税務調査の連絡を受けたあと、多くの経営者が最初に迷うのが「税理士に立ち会ってもらうべきか」です。顧問税理士がいる会社でも、追加の費用がかかるなら自社だけで対応できないかと考えますし、顧問税理士がいない会社では、そもそも誰に頼めるのかが分かりません。
立会いを「安心料」としてとらえると、判断がつきません。実際には、税務代理を委任している税理士がいるかどうかで、手続の中身が具体的に変わる場面があります。それも、当日の受け答えだけではありません。この記事では、税理士法と国税通則法の条文で確認できる範囲にしぼって、立会いで何が変わるのかを3つの場面に分けて整理します。
この記事の見出し
🧭 立会いで変わるのは、通知・当日・終了手続の3か所です
税務代理を委任している税理士がいる場合、調査の始まりから終わりまでのうち、条文上あきらかに扱いが変わるのは次の3か所です。
立会いは当日だけの話ではなく、前後の手続にも及びます
逆にいえば、これ以外の部分、たとえば調査で何が指摘されるかそのものは、立会いの有無で変わるわけではありません。変わるのは、指摘に至る過程で会社が何を言えるか、どこで反論の機会を持てるかです。
📜 まず、税務代理とは何かを押さえます
税理士に立ち会ってもらうことの中身は、税理士法の「税務代理」という言葉に書かれています。
税務代理(税務官公署に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立て……につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること……をいう。)(税理士法第2条第1項第1号)
ここで注目したいのは「税務官公署の調査……に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること」という部分です。申告書を作ることだけが税理士の仕事ではなく、調査の場で会社に代わって主張を述べることが、税務代理の定義そのものに含まれています。
そして、この業務は誰でもできるわけではありません。税理士法第52条は、税理士または税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない、と定めています。知り合いの経営者やコンサルタントに同席してもらうことと、税務代理を委任することは、法律上まったく別の話です。
税理士の立場についても、条文に定めがあります。税理士法第1条は、税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする、としています。会社の言い分を何でも通す立場ではなく、法令に沿った納税義務の実現を図る専門家である、という位置づけです。
| 同席する人 | できること・できないこと |
|---|---|
| 税務代理を委任した税理士 | 調査に関し税務官公署に対してする主張・陳述を代理・代行できます(法第2条第1項第1号) |
| 税理士でない専門家 | 税理士業務を行うことはできません(法第52条)。同席して会社を補助することと、代理・代行は別です |
| 従業員 | 質問検査権は、必要がある場合には使用人その他の従業者にも及ぶとされています(法令解釈通達1-4)。事実を答える立場です |
| 弁護士 | 税理士法第51条第1項の規定による通知をした弁護士等は、国税通則法上の税務代理人に含まれます(法第74条の9第3項第2号) |
📨 変わること1:事前通知と調査通知の宛先
実地の調査の前には、原則として事前通知が行われます。この通知を誰に対して行うかについて、条文は次のように定めています。
納税義務者について税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合として財務省令で定める場合に該当するときは、当該納税義務者への第一項の規定による通知は、当該税務代理人に対してすれば足りる。(国税通則法第74条の9第5項)
この「財務省令で定める場合」は、国税通則法施行規則第11条の4第1項が、税理士法施行規則第15条の税務代理権限証書に、納税義務者への調査の通知は税務代理人に対してすれば足りる旨の記載がある場合とする、と定めています。つまり、証書に同意の記載があるかどうかで扱いが変わります。国税庁のFAQも、この同意が記載されていない場合には、納税者と税務代理人の双方に事前通知を行うことになる、と説明しています。
税務代理人が複数いる場合には、代表する税務代理人を定めた旨の記載があれば、その代表者に通知すれば足ります(国税通則法第74条の9第6項、同施行規則第11条の4第2項)。
同意の記載があるかどうかで、最初の電話がどこに来るかが変わります
この点は、加算税の扱いにもつながります。国税庁のFAQは、法令上、国税通則法第65条第6項に規定する調査通知には、事前通知に関する同意のある税務代理人に対してする通知を含むものとされている、と説明しています。税理士に同意の記載がある場合、調査通知も税理士に対して行われることになります。
なお、税理士法にも別に通知の定めがあります。税理士法第34条第1項は、あらかじめ日時場所を通知して帳簿書類を調査する場合において、税務代理権限証書を提出している税理士があるときは、併せてその税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない、としています。
| 場面 | 条文上の取扱い |
|---|---|
| 証書に同意の記載がある | 会社への事前通知は税務代理人に対してすれば足ります(法第74条の9第5項) |
| 税務代理人が複数いる | 代表する税務代理人を定めた旨の記載があれば、その代表者への通知で足ります(同第6項) |
| 日時や場所の変更を求めた | 通知を受けた納税義務者から合理的な理由を付して調査開始日時・開始場所の変更を求めがあった場合には、税務署長等は当該事項について協議するよう努めるものとされています(同第2項) |
| 変更が決まった | 変更は納税義務者に通知されるほか、税務代理人がある場合には税務代理人にも通知するものとされています(法令解釈通達5-6の注) |
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
💬 変わること2:当日、会社に代わって主張ができる
当日の場面で税理士がいることの意味は、「詳しい人が横にいる」ことではありません。税務代理の定義にあるとおり、調査に関し税務官公署に対してする主張・陳述を代理・代行できる立場の人がいる、という点にあります。
会社が採用した処理には、必ず理由があります。その理由を、条文と通達に結びつけて説明する作業は、経理担当者にも社長にも負担が大きいものです。ここを税理士が引き受けると、社長は事実を話すことに専念できます。答える人を分けられること、これが当日のいちばん大きな違いです。
事務運営指針は、質問検査等の相手方となる者の代理人、使用人その他の従業者に質問検査等を行う場合には、原則として、あらかじめ質問検査等の相手方となる者の理解と協力を得る、としています。誰がどの質問に答えるかは、あらかじめ調整できる余地があります。
税理士は、会社の言い分を通すためだけに同席するわけではありません。税理士法第41条の3は、税理士業務を行うに当たって、委嘱者に不正に租税を免れている事実や、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい・仮装している事実があることを知ったときは、直ちに、その是正をするよう助言しなければならない、と定めています。是正すべきものは是正したうえで、争う余地のある論点を争う。これが立会いの実際です。
🧾 変わること3:調査結果の説明と修正申告の勧奨
調査の終わりの手続にも、税務代理人がいる場合の定めがあります。更正決定等をすべきと認められない場合の通知(国税通則法第74条の11第1項)、調査結果の内容の説明(同第2項)、修正申告等の勧奨とその法的効果の教示(同第3項)について、条文は次のように定めています。
実地の調査により質問検査等を行った納税義務者について第七十四条の九第三項第二号に規定する税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合には、当該納税義務者への前三項に規定する通知、説明又は交付……に代えて、当該税務代理人への通知等を行うことができる。(国税通則法第74条の11第4項)
国税庁のFAQは、税務代理人のみへの説明等を希望する場合には、調査担当者に対し電話または対面でその旨を伝えるか、税務代理人を通じて税務代理人への説明を同意する書面を提出することが必要になる、と説明しています。あわせて、会社に説明を行う場合でも、税務代理人の同席の下で調査結果の内容の説明を行うことがあるとしています。
終了手続は、内容を理解したうえで判断するための時間です
この場面はとくに重要です。修正申告の勧奨に応じるかどうかは会社の任意の判断であり、国税庁は、応じない場合には調査結果に基づき更正等の処分を行うことになるが、応じなかったからといって不利な取扱いを受けることは基本的にはない、と説明しています。そして、修正申告を行うと不服申立てはできなくなり、更正の請求という手段だけが残ります。
| 選択 | その後にできること |
|---|---|
| 修正申告に応じる | 不服申立てはできませんが、一定期間内であれば更正の請求はできます |
| 応じずに更正等の処分を受ける | 処分に対して不服申立てを行うことができます |
| その場で決めない | 説明の内容を持ち帰り、根拠を確認してから判断する進め方が可能です |
| 調査が終わったあと | 新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、あらためて質問検査等が行われることがあります(法第74条の11第5項) |
📎 書面添付をしていれば、調査の前に意見を聞く手続があります
もうひとつ、税理士が関与している場合にだけ働く手続があります。書面添付制度です。税理士法第33条の2は、申告書の作成に関し、計算し、整理し、または相談に応じた事項を記載した書面を申告書に添付することができる、としています。
この書面が添付されている場合、税務官公署の当該職員は、あらかじめ日時場所を通知して帳簿書類を調査するときは、その通知をする前に、税務代理権限証書を提出している税理士に対し、添付書面に記載された事項に関し意見を述べる機会を与えなければならないとされています(税理士法第35条第1項)。
| 手続 | 条文で確認できること |
|---|---|
| 書面の添付 | 計算し、整理し、または相談に応じた事項を記載した書面を申告書に添付できます(第33条の2第1項) |
| 調査前の意見聴取 | 事前通知をする前に、税理士に意見を述べる機会を与えなければならないとされています(第35条第1項) |
| 更正の前の意見聴取 | 添付書面に記載されたところにより税理士が計算等をしていると認められるときは、更正の前に意見を述べる機会が与えられます。ただし、法令の規定に従っていないことが明らかな場合等は除かれます(第35条第2項) |
| 措置の有無と効力 | これらの措置の有無は、調査に係る処分や更正の効力に影響を及ぼすものと解してはならないとされています(第35条第4項) |
書面添付は、調査を免れる仕組みではありません。あくまで、調査に入る前に税理士の説明を聞く機会を置く手続です。制度の詳細は、この連載の別の回であらためて扱います。
事前準備から当日の立会い、指摘への反論、修正申告の要否判断まで対応します。顧問税理士がいらっしゃる場合も、この調査だけのスポットのご依頼を承ります。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
立会いを頼まないと不利になりますか
立会いの有無で会社が不利に扱われるという定めはありません。ただし、条文上、通知の宛先や調査結果の説明の相手方について税務代理人がいる場合の取扱いが用意されており、その手続を使えるかどうかは変わります。また、処理の根拠を条文と通達に結びつけて説明する作業を誰が担うのか、という現実的な違いもあります。
顧問税理士がいない場合でも頼めますか
頼めます。税務代理を委任し、税務代理権限証書を提出すれば、その税理士が国税通則法上の税務代理人になります。顧問契約とは別に、その調査だけを委任することも可能です。
顧問税理士がいるのに、別の税理士に立ち会ってもらえますか
税務代理人が数人あることは条文上も想定されています。国税通則法第74条の9第6項は、代表する税務代理人を定めた場合の通知の扱いを定めています。実務では、顧問税理士との役割分担をあらかじめ決めておくことが大切です。
税理士が同席していれば、社長は何も話さなくてよいですか
そうはなりません。質問検査権は法人に対して及び、経営判断の背景など社長にしか答えられない事項があります。税理士が代理・代行できるのは、調査に関し税務官公署に対してする主張・陳述です。事実の確認そのものを肩代わりできるわけではありません。
調査の途中から依頼できますか
できます。税務代理権限証書を提出した時点から、税務代理人としての手続が働きます。ただし、事前通知に関する定めのように、調査の前でなければ意味を持たない手続もあります。早い段階で相談されるほうが選べる手が多くなります。
立会いを頼むと、かえって長引きませんか
争点を整理し、必要な資料を先に出すほうが、確認のやり直しは減ります。国税庁は、調査結果の内容の説明等をもって原則として一連の調査手続が終了する旨を説明するとしています。終わり方が決まっている手続なので、論点を早く固めることが短縮につながります。
📄 まとめ
税理士の立会いで変わるのは、事前通知と調査通知の宛先、当日の主張・陳述を誰が行うか、そして調査結果の説明と修正申告の勧奨をどう受けるか、という3か所です。いずれも、税務代理権限証書を提出している税理士等がいることが前提になり、通知の宛先については証書への同意の記載が必要です。
立会いは、調査結果を有利にするためのものではありません。会社が採用した処理の根拠を、条文と通達に結びつけて説明する機会をきちんと持っための手続です。そして、修正申告に応じるかどうかは会社の任意の判断であり、応じれば不服申立ての道が閉じるという法的な効果があります。その判断を、内容を理解しないまま当日にしてしまわないこと。立会いの実務的な価値は、ここにいちばん表れます。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 税理士法(e-Gov法令検索) 第1条(使命)、第2条第1項(税理士の業務)、第30条(税務代理の権限の明示)、第33条の2(計算事項等を記載した書面の添付)、第34条(調査の通知)、第35条(意見の聴取)、第41条の3(助言義務)、第52条(税理士業務の制限)
- 国税通則法(e-Gov法令検索) 第74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)、第74条の11(調査の終了の際の手続)
- 国税通則法施行規則(e-Gov法令検索) 第11条の4(事前通知に関する同意等)
- 第4章 法第74条の9〜法第74条の11関係(事前通知及び調査の終了の際の手続)|国税庁 5-6
- 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)|国税庁 代理人等への質問検査等、調査結果の内容の説明等
- 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)|国税庁 問14、問15、問25、問26、問27
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。