不正は、動機、機会、正当化という3つの要素がそろったときに起きると説明されます。このうち動機と正当化は個人の内面に関わり、会社の統制で直接なくすことはできません。
内部監査が働きかけられるのは機会の部分です。1人で完結できる工程をなくす、記録が残る仕組みにする、定期的に第三者が見るという設計で機会を減らせます。
この記事では、機会を減らす統制、不正が起きた会社に共通する兆候、疑いに気づいたときの動き方、平時にできることを整理します。
- 不正の3つの要素と、現場でどう現れるか
- 機会を減らす統制と、人数が少ない会社での代替手段
- 不正が起きた会社に共通する6つの兆候と確かめ方
- 兆候が重なっている部署を優先する考え方
- 不正の疑いに気づいたときの5段階と、その場で追及しない理由
- 平時の内部監査で続けるべき3つのこと
図 不正の3要素からリスクを見る
📌 結論 内部監査が働きかけられるのは機会
不正がなぜ起きるかを説明する枠組みとして、動機、機会、正当化という3つの要素がそろったときに起きるという考え方があります。動機は個人の事情や業績への圧力、機会は1人で完結できて発覚しにくい状態、正当化は自分を納得させる理由です。
このうち、動機と正当化は個人の内面に関わる部分で、会社の統制で直接なくすことはできません。内部監査が働きかけられるのは機会の部分です。1人で完結できる工程をなくす、記録が残る仕組みにする、定期的に第三者が見るという設計によって、機会を減らせます。
内部監査が働きかけられるのは、主に機会の部分
🧭 機会をどう減らすか
機会を減らす統制として基本になるのは、職務の分離です。申請する人と承認する人、記録する人と現物を扱う人、取引を起こす人と入金を確認する人を分けます。人数の少ない会社では完全な分離が難しいため、上長が事後に確認する、システムのログで追えるようにするといった代替の統制を組み合わせます。
もう1つ効くのが、担当を固定しないことです。同じ人が長期間同じ業務を担当していると、業務の詳細を本人しか知らない状態になり、不正があっても他の人が気づけません。人事異動が難しい会社でも、連続した休暇を取得してもらい、その間に別の人が業務を回すという運用は取り入れられます。
内部監査としては、これらの統制が設計されているかだけでなく、実際に運用されているかを見ます。異動の規程はあるが実際には何年も動いていない、休暇の制度はあるが誰も連続して取っていない、という状態は珍しくありません。
職務の分離から兆候の点検まで、人数の制約を踏まえた設計をご提案します。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の導入、内部監査対応を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
📊 兆候をどう見つけるか
不正が発覚した会社の事例を見ると、いくつか共通する兆候があります。担当が長期間固定されている、連続した休暇を取らない、特定の取引先に発注が集中している、例外処理が常態化している、といったものです。
兆候は単独では意味を持たない。複数が重なる部署を優先する
ただし、これらの兆候は単独では意味を持ちません。休暇を取らない人は多くいますし、取引先が集中しているのには合理的な理由があることもあります。重要なのは、複数の兆候が同じ部署や同じ担当者に重なっている場合です。重なっている箇所を、翌年度の監査で優先的に見る対象にします。
兆候の確認は、データで機械的に行えるものが多くあります。勤怠データから連続休暇の有無を見る、購買データから取引先別の集中度を見る、承認記録から例外処理の件数を数えるといった処理は、往査に行かなくても本社でできます。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
🗂 疑いに気づいたときの動き方
往査中に不正の疑いに気づいた場合、その場で本人に問いただすことは避けます。証拠が破棄される、関係者に連絡が行くといった事態が起きうるためです。まずは、確かめた事実と入手した資料をその場で記録に残すことに集中します。
その場で本人に問いただすと、証拠が失われることがある
次に、上長に相談して対応の体制を決めます。内部監査だけで調査を進めるのか、法務や外部の専門家を入れるのか、監査役等に報告するのかという判断です。被疑者の役職によっては、経営者に報告することが適切でない場合もあります。
資料とデータの保全も早い段階で行います。システムのログ、メール、共有フォルダの記録は、時間が経つと自動的に削除される設定になっていることがあります。何をどの範囲で保全するかを情報システム部門と相談します。
⚖️ 平時の内部監査で何ができるか
不正を内部監査だけで見つけられると考えるのは現実的ではありません。実際の発覚の多くは、通報や取引先からの指摘、担当者の異動をきっかけにしています。内部監査の役割は、見つけることそのものよりも、起きにくく、起きたら気づかれやすい状態を作ることにあります。
そのために平時でできるのは、職務の分離と担当の固定を毎年点検すること、兆候のデータを年に1回集計すること、そして往査で例外処理の理由を必ず確かめることです。この3つを続けるだけで、機会は目に見えて減ります。
もう1つ効果があるのが、内部監査が定期的に来るという事実そのものです。記録を確かめられる、質問される、データを見られるという状態が続いていれば、機会があると感じにくくなります。監査を行っていること自体が統制として働くという面は、実務では軽視できません。
❓ よくある質問
A. 発覚の多くは通報や取引先からの指摘、担当者の異動がきっかけです。内部監査の役割は、見つけることより起きにくく気づかれやすい状態を作ることにあります。
A. 完全な分離が難しい場合は、上長が事後に確認する、システムのログで追えるようにするといった代替の統制を組み合わせます。
A. 連続した休暇を取得してもらい、その間に別の人が業務を回すという運用でも効果があります。異動が難しい会社でも取り入れられます。
A. 単独では意味を持ちません。休暇を取らない人は多くいますし、取引先の集中に理由があることもあります。複数の兆候が同じ部署に重なっている場合を優先します。
A. データで機械的に行えるものが多くあります。連続休暇の有無、取引先別の集中度、例外処理の件数は本社でも確かめられます。
A. 避けます。証拠が破棄される、関係者に連絡が行くといった事態が起きえます。まず事実と資料を記録に残すことに集中します。
A. 事案によります。被疑者の役職によっては経営者への報告が適切でない場合もあるため、上長と相談して体制を決め、必要なら外部の専門家や監査役等に相談します。
A. システムのログやメールは時間が経つと自動的に削除される設定になっていることがあります。何をどの範囲で保全するかを情報システム部門と早めに相談します。
📄 まとめ
不正の3要素のうち、内部監査が働きかけられるのは機会です。1人で完結できる工程を減らし、記録が残る仕組みにします。
兆候は単独では意味を持ちません。複数が同じ部署や担当者に重なっている箇所を翌年度の重点にします。
疑いに気づいてもその場で追及せず、事実の記録と資料の保全を優先します。体制は上長と相談して決めます。
平時では、職務の分離と担当の固定の点検、兆候データの年次集計、例外処理の理由の確認という3つを続けます。
内部監査が定期的に来るという事実そのものが統制として働くという面も、実務では軽視できません。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
体制と立ち上げ
- 内部監査規程には何を書くか
- 内部監査基準と規程
- 内部監査は誰が担当するか
- 内部監査は何人必要か
- 内部監査を外部に委託できるか
- 内部監査室はいつ設置するか
- 内部監査室の立ち上げ90日
- 内部監査の年間スケジュール
- 3ラインモデルと内部監査
- 企業統治の指針と内部監査
- 内部監査の助言はどこまで
計画とリスク評価
手続と実施
報告とフォローアップ
業務別の監査
- 購買と支払の内部監査
- 販売と売上計上の内部監査
- 現金預金と経費精算の内部監査
- 棚卸資産と固定資産の内部監査
- 労務管理の内部監査
- ITの内部監査
- 予算実績管理の内部監査
- 関連当事者取引の内部監査
- 契約管理の内部監査
- 子会社の内部監査
不正への対応
- 不正リスクと内部監査(この記事)
- 循環取引の見つけ方
内部統制報告制度
通報と監査役との連携