個人で開業している間は、自宅の家賃を経費にすることは原則としてできません。医療法人を設立すると、医療法人が理事長のために住宅を借り、支払家賃と受取家賃の差額を経費にするという形をとれるようになります。
ただし、理事長から受け取る家賃が通常の賃貸料を下回ると、その差額は給与として課税されます。通常の賃貸料は、小規模な住宅、一般住宅、豪華役員社宅という3つの区分に応じて計算します。
この記事では、区分の判定方法と計算式、職員の社宅との違い、固定資産税の課税標準額の調べ方、そして医療法人としての手続き上の注意点を整理します。
- 医療法人化によって役員社宅という選択肢が生まれること
- 小規模な住宅の判定基準(法定耐用年数30年以下は132平方メートル、30年超は99平方メートル)
- 区分ごとの通常の賃貸料の計算式
- 豪華役員社宅の判定が床面積だけでは決まらないこと
- 役員と職員で受け取るべき家賃の基準が違うこと
図 通常の賃貸料の計算区分(国税庁タックスアンサーNo.2600にもとづき作成)
この記事の見出し
📌 役員社宅は医療法人化で使えるようになる
個人で開業している間は、自宅の家賃を経費にすることは原則としてできません。自宅の一部を診療に使っているのであれば、その部分に対応する金額を按分して必要経費にすることはできますが、居住部分は家事上の費用です。
ところが医療法人を設立すると、医療法人が理事長のために住宅を借り、理事長がそこに住むという形をとれます。医療法人が支払う家賃と、理事長から受け取る家賃との差額が、医療法人の経費になります。
たとえば医療法人が月50万円で借りた住宅について、理事長から月20万円を受け取るのであれば、差額の月30万円が医療法人の経費です。理事長は家賃の負担が20万円で済み、しかも受け取られる家賃は給与から控除されますので、その分だけ課税される給与も減ります。
医療法人化を検討する際、役員報酬の水準ばかりが議論されますが、この役員社宅は見過ごせない効果を持ちます。ただし、理事長から受け取る家賃が一定の金額を下回ると、その差額が給与として課税されてしまいます。
📌 通常の賃貸料は3つの区分で計算する
理事長から受け取るべき家賃の基準となるのが、通常の賃貸料(賃貸料相当額)です。これは3つの区分に応じて計算します。
まず小規模な住宅かどうかを判定します。小規模な住宅とは、法定耐用年数が30年以下の建物であれば床面積が132平方メートル以下のもの、30年を超える建物であれば99平方メートル以下のものをいいます。木造かそれ以外かという目安で語られることもありますが、判定は法定耐用年数によります。2以上の世帯を収容する構造の家屋については、1世帯として使用する部分の床面積で判定します。
小規模な住宅にあたらない場合は一般住宅として計算します。そして、床面積が240平方メートルを超えるものなどは豪華役員社宅とされ、別の扱いになります。
表 通常の賃貸料の計算方法(国税庁タックスアンサーNo.2600)
小規模な住宅にあたる場合の計算式は、固定資産税の課税標準額をもとにするため、実際の家賃と比べてかなり低い金額になることが一般的です。都心の物件であれば、月50万円の家賃に対して通常の賃貸料が月5万円程度になることも珍しくありません。
一方、一般住宅にあたる場合は、第三者へ支払う家賃の50%という基準が入ってきますので、少なくとも家賃の半分は理事長が負担することになります。医療法人の経費になる金額は限られます。
このため、役員社宅として借りる物件は、小規模な住宅の要件に収まる広さを選ぶことが実務上の要点になります。床面積132平方メートルまたは99平方メートルという線は、意識して物件を選ぶ価値があります。
📌 豪華役員社宅は240平方メートルだけでは決まらない
豪華役員社宅とされると、通常の賃貸料は算式によらず、その資産の利用につき通常支払うべき賃貸料に相当する額、つまり時価になります。医療法人が支払う家賃と同水準を理事長から受け取ることになりますので、経費になる部分がほとんど残りません。
判定は、家屋の床面積が240平方メートルを超えるものについて、その住宅等の取得価額、支払賃貸料の額、内外装その他の設備の状況等を総合的に勘案して行われます。床面積が240平方メートルを超えていることのみをもって豪華役員社宅として取り扱われるわけではありません。
一方で、床面積が240平方メートル以下であっても、プールのような設備や施設、あるいは役員個人の嗜好等を著しく反映した設備や施設を有する住宅等については、豪華役員社宅とされます。面積だけの基準ではない点に注意してください。
📌 職員の社宅は基準が緩やか
同じ社宅でも、役員と職員では基準が違います。職員に社宅や寮を貸す場合、賃貸料相当額は小規模な住宅と同じ算式で計算し、受け取っている家賃が賃貸料相当額の50%以上であれば、差額は給与として課税されません。
役員の場合は通常の賃貸料以上を受け取る必要がありますので、職員のほうが緩やかです。看護師の住宅を医療法人が借り上げる場合には、この枠組みを使えます。
なお、職務の遂行上やむを得ない必要により社宅に居住する場合には、無償で貸与しても課税されないという取扱いもあります。住み込みが必要な職種であれば検討の余地があります。
表 役員と職員の基準の違い(国税庁タックスアンサーNo.2600およびNo.2597)
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📌 固定資産税の課税標準額をどう調べるか
計算に必要な固定資産税の課税標準額は、市区町村が管理する固定資産課税台帳で確認します。物件の所有者であれば納税通知書に記載されていますが、借上げ社宅の場合は所有者ではありませんので、台帳の閲覧または評価証明書の交付を受けることになります。
借地借家法上の借主は、その借りている物件について固定資産課税台帳を閲覧できるとされています。賃貸借契約書を持参して市区町村の窓口で手続きしてください。所有者の同意を得たうえで、不動産会社を通じて確認する方法もあります。
課税標準額は3年ごとの評価替えで変わりますので、通常の賃貸料も見直しが必要です。毎年同じ金額で計算し続けていると、受取家賃が通常の賃貸料を下回っている状態になりかねません。
図 導入の手順
📌 医療法人としての手続き上の注意
医療法人が住宅を借りる場合、賃貸借契約は医療法人名義で締結してください。理事長個人の名義のまま家賃だけを医療法人が負担すると、社宅としての取扱いではなく、理事長に対する給与とみなされます。
また、医療法人が役員社宅として不動産を購入する場合には、住宅の取得が医療法人の資産として適切かどうかという観点からの検討が必要になります。医療法人は非営利の法人であり、都道府県の指導監督を受けます。購入を検討する場合は、あらかじめ都道府県の担当課に確認しておくことをおすすめします。
借り上げであれば、こうした問題は生じにくくなります。役員社宅は購入よりも借上げから検討するほうが実務的です。
役員報酬をいくらにするか、役員社宅をどう組むかは、あわせて設計すると効果が高くなります。物件選びの段階からご相談いただけます。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 判定は法定耐用年数によります。法定耐用年数が30年以下の建物であれば床面積132平方メートル以下、30年を超える建物であれば99平方メートル以下が小規模な住宅です。木造かそれ以外かというのは目安であり、正確には耐用年数で判定します。
A. 通常の賃貸料と受取家賃との差額が、理事長に対する給与として課税されます。医療法人の側では、その差額は役員給与となりますので、法人税法34条1項の要件を満たさなければ損金にも算入できません。理事長には所得税がかかり、医療法人は損金にできないという二重の不利になります。
A. いけません。賃貸借契約は医療法人名義で締結してください。個人名義のまま家賃を医療法人が負担すると、社宅としての取扱いにはならず、理事長に対する給与とみなされます。
A. 職員の場合は基準が緩やかです。賃貸料相当額は小規模な住宅と同じ算式で計算し、受け取っている家賃が賃貸料相当額の50%以上であれば、差額は給与として課税されません。役員は通常の賃貸料以上を受け取る必要があります。
A. 市区町村が管理する固定資産課税台帳で確認します。借上げ社宅の場合、借地借家法上の借主はその物件について台帳を閲覧できるとされていますので、賃貸借契約書を持参して窓口で手続きしてください。課税標準額は3年ごとの評価替えで変わりますので、定期的な見直しが必要です。
📄 まとめ
医療法人が理事長のために住宅を借り、支払家賃と受取家賃の差額を経費とするのが役員社宅です。個人開業では使えない仕組みであり、医療法人化の効果のひとつです。
理事長から受け取るべき家賃は、通常の賃貸料以上でなければなりません。小規模な住宅であれば固定資産税の課税標準額をもとにした算式で計算しますので、実際の家賃と比べてかなり低い金額になります。床面積が132平方メートルまたは99平方メートルを超えると一般住宅となり、支払家賃の50%という基準が入ってきますので、物件選びの段階から意識しておく価値があります。
豪華役員社宅とされると通常の賃貸料は時価になり、経費になる部分がほとんど残りません。床面積240平方メートル超のみで決まるものではなく、設備の状況等も勘案されます。賃貸借契約は必ず医療法人名義で締結し、固定資産税の課税標準額は評価替えのたびに確認してください。
⚖ 本記事の根拠法令
- 役員に社宅を貸したときの通常の賃貸料(賃貸料相当額)の計算方法、小規模な住宅の判定、豪華役員社宅の取扱いは、国税庁タックスアンサーNo.2600によります
- 使用人に社宅や寮などを貸したときの賃貸料相当額の計算方法、および受け取っている家賃が賃貸料相当額の50%以上であれば差額が給与課税されないことは、国税庁タックスアンサーNo.2597によります
- 所得税法28条(給与所得)、同法36条(金銭以外の物または経済的な利益をもって収入する場合の収入金額)
- 法人税法34条1項(役員給与の損金不算入)、同条2項(不相当に高額な部分の損金不算入)
- 医療法54条(医療法人は、剰余金の配当をしてはならない)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までにまとめています。