持分あり医療法人を持分なし医療法人に移行するには、出資者が持分を放棄する必要があります。しかし、この放棄によって医療法人に贈与税が課される場合があり、それが移行の障害になっていました。
この障害を取り除くために設けられているのが認定医療法人制度です。厚生労働大臣の認定を受けることで、持分の放棄に伴う贈与税が非課税となり、相続税や贈与税の納税猶予も受けられます。
認定を受けられる期限は令和11年12月31日までです。この記事では、制度のスケジュール、運営に関する9つの要件、税制上の措置、そして移行によって何を失うのかを整理します。
- 持分を放棄すると医療法人に贈与税が課される場合があること
- 認定の期限が令和11年12月31日、移行の期限が認定日から5年以内であること
- 運営に関する9つの要件と、特定医療法人の要件との違い
- 租税特別措置法にもとづく3つの税制上の措置
- 移行すると解散時の残余財産が国等に帰属すること
図 認定医療法人制度の判定(厚生労働省の公表資料にもとづき作成)
📌 持分を放棄すると贈与税がかかる
持分あり医療法人を持分なし医療法人に移行するには、出資者が持分を放棄する必要があります。ところが、この放棄には税務上の壁があります。
出資者が持分を放棄すると、医療法人はその分だけ財産的な負担から解放されます。この経済的な利益に対して、持分の定めのない法人に対する贈与とみなして医療法人に贈与税が課される場合があります。数億円規模の持分を放棄すれば、医療法人に多額の贈与税がかかることになります。
これでは移行が進みません。そこで国は、一定の要件を満たす医療法人について、この贈与税を非課税とする制度を設けました。それが認定医療法人制度です。
認定医療法人制度は、平成18年の医療法改正法の附則10条の3にもとづく移行計画の認定制度であり、厚生労働大臣の認定を受けることで税制上の措置を受けられます。
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📌 期限は令和11年12月31日
この制度は期限つきの措置です。厚生労働大臣の認定を受けられる期限は、令和11年12月31日までとされています。
制度は過去に何度か延長されてきましたが、恒久的なものではありません。持分なしへの移行を選択肢に入れているのであれば、この期限から逆算して検討を始める必要があります。
また、認定を受けてから実際に移行を完了するまでの期限も定められています。移行計画に記載する移行の期限は、認定の日から起算して5年を超えないものであることとされています。認定を受ければすぐに移行しなければならないわけではありませんが、5年という枠の中で完了させる必要があります。
さらに、移行が完了した後も6年間は、運営状況を毎年報告する義務があります。認定を受けた時点で終わりではなく、その後の運営も継続的に確認されるということです。
表 認定医療法人制度のスケジュール(厚生労働省の公表資料にもとづく)
📌 運営に関する9つの要件
認定を受けるには、運営に関する要件を満たす必要があります。厚生労働省が示している要件は次の9つです。
表 運営に関する要件(厚生労働省の移行に関する手引書にもとづく)
注意したいのは、この9つの要件に役員の人数や親族の割合に関する定めが含まれていないことです。役員のうち親族が3分の1以下でなければならないという要件は、租税特別措置法67条の2の特定医療法人に関するものであり、認定医療法人の要件ではありません。両者は別の制度ですので、混同しないでください。
また、社会保険診療等の割合が80%を超えることという要件について、分母は医療保健業務による収入金額です。医療法人の全収入金額ではありません。自由診療や健康診断の割合が高い医療法人では、この要件の充足が課題になることがあります。
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📌 3つの税制上の措置
認定医療法人になると、租税特別措置法にもとづく税制上の措置を受けられます。大きく3つあります。
ひとつめは、持分の放棄があった場合の贈与税の課税の特例です。租税特別措置法70条の7の14が、認定医療法人について、持分の放棄により医療法人が受けた経済的利益に対する贈与税を非課税とすることを定めています。移行の最大の障害を取り除く措置です。
ふたつめは、贈与税の納税猶予です。租税特別措置法70条の7の9は、認定医療法人の出資者が持分を放棄したことにより他の出資者の持分の価額が増加し、その増加分に贈与税が課される場合について、納税猶予と免除を定めています。出資者が複数いる医療法人で、順次持分を放棄していく場面で使われます。
みっつめは、相続税の納税猶予です。租税特別措置法70条の7の12は、経過措置医療法人の持分を相続または遺贈により取得した場合について、相続税の納税猶予と免除を定めています。相続が起きてから移行を進める場合の措置です。
これらの制度は互いに関連していますので、どの場面でどれを使うのかを整理したうえで手続きを進める必要があります。
表 認定医療法人に関する税制上の措置
📌 移行すると何を失うか
ここまでは制度の利点を説明してきましたが、移行にはきわめて大きな代償があります。
持分なし医療法人になると、医療法44条5項により、解散したときの残余財産は国もしくは地方公共団体または医療法人その他の医療を提供する者であって厚生労働省令で定めるもののうちから選定されることになります。出資者やその親族に戻ることはありません。
つまり、これまで医療法人に蓄積してきた財産は、事実上、家族の手を離れます。長年かけて積み上げた数億円の純資産が、将来家族のものにならないという判断をすることになります。
一方で、持分を持ち続ければ相続税の対象になり続けます。換金できない財産に対して現金で納税しなければならないという問題は残ります。どちらを選ぶかは、家族の状況、医療法人の規模、後継者の有無によって答えが変わります。
後継者が院内にいて医療を続けていく見込みが立っているのであれば、移行によって承継の障害を取り除く意味は大きくなります。逆に、将来的に医療法人を畳む可能性があるのであれば、移行によって財産を失う結果になりかねません。
表 判断の材料
図 移行の手順
移行するかどうかは、税負担だけでなく、後継者の有無と家族の意向によって答えが変わります。認定の要件を満たしているかの点検から承ります。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 厚生労働大臣の認定を受けられる期限は令和11年12月31日までです。制度はこれまで何度か延長されてきましたが、恒久的な措置ではありません。検討しているのであれば、この期限から逆算して進めてください。
A. 移行計画に記載する移行の期限は、認定の日から起算して5年を超えないものであることとされています。認定を受けてから5年という枠の中で移行を完了させる必要があります。また、移行が完了した後も6年間は毎年の運営状況の報告が必要です。
A. 認定医療法人の要件にはありません。その要件は租税特別措置法67条の2の特定医療法人に関するもので、同法施行令39条の25に定められています。認定医療法人と特定医療法人は別の制度ですので、混同しないでください。
A. 医療保健業務による収入金額です。医療法人の全収入金額ではありません。自由診療や健康診断の割合が高い医療法人では、この要件の充足が課題になることがあります。
A. 解散したときの残余財産が、医療法44条5項により国もしくは地方公共団体または医療法人その他の医療を提供する者のうちから選定した者に帰属することになります。出資者やその親族に戻ることはありません。蓄積してきた財産が家族の手を離れるという判断になりますので、家族で十分に話し合ってください。
📄 まとめ
認定医療法人制度は、持分の放棄に伴う医療法人への贈与税を非課税とし、相続税や贈与税の納税猶予を可能にする制度です。持分あり医療法人が持分なしへ移行する際の税務上の障害を取り除くために設けられています。
認定を受けられる期限は令和11年12月31日まで、移行の期限は認定の日から5年以内、移行後の報告は6年間です。運営に関する要件は9つあり、社会保険診療等に係る収入金額が医療保健業務による収入金額の80%を超えることなどが含まれます。役員の親族割合に関する要件は、特定医療法人のものであって認定医療法人のものではありません。
一方で、移行すると解散時の残余財産は国等に帰属し、出資者やその親族には戻りません。後継者がいて医療を継続していく見込みが立っているかどうかが、判断の分かれ目になります。税負担の比較だけでなく、家族の意向を含めて検討してください。
⚖ 本記事の根拠法令
- 良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)附則10条の3および10条の4(移行計画の認定制度)、同附則10条の2(経過措置医療法人の定義)
- 医療法44条5項(残余財産の帰属すべき者は、国若しくは地方公共団体または医療法人その他の医療を提供する者であつて厚生労働省令で定めるもののうちから選定する)
- 租税特別措置法70条の7の14(認定医療法人の持分の放棄があった場合の贈与税の課税の特例)
- 租税特別措置法70条の7の9および70条の7の10(医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の納税猶予および免除、税額控除)
- 租税特別措置法70条の7の12および70条の7の13(医療法人の持分についての相続税の納税猶予および免除、税額控除)
- 租税特別措置法67条の2および同法施行令39条の25(特定医療法人。役員等のうち親族等の占める割合が3分の1以下であることなどの要件)
- 認定の期限、移行の期限、移行後の報告期間、運営に関する9つの要件は、厚生労働省の公表資料および持分なし医療法人への移行に関する手引書によります
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までにまとめています。