内部監査規程は、上場準備で最初に作る規程のひとつです。ところが、ひな形をそのまま使った結果、書いてある手順を会社が守れず、審査で運用の実態を問われる例が後を絶ちません。
規程は守るために作るものです。書けば体制が整うわけではなく、書いたとおりに動いた記録が残ってはじめて評価されます。
この記事では、内部監査規程に置くべき9つの章と、それぞれに何を書くか、そして書いたのに守れなくなる典型例を整理します。
- 内部監査規程に置く9つの章と、それぞれの中身
- 規程の出発点になる会社法の条文
- 書いたのに運用が伴わなくなる典型例
- 子会社を対象に含めるかどうかの決め方
- 上場審査で規程のどこを見られるか
図 内部監査規程に定める事項の確認
この記事の見出し
📌 結論 内部監査規程は9つの章で足りる
9つの章がそろっていれば、上場審査で規程の不足を指摘されることはまずありません。
内部監査規程に決まった様式はありません。会社法にも金融商品取引法にも、規程の記載事項を定めた条文はないためです。ただし実務では、目的、適用範囲、組織と独立性、権限、計画、実施、報告、改善、調書の保存という9つの章に落ち着きます。
このうち上場審査でとくに見られるのが、組織と独立性、権限、報告の3つです。内部監査部門が被監査部門から独立していること、必要な資料を見る権限があること、その結果が経営者と監査役に届く経路があること。この3つが規程で担保され、かつ実際にそう動いていることが求められます。
逆に、目的や適用範囲は他社のひな形と似た文章になりがちですが、それ自体は問題ありません。会社ごとに差が出るのは、権限の範囲と報告経路です。
なお、内部監査の実施基準として広く参照されているのが、日本内部監査協会の内部監査基準です。法令ではありませんが、監査法人も主幹事証券も内容を把握していますので、規程を作るときの拠りどころになります。規程の条文をこの基準の用語に合わせておくと、説明が通りやすくなります。
🧭 規程の出発点は取締役会の決議
規程だけを先に作ると、取締役会決議の内部統制システムの基本方針とずれます。決議から出発してください。
会社法362条4項6号は、取締役会が決定しなければならない事項として、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備、を挙げています。いわゆる内部統制システムの基本方針です。
同条5項により、大会社である取締役会設置会社では、この事項を決定しなければなりません。上場準備会社の多くは資本金を増やす過程で大会社になりますから、避けて通れない決議です。
法務省令にあたる会社法施行規則100条1項は、5つの体制を挙げています。取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制、損失の危険の管理に関する規程その他の体制、取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制、使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制、そして企業集団における業務の適正を確保するための体制です。
内部監査規程は、この決議を具体化する規程のひとつです。決議で子会社を含む企業集団を対象にすると書いておきながら、内部監査規程の適用範囲を当社のみとしていると、そこで矛盾が生じます。順番としては、決議の内容を確認してから規程を書いてください。
📄 章ごとに何を書くか
目的の章には、内部監査が何を確かめるものかを書きます。財務報告の信頼性だけに絞ると、業務監査を行っていることの説明がつかなくなります。業務の有効性と効率性、法令の遵守、資産の保全まで含めておくのが一般的です。
組織と独立性の章では、内部監査部門を誰の下に置くかを決めます。社長直属とするのが通例です。ここで大切なのは、被監査部門の指揮命令を受けないことを明記する点です。兼務者が内部監査を担当する場合でも、監査を行う場面ではその部門の業務から離れることを書いておきます。
権限の章は、規程の中で最も実務に効きます。資料の提出を求める権限、質問に回答を求める権限、現場に立ち入る権限を明記します。これがないと、監査を受ける側から資料の提出を断られたときに根拠を示せません。
報告の章では、報告先と時期を書きます。社長だけに報告する設計にすると、社長自身が関与する不正を発見したときに行き場がなくなります。監査役または監査役会にも報告する経路を、規程の段階で作っておいてください。
計画の章は短くて構いません。年度計画を誰が作り、誰が承認し、いつまでに承認を得るか。この3点が書いてあれば足ります。中期計画まで規程で義務づけると、人員が少ない時期に負担になります。
実施の章では、予備調査、往査、調書の作成という流れを書きます。細かい手順まで規程に落とすと改定が頻繁になりますので、詳細は内部監査マニュアルなどの下位文書に委ねる書き方が扱いやすくなります。規程には、監査の都度、監査手続書を作成する、という程度の記載で十分です。
改善の章では、指摘を受けた部門が是正計画をいつまでに出すか、そして内部監査部門がいつ再確認するかを書きます。指摘して終わりでは監査になりません。フォローアップまでを規程に書いておくと、担当者が交代しても運用が続きます。
規程のひな形をお渡しするだけでは、上場審査は通りません。取締役会決議との突き合わせ、貴社の組織に合わせた報告経路の設計、計画から報告までの様式づくり、そして初年度の往査への同行まで通してお受けします。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の導入、内部監査対応を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
📊 書いたのに守れなくなる典型例
審査で見られるのは規程の文言ではなく、規程どおりに動いた記録です。守れない条文はむしろ危険です。
審査で問題になるのは、規程の文言そのものではなく、規程と実態のずれです。上の表はいずれも、実際に指摘を受けやすい形です。
とくに多いのが、報告書の提出期限です。ひな形には監査終了後1か月以内と書かれていることが多いのですが、兼務の担当者が1人で回している会社では、そのとおりに出せません。守れない期限を書くくらいなら、2か月以内と書いて確実に守るほうが、審査での説明がつきます。
もうひとつが、調書の保存です。担当者が交代したときに前任者の調書が残っていない、というのはよくある話です。保存場所を規程で特定し、個人のパソコンではなく共有フォルダに集約してください。監査法人からも上場審査でも、過年度の調書は必ず見られます。
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🏷 子会社を対象に含めるか
適用範囲の章で悩むのが、子会社の扱いです。会社法施行規則100条1項5号が企業集団における業務の適正を確保するための体制を求めており、取締役会決議もそれに沿って行われますから、内部監査の対象から子会社を外すという設計は取りにくくなっています。
実務では、規程の適用範囲には子会社を含めたうえで、年度計画で監査する子会社と監査しない子会社を選ぶ、という組み立てにします。規程で範囲を狭めると、あとで広げるときに規程改定が必要になります。計画のレベルで調整するほうが柔軟です。
海外子会社がある場合は、往査の方法を規程に書いておくと運用しやすくなります。現地への出張が難しい期は、オンラインでの往査と資料の遠隔閲覧によることができる旨を書いておけば、実施しなかったことの説明に困りません。
🗂 他の規程との関係
内部監査規程は単独では機能しません。監査の基準になるのは、職務分掌規程と職務権限規程です。誰がどの業務を担当し、どの金額までを誰が決裁するかが定まっていなければ、そこからの逸脱を指摘できません。内部監査規程を作る前に、この2つが整っているかを確認してください。
内部通報規程との切り分けも整理が要ります。通報窓口に寄せられた情報を内部監査部門が受け取る設計にする会社は多いのですが、その場合は通報者が不利な取扱いを受けないことを担保する必要があります。会社法施行規則100条3項4号ロは、監査役への報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制を求めており、同じ考え方が内部通報にも当てはまります。
財務報告に係る内部統制の評価、いわゆるJ-SOXの評価作業を内部監査部門が担当する会社もあります。この場合、業務監査とJ-SOX評価は目的が違いますので、規程のうえでも計画のうえでも分けて扱ってください。評価作業に追われて業務監査が実施されない期が出ると、そこを審査で問われます。
⚖️ 上場審査での見られ方
上場審査では、内部監査規程そのものを提出します。そのうえで、規程に書かれた手順どおりに実施された記録が求められます。具体的には、年度計画の承認記録、往査の日程表、監査調書、報告書、是正計画とフォローアップの記録です。
審査では、規程を作った時期も見られます。申請の直前に整備しただけでは、運用の実績が足りません。少なくともN-2期には規程を整え、N-1期を通じて計画から報告、フォローアップまでを1サイクル以上回した記録が要ります。
また、規程を改定した場合は、改定の理由と承認記録も揃えてください。運用してみて期限が守れないと分かったので改定した、という説明は前向きに受け止められます。改定の記録がないまま実態だけが変わっているのが最も不利です。
❓ よくある質問
A. ありません。会社法にも金融商品取引法にも規程の様式を定めた条文はありません。実務上は9つの章に落ち着きます。
A. 法令上の要求ではありませんが、内部統制システムの基本方針を具体化する規程ですので、取締役会で承認し議事録に残すのが実務です。
A. 法令上の定めはありません。ただし被監査部門から独立している必要があるため、社長直属または取締役会直属とするのが通例です。
A. 社長のみだと、社長が関与する事案で行き場がなくなります。監査役または監査役会への報告経路も規程に入れてください。
A. 入れたうえで、年度計画で対象を選ぶ形が柔軟です。規程で範囲を狭めると改定が必要になります。
A. 法定の定めはありません。実務では5年とする例が多く、上場審査では過去数期分を見られます。
A. 章立ての参考にはなりますが、期限や報告経路は自社が守れる内容に直してください。守れない条文は審査で不利になります。
A. N-2期には整え、N-1期を通じて1サイクル以上運用した記録を残すのが安全です。
📄 まとめ
内部監査規程は、目的、適用範囲、組織と独立性、権限、計画、実施、報告、改善、調書の保存の9つの章で足ります。
出発点は会社法362条4項6号にもとづく取締役会決議です。決議の内容と規程の適用範囲がずれていないか、先に確認してください。
審査で見られるのは文言ではなく運用の記録です。守れない期限を書かず、書いたとおりに動いた証跡を残してください。
子会社は規程の範囲に含めたうえで、年度計画で対象を選ぶ組み立てが柔軟です。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。
体制と立ち上げ
- 内部監査規程には何を書くか(この記事)
- 内部監査基準と規程
- 内部監査は誰が担当するか
- 内部監査は何人必要か
- 内部監査を外部に委託できるか
- 内部監査室はいつ設置するか
- 内部監査室の立ち上げ90日
- 内部監査の年間スケジュール
- 3ラインモデルと内部監査
- 企業統治の指針と内部監査
- 内部監査の助言はどこまで
計画とリスク評価
手続と実施
報告とフォローアップ
業務別の監査
- 購買と支払の内部監査
- 販売と売上計上の内部監査
- 現金預金と経費精算の内部監査
- 棚卸資産と固定資産の内部監査
- 労務管理の内部監査
- ITの内部監査
- 予算実績管理の内部監査
- 関連当事者取引の内部監査
- 契約管理の内部監査
- 子会社の内部監査
不正への対応
内部統制報告制度
通報と監査役との連携
📚 参考(公的な一次情報)
- 会社法(e-Gov法令検索) 362条4項6号、5項
- 会社法施行規則(e-Gov法令検索) 100条
- 内部監査基準(一般社団法人日本内部監査協会)
- 新規上場ガイドブック(日本取引所グループ)