TPMは最近1年間で足りるため、移行を決めた時点で年数が足りているかを確かめてください。さかのぼって監査を受けることはできません。
A. 新規上場会社には監査証明を免除する特例があり、上場した日から3年を経過する日までの間に提出する内部統制報告書は監査証明が不要です。ただし報告書の提出自体は必要で、資本金100億円以上または負債の合計額1,000億円以上の会社は対象外です。
A. 最近1年間の利益が1億円以上あればスタンダード市場が視野に入ります。成長性で説明する場合はグロース市場ですが、上場維持基準の見直しにより、2030年3月1日からは上場後5年を経過すると時価総額100億円以上が求められます。上場した後に何を求められるかまで見て選んでください。
📄 まとめ
TPMから一般市場へのステップアップは、実績としては累計17社、期間は中央値で2年1か月です。時価総額の伸びは中央値で2.0倍でした。決して多い数ではありませんが、東証は一般市場への助走の場としての機能を高める方針を示しており、2026年秋を目途に円滑化の仕組みを検討するとしています。
準備で期間を決めるのは監査の年数と内部統制の整備です。TPMでは最近1年間の監査で足りますが、一般市場では最近2年間が必要になります。移行を決めた時点で直前々期の監査が受けられているかを確かめてください。
株主数と流通株式の基準は、特定投資家に限られた株主構成のままでは満たせません。公募や売出しを含む資本政策を、目標時期から逆算して組み立てることになります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
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