循環取引の見つけ方|取引の実在性を確かめる監査手続

架空の循環取引は、商品が実際には動かないまま、複数の会社の間を伝票だけが回るという形をとります。各社に売上と仕入が計上されるため、帳簿の上では正常な商流に見えます。

内部監査がこの種の取引に気づける最も簡単な問いは、なぜ自社がこの取引に入っているのですかというものです。説明が曖昧な取引は確かめる価値があります。

この記事では、循環取引に共通する特徴、抽出の入口、現物と資金からの裏づけ、上場準備での重み、指摘の書き方までを整理します。

この記事でわかること

  • 循環取引に共通する6つの特徴と、なぜそう見えるのか
  • 利益率と計上日から疑わしい取引を抽出する方法
  • 取引先の住所や役員の重なりをどう調べるか
  • 現物の移動を確かめるときに見る5つの資料
  • 通帳で資金の実際の動きを確かめる意味
  • 不正と断定せずに事実を書く指摘の書き方
その取引は実在するか疑わしい取引の流れをたどる商品の受渡しの記録がないか実在性を確かめる手続を追加すはいいいえ同じ相手と売りと買いが対になっているか取引の目的を確かめるはいいいえ利益率が不自然に一定か価格の決め方を確かめるはいいいえ取引先に直接確認して実在性を確かめる

図 循環取引を見つける着眼点

📌 結論 自社が介在する理由を説明できるか

架空の循環取引は、商品が実際には動かないまま、複数の会社の間を伝票だけが回るという形をとります。各社に売上と仕入が計上されるため、帳簿の上では正常な商流に見えます。会計監査でも見つけにくく、発覚したときには数年分の売上を修正することになります。

内部監査がこの種の取引に気づける最も簡単な問いは、なぜ自社がこの取引に入っているのですかというものです。商社的な役割で口銭を得ているのであれば、自社が入ることで何が付加されているのかが説明できるはずです。説明が曖昧な取引は、確かめる価値があります。

循環取引に共通する特徴特徴見え方なぜ生じるか現物が動かない納品先が仕入先の倉庫のまま商品の移動がそもそもない利益率が薄い数パーセントで一定している各社の取り分を決めているため売仕が同時に立つ同じ日に売上と仕入が計上される伝票を同時に起こしている取引の必然性が薄い自社が介在する理由を説明できない資金を回すことが目的のため決済が長い入金より支払が先に来る資金繰りの融通が目的に含まれる相手が固定同じ数社の間だけで回っている関係者が限られている

1つの特徴だけでは判断できない。複数が重なる取引を選ぶ

🧭 どこから見つけるか

取引の一覧から探すときの入口は、利益率です。循環取引では各社の取り分が事前に決まっているため、利益率が数パーセントで一定していることが多くあります。通常の取引であれば案件ごとに利益率はばらつくので、この一定さが手がかりになります。

実在性を5つの手順で確かめる取引の一覧から利益率の薄い取引を抽出するその取引で自社が担う役割を担当者に説明してもらう現物の移動を示す記録を求める(受領書・運送記録)仕入先と販売先の関係を調べる(住所・役員・資本関係)決済の実際の動きを通帳で確かめる

説明を求めるとき、なぜ自社が入るのかという問いが最も効く

次に、売上と仕入の計上日を見ます。同じ日に同額に近い売上と仕入が立っている取引は、伝票を同時に起こしている可能性があります。在庫として保有する期間がないという状態は、現物が動いていないことを示唆します。

取引先の顔ぶれも見ます。同じ数社の間だけで取引が回っている、その数社の住所が近い、役員が重なっているといった事実が出てくれば、関係者の範囲が限られていることが分かります。登記情報は誰でも確認できるので、内部監査でも調べられます。

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📊 現物と資金で裏を取る

疑わしい取引を選んだら、現物と資金の2つの面から確かめます。現物については、納品書と受領書だけでは足りません。受領書は取引の当事者どうしで作れるためです。運送業者の記録、倉庫の入出庫の記録、実際に受領した人の氏名まで確かめます。

確かめる資料と見るポイント資料見るポイント危険な状態注文書と請書日付の前後と発注の起点販売先の注文より仕入が先納品書と受領書受領した場所と受領者の氏名受領者が自社の担当者でない運送の記録実際に運んだ業者と日付運送記録が存在しない在庫の記録自社の倉庫を通過したか入庫と出庫が同日で数量だけ通帳入金と支払の実際の日支払が先で入金が遅れている

受領書に運送業者の記録が伴わない取引は、必ず理由を確かめる

自社の倉庫を通過していない取引は、それだけで不正というわけではありません。直送は通常の商慣行としてあります。ただしその場合でも、運んだ業者の記録は残るはずです。運送の記録がまったく存在しない取引は、現物が動いていない可能性を疑います。

資金については、通帳で実際の入出金を確かめます。循環取引では、支払が先で入金が後になることがあります。これは実質的に取引先へ資金を融通している状態であり、商取引としては不自然です。契約上の条件と実際の入出金がずれている場合も、理由を確かめます。

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🗂 上場準備での重み

この種の取引が上場準備の局面で問題になるのは、売上の水増しに直結するためです。過去の売上を取り消すことになれば、決算の修正だけでなく、成長の実績そのものが変わります。申請の延期や中止に至ることもあります。

また、社内の担当者が意図せず巻き込まれている場合もあります。取引先から頼まれて伝票を通しただけ、上司の指示に従っただけという説明が出てくることがあります。この場合でも会社の売上として計上されているため、会計上の扱いは変わりません。

内部監査としては、個別の取引を追及することよりも、こうした取引が入り込む余地のある業務の設計を見つけることが役に立ちます。現物の確認を伴わない売上計上ができる、担当者の判断だけで新しい取引先と取引を始められる、といった状態です。

⚖️ 指摘の書き方

疑わしい取引を見つけた段階では、不正と断定して書くことは避けます。事実として確かめられたこと、確かめられなかったことを分けて書きます。運送の記録が存在しなかった、受領者が特定できなかったという書き方であれば、事実として動きません。

そのうえで、影響として、この取引の売上が実在しない場合に修正が必要になる金額を示します。金額が示されることで、経営が調査を進める判断ができます。

是正案としては、個別取引の処理と、仕組みの変更を分けて書きます。仕組みの側では、一定額以上の新規取引先について与信と実態の確認を必須にする、現物の移動を伴わない取引について運送記録の添付を求める、といった内容になります。監査法人にも早い段階で相談することを是正の手順に含めておくと、後の対応がしやすくなります。

❓ よくある質問

Q. 循環取引はどうやって見つけますか

A. 入口は利益率です。各社の取り分が決まっているため数パーセントで一定していることが多く、案件ごとにばらつく通常の取引と区別できます。

Q. 自社の倉庫を通らない取引は問題ですか

A. 直送は通常の商慣行としてあります。ただしその場合でも運んだ業者の記録は残るはずで、運送の記録がまったくない取引は現物が動いていない可能性を疑います。

Q. 受領書があれば実在性は確かめられますか

A. 受領書は取引の当事者どうしで作れます。運送業者の記録、倉庫の入出庫の記録、受領した人の氏名まで確かめる必要があります。

Q. 取引先の関係はどう調べますか

A. 登記情報で住所や役員を確認できます。同じ数社の間で取引が回っている、住所が近い、役員が重なっているといった事実は関係者の範囲を示します。

Q. 資金の面では何を見ますか

A. 通帳で実際の入出金を確かめます。支払が先で入金が後になっている状態は、実質的に資金を融通していることになり、商取引としては不自然です。

Q. 担当者が意図せず巻き込まれている場合はどうなりますか

A. 取引先から頼まれて伝票を通しただけという場合でも、自社の売上として計上されているため会計上の扱いは変わりません。

Q. 疑わしい段階で不正と書いてよいですか

A. 断定は避けます。確かめられたことと確かめられなかったことを分けて書きます。運送記録が存在しなかったという書き方であれば事実として動きません。

Q. 是正案には何を書きますか

A. 個別取引の処理と仕組みの変更を分けます。仕組みの側では、新規取引先の実態確認や、現物移動を伴わない取引での運送記録の添付といった内容になります。

📄 まとめ

循環取引は帳簿の上では正常に見えます。なぜ自社が入っているのかという問いが、最も簡単で効果的な入口です。

抽出は利益率の一定さと、売上と仕入の計上日の一致から始めます。取引先の住所や役員の重なりも手がかりになります。

現物は受領書だけでなく運送記録と入出庫の記録まで、資金は通帳で実際の入出金まで確かめます。

指摘では不正と断定せず、確かめられたことと確かめられなかったことを分けて書き、影響として修正が必要になる金額を示します。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

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