税務調査の日程が決まると、多くの経営者の方が「当日、いったい何をされるのだろう」という不安を抱えます。朝から夕方まで拘束されるのか、何を聞かれるのか、その場で答えられなかったらどうなるのか。分からないことが多いほど、当日の緊張は大きくなります。
実のところ、実地の調査の1日目の午前中は、おおむね決まった順序で進みます。順序が分かっていれば、どこで何を用意しておけばよいかも決まります。この記事では、国税通則法の条文と、国税庁が公表している事務運営指針・法令解釈通達・FAQで確認できる範囲にしぼって、1日目の午前中に何が起きるのかを時系列で整理します。
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この記事の見出し
🧭 1日目の午前は、4つの場面に分かれます
調査の開始時刻について法令に定めはありませんが、実務では午前中に調査担当者が会社を訪れるところから始まります。そこから昼までの時間は、次の4つの場面に分かれます。順番が入れ替わることはあっても、この4つが出てこない調査はまずありません。
1日目の午前中は、あいさつ・概況聴取・帳簿の確認の順に進みます
🪪 最初に確認すること:身分証明書と、調査であること
調査担当者が到着したら、最初に確認することが2つあります。ひとつは身分証明書、もうひとつは「これは調査である」という明示です。
身分証明書については、国税通則法に明文の定めがあります。
国税庁等又は税関の当該職員は、第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査、提示若しくは提出の要求……をする場合……には、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があったときは、これを提示しなければならない。(国税通則法第74条の13)
条文は「関係人の請求があったとき」に提示するという書き方ですが、国税庁の事務運営指針は、実地の調査を実施する場合には身分証明書と質問検査章を必ず携帯し、質問検査等の相手方となる者に提示して調査のために往訪した旨を明らかにしたうえで、調査に対する理解と協力を得て質問検査等を行う、と定めています。つまり運用上は、こちらから求めなくても提示されるのが原則です。
もうひとつが「調査か、行政指導か」の明示です。事務運営指針は、調査または行政指導に当たる行為を行う際は、対面・電話・書面などの態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示することを求めています。この違いは大きく、行政指導にもとづいて自主的に修正申告書を提出した場合には過少申告加算税は賦課されないと国税庁のFAQは説明しています。
法令解釈通達1-1は、調査とは、特定の納税義務者の課税標準等または税額等を認定する目的その他国税に関する法律にもとづく処分を行う目的で、当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいう、としています。
💬 午前中の大半は「概況の聴取」に使われます
あいさつが済むと、担当者はすぐに帳簿を開くわけではありません。まず社長に対して、会社のこれまでと現在の姿を尋ねます。これが概況の聴取です。実務では午前中の時間のうち最も長い部分を占めることが多く、1時間を超えることも珍しくありません。
ここで聞かれることは、決算書や申告書を見ただけでは分からない事柄が中心です。会社の数字がどういう活動から生まれているのかを、担当者が自分の頭の中で組み立てるための時間だと考えると分かりやすくなります。
| 聞かれるテーマ | 質問のされ方の例 | 用意しておくとよいもの |
|---|---|---|
| 会社の沿革 | 創業の経緯、株主の構成、この数年の大きな出来事 | 会社案内、登記事項証明書 |
| 事業の中身 | 主力商品、売上の立ち方、代金の回収までの流れ | パンフレット、標準的な契約書 |
| 取引先 | 主な得意先と仕入先、この期に増えた先・減った先 | 得意先元帳、仕入先一覧 |
| 組織と人 | 従業員数、部門の分かれ方、経理を担当している人 | 組織図、社員名簿 |
| 経理の実務 | 誰が伝票を起こし、誰が承認しているか | 業務の流れを書いた1枚の紙 |
この場面で大切なのは、事実を正確に話すことと、記憶があいまいなことを断定しないことです。答えられない質問があっても構いません。調べて後日回答すると伝えれば足ります。受け答えの原則は、この連載の別の回であらためて整理します。
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📚 帳簿書類の提示・提出を求められたら
概況の聴取がひととおり済むと、担当者は帳簿書類の確認に入ります。ここで根拠となるのが質問検査権の規定です。
……所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件……を検査し、又は当該物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができる。(国税通則法第74条の2第1項)
ここで出てくる「提示」と「提出」は、意味が違います。法令解釈通達1-6は、提示とは、当該職員の求めに応じ、遅滞なく当該物件の内容を当該職員が確認し得る状態にして示すことをいい、提出とは、当該職員の求めに応じ、遅滞なく当該職員に当該物件の占有を移転することをいう、としています。手元に置いたまま見せるのが提示、相手に渡すのが提出です。
求められている行為がどれなのかを、その場で確かめてください
対象となる物件の範囲も、通達に定めがあります。法令解釈通達1-5は、帳簿書類その他の物件には、国税に関する法令の規定により備付け、記帳または保存をしなければならないこととされている帳簿書類のほか、調査の目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれる、としています。注書きでは、国外において保存するものも含まれるとされています。
| その場で出る問い | 国税庁が公表している考え方 |
|---|---|
| 通知された期間より前の帳簿を求められた | その期の申告内容を確認するために必要と判断したときは、それ以外の年度の帳簿書類の提示等を求めることがあり、これはあくまでも通知した年度の調査であるとされています(FAQ問9) |
| 社長個人名義の預金通帳を求められた | 法人税の調査で、代表者名義の個人預金について事業関連性が疑われる場合にその通帳の提示・提出を求めることは、法令上認められた質問検査等の範囲に含まれるとされています(FAQ問7) |
| 断ったらどうなるのか | 正当な理由がなく応じない場合等には罰則の定めがあります。ただし国税庁は、罰則があることをもって強権的に権限を行使することは考えておらず、理解と協力の下、承諾を得て行うとしています(FAQ問3) |
罰則の内容は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(国税通則法第128条第2号・第3号)。答弁をしない・偽りの答弁をする行為と、正当な理由なく提示・提出に応じない行為の両方が対象に含まれています。
📦 その場で持ち帰りたいと言われたとき
午前中のうちに、帳簿や書類を税務署に持ち帰りたいと求められることがあります。これが留置きです。条文は短く、国税の調査について必要があるときは、当該調査において提出された物件を留め置くことができる、と定めるだけです(国税通則法第74条の7)。手続の中身は事務運営指針が具体化しています。
| 場面 | 指針・FAQで確認できる取扱い |
|---|---|
| 求められるとき | 調査を行うスペースがない、コピー機がない、相当分量の帳簿書類を検査する必要があるなど、やむを得ず留め置く必要がある場合や、負担軽減の観点から合理的と認められる場合 |
| 進め方 | 留め置く必要性を説明し、提出した者の理解と協力の下、その承諾を得て実施する。承諾なく強制的に留め置くことはないとされています |
| 渡したあと | 預り証に帳簿書類等の名称など必要事項を記載して交付される。交付送達の手続としての署名を求められます |
| 返してほしいとき | 返還の求めがあったときは、特段の支障がない限り速やかに返還する。応じられない場合は、その旨と理由の説明とともに不服申立てに係る教示が行われます |
実務では、原本を渡すのか写しを渡すのかが分かれ目になります。国税庁のFAQは、調査の過程で担当者に提出するために新たに作成した写しの提出を受けても留置きには当たらない、と説明しています。業務で使う原本を手放さずに済むなら、その場でコピーを作って渡すほうが、その後の業務は止まりません。
🙋 当日の体制と、午前中に決まること
1日目の午前は、社長がずっと同席していなければならないわけではありません。質問検査権が及ぶ相手についても、法令解釈通達1-4が、各条に規定する者のほか、調査のために必要がある場合には、これらの者の代理人、使用人その他の従業者にも及ぶ、としています。事務運営指針は、代理人や従業者に質問検査等を行う場合には、原則として、あらかじめ質問検査等の相手方となる者の理解と協力を得る、と定めています。
誰が何を担当するかを前日までに決めておくと、当日の空白時間が減ります
渡した資料を会社側でも記録しておくことをおすすめします。何をいつ渡したかが分かっていれば、後日の説明のやり直しを防げます。
午後と2日目に向けて、午前中に決まること
午前中のやりとりで、その後の調査の輪郭が決まります。とくに次の2つは、午前のうちに動きが出ることがあります。
| 午前中に起きうること | 根拠と取扱い |
|---|---|
| 通知された税目や期間以外の話題が出る | 通知した事項以外の事項について非違が疑われた場合には、調査対象に追加する税目・期間等を説明し、理解と協力を得たうえで質問検査等を行うとされています(事務運営指針) |
| 次回以降の日程の相談がある | 調査の臨場が複数回に及ぶ場合には、調査開始後に都合を尋ねたうえで次回以降の臨場日を調整するとされています(FAQ問19) |
| 追加の資料を頼まれる | その場にない資料は、いつまでに用意するかを担当者と決めます。期限を明確にしておくと、双方の待ち時間が減ります |
| 担当者が持ち帰って検討する | その日のうちに結論が出ることはまれです。指摘は調査結果の説明の場でまとめて示されます |
調査対象に税目や期間が追加されることは、隠していたから追加されるという意味ではありません。ひとつの取引を確認するために別の税目の資料が必要になることは、実務では普通に起こります。
事前準備から当日の立会い、指摘への反論、修正申告の要否判断まで対応します。顧問税理士がいらっしゃる場合も、この調査だけのスポットのご依頼を承ります。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
調査は何時から何時までですか
法令に時間の定めはありません。実務では午前中に始まり、夕方までに区切りをつける進み方が一般的です。所要時間や日数については、国税庁は、調査開始後の状況により異なるため、事前通知の時点であらかじめ知らせることは困難としています。
調査担当者は何人来ますか
事案によって異なります。国税庁は、調査開始日時に複数の調査担当者が臨場する場合には、事前通知に際して、調査担当者を代表する者の氏名・所属官署に加えて臨場予定人数も併せて連絡することとしています。事前通知の電話で確認できます。
昼食を用意する必要はありますか
会社が昼食を用意すべきという定めは、法令にも国税庁の公表資料にも見当たりません。実務では、調査担当者が昼休みを外でとることが一般的です。会社側は、午前中に求められた資料の準備や社内での確認に、この時間を使えます。
社長が終日つきっきりでいないといけませんか
概況の聴取は社長が中心になりますが、それ以降は経理担当や税理士が対応する場面が増えます。質問検査権は、必要がある場合には代理人・使用人その他の従業者にも及ぶとされています。ただし、経営判断の背景を説明できるのは社長だけなので、連絡が取れる状態にしておくことをおすすめします。
その日のうちに結論が出ることはありますか
まずありません。調査の結果、更正決定等をすべきと認められる非違がある場合には、後日、調査結果の内容として、税目・課税期間・金額・理由等の説明が行われます。初日にその場で修正申告を求められる進み方は、通常の手続ではありません。
会議室がなく、社長室しか空いていません
差し支えありません。ただし、調査を行うスペースが確保できないことは、事務運営指針が留置きを求める場面のひとつとして挙げています。原本を持ち帰られたくない場合は、写しを作って渡す方法をあらかじめ検討しておくとよいでしょう。
📄 まとめ
1日目の午前は、身分証明書の提示と調査である旨の明示、概況の聴取、帳簿書類の提示・提出の求め、という順で進みます。会社側の準備は、この順序に合わせて用意すれば足ります。
その場で判断が必要になるのは、提示・提出・留置きのどれを求められているのかという点と、通知された税目・期間の外に話が広がったときの取扱いです。どちらも、国税庁が公表している事務運営指針とFAQに考え方が示されています。求めの趣旨をその場で確かめる習慣を持つだけで、当日の落ち着きはずいぶん変わります。
そして、答えられないことは答えられないと伝えてよい、という点は覚えておいてください。調査は、理解と協力を得て行うものとされています。急いで記憶だけで答えるより、確認してから正確に答えるほうが、結果として双方の手間を減らします。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 国税通則法(e-Gov法令検索) 第74条の2(当該職員の質問検査権)、第74条の7(提出物件の留置き)、第74条の13(身分証明書の携帯等)、第128条(罰則)
- 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)|国税庁 調査と行政指導の区分の明示、身分証明書等の携帯等、提示・提出の求め、留置き
- 第1章 法第74条の2〜法第74条の6関係(質問検査権)|国税庁 1-1、1-4、1-5、1-6
- 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)|国税庁 問3、問4、問7、問9、問10、問11、問19
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。
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