スコープ3の開示|有価証券報告書での経過措置と適用時期

サステナビリティ開示基準にもとづく有価証券報告書での開示が始まります。プライム市場で平均時価総額が3兆円以上の会社は2027年3月期から、1兆円以上の会社は2028年3月期からです。

温室効果ガス排出については、スコープ1、スコープ2、スコープ3を区分して開示することが求められます。ただしスコープ3には、適用の最初の年度に開示しないことができるという経過措置が置かれています。

この記事では、適用の時期と経過措置、二段階開示と保証の枠組み、そしていまの開示の実態を整理します。

この記事でわかること

  • 適用の対象と時期(3兆円以上は2027年3月期、1兆円以上は2028年3月期)
  • スコープ3を初年度に開示しないことができる経過措置の根拠
  • 訂正報告書で情報を追加できる二段階開示の仕組み
  • 保証の対象がスコープ1と2に限られること
自社はいつから対応が必要か市場区分と時価総額の水準を確かめるプライム市場で平均時価総額が3兆円以上か2027年3月期から適用はいいいえプライム市場で平均時価総額が1兆円以上か2028年3月期から適用はいいいえそれ以外の上場会社か現時点で強制適用の定めはないはいいいえ任意で開示する場合も基準の考え方を踏まえて準備する

図 サステナビリティ開示基準の適用時期の判定

📌 基準と府令が出そろった

サステナビリティ基準委員会は2025年3月5日にサステナビリティ開示基準を公表し、2026年3月13日にこれを改正しました。適用基準、一般開示基準、気候関連開示基準の3つで構成されています。

受け皿となる制度の側も整いました。金融庁は2026年2月20日に企業内容等の開示に関する内閣府令を改正して公布し、同日から施行しています。あわせて、サステナビリティ基準委員会が令和8年2月20日までに公表した基準を適用対象として指定する告示も出されました。

これにより、一定の会社は有価証券報告書でサステナビリティ関連財務開示を行うことになります。

📌 適用のスケジュール

強制適用の対象と時期対象適用開始制度上の措置プライムで平均時価総額3兆円以上2027年3月期措置済みプライムで平均時価総額1兆円以上2028年3月期措置済みプライムで平均時価総額5,000億円以上2029年3月期の予定未措置それ以外未定引き続き検討

表 金融庁の公表資料をもとに作成(平均時価総額は直前5事業年度末の平均)

判定に使うのは、直前5事業年度末の時価総額の平均です。2026年3月31日を基準として算定されます。

注意したいのは、5,000億円以上1兆円未満の会社を2029年3月期から対象とするという内容は、金融審議会のワーキング・グループの報告に示された方針であって、2026年9月の時点では開示府令に落ちていないことです。今後の改正で措置されると見込まれますが、決まっているわけではありません。

📌 スコープ1と2と3の開示要求

気候関連開示基準では、温室効果ガス排出の絶対総量について、スコープ1、スコープ2、スコープ3を区分して開示しなければならないとされています。表示はCO2に換算したメートル・トンです。

スコープ3は、他社から購入した製品やサービス、資本財、輸送や流通、出張、雇用者の通勤、販売した製品の使用や廃棄など15のカテゴリーに分かれています。自社の排出ではなく、取引先や顧客のところで生じる排出を集計するため、算定の負担が大きいのが特徴です。

📌 最初の年度はスコープ3を出さなくてよい

気候関連開示基準には経過措置が置かれています。適用の最初の年次報告期間においては、スコープ3の温室効果ガス排出を開示しないことができるとされています。比較情報を開示しないことも認められています。

この免除は開示府令ではなく基準の側に置かれている点が実務上のポイントです。金融庁のパブリックコメントへの回答でも、初年度にスコープ3を開示しないことができる根拠は気候関連開示基準の経過措置であると整理されています。

したがって、平均時価総額3兆円以上の会社が2027年3月期から適用する場合、スコープ3の実質的な最初の開示は2028年3月期になりうるということです。ただし免除を使うかどうかは会社の選択であり、初年度から開示することもできます。

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📌 二段階での開示という仕組み

もう一つ設けられたのが二段階開示です。適用の初年度とその翌年度の2年間に限り、有価証券報告書の提出時点で記載できる情報をまず記載し、その後に記載できる状態になった情報を訂正報告書によって追加することが認められます。追加の期限は翌期の半期報告書の提出期限までです。

サステナビリティの情報は、集計に時間がかかるものが少なくありません。とくに取引先からデータを集めるスコープ3は、有価証券報告書の提出期限に間に合わないことがあります。この仕組みは、そうした実態への当面の対応です。

適用初年度の開示の進み方有価証券報告書の提出時点で記載できる情報を記載するスコープ3は経過措置により開示しないことも選べる集計が終わった情報を訂正報告書で追加する(翌期の半期報告書の提出期限まで翌年度は比較情報の扱いを確かめて記載する

図 適用初年度と翌年度の開示の流れ

📌 保証はどこまでかかるか

保証制度の当初の枠組み項目内容開始の時期開示基準の適用開始の翌年から保証の水準限定的保証当初2年間の範囲スコープ1と2、ガバナンス、リスク管理スコープ3当初は保証の対象外3年目以降国際的な動向を踏まえて検討

表 金融庁の公表資料をもとに作成

保証の対象は当初2年間はスコープ1と2に限られ、スコープ3は対象外とされています。開示の負担と保証の負担を同時にかけない設計です。

📌 いまの開示の実態

有価証券報告書でスコープ3を開示している会社は、まだ多くありません。2024年3月期の2,264社を対象とした調査では、スコープ1を開示していたのが777社で34%、スコープ2が782社で35%、スコープ3は341社で15%でした。市場区分別に見ると、プライム市場では1,121社中628社がスコープ1を開示している一方、スタンダード市場は938社中139社、グロース市場は150社中4社にとどまっています。

ただしこれは有価証券報告書での開示率です。統合報告書やサステナビリティ報告書では、より多くの会社が排出量を公表しています。開示していないというより、有価証券報告書に載せていないというのが実態に近く、基準の適用によってこの情報が有価証券報告書に移ってくることになります。

移ってくると何が変わるかというと、記載の責任の重さです。有価証券報告書は金融商品取引法にもとづく開示書類であり、虚偽記載には責任が伴います。任意の報告書に載せていた数値をそのまま持ち込むのではなく、算定の方法と根拠資料を確かめ直す作業が必要になります。

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❓ よくある質問

Q. スコープ3は必ず開示しなければなりませんか

A. 気候関連開示基準では、スコープ1、スコープ2、スコープ3を区分して開示することが求められています。ただし適用の最初の年次報告期間については、スコープ3を開示しないことができるという経過措置が置かれています。

Q. 5,000億円以上の会社はいつからですか

A. 金融審議会のワーキング・グループの報告では2029年3月期からとされていますが、2026年9月の時点では開示府令に措置されていません。今後の改正を確かめてください。

Q. 統合報告書に載せている数値をそのまま使えますか

A. 有価証券報告書は金融商品取引法にもとづく開示書類であり、記載の責任が伴います。算定の方法、対象の範囲、根拠となる資料を確かめ直したうえで記載してください。

Q. 保証はスコープ3にもかかりますか

A. 保証の範囲は当初2年間、スコープ1と2、ガバナンス、リスク管理に限られ、スコープ3は対象外とされています。3年目以降は国際的な動向を踏まえて検討されます。

📄 まとめ

サステナビリティ開示基準にもとづく有価証券報告書での開示は、プライム市場で平均時価総額が3兆円以上の会社について2027年3月期から始まります。1兆円以上の会社は2028年3月期からです。

スコープ3には適用初年度に開示しないことができる経過措置があり、この免除は開示府令ではなく基準の側に置かれています。あわせて、訂正報告書で情報を追加できる二段階開示も認められています。

いま有価証券報告書でスコープ3を開示しているのは15%程度ですが、統合報告書などでは相当数が公表しています。任意の開示を有価証券報告書に移すにあたっては、算定の根拠を確かめ直す作業が必要です。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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