監査証拠の集め方|7つの監査技法と証拠力の強弱

内部監査の現場でよくあるのが、担当者に聞いた内容をそのまま根拠にして結論を出してしまうことです。質問は業務を理解する出発点として不可欠ですが、それ自体は最も弱い証拠です。

質問で当たりをつけて、裏づけの取れる技法で確かめるという組み合わせが、限られた時間で成果を出すやり方になります。何を確かめたいかによって使う技法は変わります。

この記事では、7つの監査技法と得られる証拠、証拠力の強弱を決める軸、調書への残し方、証拠が足りているかの判断までを整理します。

この記事でわかること

  • 7つの監査技法と、それぞれで分かること
  • 確かめたいことの性質から技法を選ぶ考え方
  • 観察と再実施という見落とされやすい技法
  • 証拠力の強弱を決める4つの軸
  • 相手から渡された資料を扱うときの注意点
  • 証拠が足りているかを確かめる4つの問い
証拠力をどう高めるか集めた証拠の種類を確かめる外部から直接入手した資料か証拠力が高いはいいいえ現物を自ら確かめたものか証拠力が高いはいいいえ口頭での説明だけか記録や資料で裏づけるはいいいえ複数の技法を組み合わせて結論を支える

図 監査証拠の証拠力の判定

📌 結論 質問は出発点であって結論ではない

内部監査の現場でよくあるのが、担当者に聞いた内容をそのまま調書に書き、それを根拠に結論を出してしまうことです。質問は業務を理解するための出発点として不可欠ですが、それ自体は最も弱い証拠です。聞いた内容が正しいかどうかは、記録や現物で裏づける必要があります。

逆に言えば、質問で当たりをつけて、裏づけの取れる技法で確かめるという組み合わせが、限られた時間で成果を出すやり方になります。何を確かめたいかによって、使う技法は変わります。

7つの監査技法と得られる証拠技法やること分かること質問担当者に説明を求める手続の内容と担当者の理解閲覧・突合書類や記録を読み突き合わせる記録の整合と承認の有無観察業務が行われる様子を見る手続が実際に行われているか実査現物を自分で数え確かめる資産が実在するか確認取引先など外部に直接照会する残高や取引条件の外部からの裏づけ再実施統制と同じ作業を自分でやる統制が正しく機能するか分析的手続数値の関係や推移を分析する異常の兆候と説明との整合

質問だけで結論を出さず、必ず他の技法で裏づけを取る

🧭 技法をどう選ぶか

技法の選び方は、確かめたいことの性質で決まります。資産が本当にあるかを確かめたいなら実査、外部との債権債務の残高を確かめたいなら確認、統制が正しく計算しているかを確かめたいなら再実施です。承認が行われているかであれば閲覧で足ります。

見落とされやすいのが観察です。手続が行われる様子をその場で見るという技法で、往査でしかできません。棚卸のカウント、現金の受け渡し、システムへの入力といった場面を実際に見ると、記録からは分からないことが出てきます。ただし観察は、見られていると意識されると通常と違う動きになるという限界があります。

再実施は手間がかかりますが、証拠としては強い技法です。承認の基準に従って自分で判定してみる、システムの計算を表計算で再現してみるといった作業で、統制が意図どおりに機能するかを直接確かめられます。

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📊 証拠力の強弱

集めた証拠がどのくらいの重みを持つかは、いくつかの軸で判断できます。外部から入手したものは内部で作られたものより強く、自ら入手したものは相手から渡されたものより強く、文書は口頭より強く、取引と同時に作られたものは後から作り直したものより強い、という関係です。

証拠力の強弱を決める4つの軸強い証拠弱い証拠出所会社の外部から入手したもの会社の内部で作られたもの入手の仕方監査人が自ら入手したもの相手から渡されたもの形式文書や電子記録口頭の説明作成の時期取引と同時に作られたもの後から作り直したもの

同じ内容でも、どう入手したかで証拠としての重みが変わる

実務で気をつけたいのは、相手から渡された資料の扱いです。システムから出力してもらった一覧を受け取った場合、その一覧が母集団の全件なのか、条件を絞ったものなのかは、渡された側からは分かりません。出力の条件を画面で見せてもらう、件数を別の方法で確かめるといった手当てが必要になります。

また、往査の直前に作られた資料には注意します。日付や作成者を確かめ、取引の時点で作られたものなのか、監査のために整えられたものなのかを区別します。後から作られた資料が悪いわけではありませんが、統制が機能していた証拠にはなりません。

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🗂 調書に何を残すか

証拠は集めただけでは意味がなく、調書として残すことで後から説明できるようになります。残すのは、何を確かめたか、どの資料を見たか、その資料をどう入手したか、その結果どう判断したかの4点です。

資料の写しを添付する場合は、どこを見たのかが分かるように印をつけます。10ページの資料をそのまま貼っても、確かめた箇所が分かりません。該当する行や欄に印をつけ、確かめた内容を余白に書いておくと、後から見た人にも伝わります。

電子で保管する場合も同じで、ファイル名だけでは何を確かめたのか分かりません。調書の本文に、そのファイルのどの部分を根拠にしたのかを書いておきます。

⚖️ 証拠が足りているかの判断

どこまで集めれば十分かという問いに、決まった答えはありません。ただし、次の4つの問いに答えられるかを確かめると、不足に気づきやすくなります。

証拠が足りているかを4つの問いで確かめるこの記録は誰が作ったものかを言えるか記録が取引の時点で作られたと言えるか結論を支えるだけの件数と範囲を見たか反対の事実がないかを確かめたか

4つのうち1つでも答えられなければ、調書はまだ完成していない

特に見落とされやすいのが4つ目です。統制が行われている証拠は集めたが、行われていない事例がないかを確かめていないという状態です。承認済みの伝票を10件見て問題がなかったとしても、承認されないまま処理された伝票がないかは、別の方法で確かめる必要があります。

この確認は、母集団の側から入ると見つかります。承認記録のある伝票を追うのではなく、処理された全件のうち承認記録のないものを抽出するという方向です。同じ領域を見ていても、方向を変えると結果が変わります。

証拠が足りないまま指摘を書くと、対象部署から事実関係を否定されたときに反論できません。逆に、証拠がそろっていれば、指摘の重さについて議論があっても、事実の部分は動きません。証拠を集めることは、指摘を守るための作業でもあります。

❓ よくある質問

Q. 担当者への質問だけでは足りませんか

A. 質問は最も弱い証拠です。業務を理解する出発点としては不可欠ですが、聞いた内容が正しいかは記録や現物で裏づける必要があります。

Q. どの技法を選べばよいですか

A. 確かめたいことの性質で決まります。資産の実在なら実査、外部との残高なら確認、統制の計算なら再実施、承認の有無なら閲覧で足ります。

Q. 観察はどんな場面で使いますか

A. 棚卸のカウント、現金の受け渡し、システムへの入力など、往査でしか見られない場面で使います。ただし見られていると通常と違う動きになる限界があります。

Q. 再実施は手間がかかりませんか

A. 手間はかかりますが証拠としては強い技法です。承認の基準に従って自分で判定してみる、計算を再現してみるといった作業で統制の機能を直接確かめられます。

Q. 出力してもらった一覧をそのまま使ってよいですか

A. その一覧が全件なのか条件を絞ったものかは分かりません。出力の条件を画面で見せてもらう、件数を別の方法で確かめるといった手当てが必要です。

Q. 往査の直前に作られた資料はどう扱いますか

A. 日付と作成者を確かめ、取引の時点で作られたものか監査のために整えられたものかを区別します。後から作られた資料は統制が機能していた証拠にはなりません。

Q. 調書には何を残せばよいですか

A. 何を確かめたか、どの資料を見たか、どう入手したか、どう判断したかの4点です。資料を添付するときは確かめた箇所に印をつけます。

Q. 証拠はどこまで集めれば十分ですか

A. 記録の作成者と時期を言えるか、件数と範囲が結論を支えるか、反対の事実を確かめたかの4点で判断します。特に4点目が見落とされがちです。

📄 まとめ

質問は出発点であって結論ではありません。聞いた内容は必ず他の技法で裏づけます。

技法は確かめたいことの性質で選びます。観察と再実施は手間がかかる分、記録からは分からないことが見えます。

証拠力は、出所、入手の仕方、形式、作成の時期という4つの軸で決まります。同じ内容でも入手の仕方で重みが変わります。

統制が行われている証拠だけでなく、行われていない事例がないかを母集団の側から確かめます。方向を変えると結果が変わります。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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