クリニックの消費税と簡易課税の判定
クリニックの消費税は、非課税の社会保険診療を除いた自由診療・健康診断・診断書作成・物品販売などの課税売上高で判定します。基準期間(個人は前々年、法人は原則前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になり、5,000万円以下であれば簡易課税を選べます。医療業は第五種事業で、みなし仕入率は50%です。
- インボイスの登録をしていれば、課税売上高が1,000万円以下でも納税義務がある
- 本則課税では、課税売上割合が低いため仕入れの消費税の多くを控除できず、簡易課税が有利になりやすい
- 簡易課税は課税期間の初日の前日までに届出が必要で、2年間はやめられない(2割特例を受けた翌期は特例あり)
2026年10月12日更新
自由診療のどの収入が課税・非課税になるかは自由診療の消費税|課税・非課税の線引きと健康診断・美容医療の扱いで解説しています。
クリニックの収入の大部分を占める社会保険診療は、消費税の非課税取引です。そのため消費税を意識する機会は少ないのですが、自由診療や健康診断、物品の販売がある医院では、消費税の納税義務が生じることがあります。
課税事業者になった場合、本則課税と簡易課税のどちらを選ぶかで納付税額は大きく変わります。簡易課税を選ぶには課税期間の初日の前日までの届出が必要で、いったん選択すると2年間はやめられません。
この記事では、非課税と課税の区分、納税義務の判定、簡易課税制度とみなし仕入率、届出の期限、そして2割特例とその後の取扱いを整理します。
- 社会保険診療が非課税である根拠と、課税になる収入の例
- 基準期間と特定期間による納税義務の判定
- 簡易課税制度の要件と、医療業に適用されるみなし仕入率
- 選択届出書の提出期限と、2年間やめられない縛り
- 2割特例の適用期限と、その後に設けられた特例
図 消費税の納税義務と簡易課税の判定(消費税法9条・37条にもとづき作成)
この記事の見出し
📌 社会保険診療は非課税、自由診療は課税
消費税法6条1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第二に掲げるものには消費税を課さないと定めています。この別表第二の第六号が医療に関する非課税を定めており、健康保険法、国民健康保険法、船員保険法、国家公務員共済組合法などの規定にもとづく療養や医療が掲げられています。
つまり、保険証を使った通常の診療にかかる収入は消費税の対象になりません。多くのクリニックでは収入の大部分がこれにあたるため、消費税を意識する機会が少なくなります。
一方で、別表第二第六号に掲げられていないものは課税取引です。国税庁は、美容整形や差額ベッドの料金、市販されている医薬品の購入は非課税取引にあたらないとしています。自由診療、健康診断、診断書の作成なども、一般に課税取引として扱われています。
なお第六号の柱書には、特別の病室の提供その他の財務大臣の定めるものについては、財務大臣の定める金額に相当する部分に限るという括弧書きがあります。差額ベッド代が課税になる根拠はここにあります。
表 クリニックの収入と消費税(消費税法6条1項および別表第二第六号)
自社に当てはめるとどうなるか、個別にお答えします
税務顧問:日々の税務相談から決算・申告まで。初回のご相談は無料、オンラインにも対応しています。
税務顧問の内容を見る / 相談内容を送る
📌 納税義務があるかどうかの判定
消費税法9条1項は、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者について、消費税を納める義務を免除すると定めています。基準期間は、個人事業者であれば前々年、法人であれば原則として前々事業年度です。
この1,000万円は課税売上高で判定しますので、社会保険診療の収入は含みません。自由診療や健康診断、診断書の作成、物品の販売などの課税売上の合計で判断します。
なお、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、前年の期首から6か月間である特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には課税事業者になります。特定期間の判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額によることもできます。
また9条1項の括弧書きには適格請求書発行事業者を除くとあります。インボイスの登録をしている場合は、課税売上高が1,000万円以下でも納税義務は免除されません。
📌 簡易課税制度とみなし仕入率
消費税の納付税額は、原則として課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除して計算します。これに対し簡易課税制度は、課税売上に係る消費税額にみなし仕入率を乗じた金額を仕入控除税額とみなして計算する方法です。仕入側の集計が不要になります。
消費税法37条1項は、基準期間における課税売上高が5,000万円以下である課税期間について、この制度の適用を認めています。みなし仕入率は事業の区分に応じて6段階に分かれています。
表 みなし仕入率(消費税法37条、同法施行令57条)
医療業はサービス業に区分されますので、第五種事業としてみなし仕入率50%が適用されます。事業区分は日本標準産業分類にもとづいて判定します。
ただし、クリニックの課税売上のなかに物品の販売が含まれている場合は注意が必要です。コンタクトレンズや市販の医薬品を仕入れて販売しているのであれば、その部分は診療の対価とは性質が異なります。複数の事業を営んでいる場合の区分の考え方は、所轄税務署に確認してください。
簡易課税が有利かどうかは、課税売上に対する課税仕入れの割合で決まります。みなし仕入率50%というのは、課税売上の半分に相当する課税仕入れがあるとみなすということです。自由診療の材料費や外注費が少なく、人件費の割合が高いクリニックでは、実際の課税仕入れが50%を下回ることが多く、簡易課税が有利になりやすい傾向があります。
逆に、高額な医療機器を購入する年や大規模な内装工事を行う年は、実際の課税仕入れが大きく膨らみます。この場合は本則課税を選んで消費税の還付を受けられることもありますので、設備投資の計画と届出の判断を結びつけて考える必要があります。
📌 本則課税と簡易課税の比べ方|課税売上割合が低い医院の計算例
クリニックで本則課税と簡易課税を比べるときに見落とされやすいのが、課税売上割合です。課税売上割合は、課税期間中の課税売上高(税抜き)を、課税売上高と非課税売上高などの合計(税抜き)で割った割合です(国税庁 No.6405)。社会保険診療の収入は非課税売上高として分母に入るため、多くのクリニックではこの割合が低くなります。
本則課税では、課税売上高が5億円以下で課税売上割合が95%以上でなければ、課税仕入れの消費税の全額は控除できません。個別対応方式か一括比例配分方式で、課税売上に対応する部分だけを控除します(国税庁 No.6401)。保険診療に使う医薬品や診療材料を仕入れたときに払った消費税は、非課税売上に対応するものとして、原則として控除できません。
次の架空の例で比べます。計算を単純にするため、国税と地方消費税をあわせた10%で概算し、端数処理は省いています。
| 前提 | 金額 |
|---|---|
| 社会保険診療の収入(非課税) | 1億2,000万円 |
| 自由診療・健康診断・診断書などの課税売上高(税抜き) | 3,000万円(消費税300万円) |
| 課税売上割合 | 3,000万円÷(3,000万円+1億2,000万円)=20% |
| 課税仕入れの消費税 | 合計200万円(自由診療だけに使う材料等30万円、保険診療だけに使う医薬品等50万円、家賃・電子カルテ・委託費など共通のもの120万円) |
| 計算方法 | 控除できる消費税 | 納付する消費税 |
|---|---|---|
| 本則課税(個別対応方式) | 30万円+120万円×20%=54万円 | 300万円−54万円=246万円 |
| 本則課税(一括比例配分方式) | 200万円×20%=40万円 | 300万円−40万円=260万円 |
| 簡易課税(第五種事業) | 300万円×50%=150万円 | 300万円−150万円=150万円 |
簡易課税のみなし仕入率は、課税売上に係る消費税額に掛けるため、社会保険診療の大きさ(課税売上割合)の影響を受けません。一方の本則課税では、仕入れの多くが保険診療に対応するため控除が小さくなります。この例で簡易課税が有利になるのはそのためです。
前の節で触れた設備投資の年も、医療機器が保険診療と自由診療の両方に使われるのであれば、本則課税で控除できるのはその消費税に課税売上割合を掛けた部分(個別対応方式の場合)にとどまります。本則課税のほうが有利になるかどうかは、課税売上割合と投資額を入れて試算してから判断してください。なお、一括比例配分方式を選んだ場合は、2年間続けて適用した後でなければ個別対応方式に変更できません(No.6401)。
また、2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間から簡易課税を選ぶ場合は、選択届出書をその翌課税期間に係る確定申告期限までに提出すればよいとされています(翌課税期間が令和8年9月30日以前に終了する場合は、その翌課税期間中)。2割特例を使ってきた個人開業医が令和9年分から簡易課税に移るときは、この取扱いを確認してください(国税庁「2割特例 特設ページ」)。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / 税務顧問を見る
📌 届出の期限と2年間の縛り
簡易課税制度の適用を受けるには、消費税簡易課税制度選択届出書を、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに所轄税務署へ提出しなければなりません。消費税法37条1項は、届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間から適用されると定めています。
いったん簡易課税を選択すると、消費税法37条6項により、事業を廃止した場合を除き、その効力が生じた課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、やめることができません。適用をやめる場合には、消費税法37条5項にもとづき消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出します。
この2年の縛りがあるため、翌々年に大きな設備投資を予定しているようなケースでは、簡易課税を選択する判断を慎重に行う必要があります。
なお、簡易課税を選択していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える課税期間については簡易課税は適用されず、本則課税で計算します。届出書の効力自体が失われるわけではありませんので、翌期以降に5,000万円以下に戻れば再び簡易課税が適用されます。
図 簡易課税の検討手順
📌 2割特例と、その後の3割特例
インボイス制度の開始に伴い免税事業者から課税事業者になった小規模な事業者については、納付税額を課税標準額に対する消費税額の2割とする経過措置が設けられています。いわゆる2割特例です。
この特例は、適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間について適用されます。個人事業者の場合、令和5年10月から12月までの期間と、令和6年分、令和7年分、令和8年分の合計4回の申告で使えます。
そのうえで、令和8年度の税制改正により、個人事業者である適格請求書発行事業者の令和9年分および令和10年分について、納付税額を課税標準額に対する消費税額の3割とする特例が設けられています。2割特例が終わってすぐに本則課税や簡易課税に移るのではなく、段階的な負担の増加が用意されている形です。
自由診療の売上が小さいクリニックでは、この特例によって納付税額が抑えられている間に、本則課税と簡易課税のどちらに移るかを検討しておくとよいでしょう。
📌 医療法人化したときの消費税
個人開業から医療法人へ移行すると、消費税の納税義務の判定は新たな法人として行われます。基準期間がない設立当初の課税期間については、資本金の額などによる判定が行われます。医療法人は持分の定めの有無にかかわらず、この判定の考え方を確認しておく必要があります。
個人事業者として簡易課税を選択していても、その効力が医療法人に引き継がれることはありません。医療法人として改めて簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。設立の届出と合わせて、消費税に関する届出の要否を確認してください。
また、個人から医療法人へ資産を引き継ぐ場合、その引継ぎが課税取引になることがあります。医療機器や内装設備を譲渡する形をとるのか、賃貸借とするのかによって取扱いが変わりますので、法人化の設計段階で消費税の影響も含めて検討してください。
自由診療の割合、設備投資の予定、医療法人化の時期によって、消費税の有利不利は変わります。届出の期限を過ぎると翌期まで選択できません。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。顧問業務の内容と進め方は税務顧問業務のページにまとめています。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
あわせて確認したい関連記事
❓ よくある質問
A. 社会保険診療は非課税取引ですので、課税売上がまったくないのであれば納税義務は生じません。ただし、診断書の作成料や自費の予防接種、物品の販売などがあれば課税売上になります。少額でも積み上がると1,000万円を超えることがありますので、課税売上の集計は毎年行ってください。
A. 医療業はサービス業に区分されますので、第五種事業としてみなし仕入率50%が適用されます。事業区分は日本標準産業分類にもとづいて判定します。コンタクトレンズや医薬品の販売など、診療の対価とは性質の異なる課税売上がある場合の区分については、所轄税務署に確認してください。
A. 消費税法37条6項により、事業を廃止した場合を除き、効力が生じた課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければやめることができません。2年の縛りが外れていれば、やめようとする課税期間の初日の前日までに不適用届出書を提出します。設備投資の計画は、届出の判断より前に確認しておく必要があります。
A. その課税期間については簡易課税は適用されず、本則課税で計算します。簡易課税制度選択届出書の効力自体が失われるわけではありませんので、翌期以降に基準期間の課税売上高が5,000万円以下に戻れば、再び簡易課税が適用されます。
A. 適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間について適用されます。個人事業者の場合は令和8年分までです。そのうえで、個人事業者の令和9年分および令和10年分については、納付税額を課税標準額に対する消費税額の3割とする特例が設けられています。
📄 まとめ
社会保険診療は消費税法6条1項および別表第二第六号により非課税ですが、美容整形や市販医薬品の販売、差額ベッド代の一部などは課税取引です。自由診療や健康診断がある医院では、課税売上高の集計が必要になります。
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になり、5,000万円以下であれば簡易課税制度を選択できます。医療業は第五種事業としてみなし仕入率50%が適用されます。人件費の割合が高いクリニックでは簡易課税が有利になりやすい一方、大きな設備投資を予定している年は本則課税のほうが有利になることがあります。
簡易課税制度選択届出書は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要があり、いったん選択すると原則として2年間はやめられません。2割特例が令和8年分で終わり、個人事業者には令和9年分および令和10年分の3割特例が用意されていますので、この間に本則課税と簡易課税のどちらに移るかを検討しておいてください。
⚖ 本記事の根拠法令
- 消費税法6条1項および別表第二第六号(社会保険診療等の非課税)
- 消費税法9条1項
- 消費税法37条1項
- 消費税法37条5項(簡易課税制度選択不適用届出書)、同条6項(2年間の継続適用)、同条7項(不適用届出書の効力)
- 消費税法施行令57条(事業区分とみなし仕入率)
- 所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則51条の2(いわゆる2割特例)
- 美容整形、差額ベッドの料金、市販されている医薬品が非課税取引にあたらないことは国税庁タックスアンサーNo.6201によります
- 課税売上割合と仕入控除税額の計算は国税庁タックスアンサーNo.6405・No.6401、医療業が第五種事業であることは国税庁質疑応答事例「日本標準産業分類からみた事業区分(P医療・福祉ほか)」、2割特例後の簡易課税の届出期限は国税庁「2割特例 特設ページ」によります
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の判断にあたっては、税理士などの専門家にご確認ください。
このテーマの全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までにまとめています。