「亡くなった父が、私や孫の名前で通帳をつくってくれていた」——相続の場面でとてもよく出てくる話です。名前は自分のものなのに、それが父の財産として相続税の対象になると言われたら、驚かれるのではないでしょうか。
相続税で問題になりやすいのが、この「名義預金(めいぎよきん)」です。この記事では、税知識ゼロの方に向けて、名義預金とは何か、税務署がどこを見ているのか、亡くなる直前に引き出した現金はどう扱うのかを、条文と国税庁の資料に沿って整理します。
- 名義預金とは何か。名義人の財産にならない理由
- 税務署が見る3つのポイント(原資・管理支配・贈与の成立)
- 「贈与したつもり」が贈与になっていない典型パターン
- 亡くなる直前に引き出した現金(手許現金)の扱い
- 税務署が調べられる範囲の根拠と、隠した場合のペナルティ
この記事の見出し
📄 名義預金とは?「名前」と「持ち主」がずれた預金のこと
名義預金とは、通帳や口座の名義(名前)は配偶者・子・孫などになっているものの、実質的な持ち主は亡くなった方(被相続人)であると認められる預金のことをいいます。法律上に「名義預金」という条文があるわけではなく、実務で使われている呼び方です。
相続税は、亡くなった方が持っていた財産にかかります。名義が誰であるかではなく、その財産が実質的に誰のものだったかで判断されるため、名義が子や孫であっても、実質的な持ち主が被相続人であれば相続財産として申告しなければなりません。
税務署がここを厳しく見るのは、贈与が親子や夫婦のあいだで行われることが多く、外から見て「本当に贈与があったのか」が分かりにくいためです。国税庁の通達も、財産の名義変更が行われたのに対価の支払がないとき、または他人名義で財産を取得したときは、原則としてその名義人が財産または取得資金を贈与により取得したものと推定して取り扱う、という考え方を示しています(昭和39年5月23日付 直審(資)22、相続税法基本通達9-9)。
相続税法基本通達9-9は「不動産、株式等」の名義変更について定めたものですが、その趣旨である「名義と実質が食い違うときは実質で判断する」という考え方は、預貯金の帰属を検討する場面でも実務上の出発点になっています。
🧾 税務署が見る3つのポイント
その預金が名義人本人のものなのか、それとも名義預金なのか。実務では、次の3つの角度から検討していきます。すべてが名義人本人に紐づいているほど、本人の財産と認められやすくなります。
3つの質問はいずれか1つで決まるものではなく、事情を総合して判断されます。
① 原資は誰のお金か
最も重視されやすいのが、そのお金がどこから来たのかです。小学生の孫の名義で毎年100万円が入金されている口座があれば、孫にその収入があったとは考えにくく、入金したのは祖父母だと推測されます。専業主婦の方の口座に家計から少しずつ移した「へそくり」が積み上がっているケースも同じ構図です。
② 通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が管理していたか
通帳と印鑑が被相続人の金庫にあった、届出印が被相続人の他の口座と同じ、届出住所が被相続人の住所のまま——こうした事情は、被相続人が実質的に支配していたことをうかがわせます。逆に、名義人が自分で通帳を保管し自由に出し入れしていたのであれば、本人の預金と認められる方向に働きます。
③ 贈与が成立していたか
民法549条は「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」と定めています。あげる側の意思表示と、もらう側の受諾がそろって初めて成立する契約です。もらう側が口座の存在を知らなければ、受諾のしようがありません。
| 確かめる点 | 本人の預金と言いやすい | 名義預金を疑われやすい |
|---|---|---|
| 入金の原資 | 名義人自身の給与・年金などから入金 | 名義人に収入がない時期に被相続人の口座から資金が移っている |
| 通帳・印鑑 | 名義人が保管し、届出印も名義人固有 | 被相続人が保管し、届出印が被相続人の口座と共通 |
| 口座の認識 | 名義人が存在と残高を把握している | 名義人が口座の存在自体を知らなかった |
| お金の使用 | 名義人が自分の判断で引き出している | 入金されるだけで一度も動いていない |
👤 「贈与したつもり」が贈与になっていない典型パターン
名義預金でつまずく方の多くは、税金を逃れようとしたのではなく、「毎年110万円までなら贈与税がかからないと聞いたので、子や孫の名義で積み立てていた」というものです。ただ、贈与税の基礎控除110万円(国税庁タックスアンサーNo.4402)は、贈与が成立していることが前提です。成立していなければ、そのお金はいつまでも贈与した側の財産のままということになります。
| よくあるやり方 | どう見られるか |
|---|---|
| 子や孫に知らせずに口座を作り入金 | もらう側の受諾がなく、贈与が成立していないと見られやすい(民法549条) |
| 通帳と印鑑は親が保管し続けていた | 財産の管理・支配が親側にあり、名義預金と判断されやすい |
| 契約書も記録も残していない | 贈与があったことを客観的に示す資料がなく、説明が難しくなる |
| 贈与税の申告だけしておけば安心 | 申告の有無は判断材料の一つにとどまり、それだけで贈与の成立が認められるわけではない |
上の表は、実務でご相談を受けることの多いケースを当事務所が整理したものです。
これから贈与をするのであれば、贈与契約書を作る、受け取る側が自分で管理する口座に振り込む、通帳と印鑑は受け取る側が保管する、の3点を押さえておくと、あとから説明しやすくなります。
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💰 亡くなる直前に引き出した現金はどうなるか
「口座が凍結される前に」と、亡くなる直前や直後にまとまった現金を引き出すケースがあります。誤解されやすいのですが、口座から引き出したからといって、その財産が相続税の対象から外れるわけではありません。
亡くなった日の時点で手元に残っている現金(手許現金)は、預金と同じく相続財産です。国税庁のパンフレット「暮らしの税情報」でも、相続税は相続や遺贈によって取得した財産の価額を合計して計算するものとされており、現金だけを除外する取扱いはありません。
引き出した現金は、亡くなった日の残高と使い道の両面から整理しておきます。
実務では、引き出した日から亡くなった日までに何に使ったかを、領収書やメモで残しておくことが大切です。医療費や施設費に充てたのであれば、その領収書が説明の材料になります。財産の洗い出し方については、第7回「相続財産の調べ方は?預貯金・不動産・株・借金の調査と財産目録」で解説しています。
📅 税務署はどこまで調べられるのか
「そこまで分かるものなのですか」とよく聞かれます。相続税については、税務署が情報を集める仕組みが法律で用意されています。おもなものは次のとおりです。
図の内容は、本文で挙げた各条文に基づいて整理したものです。
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| 死亡の通知 (相法58条) |
市区町村長は、亡くなった方が持っていた土地・家屋の固定資産課税台帳の登録事項などを、死亡届を受理した月の翌月末日までに所轄税務署長へ通知します |
| 支払調書の提出 (相法59条1項) |
保険会社等は支払った保険金、退職手当金等を支給した者はその支給について、翌月15日までに受取人別・受給者別の調書を税務署長に提出します |
| 調書の請求 (相法59条4項) |
国内に営業所等を有する法人は、税務署長の請求があったときは、納税義務者等の財産・債務についての調書を作成して提出しなければなりません |
| 質問検査権 (通則法74条の3) |
調査に必要があるときは、本人のほか、被相続人に対し債権債務を有していたと認められる者、財産を保管したと認められる者などにも質問・検査ができます |
家族名義の口座についても、金融機関を通じて過去にさかのぼって取引を確認できる仕組みになっています。「家族の口座までは見られない」という前提で申告を組み立てるのは避けてください。
⚖️ 申告から外していた場合のペナルティ
名義預金や手許現金を申告から漏らしていた場合、本税に加えて加算税と延滞税がかかります。単純な見落としであれば過少申告加算税ですが、意図的に隠していたと判断されると、より重いペナルティになります。
過少申告加算税は、修正申告や更正に基づき納付すべき税額に原則10%を乗じた金額です(国税通則法65条1項。調査による更正を予知しない修正申告であれば5%)。事実の全部または一部を隠蔽し、または仮装し、それに基づいて申告していたときは35%の重加算税、申告書を提出していなかったときは40%の重加算税が課されます(同法68条1項・2項)。
更正や決定ができる期間は法定申告期限から原則5年ですが、偽りその他不正の行為により税額を免れた場合は7年に延びます(同法70条1項・5項)。
見落としがちなのが、配偶者の税額軽減との関係です。配偶者は取得した正味の遺産額が1億6,000万円までか法定相続分相当額までであれば相続税がかからない仕組みがありますが、仮装または隠蔽されていた部分は、この軽減の対象になりません。隠していた財産が見つかると、その分に軽減が使えず、重加算税まで加わることになります。連載の他の回は相続税 完全ガイド(目次)からご覧いただけます。
家族名義の口座を相続財産に含めるべきかどうかは、入金の経緯や管理の実態を一つひとつ確認して判断します。台東区(上野・浅草・入谷)で相続税のご相談は当事務所へ。お問い合わせフォームからご連絡ください。
📍 今からできる備え
📍 どこで:各金融機関の窓口(残高証明書・取引履歴の請求)。申告先は亡くなった方の住所地を管轄する税務署です。
⏰ いつまでに:相続税の申告・納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内。取引履歴の取得には時間がかかります。
🧾 何を:被相続人と家族名義の預金の残高証明書と取引履歴。まとまった入出金があれば、その理由が分かる資料。
- 被相続人名義・家族名義の口座を、金融機関ごとにすべて洗い出す
- 家族名義の口座は、入金の原資と管理していた人を確認する
- まとまった入出金は、日付・金額・使い道をメモに残す
- 亡くなった日時点の手元現金を数え、記録しておく
- 過去の贈与は、契約書・振込記録・贈与税の申告書を集める
相続手続き全体の流れと期限は、第1回「親が亡くなったらやることは?相続手続きの流れと期限一覧」もあわせてご覧ください。次回は「相続税申告は自分でできる?判断基準と申告の流れ」を取り上げます。
🗒️ よくある質問
いいえ。名義預金は「贈与が成立していない」状態ですので、贈与税ではなく、被相続人の相続財産として相続税の対象になります。逆に贈与が成立していたと認められるなら、その時点で贈与税の問題として整理されます。入金の経緯と管理の実態を確認したうえで判断してください。
更正や決定ができる期間は法定申告期限から原則5年、偽りその他不正の行為があった場合は7年です(国税通則法70条1項・5項)。ただしこれは課税処分ができる期間の話で、名義預金かどうかを判断するために入金の経緯をさかのぼって確認すること自体は、この年数に縛られません。
相続税の申告が必要かどうかを検討するための書面で、東京国税局のホームページでも提出用・控用・記載例が公開されています。不動産、生命保険金や死亡退職金などを記入し、基礎控除額を超えるかどうかを確認する内容です。家族名義の預金の扱いに迷う場合は、記入前に事実関係を整理してください。
📄 まとめ
- 名義預金とは、名義は家族でも実質的な持ち主が被相続人である預金のこと
- 判断のポイントは、原資・管理支配・贈与の成立の3つ
- 贈与は意思表示と受諾で成立する(民法549条)
- 亡くなった日に手元にある現金も相続財産
- 隠蔽・仮装があれば重加算税35%または40%、更正の期間も7年に延びる
家族名義の預金や手元現金の扱いは、事実関係の確認が結論を左右します。ご相談はお問い合わせフォームからご連絡ください。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
参考:
相続税法基本通達9-9(国税庁)/
名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱い(国税庁)/
No.4402 贈与税がかかる場合(国税庁)/
暮らしの税情報「財産を相続したとき」(国税庁)/
相続税関連情報(東京国税局)/
相続税法・国税通則法・民法(e-Gov法令検索)
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