購買と支払のプロセスは、多くの会社で毎年の監査対象になります。金額が大きく、不正が起きやすい領域だからです。
見る着眼点は5つあります。発注の権限、発注と検収の分離、検収の実在、支払の根拠、取引先の妥当性です。このうち発注と検収の分離が、人員の少ない部門でもつとも崩れやすい統制です。
この記事では、5つの着眼点、三者突合の手順、狙いを持った抽出条件、取引先の管理、そしてよく出る指摘を整理します。
- 購買と支払で見る5つの着眼点
- 発注書、検収書、請求書の三者突合の手順
- 日付の順序から事後作成を見つける方法
- 狙いを持った6つの抽出条件
- 取引先マスタと反社チェックの確認方法
図 購買と支払の監査の着眼点
📌 結論 発注と検収の分離が最大の論点
このうち発注と検収の分離が、上場準備会社でもつとも崩れやすい統制です。
購買と支払のプロセスは、多くの会社で毎年の監査対象になります。金額が大きく、不正が起きやすい領域だからです。
見る着眼点は5つです。発注の権限、発注と検収の分離、検収の実在、支払の根拠、取引先の妥当性です。
このうち上場準備会社でもつとも崩れやすいのが、発注と検収の分離です。人員が少ない部門では、同じ担当者が発注し、ものを受け取り、検収書を作っていることがあります。この状態では、実体のない取引を作ることが可能です。
🧭 権限の確認
発注の権限は、職務権限規程の金額基準に照らして確認します。基準を知らずに証憑を見ても、何が逸脱かが判断できません。予備調査の段階で基準を頭に入れてから往査に臨んでください。
とくに見たいのが、決裁基準の境界付近の取引です。100万円以上が部長決裁という基準であれば、98万円や99万円の発注が並んでいないかを見ます。基準を避けるために発注を分割している可能性があります。
分割発注の判定は、同じ取引先、近い時期、関連する品目という3つで見ます。同じ取引先に同じ月に2件の発注があり、合わせると基準を超える場合は、事情を聞いてください。
事後承認の扱いも確認します。緊急時に事後承認を認める規程になっている会社は多いのですが、事後承認が常態化していると、権限の統制が働いていないことになります。件数を数えて、割合を把握してください。
📄 三者突合のやり方
日付の順序が逆転している取引は、事後の発注書作成が疑われます。必ず確認してください。
購買監査の中心になるのが、発注書、検収書、請求書の三者突合です。支払依頼書を起点に、この3つを突き合わせます。
照合するのは、金額、品目、数量、単価、そして日付です。とくに日付は、発注、納品、検収、請求の順序が保たれているかを見ます。請求書の日付が発注書より前になっている取引は、事後に発注書を作ったことが疑われます。
金額の不一致は、値引きや追加発注の可能性がありますので、直ちに指摘とせず事情を聞きます。ただし、差額の説明ができる記録が残っているかは確認してください。
検収の実在は、証憑だけでは分かりません。入庫記録やシステムの受入登録、可能であれば現物を確認します。役務提供の場合は、成果物や作業報告書を見ます。
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📊 抽出の条件を決める
無作為抽出だけでは異常が拾えません。条件を決めて狙って抽出してください。
無作為に20件抽出するだけでは、異常な取引は拾えません。狙いを持った抽出条件を6つ用意してください。
決裁基準の境界付近、期末集中、取引先の偏り、起票者と承認者の一致、取引先の新規登録が直前のもの、単価の乖離です。この条件で抽出した件に加えて、無作為抽出を数件足すと、網羅性と狙いの両方が確保できます。
抽出の条件と、抽出できた件数は調書に記録します。条件に該当する取引がゼロだった場合も、ゼロだったことを記録してください。確認していないことと、確認して該当がなかったことは違います。
データが電子で取れる場合は、表計算ソフトで全件を分析します。金額の分布、取引先別の集計、月別の推移を見れば、異常が浮かびます。全件分析は、抽出よりも強い証拠になります。
🗂 取引先の管理
取引先の登録手続も監査の対象です。誰が申請し、誰が承認して、マスタに登録されるのか。この経路が定まっていない会社があります。
確認するのは3点です。新規登録の申請と承認の記録があるか、与信の確認をしているか、そして反社会的勢力でないことの確認をしているか、です。
反社チェックは、上場審査でも必ず見られる項目です。データベースでの検索記録、あるいは調査会社への照会記録が残っているかを確認します。取引開始後に確認していないことが分かると、審査で問題になります。
取引先マスタの変更履歴も見ます。振込先の口座情報が変更された取引先について、変更の申請と承認の記録があるかを確認してください。口座情報の不正な変更は、実際に発生している類型です。
⚖️ よく出る指摘
この領域でよく出る指摘は4つです。第1に、発注書がないまま発注しているケースです。口頭やメールでの発注が常態化している部門があります。
第2に、検収書に検収日の記載がない、あるいは押印だけで誰が検収したか分からないケースです。
第3に、事後承認の常態化です。緊急対応として認められた例外が、月に何件も発生している状態です。
第4に、取引先マスタに使われていない取引先が大量に残っているケースです。実体のない取引先が紛れ込む余地になりますので、定期的な棚卸しを提案してください。
❓ よくある質問
A. 発注の権限、発注と検収の分離、検収の実在、支払の根拠、取引先の妥当性の5つです。
A. 発注書、検収書、請求書の3つを突き合わせ、金額、品目、数量、単価、日付が整合するかを見る手続です。
A. 発注、納品、検収、請求の順序が保たれているかです。請求書が発注書より前の日付なら事後作成が疑われます。
A. 同じ取引先、近い時期、関連する品目という3つで見ます。合算すると決裁基準を超えるものを抽出します。
A. 無作為だけでは異常が拾えません。決裁基準の境界、期末集中、取引先の偏りなど条件を決めて抽出してください。
A. 証憑だけでは分かりません。入庫記録、システムの受入登録、現物、役務なら成果物を確認します。
A. 対象です。上場審査でも必ず見られます。検索記録や照会記録が残っているかを確認してください。
A. 緊急時の例外として規程にあるなら構いません。ただし常態化していれば統制が働いていないことになります。
📄 まとめ
購買と支払は毎年の監査対象です。5つの着眼点のうち、発注と検収の分離がもつとも崩れやすい統制です。
三者突合では金額と品目だけでなく、発注から請求までの日付の順序を確認してください。
抽出は無作為だけでは足りません。決裁基準の境界や期末集中など、狙いを持った条件を用意します。
取引先の新規登録、与信、反社チェック、口座情報の変更履歴まで見てください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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