理事長が亡くなったとき|医療法人の手続きと死亡退職金

医療法人の理事長が亡くなると、後任の選出、届出、登記、そして死亡退職金と弔慰金の支給という手続きが一度に必要になります。持分あり医療法人であれば、出資持分の相続も加わります。

医療法46条の6第1項は、理事長を医師または歯科医師である理事のうちから選出すると定めています。院内に医師である理事が他にいなければ、対応を急ぐことになります。

この記事では、理事長の死亡後に必要な手続きを条文とともに整理し、死亡退職金と弔慰金の非課税の枠、医療法人側の損金算入の考え方を説明します。

この記事でわかること

  • 理事長が欠けた場合に権利義務承継の規定が及ばないこと
  • 一時役員の職務を行うべき者の選任と、理事の補充の期限
  • 役員変更の届出の根拠と、管理者変更や登記との関係
  • 死亡退職金の非課税枠が相続税法12条1項7号に繰り下がったこと
  • 弔慰金として扱われる範囲と、退職手当金等として課税される部分
理事長の死亡後に確認すべきこと医療法人の理事長が死亡した医師または歯科医師である理事が他にいない都道府県知事の認可はいいいえ理事の定数の5分の1を超える者が欠けた1か月以内に補充するはいいいえ役員変更の届出をしていない遅滞なく届け出るはいいいえ退職金規程が整備されていない支給額の根拠が乏しいはいいいえ後任の理事長を選出し、届出と退職金の支給を進める

図 理事長の死亡後の確認事項(医療法および医療法施行令にもとづき作成)

📌 まず後任の理事長を決める

医療法46条の6第1項は、医療法人の理事のうち一人を理事長とし、医師または歯科医師である理事のうちから選出すると定めています。ただし書きにより、都道府県知事の認可を受けた場合には、医師または歯科医師でない理事のうちから選出することもできます。

したがって、理事長が死亡した場合、まず医師または歯科医師である理事のなかから後任を選ぶことになります。院内に医師である理事が他にいなければ、新たに医師を理事に迎えるか、都道府県知事の認可を得て医師でない理事を理事長とするかの判断が必要になります。

ここで注意したいのが、医療法46条の5の3第1項の権利義務承継の規定です。この規定は、任期の満了または辞任により退任した役員について、新たに選任された役員が就任するまで役員としての権利義務を有するとしています。死亡による退任には及びません。

医療法46条の6の2第3項は、理事長が欠けた場合について46条の5の3第1項および第2項を準用しています。第2項は、医療法人の業務が遅滞することにより損害を生ずるおそれがあるときは、都道府県知事が利害関係人の請求によりまたは職権で、一時役員の職務を行うべき者を選任しなければならないとするものです。後任がすぐに決まらない場合は、この仕組みで対応することになります。

また、医療法46条の5の3第3項は、理事または監事のうちその定数の5分の1を超える者が欠けたときは1か月以内に補充しなければならないとしています。理事3人の医療法人で1人が欠ければこれに該当します。

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📌 届出を忘れない

役員に変更があったときは、医療法施行令5条の13により、新たに就任した役員の就任承諾書および履歴書を添付して、遅滞なくその旨を都道府県知事に届け出なければなりません。

あわせて、理事長が管理者(院長)を兼ねていた場合には、医療機関としての管理者変更の手続きも必要になります。医療法人としての届出と、医療機関としての届出は別のものです。どちらも保健所または都道府県の担当課で手続きの内容を確認してください。

また、理事長の登記も必要です。医療法人では理事長のみが登記されますので、理事長の変更は登記事項の変更にあたります。司法書士に依頼する場合は、社員総会または理事会の議事録が必要になりますので、後任選出の手続きを議事録として残しておいてください。

理事長の死亡後の主な手続き手続き内容根拠後任理事長の選出医師または歯科医師である理事のうちから選出する医療法46条の6第1項一時役員の職務を行うべき者業務の遅滞により損害を生ずるおそれがあるときは都道府県知事が選任する医療法46条の6の2第3項が準用する46条の5の3第2項理事の補充定数の5分の1を超える者が欠けたときは1か月以内に補充する医療法46条の5の3第3項役員変更の届出就任承諾書および履歴書を添付して遅滞なく都道府県知事へ届け出る医療法施行令5条の13理事長の登記理事長の変更を登記する各種法令にもとづく登記手続

表 理事長の死亡後の主な手続き

📌 死亡退職金は相続財産になる

医療法人が遺族に死亡退職金を支給した場合、その退職金は相続税の対象になります。相続税法3条1項2号は、被相続人の死亡により相続人その他の者が、当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合について、その給与を相続または遺贈により取得したものとみなすと定めています。

ただし、相続人が取得した退職手当金等には非課税の枠があります。500万円に法定相続人の数を乗じた金額までは相続税がかかりません。法定相続人が3人であれば1,500万円です。

ここで注意していただきたいのが条文の番号です。この非課税の規定は、令和8年3月31日以前は相続税法12条1項6号でしたが、公益信託に関する法律の施行に伴う改正により、令和8年4月1日から同項7号に繰り下がっています。生命保険金の非課税は6号です。古い解説では旧番号のままになっていることがありますので、条文を引用する際は現行の番号を確認してください。

なお、この非課税の枠を使えるのは相続人が取得した場合に限られます。相続を放棄した人や、相続人以外の人が受け取った場合には適用がありません。

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📌 弔慰金には別の枠がある

退職金とは別に、弔慰金を支給することがあります。弔慰金は一定の範囲まで相続税の対象になりません。

国税庁は、被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは死亡当時の普通給与の3年分に相当する額まで、業務上の死亡でないときは死亡当時の普通給与の半年分に相当する額までを弔慰金等として取り扱い、これを超える部分は退職手当金等として相続税の課税対象になるとしています。

ここでいう普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます。役員報酬として支給していた金額が基準になります。

ただし、名目が弔慰金であっても、実質上退職手当金等に該当すると認められる部分は、この枠にかかわらず退職手当金等として課税の対象になります。金額の設定が普通給与との対応を離れて過大になれば、弔慰金としては扱われません。

医療法人としては、退職金規程とあわせて弔慰金規程を整備し、支給の基準を定めておくことが望まれます。規程がないまま支給額を決めると、金額の根拠を説明できません。

死亡退職金と弔慰金の非課税枠区分非課税となる金額死亡退職金500万円に法定相続人の数を乗じた金額まで(相続人が取得した場合に限る)弔慰金(業務上の死亡)死亡当時の普通給与の3年分に相当する額まで弔慰金(業務上の死亡でない場合)死亡当時の普通給与の半年分に相当する額まで

表 非課税の枠(相続税法および国税庁タックスアンサーNo.4120)

📌 医療法人の側の処理

医療法人が支給する死亡退職金は、法人税法34条1項の柱書により、退職給与で業績連動給与に該当しないものとして、同項の適用対象から除かれています。定期同額給与や事前確定届出給与の枠組みに縛られず、届出も必要ありません。

ただし、法人税法34条2項により、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません。同法施行令70条2号は、業務に従事した期間、退職の事情、同種同規模の法人の役員に対する退職給与の支給の状況などを勘案するとしています。生前に退任する場合と同じ基準です。

また、法人税法34条3項により、事実を隠蔽しまたは仮装して経理をすることにより支給する給与は損金に算入されません。

実務では、死亡退職金の支給を決議した社員総会の議事録に、算定の根拠を明記しておくことが重要です。役員退職金規程にもとづく計算過程を残しておけば、金額の妥当性を説明しやすくなります。

なお、医療法人が理事長を被保険者とする生命保険に加入していれば、受け取った死亡保険金が退職金の原資になります。保険金は医療法人の収益となり、退職金は損金となりますので、同じ事業年度に処理することで課税所得への影響を抑えられます。

理事長の死亡後に進めること後任の理事長を選出し、議事録を作成する医療法施行令5条の13にもとづき、遅滞なく役員変更を届け出る管理者の変更が必要であれば、医療機関としての届出も行う理事長の変更を登記する役員退職金規程と弔慰金規程にもとづき、支給額を決議する加入している生命保険の保険金を請求し、退職金の支給と同じ事業年度に処理する出資持分がある場合は、相続人による相続の手続きと評価を進める

図 死亡後に進めること

理事長の急な相続にご相談ください

後任の選出、届出、退職金と弔慰金の設計、出資持分の評価まで、限られた時間のなかで進める必要があります。手続きの全体像から整理します。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 医師である理事が他にいません。どうすればよいですか。

A. 医療法46条の6第1項ただし書きにより、都道府県知事の認可を受けた場合には、医師または歯科医師でない理事のうちから理事長を選出できます。認可には時間がかかりますので、早めに都道府県の担当課に相談してください。あわせて、業務の遅滞により損害を生ずるおそれがあるときは、都道府県知事が一時役員の職務を行うべき者を選任する仕組みもあります。

Q. 死亡退職金の非課税枠はいくらですか。

A. 500万円に法定相続人の数を乗じた金額までです。この非課税の規定は令和8年3月31日以前は相続税法12条1項6号でしたが、令和8年4月1日から同項7号に繰り下がっています。生命保険金の非課税は6号です。古い解説では旧番号のままになっていることがあります。

Q. 弔慰金はいくらまで非課税ですか。

A. 業務上の死亡であるときは死亡当時の普通給与の3年分に相当する額まで、業務上の死亡でないときは半年分に相当する額までです。これを超える部分は退職手当金等として相続税の課税対象になります。名目が弔慰金でも、実質上退職手当金等に該当すると認められる部分はこの枠にかかわらず課税対象です。

Q. 死亡退職金に届出は必要ですか。

A. 必要ありません。退職給与で業績連動給与に該当しないものは、法人税法34条1項の柱書により同項の適用対象から除かれていますので、事前確定届出給与のような届出は不要です。ただし同条2項により不相当に高額な部分は損金に算入されませんので、金額の妥当性を説明できるようにしてください。

Q. 退職金規程がありません。支給できますか。

A. 支給自体はできますが、金額の根拠を説明することが難しくなります。役員退職金規程と弔慰金規程を整備し、社員総会の議事録に算定の根拠を明記してください。規程は事後に作るのではなく、平時のうちに整えておくべきものです。

📄 まとめ

理事長が死亡した場合、医療法46条の6第1項により医師または歯科医師である理事のうちから後任を選出します。医療法46条の5の3第1項の権利義務承継は死亡による退任には及びませんので、後任が決まらない場合は都道府県知事による一時役員の職務を行うべき者の選任で対応します。理事の定数の5分の1を超える者が欠けたときは1か月以内の補充が必要です。

役員変更は医療法施行令5条の13により、就任承諾書および履歴書を添付して遅滞なく都道府県知事へ届け出ます。管理者の変更と理事長の登記も忘れないでください。

死亡退職金は相続税法3条1項2号により死亡後3年以内に支給が確定したものが相続財産とみなされ、相続人が取得した場合は500万円に法定相続人の数を乗じた金額まで非課税です。この規定は令和8年4月1日から同法12条1項7号に繰り下がっています。弔慰金は業務上の死亡で普通給与の3年分、それ以外で半年分までが非課税です。規程の整備は平時のうちに行っておいてください。

⚖ 本記事の根拠法令

記載内容の根拠

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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