現金預金と経費精算の内部監査|実査の手順とサンプル抽出

現金預金と経費精算は、金額が小さくても不正が起きやすい領域です。日常的に多くの人が触れ、少額であるがゆえに統制が緩みます。

この領域で内部監査にしかできないのが、予告なしの現金実査です。会計監査人は期末前後にしか行いませんし、経理部門の自己点検では抑止力になりません。

この記事では、現金実査の手順、預金と送金の統制、経費精算で抽出する6つの条件、そして仮払金の滞留の見方を整理します。

この記事でわかること

  • 現金実査を予告なしで行う理由と手順
  • 金種表に双方が署名する意味
  • ネットバンキングの権限で見るべき点
  • 経費精算で抽出する6つの条件
  • 役員の精算と仮払金を必ず見る理由
現金預金と経費精算の確かめ方現金と預金の残高を確かめる手許現金があるか実査して帳簿の残高と照合するはいいいえ預金の残高証明を入手できるか通帳や証明書と照合するはいいいえ経費精算に領収書と承認がそろっているかサンプルを抽出して確かめるはいいいえ精算の遅れや私的な支出がないかを確かめる

図 現金預金と経費精算の監査手続

📌 結論 実査は内部監査にしかできない

図1 現金預金と経費精算で見るところ対象確かめること手続現金帳簿残高と手許現金が一致するか実査。予告なしで、担当者立会いのもと数え預金口座の一覧が網羅されているか、休眠口座がないか通帳と残高証明の突合、口座開設と解約の記ネットバンキング送金の権限と承認の分離ができているか権限設定画面、送金時の承認履歴経費精算領収書の要件、私的支出の混入、上長承認精算書と領収書の突合、抽出しての精査仮払金長期滞留していないか、精算されているか仮払金の年齢調べ、精算記録

現金の実査は、内部監査でしかできない手続です。予告すると意味がなくなります。

現金預金と経費精算は、金額が小さくても不正が起きやすい領域です。日常的に多くの人が触れ、少額であるがゆえに統制が緩みやすいからです。

この領域で内部監査にしかできないのが、現金の実査です。会計監査人は期末日前後にしか行いませんし、経理部門の自己点検では抑止力になりません。予告なしの実査は、内部監査の存在価値を示す手続でもあります。

預金については、口座の網羅性を見ます。会社が把握していない口座がないか、使われていない口座が残っていないかです。休眠口座は不正な資金の受け皿になりうるため、解約を提案します。

🧭 現金実査のやり方

図3 現金実査の手順予告せずに往査し、その時点で出納を止める担当者立会いのもと、金種別に数える金種表を作成し、担当者と監査人が署名する出納帳の残高と照合し、差異があれば原因を追う仮払や未精算の領収書があれば内訳を確認するその場で現金を返却し、出納を再開する

監査人だけで数えてはいけません。必ず担当者の立会いのもとで行い、双方が署名します。

実査は予告せずに行います。事前に伝えると、不足分を補填する時間を与えることになります。内部監査規程に、抜き打ちで実施できる旨を書いておいてください。

手順は、出納を止める、担当者立会いのもとで数える、金種表を作る、出納帳と照合する、という流れです。監査人だけで数えてはいけません。あとで金額に争いが生じたときに、双方の署名がある金種表が根拠になります。

差異があった場合は、その場で原因を追います。未精算の仮払い、未記帳の入出金、釣銭の誤りなど、理由があることも多くあります。金額の大小にかかわらず、差異があった事実と原因を調書に残してください。

実査の対象は本社だけでなく、店舗や営業所も含めます。拠点の現金は、本社よりも統制が及びにくい傾向があります。すべての拠点を毎年回れない場合は、輪番で回してください。

📄 預金と送金の統制

預金では、まず口座の一覧を入手します。そのうえで、通帳または残高証明と帳簿残高を突き合わせます。

次に、口座の開設と解約の権限を確認します。誰の承認で口座を開設できるのか、その記録が残っているのかを見ます。担当者が単独で口座を開設できる状態は、統制上の弱点です。

ネットバンキングを使っている場合は、権限の設定が重要です。送金データを作成する人と、承認する人が分かれているか。1人で送金を完了できる設定になっていないかを、権限画面で確認します。

電子証明書やトークンの管理も見ます。承認者本人が保管しているか、担当者が預かっていないかです。権限が分かれていても、承認者のトークンを担当者が持っていれば、分離は形だけになります。

現金実査と経費精算の監査手続をお引き受けします

予告なしの実査は、外部の目が入ることでより実効性が高まります。金種表の様式、実査の手順、経費精算の抽出条件、役員精算の見方まで、手続書としてお渡しし、初回は同行します。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の導入、内部監査対応を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。

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📊 経費精算の見方

図2 経費精算で抽出する条件条件狙い領収書のない支出宛名や但し書きの要件を満たさない支出がないか休日や深夜の飲食業務との関連が説明できるか同じ店舗が繰り返し出てくる私的な利用が混じっていないか金額が承認基準の境界付近基準を避けて分割していないか役員と特定の社員の精算権限のある者ほど統制が及びにくい月末に集中して提出されている事後にまとめて作成していないか

役員の精算を対象から外している会社がありますが、上場審査では必ず見られる領域です。

経費精算は件数が多いため、全件は見られません。6つの条件で抽出します。

領収書のない支出、休日や深夜の飲食、同じ店舗の繰り返し、承認基準の境界付近の金額、役員と特定社員の精算、月末集中の提出です。

役員の精算を対象から外している会社がありますが、これは避けてください。権限のある者ほど統制が及びにくく、上場審査でも必ず見られる領域です。役員の精算は、他の役員または監査役が承認する仕組みになっているかも確認します。

交際費については、参加者の記録があるかを見ます。誰と会食したのかが記録されていないと、業務との関連が確認できません。税務上も、参加者の記録は要件になります。

領収書の要件も確認します。宛名が会社名になっているか、但し書きが具体的か、日付があるかです。上様や品代という記載が並んでいる場合は、改善を提案してください。

🗂 仮払金の滞留

仮払金は、精算されずに残りやすい科目です。年齢調べを作って、いつからの仮払いが残っているかを把握してください。

半年以上精算されていない仮払金があれば、その理由を聞きます。出張が終わっているのに精算されていない、あるいは実質的に貸付けになっている、といったケースがあります。

役員への仮払金が長期に残っている場合は、役員貸付金として扱うべきものかを検討します。上場審査では、役員との金銭のやり取りは厳しく見られる項目です。申請前に解消しておく必要があります。

⚖️ よく出る指摘

この領域でよく出る指摘は4つです。第1に、現金の実査が行われていない、あるいは経理部門の自己点検だけで済まされているケースです。

第2に、ネットバンキングで作成者と承認者が同一人物になっているケースです。少人数の経理部門で起きやすい状態です。

第3に、経費精算の領収書に宛名や但し書きが不備なまま承認されているケースです。

第4に、仮払金が長期に滞留し、精算の督促が行われていないケースです。とくに役員に対する仮払いは、上場準備の早い段階で解消しておいてください。

❓ よくある質問

Q. 現金実査は予告しますか。

A. 予告しません。事前に伝えると不足分を補填する時間を与えることになります。

Q. 実査は監査人だけで行いますか。

A. 必ず担当者の立会いのもとで行い、金種表に双方が署名します。

Q. 店舗や営業所も実査しますか。

A. 含めてください。拠点の現金は本社より統制が及びにくい傾向があります。毎年回れない場合は輪番にします。

Q. ネットバンキングでは何を見ますか。

A. 送金データの作成者と承認者が分かれているか、承認者のトークンを担当者が預かっていないかです。

Q. 経費精算は全件見ますか。

A. 件数が多いため抽出します。領収書なし、休日深夜の飲食、同一店舗の繰り返しなど6つの条件を使います。

Q. 役員の精算も対象にしますか。

A. 対象にしてください。権限のある者ほど統制が及びにくく、上場審査でも必ず見られます。

Q. 交際費で何を確認しますか。

A. 参加者の記録があるかです。記録がないと業務との関連が確認できず、税務上も要件を欠きます。

Q. 仮払金は何を見ますか。

A. 年齢調べで滞留を把握します。役員への長期の仮払いは貸付金として扱うべきか検討し、申請前に解消してください。

📄 まとめ

現金の実査は、予告なしで行える内部監査ならではの手続です。担当者立会いのもとで数え、双方が署名します。

預金は口座の網羅性と、開設や解約の権限を見ます。休眠口座は解約を提案してください。

ネットバンキングでは、作成者と承認者の分離、そしてトークンの保管者まで確認します。

経費精算は6つの条件で抽出し、役員の精算と仮払金の滞留を必ず対象に含めてください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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