内部監査の担当者と兼務|独立性を保てる範囲と選任の考え方

内部監査を誰に担当させるかは、上場準備で最初に詰まるところです。専任者を置く余裕がなく、既存の部門長が兼務するしかない。そういう会社がほとんどです。

兼務そのものが禁じられているわけではありません。問題になるのは、自分が関与している業務を自分で監査してしまう状態です。これを自己監査といい、内部監査として成立しません。

この記事では、独立性が何を指すのか、どの部門との兼務なら成り立つのか、そして担当者を決める順番を整理します。

この記事でわかること

  • 内部監査の独立性が問われる4つの面
  • 部門ごとの兼務の可否と条件
  • 自己監査になっていないかの確かめ方
  • 1人しかいない会社での回し方
  • 上場審査で担当者について聞かれること
その人を担当にできるか候補者の職務と経歴を確かめる自分が担当する業務を自分で監査することになるか独立性を欠くため担当にできなはいいいえ経理や購買など監査の対象となる実務を兼ねているか対象から外すか担当を分けるはいいいえ過去1年以内にその部署に在籍していたか一定の期間は担当を避けるはいいいえ独立性を保てるため担当にできる

図 内部監査の担当者を選ぶときの独立性の判定

📌 結論 専任でなくてよいが、自己監査は許されない

図1 内部監査の担当者に求められる独立性観点求められることよくあるつまずき組織上の独立被監査部門の指揮命令を受けない位置に置く経理部の中に内部監査担当を置いている自己監査の回避自分が担当した業務を自分で監査しない経理課長が経理プロセスを監査している報告経路の独立社長のほか監査役にも直接報告できる部門長を経由しないと報告できない評価と処遇の独立被監査部門の長が人事評価をしない監査した相手が自分の評価者になっている

独立性は4つの面から見られます。組織図だけでは足りず、報告経路と人事評価まで確認されます。

会社法にも金融商品取引法にも、内部監査部門の人数や専任要件を定めた条文はありません。上場審査でも、専任者が何人必要という基準は示されていません。

求められるのは独立性です。内部監査人が被監査部門から独立していること、そして自分が関与した業務を自分で監査していないことです。この2つが崩れると、監査の結論に客観性がないと判断されます。

独立性は組織図だけで判断されません。報告経路と人事評価まで見られます。組織図では社長直属になっていても、実際には部門長を通してしか報告できない、あるいは監査した相手が自分の人事評価者である、という状態では独立とはいえません。

🧭 どの部門との兼務なら成り立つか

図2 兼務の可否兼務先可否理由と条件経営企画条件つきで可予算統制を監査対象にする期は担当を外す総務・人事条件つきで可労務監査の期は他の者が担当する経理・財務避けたい財務報告の内部統制が主要な監査対象になるため内部統制評価(J-SOXただし業務監査の時間が確保できるかを確認する営業・購買などの現業避けたい主要な業務プロセスの監査ができなくなる監査役(監査等委員)との兼任不可監査する側と監査される側の関係が崩れる

兼務そのものが禁じられているわけではありません。監査対象と重なる期に担当を外せるかが分かれ目です。

実務でいちばん多いのが、経営企画部門との兼務です。全社の数字と業務の流れを把握しているため、監査人として適性があります。ただし予算統制のプロセスを監査対象にする期は、その部分を別の担当者に振る必要があります。

避けたいのが経理・財務との兼務です。上場準備の内部監査では、財務報告に関わる業務プロセスが主要な対象になります。経理部門の責任者が内部監査を兼ねると、その中心部分が自己監査になります。

監査役との兼任は認められません。内部監査は業務執行の一部として社長の指揮下で行われるものであり、監査役は取締役の職務執行を監査する立場です。監査する側と監査される側が同一人物になると、制度の前提が崩れます。

財務報告に係る内部統制の評価、いわゆるJ-SOXの評価作業との兼務はよく行われています。ただし評価作業は分量が多く、期末に集中します。その時期に業務監査が止まらないよう、年間のスケジュールを組んでください。

📄 自己監査になっていないかの確かめ方

図3 担当者を決める手順監査対象にする業務プロセスを先に洗い出すその業務に関与していない人を候補にする候補が兼務する部門と監査対象が重なる期を確認する重なる部門は外部委託か相互監査で埋める規程に独立性の担保方法を明記する

人を決めてから対象を決めると、必ずどこかで自己監査になります。対象から決めてください。

自己監査を避けるには、人ではなく対象から決めます。まず監査する業務プロセスを洗い出し、そのプロセスに関与していない人を担当者の候補にします。順番を逆にすると、担当者の所属部門が監査できなくなる、という結果になります。

確かめ方は単純です。監査調書に署名した人が、その業務の承認者や実施者として証憑に名前を出していないかを見ます。同じ人の名前が両方に出ていれば、自己監査です。

兼務者が自部門を監査せざるを得ない場面では、選択肢が3つあります。その部門だけを外部の専門家に委託する、他部門の管理職と相互に監査を担当する、あるいは監査役監査でその部門を重点的に見てもらい内部監査の対象から外す、という組み立てです。いずれの場合も、なぜそうしたかを監査計画に書いておいてください。

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📊 1人しかいない会社での回し方

内部監査の担当者が1人という会社は珍しくありません。この場合、すべての業務プロセスを毎期監査するのは不可能です。監査サイクルを設計して、3年で全体を1周する、という組み立てにします。

1人体制でとくに注意したいのが、調書のレビューです。通常は監査人が作成した調書を上位者がレビューしますが、1人ではそれができません。内部監査部門を管掌する役員がレビューする、あるいは監査役にレビューを依頼する、という形で第三者の目を入れてください。

また、担当者が退職した場合に監査が止まるリスクがあります。手続書と調書の様式を標準化し、共有フォルダに保存しておけば、引き継ぎが可能になります。属人化した内部監査は、審査でも継続性を疑われます。

なお、内部監査基準では内部監査人の専門的能力の維持向上が求められています。1人体制であっても、日本内部監査協会の研修や内部監査士の資格取得など、能力を維持する取組みの記録を残しておくと説明しやすくなります。

🗂 内部監査人に必要な知識

会計知識だけでは足りません。上場準備の内部監査では、業務プロセスの流れ、社内規程の内容、労働関係の法令、情報システムの管理まで対象になります。すべてを1人でまかなうのは現実的ではありません。

実務では、監査対象ごとに社内の詳しい人に同行してもらう形をとります。ITの監査であれば情報システム部門の担当者に、労務であれば社会保険労務士に同席してもらいます。ただし同行者が被監査部門の人であってはいけません。

資格は必須ではありません。公認内部監査人(CIA)や内部監査士の資格があると説明はしやすくなりますが、資格がないことを理由に審査で問題になることはありません。実際に監査ができているかどうかで判断されます。

⚖️ 上場審査で聞かれること

審査では、内部監査の担当者について次のことが確認されます。誰が担当しているか、他にどの業務を兼務しているか、内部監査に年間どれくらいの時間を使っているか、そして自部門を監査していないか、です。

年間の投入時間は、日程表や調書の作成日から逆算されます。兼務者が繁忙期に監査をまったく実施していない期があると、体制として機能していないと見られます。年間の配分を計画の段階で示しておいてください。

担当者が交代した場合は、引き継ぎの記録も見られます。前任者の調書が残っていない、監査計画が引き継がれていない、という状態は避けてください。

なお、内部監査部門の設置と担当者の任命は、取締役会または社長の決裁で行い、記録を残します。組織図に内部監査室が載っているだけで、任命の記録がないという例が意外に多くあります。

❓ よくある質問

Q. 内部監査の専任者は必要ですか。

A. 法令上も上場審査上も専任要件はありません。兼務でも構いませんが、自己監査にならない設計が要ります。

Q. 経理部長が内部監査を兼ねてよいですか。

A. 避けてください。財務報告に関わるプロセスが主要な監査対象になるため、その中心が自己監査になります。

Q. 監査役が内部監査を兼ねられますか。

A. 兼ねられません。内部監査は業務執行の一部で、監査役は取締役の職務執行を監査する立場です。

Q. 自部門を監査せざるを得ないときは。

A. その部門だけ外部委託する、他部門の管理職と相互に担当する、監査役監査で補う、のいずれかを選び、計画に理由を書いてください。

Q. 1人体制でも認められますか。

A. 認められます。ただし監査サイクルの設計と、調書を第三者がレビューする仕組みを用意してください。

Q. 資格は必要ですか。

A. 必須ではありません。実際に監査が実施できているかどうかで判断されます。

Q. J-SOXの評価と兼務してよいですか。

A. 構いません。ただし評価作業に追われて業務監査が実施されない期が出ないよう、年間配分を決めてください。

Q. 担当者の任命はどう記録しますか。

A. 取締役会または社長の決裁で任命し、記録を残します。組織図だけでは足りません。

📄 まとめ

内部監査に専任要件はありません。兼務でも成立しますが、自分が関与した業務を自分で監査する状態は認められません。

独立性は組織上の位置、自己監査の回避、報告経路、人事評価の4つの面から見られます。

担当者は人からではなく監査対象から決めてください。順番を逆にすると必ず自己監査が生じます。

1人体制では監査サイクルの設計と、調書を第三者がレビューする仕組みを用意してください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。

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