東証グロース市場の形式要件には、プライム市場・スタンダード市場にはない「公募の実施」という要件があります。上場までに500単位以上の公募を行うことが求められるもので、資本政策の設計に直結する重要な基準です。
また、3市場に共通する「事業継続年数」の要件は、グロース市場が1か年、プライム市場・スタンダード市場が3か年と市場によって年数も内容も異なります。本記事では、この2つの形式要件について、有価証券上場規程の条文に沿って公認会計士・税理士が解説します。
公募の実施とは?グロース市場だけに課される形式要件
グロース市場に新規上場する場合、新規上場申請日から上場日の前日までの期間に、500単位以上の新規上場申請に係る株券等の公募を行うことが形式要件とされています(有価証券上場規程217条3号)。
【要件の骨子】新規上場申請日から上場日の前日までの期間に、500単位以上の新規上場申請に係る株券等の「公募」を行うこと(グロース市場のみ)。
ここでいう公募とは、新たに発行される株式について不特定多数の投資者に取得の申込みを勧誘するもの、いわゆる公募増資を指します。既存株主が保有株式を売却する「売出し」は含まれない点に注意が必要です。
「500単位」とは何株のことか
1単位とは、単元株式数を定めている場合は一単元の株式数を、定めていない場合は1株をいいます。上場会社は単元株式数を100株とすることが求められるため(形式要件の「単元株式数」)、実務上は次のように計算されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1単位 | 一単元の株式数=100株(単元株式数を定めない場合は1株) |
| 500単位 | 100株×500単位=5万株以上の公募が必要 |
| 実施期間 | 新規上場申請日から上場日の前日までの期間 |
単元株式数を定めない場合は1単位=1株となりますが、上場会社は単元株式数を100株とすることが求められます。
なぜ公募が求められるのか
この要件は、グロース市場が一定量以上の流通株式を確保するとともに、上場に際して行う公募増資で得た調達資金を基に、その企業がさらなる発展を遂げることを期待して設けられているものです。グロース市場は高い成長可能性を有する企業向けの市場であるため、上場を「ゴール」ではなく成長資金の調達機会と位置づけていることが、この要件からも読み取れます。
公募が不要となる2つの例外
次のいずれかに該当する場合には、公募の実施は必須とされていません。
| 例外 | 理由 |
|---|---|
| 上場日における時価総額が250億円以上となる見込みのある場合 | 上場前より多額の資金調達を実現しており、かつ、十分な流通株式比率を実現できていると考えられるため |
| 上場会社の人的分割により事業を承継する会社で、分割前に上場申請が行われる場合 | 会社分割という会社組織の重大な変更と同時に公募を強制することが過度の制約となりかねないため |
プライム市場・スタンダード市場に公募の要件はない
「公募の実施」が形式要件とされているのはグロース市場のみで、プライム市場・スタンダード市場の形式要件(プライム211条・スタンダード205条)にはこの要件はありません。もっとも、両市場でも流通株式数・流通株式時価総額・流通株式比率の基準を上場時に満たす必要があるため、実務上は公募や売出しを組み合わせて流通株式を確保するのが通常です。形式要件として公募が強制されるか否かの違い、と理解するとよいでしょう。
公募規模・流通株式比率・希薄化のバランスは、上場スケジュールの早い段階での設計が重要です。公認会計士・税理士がIPO準備を支援します。
事業継続年数の要件とは?
事業継続年数は、新規上場申請日を起算日として、一定期間前から株式会社として継続的に事業活動をしていることを求める形式要件です。市場ごとの違いは次のとおりです。
| 市場 | 必要年数 | 要件の内容 |
|---|---|---|
| グロース市場 (規程217条4号) |
1か年 | 新規上場申請日から起算して1年前より前から、株式会社として継続的に事業活動をしていること(事業の内容は問わない) |
| スタンダード市場 (規程205条3号) |
3か年 | 新規上場申請日から起算して3か年前より前から、株式会社として申請日における主要な事業に関する活動を3か年以上継続して行っていること |
| プライム市場 (規程211条6号) |
3か年 | スタンダード市場と同じ(規程211条6号が205条3号の基準を準用する構造) |
単に年数が「1年か3年か」という違いだけではありません。プライム市場・スタンダード市場では「申請日における主要な事業に関する活動」を3か年以上継続していることが必要なのに対し、グロース市場では株式会社として何らかの事業を継続していれば足りる、という質的な違いがある点がポイントです。
年数の違いだけでなく、プライム・スタンダードは「主要な事業」の継続を求める点でグロース市場と質的に異なります。
起算日の数え方に注意
「申請日から起算して1年前(3年前)より前」という表現は、日付の数え方を誤りやすいところです。東証の新規上場ガイドブックでは次の例が示されています。
【グロース市場の例】新規上場申請日が20X1年4月1日の場合 → 同日を起算日とした1年前の日は20X0年4月2日 → その日より前、つまり20X0年4月1日以前に株式会社として事業活動を開始していることが必要。
プライム市場・スタンダード市場の3か年も考え方は同じで、申請日が20X4年4月1日なら20X1年4月1日以前に主要な事業に関する活動を開始している必要があります。
「申請日から起算して1年前(3年前)より前」という表現は、日付の数え方を誤りやすいところです。東証の新規上場ガイドブックの例に沿って確認します。
成長事業の期間が1年未満でも充足できる(グロース市場)
グロース市場では、上場審査で高い成長可能性の評価対象となる事業そのものの継続期間が1年未満であっても、申請日から起算して1年前より前から株式会社として他の事業を継続して行っていれば、この基準を充足します。事業転換(ピボット)を経て新事業で上場を目指すスタートアップでも、会社としての事業活動が続いていれば問題ないということです。
組織再編があった場合の特例
申請会社が過去に合併等の組織再編行為等を行っている場合には、組織再編主体会社等における主要な事業の活動期間を加算して事業継続年数を算出することができます(有価証券上場規程施行規則212条3項2号)。たとえば、事業を長年営んできた会社を再編して新設した会社が申請する場合、新会社の設立からの期間だけでは年数が不足していても、従前の会社の活動期間を通算できる余地があります。ただし、非子会社化や会社分割による他の会社への事業の承継・事業の譲渡は対象から除かれるなど適用には細かな限定があるため、該当し得る場合は主幹事証券会社・東証への早期の確認が不可欠です。
実務上のチェックポイント
- グロース申請なら、申請予定日から逆算して「1年前より前」に株式会社としての事業活動が始まっているかを確認する(設立日ではなく事業活動の開始で判定)
- プライム・スタンダード申請なら、申請日時点の主要な事業の活動が3か年以上継続しているかを確認する(直前の事業転換は要注意)
- 公募500単位(5万株)と流通株式比率25%以上をセットで資本政策に織り込む
- 時価総額250億円以上が見込まれる大型案件では、公募の要否を含めオファリング構成を主幹事証券会社と協議する
- 過去に合併等の組織再編がある場合は、活動期間の通算特例(規則212条3項2号)の適用可否を早期に確認する
よくある質問
公募は会社が新たに発行する株式を投資者に取得勧誘するもので、調達資金は会社に入ります。売出しは既存株主が保有株式を売却するもので、資金は株主に入ります。グロース市場の500単位要件の対象は「公募」であり、売出しだけでは充足できません。
形式要件としての公募の実施は必須ではなくなります。ただし、流通株式比率25%以上などほかの形式要件は満たす必要があるため、実際には売出し等を含めたオファリング設計が必要になるのが通常です。
新規上場申請日から起算して1年前より前から株式会社として事業活動をしていることが必要なため、原則として申請できません。ただし組織再編を経ている場合は、従前の会社の主要な事業の活動期間を加算できる特例があります。
まとめ
公募の実施(500単位以上)はグロース市場だけの形式要件であり、時価総額250億円以上の見込みがある場合等には例外が認められます。事業継続年数は、グロース市場が「1か年・事業内容を問わない」のに対し、プライム市場・スタンダード市場は「3か年・主要な事業の活動」とより厳格です。いずれも申請スケジュールと資本政策の根幹に関わる要件のため、上場準備の初期に必ず確認しておきましょう。
形式要件の全体像はIPO形式要件の全体比較を、株式数に関する基準は流通株式の要件や時価総額・純資産・利益の要件を、上場までの道のりはIPO準備の全体像とスケジュールをあわせてご覧ください。
鈴木佑也公認会計士税理士事務所では、形式要件のギャップ分析から資本政策・上場審査対応まで、IPO準備を一貫して支援しています。まずはお気軽にご相談ください。
※本記事は2026年8月時点の有価証券上場規程(東京証券取引所)および新規上場ガイドブック(2026年7月21日版)に基づいています。根拠条文:公募の実施=有価証券上場規程217条3号(グロース)、事業継続年数=同217条4号(グロース)・205条3号(スタンダード)・211条6号(プライム、205条3号を準用)、組織再編時の活動期間の加算=有価証券上場規程施行規則212条3項2号。個別案件の判断にあたっては、最新の規程および東証・主幹事証券会社への確認をお願いします。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。