監査役等と内部監査は、同じ会社の同じ業務を見ることがあります。人数の限られる上場準備の会社では、同じ部署に短期間で2回入るといった無駄が起きがちです。
これを避ける鍵は、対象を分けることではなく見る角度を分けることです。同じ稟議書を見ても、監査役等と内部監査で確かめたいことは違います。
この記事では、角度の分け方、年度を通じた連携の場面、監査役スタッフがいない会社での線引き、報告の経路の設計までを整理します。
- 同じ対象を見るときに角度をどう分けるかの具体例
- 年度の連携を5つの場面で設計する進め方
- 計画を作る前に監査役等の関心事項を聞く理由
- 監査役スタッフがいない会社で内部監査が手伝ってよい範囲
- 経営者と監査役等への二重の報告経路の設計
- 連携を個人の関係ではなく仕組みとして残す方法
図 監査役監査と内部監査の分担の決め方
📌 結論 角度を分けると重複が消える
監査役等と内部監査は、同じ会社の同じ業務を見ることがあります。上場準備の会社では、限られた人数で両方を回すため、同じ部署に短期間で2回入るといった無駄が起きがちです。これを避ける鍵は、対象を分けることではなく、見る角度を分けることです。
会社法は監査役に取締役の職務執行を監査する権限を与えており、その視点は手続の適法性と判断の妥当性にあります。一方の内部監査は経営者に報告する立場から、決めたことが現場で運用されているかを確かめます。同じ稟議書を見ても、確かめたいことは違います。
角度を分けておくと同じ資料を2回集める無駄がなくなる
🧭 いつどう連携するか
連携でよくある失敗は、年度計画ができてから監査役等に見せることです。この順番だと、重複が見つかっても計画を直す余地がありません。計画を作る前に、監査役等が今年度どこを気にしているかを聞く場を設けます。そのうえで計画案を作り、重複と抜けを調整します。
計画ができてから見せるのではなく作る前に聞く
期中は、四半期ごとに往査の結果を報告する形が回しやすいところです。報告書をそのまま渡すのではなく、要点と是正の状況を口頭で補足すると、監査役等が次に何を見るべきかの判断材料になります。
監査役等が往査を行う際に、内部監査が同行したり資料を提供したりする形も有効です。ただし同行するときは、あくまで監査役等の監査であることを明確にしておきます。内部監査が実務を代行する形になると、監査役監査の独立性の説明が難しくなります。
年度計画の作り方から会合の設計まで、審査で説明できる形にまとめます。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の導入、内部監査対応を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
📊 監査役スタッフがいない会社での実務
上場準備の会社では、監査役の補助使用人を置いていないことがほとんどです。そのため監査役等は、資料の入手や日程の調整を自ら行うことになり、実務上の負担が大きくなります。ここで内部監査が資料の提供や日程の調整を手伝うこと自体は問題ありませんが、線引きが必要です。
連携は人ではなく仕組みとして残す
手伝ってよいのは、資料の所在の案内、日程の調整、会社の業務内容の説明といった補助的な作業です。逆に、監査役等が行うべき判断そのもの、たとえば取締役の職務執行が適法かどうかの評価を内部監査が代わりに行うことはできません。判断の材料を提供するところまでが範囲だと整理しておくと迷いません。
審査では、監査役等が自ら監査を実施している記録が求められます。内部監査の報告書をそのまま監査役の監査調書としているような状態は、監査役監査が実質的に行われていないと見なされる可能性があります。それぞれが自分の調書を持っている形にしておきます。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
🗂 報告の経路をどう設計するか
内部監査の報告先を経営者だけにすると、経営者自身に関わる論点が出たときに行き止まりになります。逆に監査役等だけにすると、日常の業務改善に結びつきません。実務では、経営者に報告しつつ監査役等にも報告するという二重の経路を規程に定めておく形が一般的です。
二重の経路にする場合、どちらに何を報告するかを決めておきます。往査ごとの報告書は経営者と監査役等の双方に、年度の総括も双方に、経営者自身に関わる事案は監査役等に直接、という整理がよく使われます。この最後の経路が規程にあるかどうかは、審査で確認されることがあります。
また、内部監査の人事や予算について、監査役等の同意または意見聴取を求める規定を置いている会社もあります。経営者が内部監査を実質的に抑え込めない仕組みとして働くため、独立性の説明がしやすくなります。
⚖️ 連携を仕組みとして残す
連携が個人の関係に依存していると、監査役の交代や内部監査の担当の異動で途切れます。規程に、定例の会合を年に何回開くか、何を共有するか、記録をどう残すかを書いておきます。書いてあれば、担当が代わっても同じ形が続きます。
記録としては、会合の議事録が最も分かりやすい証拠になります。日付、出席者、共有した事項、その後の扱いを1枚にまとめて残します。分量は必要ありません。回数と継続性のほうが重要です。
そのうえで、年に1度は連携の仕方そのものを見直します。重複が残っていないか、逆に誰も見ていない領域がないかを、監査役等と内部監査で確認します。この見直しの記録も、体制が形骸化していないことを示す材料になります。
❓ よくある質問
A. 重なること自体は問題ありません。見る角度を分けておけば重複した作業になりません。手続の適法性は監査役等、運用されているかは内部監査という整理が使いやすいところです。
A. 作る前に関心事項を聞き、計画案の段階で共有します。完成してから見せると重複が見つかっても直す余地がありません。
A. 資料の提供や説明のために同行することは有効です。ただし監査役等の監査であることを明確にし、内部監査が実務を代行する形にはしないよう注意します。
A. 資料の所在の案内、日程の調整、業務内容の説明といった補助は内部監査が担えます。ただし適法性の評価そのものを代わりに行うことはできません。
A. 監査役監査が実質的に行われていないと見なされる可能性があります。それぞれが自分の調書を持つ形にしておきます。
A. 双方に報告する二重の経路を規程に定めるのが一般的です。経営者自身に関わる事案は監査役等に直接報告する経路も併せて書いておきます。
A. 同意または意見聴取を求める規定を置いている会社があります。経営者が内部監査を抑え込めない仕組みとして働くため、独立性の説明がしやすくなります。
A. 定例会合の議事録が最も分かりやすい証拠です。日付、出席者、共有した事項、その後の扱いを1枚にまとめれば足ります。分量より継続性が重要です。
📄 まとめ
監査役等と内部監査は対象ではなく角度を分けます。手続の適法性と運用の実態という切り口で分ければ重複した作業になりません。
連携は年度計画を作る前から始めます。完成した計画を見せる形では調整の余地がありません。
監査役スタッフがいない会社では内部監査が補助を担えますが、適法性の評価そのものは代行できません。判断の材料を提供するまでが範囲です。
報告は経営者と監査役等への二重の経路にし、経営者自身に関わる事案の経路も規程に書いておきます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
体制と立ち上げ
- 内部監査規程には何を書くか
- 内部監査基準と規程
- 内部監査は誰が担当するか
- 内部監査は何人必要か
- 内部監査を外部に委託できるか
- 内部監査室はいつ設置するか
- 内部監査室の立ち上げ90日
- 内部監査の年間スケジュール
- 3ラインモデルと内部監査
- 企業統治の指針と内部監査
- 内部監査の助言はどこまで
計画とリスク評価
手続と実施
報告とフォローアップ
業務別の監査
- 購買と支払の内部監査
- 販売と売上計上の内部監査
- 現金預金と経費精算の内部監査
- 棚卸資産と固定資産の内部監査
- 労務管理の内部監査
- ITの内部監査
- 予算実績管理の内部監査
- 関連当事者取引の内部監査
- 契約管理の内部監査
- 子会社の内部監査
不正への対応
内部統制報告制度
通報と監査役との連携
- 内部通報制度と内部監査の関係
- 監査役監査と内部監査の連携(この記事)