上場会社に適用されるコーポレートガバナンス・コード(企業統治の指針)では、内部監査部門が経営者だけでなく取締役会および監査役会に対しても直接報告を行う仕組みを構築すべきという考え方が示されています。
内部監査が経営者にだけ報告する構造には、経営者自身が関わる事案を報告する先がないという弱点があります。独立性は組織図上の位置よりも報告経路の設計で決まる面が大きいところです。
この記事では、指針が内部監査に求めること、二重の報告経路の設計、上場までに整えること、開示との関係、形式で終わらせないための工夫を整理します。
- 企業統治の指針が内部監査に求める5つの論点
- 二重の報告経路がなぜ必要か
- 人事と予算に統治機関が関与する意味
- 上場までに整えておく4つの順序
- 開示の記載と実際の運用を一致させる原則
- 報告の場で議論を生むための工夫
図 内部監査の報告経路の作り方
この記事の見出し
📌 結論 報告経路が問われる
上場会社に適用される企業統治の指針では、内部監査部門が経営者に対してだけでなく、取締役会および監査役会に対しても直接報告を行う仕組みを構築すべきという考え方が示されています。内部監査の実効性を高めるための論点として、近年特に注目されている部分です。
この指針は取引所の規則にもとづくもので、原則を実施するか、実施しない場合はその理由を説明するという形をとります。市場区分によって適用される原則の範囲は異なりますが、内部監査の報告経路については、どの区分を目指す場合でも早い段階で整えておく価値があります。
求められているのは体制の有無ではなく、機能していることの説明
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🧭 なぜ二重の報告経路なのか
内部監査が経営者にだけ報告する構造には、構造的な弱点があります。経営者自身が関わる事案が見つかったときに、報告する先がないためです。また、経営者が内部監査の指摘を採用しないと決めた場合、その判断を誰も検証しないことになります。
経路を規程に書いておけば、事案が起きてから作る必要がない
取締役会や監査役会への報告経路があれば、この2つの場面で機能します。経営者に関わる事案は直接そちらに報告でき、受容された指摘についても統治機関が把握できます。内部監査の独立性は、組織図上の位置よりも、この報告経路の設計で決まる面が大きいところです。
人事と予算についても同様です。内部監査部門長の任免や、部門の予算を経営者が単独で決められる状態だと、経営者にとって都合の悪い監査がやりにくくなります。監査役等の同意を要する、または意見を聴くという定めを置いておくと、独立性の説明がしやすくなります。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
📊 上場までに整えること
上場前の段階で整えておくべきなのは、規程への記載と、実際の運用の2つです。規程に報告経路を書いても、実際に報告した記録がなければ、機能していることの説明になりません。逆に、報告はしているが規程に書かれていないという状態も、体制として不安定です。
記載を先に作って運用が追いつかない状態を避ける
取締役会への報告は、年度計画の承認時と年度の総括時の2回を基本にすると、無理なく仕組みにできます。四半期ごとに報告している会社もありますが、回数よりも、報告した記録が議事録に残っていることが重要です。
監査役等との連携については、定例の会合を設けます。会計監査人を交えた三者の会合であれば、それぞれが把握している論点を共有できます。この会合の議事録は、審査でも上場後の開示でも、連携の実態を示す資料になります。
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🗂 開示との関係
上場後は、コーポレート・ガバナンスに関する報告書や有価証券報告書で、内部監査の体制を説明することになります。ここで書く内容と、実際の運用が一致していることが前提になります。
実務でよくあるのは、記載を先に整えてしまい、運用が追いついていないという状態です。取締役会に直接報告する体制と書いたが、実際には年に一度も報告していないという例が見られます。開示の記載は、実際に行っていることだけを書くという原則を守ります。
逆に、行っていることを書き漏らすのももったいないところです。監査役等との会合、内部監査の年度計画の承認、是正のフォローアップの状況といった運用は、書けば体制の実効性を示す材料になります。上場準備の段階から記録を残しておけば、開示の作成も楽になります。
⚖️ 形式で終わらせないために
報告経路も定例会合も、作っただけでは形式にとどまります。実効性を保つには、報告の場で何が議論されたかが記録に残っていることが必要です。内部監査が報告し、質問がなく終わったという議事録が続くようであれば、機能しているとは言いにくくなります。
議論を生むには、報告の内容を工夫します。指摘の一覧を並べるだけでなく、繰り返し出ている指摘、是正が進んでいない事項、リスクが高まっている領域を絞って示すと、判断を求める場になります。
また、統治機関の側から内部監査に対して、次年度に見てほしい領域を伝えてもらうことも有効です。一方通行の報告ではなく、双方向のやりとりがある状態になれば、連携の実態として説明ができます。上場準備の早い段階から、この形を作っておくことが結果的に近道になります。
📌 2026年7月の改訂で位置づけが変わった
この報告経路の考え方は、従来はコーポレートガバナンス・コードの補充原則という区分に置かれていました。2026年7月21日の改訂で補充原則という区分そのものが廃止され、内部監査部門が取締役会および監査役会に対しても直接報告を行う仕組みを構築すべきという記載は、原則4-14の解釈指針に移っています。
解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではありません。実施しない場合に理由を説明する義務は、基本原則と原則にかかります。ただし、対象から外れたことをもって重要性が下がったと読むのは誤りです。コードの本文でも、改訂により解釈指針に移った記載の重要性が失われるものではない旨が述べられています。
また、内部統制報告制度の実施基準では、内部監査人が経営者だけでなく取締役会や監査役等に対しても報告を行う仕組みを確保することが求められており、こちらは改訂の影響を受けません。上場審査で問われるのは実態としての報告経路ですから、番号がどこに移っても整えるべきことは変わりません。
社内の規程や説明資料で補充原則の番号を引用している場合は、参照先の点検が必要です。
❓ よくある質問
A. 企業統治の指針では実施するか、実施しない理由を説明するという形をとります。ただし報告経路の設計は独立性の説明に直結するため、早い段階で整えておく価値があります。
A. 市場区分によって適用される原則の範囲は異なりますが、内部監査の報告経路はどの区分でも論点になります。上場後の区分変更も見据えて整えておくと安心です。
A. 変えません。相手によって内容が違うと、どちらかに都合よく整えたと見られます。同じ内容を双方に報告します。
A. 年度計画の承認時と年度の総括時の年2回を基本にすると無理なく仕組みにできます。回数より、議事録に記録が残っていることが重要です。
A. 同意を要する、または意見を聴くという定めを置くと独立性の説明がしやすくなります。経営者が単独で決められる状態は弱点になります。
A. 実際に行っていることだけを書きます。体制として書いたが実際には報告していないという状態は、後から指摘を受ける原因になります。
A. 報告の内容を工夫します。指摘の一覧を並べるだけでなく、繰り返し出ている指摘や是正が進んでいない事項を絞って示すと、判断を求める場になります。
A. 次年度に見てほしい領域を伝えてもらうと、双方向のやりとりがある状態になります。一方通行の報告より連携の実態を説明しやすくなります。
📄 まとめ
企業統治の指針で問われるのは、内部監査が経営者だけでなく取締役会と監査役会にも直接報告する仕組みがあるかです。
二重の報告経路は、経営者自身が関わる事案と、受容された指摘という2つの場面で機能します。
規程への記載と実際の運用の両方を整えます。どちらか一方だけでは体制として説明できません。
開示には実際に行っていることだけを書きます。記載を先に整えて運用が追いつかない状態は避けます。
報告の場で議論が生まれているかが実効性の分かれ目です。繰り返しの指摘や停滞している是正を絞って示すと判断の場になります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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