予算実績管理の内部監査|予実差異の見方と5つの着眼点

上場審査では業績見込みの精度が重視されます。予算と実績がずれること自体ではなく、ずれた原因を会社が把握していないこと、把握したのに見込みの修正が遅れることが問題になります。

内部監査が予算実績管理を対象にする意味はここにあります。計画の中身の当否を判断するのではなく、作り、追い、必要なら修正するという流れが仕組みとして動いているかを確かめます。

この記事では、5つの着眼点、予実差異の分解の仕方、編成の手続の確かめ方、現場まで届いているかの見方、見込みの修正のタイミングを整理します。

この記事でわかること

  • 予算実績管理で見る5つの着眼点と、それぞれの証拠資料
  • 予実差異を5段階に分解して原因にたどり着く方法
  • 月別の推移から原因の性質を読み分ける考え方
  • 編成の手続と前提の裏づけをどう確かめるか
  • 予算が現場まで届いているかを確認する簡単な方法
  • 見込みの修正のタイミングをどう指摘に落とすか
予実差異のどこを見るか部門ごとの予算と実績の差異を並べる差異の理由を説明できない部門があるか個別に内容を確かめるはいいいえ期末に費用や売上が集中していないか計上の時期を確かめるはいいいえ予算の作り方に無理がないか策定の手続を確かめるはいいいえ差異の分析が経営の判断に使われているかを確かめる

図 予算実績管理の監査の着眼点

📌 結論 審査は数字より説明できるかを見る

上場審査では、直前期および申請期の業績見込みの精度が重視されます。予算と実績が大きくずれること自体が問題なのではなく、ずれた原因を会社が把握していないこと、そして把握したのに見込みの修正が遅れることが問題になります。内部監査が予算実績管理を対象にする意味はここにあります。

取引所の新規上場ガイドブックでも、事業計画の合理性と、その進捗を管理する体制が説明を求められる項目として挙げられています。内部監査は、計画の中身の当否を判断するのではなく、計画を作り、進捗を追い、必要なら修正するという流れが仕組みとして動いているかを確かめます。

予算実績管理で見る5つの着眼点着眼点確かめること証拠になる資料編成の手続積み上げと承認の経路が定まっているか予算編成方針・稟議・取締役会議事前提の根拠売上や原価の前提に裏づけがあるか受注残・単価表・人員計画差異の分析差異の原因が要素に分けられている予実対比表・分析コメント報告の頻度月次で経営に報告されているか月次会議の資料と議事録修正の判断見込みの下方修正が適時に行われる修正予算の稟議と時期

差異が小さいことより、原因を説明できることが重要

🧭 予実差異をどう分解するか

予実の差異を見るときに、合計額だけを追いかけても原因にはたどり着けません。まず売上と費用に分け、売上は数量と単価に、費用は変動費と固定費に分けます。この分解を会社が自分でやっているかどうかが、最初の確認点になります。

予実差異の見方を5段階に分ける全社の差異額を売上と費用に分ける売上の差異を数量と単価に分解する費用の差異を変動費と固定費に分ける差異の大きい項目について月別の推移を見る現場の説明と数値の動きが整合するかを確かめる

分解せずに合計だけを見ると原因にたどり着けない

分解した後に見るのは、差異の大きい項目の月別の推移です。ある月だけ大きくずれているのか、毎月少しずつずれているのかで、原因の性質がまったく違います。前者は特定の案件や事象によるもので、後者は前提そのものが実態と合っていないことを示します。後者のほうが見込みの修正が必要になる可能性が高い状態です。

最後に、現場の説明と数値の動きが整合するかを確かめます。受注が遅れているという説明であれば受注残の推移がそれを示すはずですし、価格競争が厳しいという説明であれば単価の推移に表れるはずです。説明と数値が合わない場合は、原因の把握が十分でない可能性があります。

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📊 編成の手続を確かめる

予算の編成については、誰がどの順序で作り、どこで承認されるかが定まっているかを見ます。経営者が数字を決めて各部門に割り振るだけの形になっていると、現場が数字の根拠を説明できません。部門から積み上げた数字と、経営としての目標を突き合わせる場があるかを確認します。

内部監査が見つけやすい予算管理の弱点弱点現れ方確認の方法前提の裏づけがない売上予算が前年比の掛け算だけ編成資料に根拠資料が添付されているか差異の説明が定型毎月同じ文言が並ぶ過去12か月のコメントを並べて比べる下方修正が遅い期末近くまで当初予算のまま見込みの更新時期と実績の乖離を見部門予算が現場に届かない担当者が自部門の予算を知らない現場での聴取で確認する予算と評価が連動しない未達でも何も起きない差異への対応の記録を追う

差異のコメントは12か月分を並べると質が見える

前提の根拠については、売上予算の裏づけになる資料が編成の記録に添付されているかを見ます。受注残の一覧、主要顧客ごとの見込み、新規案件のパイプライン、単価の前提といった資料です。前年比の掛け算だけで作られた予算は、差異が出たときに原因を説明できません。

承認の記録も確かめます。年度予算が取締役会で承認されているか、修正予算を組んだ場合にその承認があるかを見ます。承認の記録がないまま数字だけが変わっている状態は、管理の仕組みとしての説明が難しくなります。

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🗂 現場まで届いているか

予算管理の仕組みが形だけになっていないかを確かめる最も簡単な方法は、往査先の担当者に自部門の予算と現在の進捗を聞くことです。答えられない場合、予算が経営の資料の中だけに存在していることになります。

差異が出たときに何が起きるかも確認します。未達が続いても特に何も起きない状態であれば、予算は管理の道具として機能していません。逆に、未達の説明を求めるだけで対応策の検討がない状態も同じです。差異に対して誰が何を判断したかの記録を追います。

月次の報告についても、資料が作られているかではなく、その場で何が議論されたかを見ます。会議の議事録に、差異の原因と今後の対応が記録されていれば、管理が動いている証拠になります。資料だけがあって議事録がない状態はよく見られる弱点です。

⚖️ 見込みの修正のタイミング

上場準備で特に重要になるのが、業績見込みの修正のタイミングです。期の途中で当初の計画に届かないことが見えているのに、期末近くまで修正しないという状態は、審査で厳しく見られます。内部監査としては、見込みを更新する時期のルールがあるか、実際にそのとおり更新されているかを確認します。

具体的には、四半期ごとに通期の見込みを作り直す運用になっているか、その見込みが取締役会に報告されているかを見ます。作り直しの記録が残っていれば、変化に気づいて対応する体制があることの説明になります。

指摘の書き方としては、見込みの数字が正しいかどうかではなく、更新の仕組みが定まっているか、定まったとおりに動いているかという観点で書きます。数字の当否の判断は内部監査の役割ではなく、そこに踏み込むと経営判断への関与という別の問題が生じます。

❓ よくある質問

Q. 予実差異が大きいと審査で問題になりますか

A. 差異の大きさそのものより、原因を把握できているかと、見込みの修正が適時に行われているかが見られます。説明できない差異が続く状態のほうが問題になります。

Q. 内部監査が予算の数字の妥当性を判断すべきですか

A. 数字の当否の判断は内部監査の役割ではありません。編成の手続、前提の裏づけ、差異の分析、修正の仕組みが動いているかという観点で見ます。

Q. 差異分析はどこまで分解すべきですか

A. 売上は数量と単価に、費用は変動費と固定費に分けるところまでが基本です。合計額だけを見ていると原因にたどり着けません。

Q. 毎月同じ差異コメントが並んでいます

A. 過去12か月分を並べて比べると質が見えます。定型の文言が続いている場合は、原因の分析が実質的に行われていない可能性があります。

Q. 予算が現場に届いているかはどう確かめますか

A. 往査先の担当者に自部門の予算と現在の進捗を聞くのが最も簡単です。答えられない場合、予算が経営の資料の中だけに存在していることになります。

Q. 月次会議の資料があれば十分ですか

A. 資料の有無ではなく、その場で何が議論されたかを見ます。議事録に差異の原因と今後の対応が記録されていることが管理の証拠になります。

Q. 見込みの修正はどのタイミングで行うべきですか

A. 四半期ごとに通期の見込みを作り直し、取締役会に報告する運用が分かりやすい形です。記録が残っていれば変化に対応する体制の説明になります。

Q. 修正予算に承認は必要ですか

A. 必要です。承認の記録がないまま数字だけが変わっている状態は、管理の仕組みとしての説明が難しくなります。

📄 まとめ

予算実績管理の監査は、数字の当否ではなく仕組みが動いているかを見ます。差異の大きさより原因を説明できるかが問われます。

差異は売上と費用、数量と単価、変動費と固定費へと分解します。合計だけを追っても原因にはたどり着けません。

予算が現場まで届いているかは、往査先の担当者に自部門の予算と進捗を聞けば分かります。答えられない状態は形骸化の兆候です。

見込みの修正は四半期ごとの更新と取締役会への報告という形にすると、変化に対応する体制の説明がしやすくなります。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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