クリニックが職員旅行や忘年会を実施したとき、その費用を福利厚生費として処理できるかどうかは、参加した職員に給与として課税されるかどうかで決まります。
国税庁は、旅行の期間が4泊5日以内であること、参加した人数が全体の50%以上であることという2つの要件を示しています。ただし、この2つを満たしていても、不参加者に金銭を支給すると全員が給与課税されます。
この記事では、職員旅行が給与にならないための要件、実務で見落とされやすい落とし穴、忘年会や新年会の扱い、そして残しておくべき記録を整理します。
- 職員旅行が給与課税されない2つの要件と、海外旅行の日数の数え方
- 不参加者に金銭を支給すると、参加者も含めて全員が課税されること
- 役員だけの旅行や家族同行分の扱い
- 忘年会や新年会が福利厚生費になる場合と、交際費等になる場合
- 税務調査に備えて残しておく資料
図 職員旅行の判定(国税庁タックスアンサーNo.2603にもとづき作成)
この記事の見出し
📌 職員旅行が給与にならないための2つの要件
クリニックが職員旅行を実施した場合、その費用を福利厚生費として処理できるかどうかは、参加した職員に給与として課税されるかどうかで決まります。給与課税されるのであれば、クリニック側では給与として損金または必要経費になりますが、職員には所得税と住民税がかかり、社会保険料の計算にも影響します。
国税庁は、従業員レクリエーション旅行について、次の2つの要件をどちらも満たす場合には給与として課税しなくてよいとしています。
ひとつめは、旅行の期間が4泊5日以内であることです。海外旅行の場合は、外国での滞在日数が4泊5日以内であるかどうかで判定します。移動に要する機内泊や船中泊は日数に含めません。
ふたつめは、旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であることです。分院や支店ごとに実施する場合には、その分院や支店の従業員を母数として判定します。
表 従業員レクリエーション旅行の要件(国税庁タックスアンサーNo.2603)
📌 不参加者に金銭を渡すと全員が課税される
ここが実務でもっとも見落とされている点です。旅行に参加できなかった職員に対して、その代わりに金銭を支給するケースがありますが、これを行うと大きな問題が生じます。
国税庁は、自己の都合で旅行に参加しなかった人に金銭を支給する場合には、参加者と不参加者の全員に、その不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとされる、としています。
つまり、不参加者1人に3万円を渡したことで、旅行に参加した職員全員についても1人あたり3万円の給与があったものとして源泉徴収が必要になります。職員数が20人であれば60万円分の給与課税です。善意で渡した3万円が、想定外の負担を生みます。
参加できない職員への配慮は、金銭ではなく別の形で行ってください。旅行に参加しなかった人に何も支給しないことが、この制度を使う前提になります。
📌 院長だけ、理事だけの旅行は認められない
役員だけで行う旅行は、従業員レクリエーション旅行に該当しません。院長と配偶者だけで出かけた旅行を職員旅行として処理することはできません。
個人開業の場合、事業主本人の旅行費用はそもそも必要経費になりません。医療法人の場合は、理事に対する給与として扱われます。役員給与は法人税法34条1項により、定期同額給与や所定の時期に確定した額を支給する給与などに該当しなければ損金に算入できませんので、結果として損金不算入の役員給与となり、かつ理事個人には所得税がかかります。二重に不利になります。
職員旅行として処理するのであれば、職員が主体であり、参加割合の要件を満たしていることが必要です。院長と家族だけ、あるいは役員と数名の職員だけという構成では要件を満たしません。
また、配偶者や子どもなど家族が同行する場合、その家族分の費用は職員旅行の費用にはなりません。家族分は自己負担としてください。
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📌 忘年会や新年会も考え方は同じ
新年会や忘年会などのレクリエーション行事も、職員旅行と同じ枠組みで考えます。全職員を対象として、社会通念上一般的と認められる範囲の費用であり、参加割合が相応にあることが求められます。
金額の目安が法令で決まっているわけではありませんが、1人あたりの費用が高額になると、社会通念上一般的と認められる範囲を超えていると判断されるおそれがあります。近隣の同規模のクリニックが行っている水準を大きく超えないことが目安になります。
なお、参加者が院長と特定の職員だけ、あるいは取引先を交えた会食であれば、福利厚生費ではなく交際費等に該当することがあります。租税特別措置法61条の4が定める交際費等と福利厚生費の区分は、全職員を対象とした行事かどうかで判断されます。
表 福利厚生費にならないケース
📌 記録を残しておく
職員旅行やレクリエーション行事の費用は、税務調査で確認されやすい項目です。要件を満たしていることを示す資料を残しておいてください。
具体的には、全職員に配布した案内文書、参加者の名簿、旅行の行程表、宿泊先や交通機関の領収書、参加費の徴収がある場合はその記録です。参加割合の要件を満たしていることを示すには、全職員数と参加者数がわかる資料が必要になります。
とくに、業務の都合で参加できなかった職員がいる場合は、その理由がわかるようにしておいてください。自己の都合による不参加なのか、業務上の必要による不参加なのかで、扱いが変わる場面があります。
図 実施の手順
職員旅行や表彰、食事の支給は、要件を満たせば福利厚生費になりますが、少しの違いで全員に給与課税が及ぶことがあります。実施の前にご相談ください。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 参加した人数が全体の50%以上という要件を満たしていませんので、原則として給与として課税されます。20人であれば10人以上の参加が必要です。分院ごとに実施する場合には、その分院の従業員を母数として判定できます。
A. おすすめできません。自己の都合で参加しなかった人に金銭を支給する場合には、参加者と不参加者の全員に、その金額に相当する給与の支給があったものとされます。不参加者1人に3万円を渡したことで、参加した職員全員についても1人あたり3万円の給与課税が生じます。
A. できません。役員だけで行う旅行は従業員レクリエーション旅行に該当しません。個人開業であれば事業主本人の旅行費用は必要経費になりませんし、医療法人であれば理事に対する給与となり、法人税法34条1項の要件を満たさないため損金にも算入できません。
A. 家族分の費用は職員旅行の費用にはなりません。家族分は本人の自己負担としてください。クリニックが負担すると、その職員に対する給与として課税されます。
A. 法令で金額が決まっているわけではありませんが、社会通念上一般的と認められる範囲であることが必要です。金額が高額になると要件を満たさないと判断されるおそれがあります。また、全職員を対象とした行事でなければ、福利厚生費ではなく交際費等または給与として扱われます。
📄 まとめ
職員旅行の費用を福利厚生費として処理するには、旅行の期間が4泊5日以内であること、参加した人数が全体の50%以上であることという2つの要件を満たす必要があります。海外旅行の場合は外国での滞在日数で判定します。
見落とされやすいのが、不参加者への金銭の支給です。自己の都合で参加しなかった人に金銭を支給すると、参加者と不参加者の全員に、その金額に相当する給与があったものとされます。少額のつもりで渡した金銭が、職員全員への課税につながります。
役員だけの旅行は該当せず、家族同行分は自己負担です。忘年会や新年会も、全職員を対象とした社会通念上一般的な範囲であることが求められます。案内文書、参加者名簿、行程表、領収書を一式で保存し、要件を満たしていることを示せるようにしておいてください。
⚖ 本記事の根拠法令
- 所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益)
- 所得税基本通達36-50および37-17から37-19、昭和63年直法6-9外(従業員レクリエーション旅行に関する取扱い)
- 旅行の期間が4泊5日以内であること、参加した人数が全体の50%以上であること、自己の都合で参加しなかった人に金銭を支給する場合には参加者と不参加者の全員に給与の支給があったものとされることは、国税庁タックスアンサーNo.2603によります
- 法人税法34条1項(役員給与の損金不算入)
- 租税特別措置法61条の4(交際費等の損金不算入)、同法施行令37条の5(交際費等と福利厚生費の区分)
- 従業員等またはその親族等のお祝いなどに際して一定の基準に従って支給される金品に要する費用が福利厚生費となることは、国税庁タックスアンサーNo.5261によります
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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