内部監査の予備調査|事前に集める資料と監査手続書の作り方

内部監査の質は、往査の前に決まります。現場に行ってから何を見るか考えていると、説明を聞くだけで2日が終わります。

1テーマの標準的な日程は7から9日で、そのうち予備調査に2から3日を充てます。ここで監査手続書まで作っておけば、往査は確認作業になります。

この記事では、予備調査で集める5種類の資料、監査手続書に書く4つのこと、事前通知の出し方、質問事項の作り方を整理します。

この記事でわかること

  • 1テーマの標準的な日程と工程ごとの日数
  • 予備調査で集める5種類の資料と見るところ
  • 監査手続書に書く4つのこと
  • 事前通知書を3週間前に出す理由
  • 予備調査の記録を調書に残す意味
往査の前に何を確かめるか対象部署の資料を集める規程やマニュアルが最新のものか現在の運用と照らして確かめるはいいいえ業務の流れを図で把握できているかフロー図をもとに手続書を作るはいいいえ前回の指摘事項が残っているかフォローアップの項目に入れるはいいいえ監査手続書を作って往査の当日に備える

図 予備調査で確かめる事項

📌 結論 往査の前に8割が決まる

図1 1テーマの標準的な日程工程日数の目安やること予備調査2から3日資料の入手と読み込み、質問事項の整理、手続書の作成事前通知往査の3週間前までに通知書を送る往査2日説明の聴取、証憑の閲覧、現場の観察、担当者への質問調書の作成2日手続ごとに結果と結論を記録する報告書の作成1から2日指摘の整理、被監査部門への事実確認、報告書の完成講評と報告被監査部門への講評、経営者と監査役への報告

合計7から9日です。往査の2日だけを見て日程を組むと、調書と報告書が間に合いません。

内部監査でいちばん差が出るのが予備調査です。往査の日にその場で何を見るか考えていると、被監査部門の説明を聞くだけで2日が終わります。

1テーマの標準的な日程は7から9日です。このうち予備調査に2から3日を充てます。往査の2日より長いくらいでちょうどよく、ここで手続書まで作っておけば、往査は確認作業になります。

予備調査の成果物は2つです。監査手続書と、事前通知書です。手続書には、何を、どの資料で、どう確かめるかを書きます。この段階で見るべき証憑の範囲と件数まで決めておきます。

🧭 何を集めるか

図2 予備調査で集める資料種類具体例見るところ規程類業務マニュアル、職務権限規程決裁権限の金額基準と承認者組織資料組織図、人員配置、異動の履歴担当者の交代と兼務の状況実績データ取引件数、金額の推移、取引先一覧異常値と例外的な取引システム資料使用システム、権限一覧権限の付与状況と特権IDの有無過去の記録前回の監査調書、指摘と是正の記録是正が定着しているか

予備調査でどこを見るかを決めておけば、往査の2日が有効に使えます。

集める資料は5種類です。規程類、組織資料、実績データ、システム資料、そして過去の監査記録です。

規程類では、職務権限規程の決裁権限の金額基準を確認します。この基準が、往査で証憑を見るときの判断軸になります。10万円以上は課長決裁と定められているのに課長印がない伝票があれば、それが逸脱です。基準を知らないまま証憑を見ても、何が問題かが分かりません。

実績データは、可能であれば全件のリストをもらいます。取引件数、金額、取引先、担当者が入った一覧です。ここから、金額が大きいもの、期末に集中しているもの、特定の取引先に偏っているもの、承認者と起票者が同じものを抽出します。この抽出結果が、往査で見る証憑の対象になります。

過去の監査記録も忘れないでください。前回の指摘が是正されているかは、当然に確認されるべき事項です。前回の調書を読まずに往査に行くと、同じ指摘を繰り返すか、是正済みの事項を再指摘することになります。

📄 手続書に書くこと

図3 予備調査の進め方前回の調書と指摘事項を読む規程と業務マニュアルを入手して手順を把握する実績データを受け取り、件数と金額の傾向を見る異常値や例外取引を抽出し、質問事項にする監査手続書を作成して往査の段取りを固める事前通知書を送り、日程と必要資料を伝える

往査の日に何を見るかが決まっていない状態で現場へ行くと、説明を聞くだけで終わります。

監査手続書には、手続ごとに4つを書きます。何を確かめるか、どの資料を見るか、どの範囲を見るか、そして何が確認できれば良しとするかです。

たとえば購買の監査なら、発注が権限どおり承認されているかを確かめる、対象は当期の発注書のうち100万円以上の全件と100万円未満から20件を抽出、決裁者の印影と職務権限規程の基準が一致していれば良しとする、というように書きます。

範囲を先に決めておくのが大切です。往査の場で見る件数を決めると、時間が足りなくなって途中でやめることになります。やめた記録は調書に残りませんので、あとから見ると何件見たのか分からなくなります。

手続書は往査の前に、内部監査部門を管掌する役員に見せておくと安全です。見るべき点が抜けていれば、この段階で指摘してもらえます。

予備調査から往査までの段取りをお引き受けします

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📊 事前通知の出し方

往査の3週間前までに、事前通知書を出します。書く内容は、往査の目的、対象期間、日程、担当者、そして事前に用意してほしい資料の一覧です。

3週間としているのは、被監査部門が資料を揃える時間を見込むためです。1週間前の通知では資料が間に合わず、往査当日に閲覧できないという事態になります。

資料の一覧は具体的に書いてください。関係資料一式という書き方では、何を出せばよいか伝わりません。発注書つづり、検収書つづり、支払依頼書つづり、というように、現場が探せる言葉で書きます。

抜き打ちの監査を行うこともあります。現金の実査や在庫の実地確認など、事前に知らせると意味がなくなる手続です。この場合も、内部監査規程に抜き打ちで実施できる旨を書いておいてください。

🗂 質問事項の作り方

予備調査で気づいたことは、質問事項として整理しておきます。往査の場で思いついた質問より、資料を読み込んだうえでの質問のほうが、深いところに届きます。

質問は、事実を聞くものと、理由を聞くものに分けます。この取引の承認者は誰ですか、というのが事実の質問です。なぜこの取引だけ承認者が違うのですか、というのが理由の質問です。

理由の質問は、相手を責める形にならないよう言葉を選んでください。手順どおりでない理由を聞く場面では、現場に事情があることが多く、その事情を聞き出せるかどうかで指摘の質が変わります。

質問事項は往査の前に被監査部門へ渡しておく方法と、当日その場で聞く方法があります。事実の確認は事前に渡し、理由の質問は当日に聞く、という使い分けが実務的です。

⚖️ 予備調査の記録も調書に残す

予備調査で行った作業も、調書として残します。どの資料をいつ入手したか、どういう分析をして何を抽出したか、その結果どの手続を計画したかを記録します。

この記録があると、往査で見た証憑の抽出根拠が説明できます。なぜこの20件を選んだのかと聞かれたとき、抽出の条件と母集団の件数を示せる状態にしておいてください。

上場審査では、監査手続書と調書の対応関係が見られます。手続書に書いた手続がすべて実施され、その結果が調書に記録されているか。ここがつながっていれば、監査が計画的に行われたことを示せます。

❓ よくある質問

Q. 予備調査にどれくらいかけますか。

A. 2から3日が目安です。往査の2日より長いくらいでちようどよい配分です。

Q. どんな資料を集めますか。

A. 規程類、組織資料、実績データ、システム資料、過去の監査記録の5種類です。

Q. 実績データは全件もらいますか。

A. 可能であれば全件です。金額の大きいもの、期末集中、取引先の偏り、承認者と起票者の一致などを抽出します。

Q. 監査手続書には何を書きますか。

A. 何を確かめるか、どの資料を見るか、どの範囲を見るか、何が確認できれば良しとするかの4つです。

Q. 事前通知はいつ出しますか。

A. 往査の3週間前が目安です。被監査部門が資料を揃える時間を見込んでください。

Q. 抜き打ちで監査できますか。

A. できます。現金実査などは事前通知になじみません。規程に抜き打ちで実施できる旨を書いておいてください。

Q. 質問事項は事前に渡しますか。

A. 事実の確認は事前に渡し、理由を聞く質問は当日にする、という使い分けが実務的です。

Q. 予備調査の記録も残しますか。

A. 残します。証憑をなぜその範囲で抽出したかの根拠になります。

📄 まとめ

内部監査の質は予備調査で決まります。往査の前に、何をどの範囲で見るかを手続書に落としてください。

集める資料は規程類、組織資料、実績データ、システム資料、過去の監査記録の5種類です。

事前通知は3週間前に出し、必要資料は現場が探せる具体的な名称で書きます。

予備調査の記録も調書に残せば、証憑の抽出根拠を説明できます。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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