棚卸資産と固定資産の監査に共通する原則は、照合を2つの方向で行うことです。帳簿から現物だけを確かめても、帳簿に載っていない資産や使われていない資産は見つかりません。
実務では台帳を持って現場に行き、あるかどうかを確認するという進め方が多く見られます。この方法では実在性は確かめられても網羅性は確かめられません。
この記事では、棚卸と固定資産で見る点の違い、実地棚卸の立会いの5段階、締切前後の期ずれ、固定資産の現物照合、指摘の書き方までを整理します。
- 棚卸資産と固定資産で見る点がどう違うか
- 実地棚卸の立会いを5段階で行う進め方
- 立会いで自ら数えることの意味と、選ぶ品目の条件
- 締切前後の期ずれを確かめるために当日やるべきこと
- 固定資産で見つかりやすい5つの問題と確認方法
- 金額の誤りと仕組みの問題を分けた指摘の書き方
図 棚卸資産と固定資産の監査手続
📌 結論 2方向で照合しないと片方しか分からない
棚卸資産と固定資産の監査に共通する原則は、照合を2つの方向で行うことです。帳簿から現物を確かめると、帳簿に載っているものが実在するかは分かりますが、帳簿に載っていないものは見つかりません。現物から帳簿を確かめると、その逆が分かります。両方をやってはじめて、実在性と網羅性の両方を確かめられます。
実務では、帳簿から現物という方向だけで済ませている例がよくあります。台帳を持って現場に行き、あるかどうかを確認するという進め方です。この方法では、台帳に載っていない資産や、使われていないのに残っている資産は見つかりません。
どちらも2方向の照合をやらないと網羅性と実在性の両方は確かめられない
🧭 実地棚卸の立会いで何をするか
棚卸の立会いは、会計監査人が行うものというイメージがありますが、内部監査が独自に立ち会う意味があります。会計監査人は金額的な重要性の観点から見ますが、内部監査は手続そのものが定めたとおりに行われているかを見ます。
立会いは見ているだけでなく自分でも数えて初めて証拠になる
事前に確認するのは棚卸要領です。数える単位、カウントの担当と再カウントの担当が分かれているか、締切の時刻をどう決めるか、差異が出た場合の処理をどうするかが定まっているかを見ます。要領がないまま実施されている場合は、それ自体が指摘になります。
当日は、見ているだけでは証拠になりません。自分でいくつかの品目を選んで数え、カウント票と照合します。数える品目は、金額の大きいもの、動きの少ないもの、保管場所が分かりにくいものから選びます。数量が合っていることより、合わなかったときにどう処理されるかを見るほうが、統制としての評価には役立ちます。
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📊 締切前後の期ずれ
棚卸で特に注意して見るのが、締切前後の入出庫です。棚卸の直前に入荷したが検収が翌日になっている、締切後に出荷したが伝票の日付が前日になっているといった状態は、数量と帳簿のずれを生みます。
確認の方法としては、締切の前後数日の入出庫伝票の番号を控えておき、後日その番号の前後の取引が正しい期に計上されているかを確かめます。番号を控えるのは棚卸の当日にしかできない作業なので、立会いの際に必ず行います。
滞留品の扱いも確認します。長期間動いていない在庫が区分して置かれているか、評価の見直しの対象として把握されているかを見ます。倉庫の隅にまとめて置かれたまま台帳では通常の在庫として扱われているという状態は、評価の論点につながります。
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🗂 固定資産の現物照合
固定資産については、年1回の現物照合が行われているかを確かめます。台帳のすべてを毎年見る必要はなく、金額の大きいものと、事業所別に一定の割合を抽出して数年で一巡させる形でも構いません。重要なのは、方法が定まっていて記録が残っていることです。
台帳から現物を探すより、現場を歩いて台帳にない物を探すほうが見つかる
実際に見つかりやすいのは除却漏れです。すでに使っていない設備が台帳に残ったままで、減価償却が続いている状態です。現場を歩いて、稼働していない資産や見当たらない資産を洗い出します。台帳を持って探すより、現場で使われていない物を見つけて台帳を確かめるほうが早く見つかります。
もう1つよく見つかるのが、資産計上すべき支出が修繕費として処理されているケースです。一定額以上の修繕費について内容を確認し、資産の価値を高めるものや耐用年数を延ばすものが含まれていないかを見ます。ここは会計処理の判断が絡むため、必要に応じて経理や監査法人に確認します。
⚖️ 指摘の書き方
この領域の指摘は、金額の誤りとして書くか、管理の仕組みの問題として書くかで意味が変わります。数量が数個合わなかったという事実だけを書いても、経営としては対応の判断ができません。なぜ合わなかったのか、その原因が他の品目にも及ぶのかまで書きます。
除却漏れについては、対象の資産の帳簿価額と、除却した場合の損失の見込みを示します。金額が分かればいつ処理するかの判断ができます。決算期をまたぐ場合は、経理と監査法人への相談を是正の手順に含めておきます。
是正案は、その場の修正と、仕組みの変更に分けて書きます。台帳の修正はその場の対応であり、現物照合を年次の手続として定めることが仕組みの変更です。仕組みの変更まで書かないと、翌年も同じ指摘を書くことになります。
❓ よくある質問
A. 会計監査人とは見る観点が違います。会計監査人は金額的な重要性から見ますが、内部監査は手続が定めたとおりに行われているかを見るため、独自に立ち会う意味があります。
A. 見ているだけでは証拠になりません。自分でいくつかの品目を数えてカウント票と照合します。金額の大きいもの、動きの少ないもの、保管場所が分かりにくいものから選びます。
A. 要領がないまま実施されている状態はそれ自体が指摘になります。数える単位、担当の分離、締切時刻、差異の処理を定めることを是正案として示します。
A. 棚卸当日に締切前後の入出庫伝票の番号を控えておきます。後日その番号の前後の取引が正しい期に計上されているかを確かめます。
A. 全件でなくても構いません。金額の大きいものと事業所別に一定割合を抽出し、数年で一巡させる形でも足ります。方法が定まり記録が残っていることが重要です。
A. 台帳を持って探すより、現場を歩いて稼働していない資産や見当たらない資産を洗い出すほうが早く見つかります。
A. 一定額以上の修繕費について内容を確認します。資産の価値を高めるものや耐用年数を延ばすものが含まれていないかを見て、判断が絡む部分は経理や監査法人に確認します。
A. 数量が合わなかったという事実だけでなく、原因と、その原因が他の品目にも及ぶかまで書きます。是正案はその場の修正と仕組みの変更に分けます。
📄 まとめ
棚卸資産も固定資産も、帳簿から現物と現物から帳簿の2方向で照合してはじめて実在性と網羅性の両方が確かめられます。
実地棚卸の立会いでは、見るだけでなく自ら数えます。数量が合うことより、合わなかったときの処理を見るほうが統制の評価に役立ちます。
締切前後の入出庫伝票の番号を控えるのは当日にしかできません。期ずれの確認はここから始まります。
固定資産は現場を歩いて使われていない資産を探すほうが除却漏れを見つけやすくなります。是正案は台帳の修正と年次手続の整備に分けて書きます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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