子会社が増えると、すべてを毎年往査することはできなくなります。内部監査室が数名という体制では対象を絞らざるを得ませんが、上場審査で問われるのは全社を回れているかではなく、選び方に根拠があるかです。
子会社往査は現地に行く前の準備でほとんど決まります。論点を絞らずに出発すると、限られた滞在時間が資料の読解に消えてしまいます。
この記事では、対象の選び方の物差し、往査を4段階に分ける進め方、海外子会社で追加して見る点、そして是正のフォローまでを整理します。
- 子会社の監査対象を選ぶ4つの物差しと頻度の目安
- 往査を4段階に分ける進め方と、依頼資料をいつ送るか
- 現地の限られた時間を何に使うべきか
- 海外子会社で追加して見る5つの論点
- 資金の管理と規程の共有で優先度が高くなる状態
- 同じ指摘が複数の子会社で出たときの整理の仕方
図 子会社の内部監査の対象と方法の判定
📌 結論 子会社は数ではなくリスクで選ぶ
子会社が増えてくると、すべてを毎年往査することは現実的でなくなります。内部監査室が2人か3人という体制では、対象を絞らざるを得ません。そこで必要になるのが、どの会社を優先するかを説明できる基準です。上場審査でも、全社を回れていないこと自体より、選び方に根拠がないことのほうが問題になります。
会社法は、企業集団の業務の適正を確保するための体制を整備することを求めており、その体制には子会社の管理も含まれます。内部監査が子会社を対象に含めるのは、その体制が実際に機能しているかを確かめるためです。
重要性が低くても新しく加わった会社は初年度に必ず入れる
🧭 親会社側の準備で決まる
子会社往査の成否は、現地に行く前の準備でほとんど決まります。連結パッケージ、月次の報告資料、前回の監査調書、監査法人からの指摘があればその内容を読み込み、論点を3つか4つに絞ってから出発します。現地で資料を読み始めると、限られた滞在時間のほとんどが読解に消えます。
資料の読み込みを現地で始めると往査の時間が足りなくなる
依頼資料の一覧は遅くとも2週間前には送ります。子会社の管理担当は少人数で、日常業務と並行して準備することになるためです。依頼する資料は、往査で何を確かめるかと1対1で対応させ、使わない資料を惰性で並べないようにします。準備の負担が大きいと、次回以降の協力が得にくくなります。
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📊 往査当日に何を見るか
現地での時間は、書類の突合よりも業務の流れを見ることに使います。受注から出荷までを担当者に実際に操作してもらう、在庫の保管場所を歩いて見る、現金の出納を確かめるといった、その場でしかできないことを優先します。書類の突合は資料を持ち帰ってからでもできますが、実際の動きを見るのは往査でなければできません。
もうひとつ現地でしか得られないのが、担当者から直接聞く話です。親会社の規程どおりに運用できているかを尋ねると、実務上やりにくい点が出てきます。規程が現地の実情に合っていないために形だけ守られているという状態は、報告書から見つけることはできません。
講評は必ず現地の責任者を交えて行い、事実の認識に相違がないことをその場で確認します。是正の期限もこの場で決めます。日本に戻ってから文書でやりとりを始めると、認識の違いの調整だけで数週間かかります。
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🗂 海外子会社をどう扱うか
海外子会社では、言語と距離という制約が加わります。往査の頻度を上げられない分、親会社側で日常的に見る仕組みを厚くすることが必要です。具体的には、月次の資金繰り報告、銀行残高証明の定期取得、主要な取引の事前承認といった仕組みを親会社が持っているかを内部監査が確認します。
言語と距離の制約は事前準備の量で埋める
特に注意して見るのは資金の管理です。現地の代表者が銀行口座を単独で動かせる状態になっている会社は珍しくありません。承認者を複数にする、一定金額以上は親会社の承認を要するといった仕組みが入っているかを確かめます。仕組みがない場合、往査の頻度にかかわらず優先度の高い指摘になります。
規程については、親会社の規程を日本語のまま渡しているだけという状態がよく見られます。現地の担当者が読める言語で共有されていなければ、守られているかどうかを問う前提が成り立ちません。翻訳の負担を考えると全文は難しいため、遵守を求める中核部分だけでも現地語にすることを是正案として示します。
⚖️ 報告と是正のフォロー
子会社に対する指摘は、現地の担当者だけに宛てても動きません。是正の責任者を現地の責任者とし、親会社側でその子会社を所管する部門を報告先に加えます。所管部門が是正の進み具合を把握する立場にあることを、報告書の宛先で示す形です。
フォローアップでは、期限を過ぎた項目を管理表に残し続けます。海外子会社の場合は時差と言語の関係で確認に時間がかかるため、期限を国内より少し長めに設定し、そのかわり途中の確認を1回入れる形にすると滞留しにくくなります。
同じ指摘が複数の子会社で繰り返される場合は、個別の子会社の問題ではなく、親会社の管理の仕組みに原因があります。この場合は子会社への指摘とは別に、親会社の所管部門に対する指摘として整理します。子会社ごとの報告書に分けて書いてしまうと、共通の原因が見えなくなります。
❓ よくある質問
A. 一律の基準はありません。財務的な重要性と取引の性質、管理体制、取得からの年数の4つで優先度を決め、高いものは毎年、低いものは3年に1回といった形で説明できるようにします。
A. 重要性が低くても初年度に一度は入れることをおすすめします。管理の仕組みが親会社の水準に達しているかを早い段階で把握しておくと、後の是正が小さくて済みます。
A. 規模にもよりますが、国内であれば1社あたり2日を目安にすると業務の流れを見る時間が確保できます。準備を厚くすれば1日で回すことも可能です。
A. 依頼資料を往査で確かめる内容と1対1で対応させ、使わない資料を並べないことが最も効きます。準備の負担が大きいと次回以降の協力が得にくくなります。
A. 親会社側で日常的に見る仕組みを厚くします。月次の資金繰り報告、銀行残高証明の定期取得、一定金額以上の事前承認といった仕組みの有無を内部監査が確認します。
A. 優先度の高い指摘になります。承認者を複数にする、一定額以上は親会社の承認を要するといった仕組みが入っているかを確かめます。
A. 全文の翻訳は負担が大きいため、遵守を求める中核部分だけでも現地語で共有することを提案します。読める言語で渡されていなければ、守られているかを問う前提が成り立ちません。
A. 子会社ごとの報告書に分けて書くと共通の原因が見えなくなります。親会社の管理の仕組みに対する指摘として別に整理し、所管部門を宛先に加えます。
📄 まとめ
子会社は数ではなくリスクで選びます。財務的な重要性、取引の性質、管理体制、取得からの年数の4つで優先度を説明できるようにしておきます。
往査の成否は事前準備で決まります。論点を3つか4つに絞り、依頼資料は2週間前までに送るのが現実的な進め方です。
現地の時間は業務の流れを見ることと担当者から直接聞くことに使います。書類の突合は持ち帰ってからでもできます。
海外子会社では資金の管理と規程の共有が優先度の高い論点です。往査の頻度を上げられない分、親会社側の日常的な仕組みを厚くします。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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