内部監査と内部統制報告制度の違い|三様監査の役割分担

内部監査と内部統制報告制度は、上場準備の現場でよく混同されます。どちらも内部統制という言葉を使い、同じ業務プロセスを見るためです。しかし目的も、結論の出し方も違います。

この違いを踏まえないと、評価をやっているから内部監査は不要だと考えて審査で指摘を受けたり、逆に評価に必要な記録が残っておらず期末に作業が集中したりします。

この記事では、両者の違いを整理したうえで、三様監査のなかでの内部監査の位置づけ、作業を重ねられる部分と重ねてはいけない部分を明確にします。

この記事でわかること

  • 内部監査と内部統制報告制度の違いを5つの観点で整理
  • 内部統制報告制度の根拠と評価の流れ
  • 三様監査の役割の違いと、連携の実態をどう示すか
  • 内部監査と評価の作業を重ねる5つの手順
  • 調書をどう書けば両方に使えるか
  • 上場準備でよく出る3つの誤解
どちらの枠組みの作業か求められている作業の目的を確かめる財務報告の信頼性を確かめる評価か内部統制報告制度の作業はいいいえ業務の有効性や効率性を確かめる監査か内部監査の作業はいいいえ監査役や会計監査人が行う手続か三様監査の役割分担で整理するはいいいえ重複する部分は資料と結果を共有して負担を減らす

図 内部監査と内部統制評価の役割分担

📌 結論 目的が違うので片方では代替できない

内部監査と内部統制報告制度は、上場準備の現場でしばしば混同されます。どちらも内部統制という言葉を使い、どちらも業務プロセスを見るためです。しかし目的が違います。内部監査は業務全般を対象に改善につなげるために行うもので、内部統制報告制度は財務報告の信頼性を確保するために、経営者が評価して報告するものです。

この違いを踏まえずに、内部統制の評価をやっているから内部監査は不要だと考えると、上場審査で必ず指摘を受けます。逆に内部監査をやっているから評価は簡単だと考えると、評価に必要な記録が残っておらず、期末になって作業量が跳ね上がります。

内部監査と内部統制報告制度の違い観点内部監査内部統制報告制度根拠会社の判断と上場審査での要請金融商品取引法24条の4の4目的業務全般の改善につなげる財務報告の信頼性を確保する範囲業務・法令遵守・資産の保全など全財務報告に関係する範囲結論の形指摘と改善提案有効か否かの評価と報告書の提出担い手内部監査部門経営者が評価し監査人が監査する

目的が違うため、片方をやれば片方が済むという関係ではない

🧭 内部統制報告制度の側から見る

内部統制報告制度は、金融商品取引法24条の4の4にもとづき、上場会社が事業年度ごとに内部統制報告書を提出する仕組みです。経営者が自社の財務報告に係る内部統制の有効性を評価し、その結果を報告します。評価の基準と実施の考え方は、金融庁の企業会計審議会が示した基準および実施基準に沿って行われます。

評価は全社的な内部統制の評価から始まり、その結果を踏まえて業務プロセスの評価対象を絞り込む流れになります。この絞り込みの考え方は、内部監査で監査対象を選ぶときのリスク評価とよく似ています。実際、両者は同じ資料を出発点にできる部分が多くあります。

なお、この制度の基準は改訂が行われており、経営者による評価の範囲の決定について、形式的な数値基準のみに依拠しないことなどが示されています。上場準備の段階では、最新の基準にもとづいて評価範囲の考え方を整理しておくことが求められます。

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📊 三様監査のなかでの位置づけ

上場会社では、内部監査、監査役等による監査、会計監査人による監査の3つが並びます。これを三様監査と呼びます。3つは同じ会社の同じ業務を見ることがありますが、立場も責任も異なります。内部監査は経営者に対して報告する社内の部門であり、監査役等は株主の付託を受けた独立の機関、会計監査人は会社から独立した外部の専門家です。

三様監査の役割の違い担い手立場主に見るもの内部監査経営者に対して報告する社内の部門業務の有効性と効率性を含む全般監査役等株主の付託を受けた独立の機関取締役の職務執行の適法性と妥当性会計監査人会社から独立した外部の監査人財務諸表が適正に表示されているか

同じ論点を扱っても見る角度と責任の所在が異なる

審査では、この3者が定期的に情報を交換しているかを確認されます。連携の実態を示すのは、三者による会合の議事録です。年に数回、内部監査の計画と結果、監査役等が把握している論点、会計監査人が着目している領域を持ち寄る場を設け、記録を残しておきます。会合の頻度よりも、そこで何が共有され、その後どう扱われたかが問われます。

注意したいのは、連携を理由に内部監査が監査役等の指示だけで動く形にしないことです。内部監査は経営者に報告する立場を持ち、そのうえで監査役等にも報告するという二重の報告経路を持つのが一般的な形です。どちらか一方に取り込まれると、独立性の説明が難しくなります。

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🗂 作業をどこまで重ねられるか

限られた人数で両方を回すには、作業を重ねる工夫が必要です。最も効くのは、年度計画を立てる段階で評価対象の業務プロセスを確認し、往査の対象と重なる部分を先に洗い出しておくことです。重なる部分については、監査手続書に評価で必要になる手続を組み込んでおきます。

内部監査と内部統制評価の作業を重ねる手順年度計画を立てる段階で評価対象の業務プロセスを確認する往査の対象と評価の対象が重なる部分を洗い出す重なる部分は監査手続書に評価に必要な手続を組み込む往査で得た証拠を評価の記録としても使えるよう調書を整える評価部門と内部監査で結果を持ち寄り不備の判断をそろえる

評価と監査を別々に走らせると現場の負担が二重になる

重ねる際に気をつけるのは、調書の作り方です。内部監査の調書は改善の提案につなげる形で書かれますが、評価の記録としては、どの統制のどの属性を何件確かめたかが明確でなければ使えません。件数と抽出の理由、確かめた内容を欄として持たせておけば、両方に使えます。

一方で、重ねてはいけない部分もあります。内部監査部門が評価の実施主体を兼ねている場合、その評価が適切かを内部監査が確かめるという構図は成り立ちません。評価を内部監査部門が担っている会社では、評価そのものの妥当性は経理部門や外部の専門家に確認してもらう形をとります。

⚖️ 上場準備でよく出る誤解

よく見られる誤解の1つ目は、内部統制の文書化が終われば内部監査の準備も終わるというものです。業務記述書やフローチャート、統制の一覧は内部監査の出発点として役に立ちますが、それは対象の理解のための資料であって、監査の計画や手続書とは別のものです。

2つ目は、内部監査を外部に委託していれば内部統制の評価も一緒にやってもらえるという理解です。委託の範囲は契約で決まるものであり、評価は経営者が行うものです。どこまでを外部に頼み、どこからを自社で判断するのかを、契約の段階で明確にしておく必要があります。

3つ目は、評価で不備がなければ内部監査でも指摘は出ないはずだというものです。評価は財務報告の信頼性という限られた目的で行われるため、業務の効率性や法令遵守の観点では別の指摘が出ます。両方から異なる指摘が出るのは、それぞれが役割を果たしている証拠だと考えるほうが実態に合っています。

❓ よくある質問

Q. 内部統制の評価をやっていれば内部監査は不要ですか

A. 必要です。評価は財務報告の信頼性という限られた目的で行われるもので、業務の有効性や法令遵守を含む内部監査の対象とは範囲が異なります。上場審査でも別のものとして確認されます。

Q. 内部監査部門が内部統制の評価も担当してよいですか

A. 人数の制約から兼ねている会社は多くあります。ただし自らが行った評価の妥当性を自ら確かめる構図は成り立たないため、評価の妥当性は経理部門や外部の専門家に確認してもらう形をとります。

Q. 三様監査の連携はどう示せばよいですか

A. 三者が集まる会合の議事録が最も分かりやすい証拠になります。頻度よりも、そこで何が共有され、その後どう扱われたかが記録されているかが問われます。

Q. 内部監査は監査役の指示で動く形でよいですか

A. 監査役等への報告経路を持つことは重要ですが、一方に取り込まれると独立性の説明が難しくなります。経営者に報告しつつ監査役等にも報告する二重の経路を持つのが一般的です。

Q. 業務記述書があれば監査手続書は不要ですか

A. 別のものです。業務記述書は対象を理解するための資料であり、監査手続書は何を何件どう確かめるかを定めるものです。理解の資料から手続を組み立てる関係になります。

Q. 内部監査を外部に委託すれば評価もやってもらえますか

A. 委託の範囲は契約で決まります。評価は経営者が行うものであるため、どこまでを外部に頼みどこからを自社で判断するかを契約の段階で明確にします。

Q. 評価で不備がなければ内部監査の指摘も出ないはずでは

A. 目的が異なるため別の指摘が出ます。両方から異なる指摘が出るのは、それぞれが役割を果たしている状態だと考えるのが実態に合っています。

Q. 評価の範囲はどう決めればよいですか

A. 全社的な内部統制の評価結果を踏まえて業務プロセスの対象を絞り込みます。基準は改訂が行われているため、最新の基準にもとづいて考え方を整理し、監査法人と早い段階ですり合わせます。

📄 まとめ

内部監査と内部統制報告制度は目的が異なり、片方で片方を代替することはできません。範囲も結論の形も違います。

三様監査では、内部監査は経営者に報告する社内の部門という立場を保ちながら、監査役等にも報告する二重の経路を持つのが一般的な形です。

限られた人数で両方を回すには、年度計画の段階で対象の重なりを洗い出し、監査手続書に評価で必要な手続を組み込むのが最も効きます。

調書に件数と抽出の理由、確かめた内容の欄を持たせておけば、内部監査の記録としても評価の記録としても使えます。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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